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132.金糸雀は歌う 13

 翌日。


 夜更けまでつづいた状況の説明と話し合いを終え、泥のように眠った私は、きついカナンの陽射しに早朝、身を起こした。


 仕度を整え、まだ昼食には遠い頃。

 伯爵ジグムントの屋敷には一人の客があった。貴婦人は強い日差しを侍女、カミラのさす黒い日傘の影の中を静かに移動して壮麗なカナン伯爵家の門をくぐった。


 カタジーナ・ヤラ・ヘルトリング。


 父上から使者をよこされた前伯爵夫人は父上に事の経緯を説明されて僅かに眉根を寄せ……白い指でこめかみを抑えた。


 ジグムントはスタニスが付き添って部屋で身体を休めている。

 アレクサンデルが部屋の隅で控えている。


「ええ。リディアなら昨日、私の屋敷に来ましたよ。可哀想に肩を酷く怪我していて……治療師の術が効かないので、西国の医師を呼びましたが」

「西国の医師ですか?」

「最近、私はファティマ殿下の部下であるハヤル殿とよく話をするのです。彼は西国の医療を私に説明してくれて。感服したところでした」


 部屋の中には私と父上、護衛としてアレクサンデルがいる。

 隅にはアレクサンデルが控え、カミラは部屋の外で人が近づくのを避けている。


 もう一人。


 常と変わらぬ様子で痩身の宰相、アルフレート・ユンカーが父上と斜向かいに座していた。

 話を聞いたカタジーナは冷静だった。


「……彼女を治療したと?」

「リディアは私に言いました。理不尽な暴力を受けたのだ、と。どうか治癒に力を貸してほしいとね。私は憐れに思って彼女の治療に尽力しましたよ?……彼女が何に追われていたのか、理由を教えてはくれなかったのだけれど」


 カタジーナはアレクサンデルを見た。


「彼女は国教会にも帰りたがっていませんでした。どうしてかしら?」

「……」


 アレクサンデルは父上を窺った。どうこたえましょうかというかのように。


「……彼女は怪我を負った理由を話しましたか、カタジーナ」

「いいえ。聞かないで頂きたいと言われましたからね」


 父上は手を組んで、息を吐き、右手で前髪をかき上げた。たぶんユンカー宰相と父上……それからスタニスは夜通し起きていたはずだ。疲れがにじんでいる。


「貴女が無事でよかったですよ、カタジーナ姉上」

「どういう意味です?」


 怪訝な表情で父上をカタジーナは見た。水色の瞳の青い部分が深みを増すのは……父上と同じで、不快の感情の現れ、だろうか?父上は顔の前で手を組んで額を寄せた。


「……昨日、リディアはここにいるアルフレート・ユンカーを襲撃しました」

「……はっ?」


 澄ました顔だったカタジーナが思わず、といった調子で父上としばらく遅れてアルフレート・ユンカーを見た。


「リディアが、宰相をですって……?そんな馬鹿な」


 カタジーナの声は上擦っていたが、父上と宰相は至極、真面目だった。


「恐ろしい事ですが私はリディア神官の怒りに触れたようです」

「リディアの怒りですって?」

「……伯爵夫人もご存知かと思われますが、私はカナンの和平について、亡きカミンスキ伯爵とともに尽力してまいりました。その一連の和平の締結のために、今、公爵閣下や公女殿下に、カナンに赴いていただいています」

「……それが?」

「リディア神官は蛮族の機嫌をうかがうために神の一族(ヴァザ家)のお二人を私が無理やり唆したのだと、お怒りで。天誅だと」


 ユンカー宰相は沈痛な面持ちで肩を抑えた。

 まるでそこをリディアに刺されたとでも言いたげな仕草でした。


「すんでのところで、スタニス・サウレに救われました」

「……その割には、貴方は随分と元気そうですね?ユンカー」


 ユンカー宰相は平然と言った。


「偶々、同じ場所に居合わせたアレクサンデル神官が私を治療してくださったのです。日ごろの行いの正しさが大神がお認めくださったのでしょうか。大変に運が良かった」

「……それは、よかったこと。それで?私がなぜ、レシェクに珍しくも心配されているのです?宰相が襲われたのは……それが真実なら大変だったとは思いますが。私は彼女がいうところの神の一族です。私に危険はないでしょうに」


 父上が、合図をする。

 アレクサンデルが進み出て、礼をした。


「……伯爵夫人に恐ろしい事を告白しなければなりません」

「告白」

「リディアは……余人がいないと思ったのでしょう。ユンカー宰相に恐ろしい事を告げたのです」


 私たちの視線が集まったのを、平然とカタジーナはいなしていたが、かすかに居心地悪そうに身じろぎした。アレクサンデルは酷く傷心に見える……父上と宰相は演技だけど、彼は演技か本心かはわからない所だ。


「……彼女は過去にヴァザの一族の姫を手にかけたと言うのです。……伯爵のお嬢様を!……リディアは狂人です。彼女が神の一族と慕うヴァザの方々にまで手をかけていたなどと。……そのような者がカタジーナ様の屋敷で一夜を過ごしたなどと……本当に恐ろしい事です」


 アレクサンデルが嘆き、父上と宰相は示し合わせたかのように深々と頷いた。







本日発売です。更新祭、お付き合い有難うございました!

短い+更新祭りは本日で終わりですが、明日か明後日には更新します~

今度からは一話長くなります(*^^*)毎日更新が書籍の売上とかに影響するかは謎な部分も大きいですが、毎日更新でもしてないと不安で……。

皆さま、お付き合いいただきありがとうございました。沢山の方のお世話になって出た本なので、沢山の方の目に触れたら嬉しいなと思います。

どうぞよろしくお願いいたします!

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