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長雨 5

 数年前にもこのパターンってなかったかな?あったね!

 イェンとテーセウスね!

 少女時代の冒険を思い出して、私は若干遠い目をしてしまった。


『メルジェの特産品:突如として現れる、飛竜に乗った竜族二人』


 とか、どこかにテロップで書いたりしていない?と虚空を見てしまう。

 あれだな。きっとゲームのバグか強制力でメルジェに行くと竜族が出てくるようになってるんだ。

 ここは竜族映えスポット!


 ――などという、しょうもないツッコミを脳内でいれながら、私は表向き無礼にならないように礼をとった。


「竜族の方とお見受けしますが、何か御用でしょうか?」


 平静を装って特産品その一である金色の髪の青年の背後に控えていた黒髪の青年に尋ねると、彼はおや、と片方の眉をあげた。

 私を意外そうな視線で射る。

 ……なんなんだろう?

 しかし、私の疑念に溢れた視線は全く意に介さず、彼は口の端をあげて微笑んだ。


「これは失礼、私は竜の里のヤエトと申します。こちらは私の主ですが。……お嬢様の名前を伺っても?」


 スタニスは眉間に皺をよせたが、名乗ろうとする私を制止はしなかった。


 竜族はこの国では神に等しい。

 あるいは神意をつかさどる吉兆の象徴のようなもの。

 神にも等しき竜族に名を聞かれて名乗らないとは、なんと無礼な小娘だ、と……。

 あとで難癖をつけられてはたまらない。

 スタニスやシン、イェンやテーセウスと言った竜族に近しい人たちを知っているから、私は殊更に彼らを神格化したりはしないけども、やっぱり気後れはするものだ。それに今の竜族の長は人間嫌いらしいから、彼らが私に友好的だとは思えない。


 しかし、と私は目の前でドラゴンに跨がる青年をみた。

 竜族は美しい姿をしているが、ブロンドの青年は特に美しい。

 肩まで伸ばされた明るい金髪は雨降る中でも淡く光を集め、白い肌はシミひとつないように思える。そして竜族の証である瞳は黄金を溶かして炎を一つ揺らしたような幻想的な色合い。

 ただ、私たちを見る視線にはわずかに嫌悪が生じているようで、心が浮き立つ対峙、とは言い難い。


 私は頭を下げた。


「ご機嫌よう、竜族の方々。私はメルジェ領主の姪でレミリア・カロル・ヴァザと申します。この長雨で生じた被害を確認しておりました」


 ヤエトと名乗った青年は私の名前を聞いて、ぴくり、と反応した。

 ヴァザの名前って竜族の間ではどれくらい有名なんだろうね?たぶん、彼は知っているんじゃないかと思うんだけどさ。私の名前を聞いてもヤエトの主人は名乗らなかったが、別に気にはしない。

 人間嫌いなのかもしれないしな。

 下手に名前を聞いて無礼な小娘め!とか斬られたくない。


「……幸い人の被害はなかったのですが、農作物の具合が心配で……」


 私がここにいる経緯を簡単に説明すると金色の髪をした青年はじっと私を見ていたが何を思ったのかドラゴンを降りた。

 私に近づくと目を鋭くする。


「ーー王家の人間が、この地方まで見回りをしていると?お前が王女か?」

「はっ!?」


 私は目を丸くした。王女?


「金色の髪はともかく、水色の瞳は珍しい。それを持つ人間は王家の人間のはずだ。ーー私に王都へ来いと叔父上に親書を託しただろう」

「貴方をですか?」


 私は首を傾げて隣のスタニスを見……って、我が家の万能執事がめっちゃくちゃ蒼ざめているのに気付いた。

 おおお、珍しいな!

 私はとりあえず、美形な竜族のお兄さんの誤解を解くように努めようと決意する。竜族にとってここ数十年のことなんか、数年のことに感じるのかもしれない。

 だからヴァザが王家じゃないことも伝わってないんだなあ、きっと!


「……お嬢様」


 スタニスが目で何かを訴えてくる。

 近年、稀に見る必死さだ。なんか口パクで伝えてくるんだけど。

 ええっと……?


「(……うぞくも……おさ……)」

「(わかんないよー、スタニスと違って読唇術なんてできないもん!)」


 無理。意思疎通は諦めよ。私の疑問符が飛びまくる表情にスタニスが絶望的な顔になる。

 ずれたやりとりをかわし、私はのほほんと竜族のお兄さんを見上げた。

 年の頃は二十代半ばか。

 恐ろしく綺麗な顔の青年だが、残念ながら私は美形耐性には定評のある女なのだ。

 この距離で会話するくらいでは動じないのですよ!


「ご期待に添えずに申し訳ありませんが、私は王女ではありませんわ、公爵家の人間です」

「期待などしていないが。公爵家だと?」


 ……期待してない、左様ですか。構わず続ける。


「ヴァザの王朝はなくなり、我が国はいまは新しい王朝の二代目国王、ベアトリス陛下の治世です。王女殿下はフランチェスカ様。……私達は又従姉妹に当たります」

「国王は視察をしないのか?」


 竜族の君が眉根を寄せる。

 ううん、と私は首を傾げた。

 下手に出歩くと暗殺の可能性とかあるからなあ、陛下。ここ、天敵のカタジーナの領地だし。


「おそらく、陛下はご自身のご領地や国全体のことは考えておいでかと思いますが、ここは私達一族の領地なので我らに一任しておられるのかと」

「ふぅん?」


 彼は今は水嵩の引いた川を見た。


「以前、この川を見た時……堤防が所々破れていたのが気になっていたんだがな、修復したらしい」


 竜族がそんなことを見たりするんだ!と意外に思って彼を見ていると、私の背後で震える声があがった。この街の責任者の男性だ。


「……お、そ、恐れながら、竜族のお方!堤防を修復するように我らに伝えたのはそこにおられる公女殿下です!我らは修復など意味がないと正直、御命令を疑問に思っておりましたが……!公女殿下は先見の明がおありです!!」


