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108.いぬとねことうさぎと くまと

 馬車がどんな道を通って、どう帰ったのか、を私はうまく覚えていない。上の空で……たぶん、それはスタニスも同じだったろう。

 屋敷に戻ってもぼーっとしている私を、キュ? とソラが心配そうな声で見る。ユリウスがとことこと近づいてきて、私のスカートの裾を引っ張る。


「ねーね」

「どうしたの? ユーリ」

「スタニス、しょんぼり……?」


 私も俯きながら、……脳裏でイェンの言葉を反芻する……二人がどんな関係なのかはわからなかったけれど、イェンは「いつから人間を辞めた」のか、と聞いた。


「年を取っていない」とも。

 まさかと思う反面、どこかで納得もしている……。

 竜族混じりだからと気にしていなかったけれど、スタニスは確かに、同年代の人々と比べて若い。それだけならいい。

 少し遅いくらいなら。もし、……このまま変わらなくたって、私は構わないけれど、スタニスは気にするだろう。

 今でさえ口さがない女王派の人は言うのだ。公爵閣下はこれみよがしに竜族混じりをこきつかい、さぞや気分がよかろう、と。


 父上は溜息をつくと、沈んでいる私たちを手招いた。


「ユーリ、レミリアも、おいで。あの馬鹿が、復活する方法を教えてあげるから」


 父上は私たちに指示をする。


 ……ほんとかなあと疑いながらも、私たちは指示されたとおりに、両手いっぱいに、『とあるもの』を抱えてスタニスの私室に向かう。

 すれ違った執事のセバスティアンが苦笑し、部屋の前までそれを運ぶのを手伝ってくれる。

 侍女頭のヒルダも加わって「全くスタニスは!幾つになっても世話がやける子だこと!」とぼやいて去っていく。


 こんこん、とスタニスの部屋をノックをすると、中から訝し気な声がした。


 「――はい」

 

 誰だ、と聞かれる前に、食い気味にユリウスが部屋に滑り込んで、スタニスに、ぱふ、と抱き着いた。

 手の中に持っていたふわふわとしたかたまりを、渡す。


「スタニス、はい、うさぎちゃんあげる」

「へ? は? 若君? お嬢様?」

 

 スタニスはユリウスから押し付けられたうさぎのぬいぐるみを抱えて目を白黒させた。


「うさぎちゃんと、ねこと、わんわんもあげる……。く、くまはかしてあげるだけー!」

 

 私が大量に抱えたぬいぐるみをユリウスに渡し、ユリウスがスタニスに渡すと言うぬいぐるみリレーを繰り返すと、スタニスは戸惑いながらも両手に抱えた。


「ベッドにね、おくといいよ」

「……はい?」

「元気が出るから。一緒に寝ると、癒されるわ、きっと」


 私たちが真剣な顔で口々に説明すると、スタニスは呆気にとられてから、……小さく吹き出した。


「……お二人とも、こんな遅くに使用人の部屋に来たら、駄目ですよ」


 私は遮った。


「違うから!」

「? お嬢様……?」


 イェンの言葉を思い出して、否定する。

 家族ごっこ。それは、違う。

 これだけ一緒にいて、お互いに大事で。

 ごっこだなんて、外野にとやかく言われてたまるもんか。


「違うもの。……スタニスは、家族だもん……。だから夜中に部屋に突撃するし、ずっとそばにいるし――そばにいないと駄目だから」


 ユリウスも彼の足に纏わりついた。

 ぎゅっと両手両足で抱きつく。

 ちょ、それはなんかコアラみたいで面白いよ、ユリウス……? 


「スタニスは、もふもふがすきだから、ぬいぐるみをあつめたらげんきになるって、ほんと?」

「誰が言ったんです、そんな」

「ねえ、なった?」

 

 スタニスは弟を足にぶらさげたまま、よいしょとぬいぐるみをベッドにおいて、代わりにユリウスを抱き上げる。

 スタニスは弟の首元に顔を埋めて、弟の質問に、簡潔に答えた。


「……なった」

「なら、よかった!」

 

 私はユリウスごとスタニスに抱きついた。

 ぎゅうっとすると、スタニスが苦笑しつつも、久しぶりによしよしと撫でてくれる。

 うわべだけでも、元気になったなら、よかった。

 扉の外でくつくつと二つの笑い声がする。

 ユリウスの侍従のトマシュがはい、と変な魚のぬいぐるみをスタニスに渡して、笑いながら去っていく。

 トマシュは父上を先導してきたらしい。


「なんかよくわかんないですけど、嫌な事あったんですか? 元気出してくださいよ! スタニスさん。はい、俺から」

「……なんだこれ、ぶっさいくだな……」

「ちょっと目つきが先輩と似てます!」

「……トマシュ、あしたお前、屋敷の裏に来ような?久々に訓練しような?」


 スタニスが苦笑し、父上がふんと眉を寄せた。


「いい年していじめられて拗ねていないで、さっさと復活しろ。辛気臭いことこのうえない」

「……旦那様に心配されちゃおしまいですね、俺も……」


 ……旦那様、とスタニスは苦笑し、ぽつり、と言った。


「……俺、ひょっとしたら、年をとんないかもしれないみたいなんですが」

「うん」

「……もし、そうなっても。それでも、ここにいても、いいですかね……」

 

 父上は私とユリウス、それからスタニスを見回して呆れたように、言った。


「いいも何も。今更。――お前の家はここだろう。お前の外見なんか気にしたことがないし、する予定がない。万が一お前がこのまま年を取らなくても別にいい。若いままなのが気になるならお前の息子でも孫でも適当に戸籍を偽造してやるから、それを使え」

「若、それって職権乱用じゃないですかそれ……」

 

 父上は腕を組んでふん、とスタニスを見下ろした。


「公爵様だからな」

「父上!」


 私は、今度は父上に抱きついた。

 鍛えようの足りない閣下がふらつくので笑ってしまう。

 ユリウスがぼくも! と歓声をあげて、スタニスから飛び降りると、今度は父上の足にまたがっしりとしがみついた。

 父上は苦笑し、悪戯っぽくスタニスを眺める。


「……混ざるか? 左手があいているが」

「混ざりませんよ!」


 私は思わず、吹き出した。


 いつの間にか来ていたカミラも、よろしければ……と白いモフモフの犬のぬいぐるみを手にしていた。はにかみながらスタニスに手渡し、去っていく……。カミラ、可愛いな。

 スタニスはさすがに、多種多様なぬいぐるみで彩られたベッドを複雑な顔で見つめた。


「ええっと、俺ぬいぐるみに占拠されて、寝る場所がないんですけど……」

「一緒に寝たらいいじゃない。面白いから。――明日起こしに来てあげるね?」

 

 私は朝一でスケッチブックを片手にスタニスの部屋に突撃しようと思った。

 ふわふわなぬいぐるみに囲まれてうなされるスタニスの図……、ちょっと面白いんじゃない? 



公爵「……まさかほんとにぬいぐるみに囲まれて寝たりしないよな、おまえ」

ス「床で寝ろと?どーすんですか、これ!可愛いけど!」

公爵「(……気に入ってはいるのか)」

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