 いきなりの大声に私はびっくりして壮年の男性を振り返った。

 さらっと言ったけど、やっぱ無駄な修復だと思われてたんだなあと苦笑せざるを得ない。あはは、と笑って流していたのだが。


「公女殿下は我らをお救いくださいました!王都にいる王女様などより、よほど……」


 続く追従とフランチェスカ批判と思える言葉に私は思わず眉をしかめた。


「やめなさい!あなたに発言は許していません」


 男性が私の声の険しさに驚いて口を閉ざす。

 彼はカタジーナとも親しいはずだから、ヴァザ派なのかもしれないし、そして王家を批判すれば私が喜ぶ思ったのかもしれない。


「私を褒めたいなら私だけを褒めてください。誰かと比べる必要はない。それに、王女殿下は素晴らしい方です」


 はあ、と男性は押し黙った。釈然としないようだが、それ以上は言わない。

 気を取り直して私は竜族の君を見上げた。


「……竜族の方々も、人間の暮らしを気になさるのですか?」

「人の暮らしに興味はない。しかし、この土地が荒れれば北へも被害が及ぶ。北の森を気にしていた」

「北の森……、魔女達の暮らし気にかけておいでですか?」

「多少は」


 私はテーセウス思い出しながら少し、驚いていた。竜族は魔女達を気にしているのか。

 カルディナの国境には魔女と呼ばれる異民族が住む。

 異なった宗教を持ち、特殊技能で生計をたて、カルディナには従わない人たち。竜族混じりが多く、竜族との関係が深いと聞くけど本当なんだなあ。

 確かに、メルジェに水害が起きていたら、この地域から北は農産業も経済も壊滅的になっていただろうし。

 北の森の魔女達は北部との付き合いで生計を立てているだろうから、大変だっただろう。


「なぜ、堤防を修復した?カルディナで雨が降るのは珍しい。雨が降るのを知っていたとでも言いたげだな?」


 金色の瞳が私をみる。

 ゲームのストーリーで知っていたんですよ、というのもなあと思って私は曖昧に笑う。


「……なんとなく、不安に思ったのです。思いつきに過ぎませんでしたが、……備えは余裕のある時にすべきですし、こうやって役に立って良かったと思っております」


 彼はふぅん、と釈然としない表情で私見つめた。

 そして、険しい目つきで私の胸元を見た。金色の瞳に嫌悪がにじむ。私は少し、たじろいだ。


「……それともう一つ聞こう。公女」

「なんでしょう?」


 彼は私と距離をつめ、一点を指差し、氷のような声で告げた。


「なぜ、人間がーーー我らの秘石もっている?しかもそれはーー私の大切な方が、大切にしていた石だ。あの方がそれを手放すはずがない。……どこで盗んだ?」


 ぬすんだ?


 あまりの指摘に私は言葉を失い胸元の石を握りしめた。

 服の下に隠してはいるが、そこにはいつもーーー竜族のイェンがくれた宝石、心臓石がある。


「まさか!これは、私が頂いたものです。貴方と同じく、メルジェに訪れた旅の竜族の方から」

「あの方が!?なぜ、人間の娘などに渡す?」

「それはわかりませんが……、盗んだものではありません!第一、イェン様から何かを盗むなんてとても無理です」


 どうやってあの強そうな人から盗むんだよ!バッサリやられちゃうよ!

 その主張はもっともだと思ったのか、竜族の青年は押し黙った。だが、不快をにじませたまま低く、呟いた。


「全く、何を考えておられるのか」


 彼はイェンと知り合いなんだろうけど……、いちいち言葉にとげがあるな。

 私はスタニスを見た。そろそろ帰った方がいい、のかも?

 私は先程のスタニスの読唇術がさっぱりわからなかったけど、我が万能なる義理の伯父は私の意を汲んだ、コホンと咳払いをした。


「お嬢様、そろそろお時間でございます」

「ええ、そうね。スタニス」


 ヤエトと呼ばれた青年がピクリと反応してスタニスを眺めた。スタニスが猫に出会ったネズミみたいに身を縮める。さっきから様子がおかしいなあ、竜族が苦手なのは知っているけど、過剰なような?


「お二方、お会いできて光栄でした。私はこれで失礼を……」


 私が礼をして顔を上げると、ヤエトと視線が絡んだ。

 やけに、楽しそうだ。なんだろう、と思わず一歩引くと竜族の青年は何を思ったか笑い出した。私ーーーを通り越して、スタニスに近づき、ガシッとその肩を抱く。

 スタニスが珍しく、ひえっ!と声をあげた。


「なるほど!人の世の時間の流れは本当に我らとは違うもの。我が君!覚えておいでではないですか?ーーーこの同胞を」


 我が君、と呼ばれた青年は美しい瞳でスタニスを射て、目を細めた。

 それから、眉間に深いしわを寄せ、低く、唸った。


「……ヴァザ、スタニス…………。思い出した。貴様、……あの、ユエか」


 あっれ、スタニス……知り合い?

 私は目を丸くし、スタニスはヤエト青年に捕らえられたまま、引き攣った表情で「我が君」を見上げた。

続きは 8/15に

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