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106.西より風来たる 9

短いですがおさまりが悪かったので

「それでは、公女様、お気をつけて」


 私の視界の端に青くなったカミラが近づいてくる。


「ヴィンセント――さっきのことは……」

「ご報告するよ。公爵閣下には恐れ多くて出来ないけど、サウレ教官には報告せずにいて、次に君に何かあったら――僕の身が危うい」


 私の質問に、あっさりとヴィンセントは答えた。それは、そうか。スタニスからの大目玉を予測して私は若干怯えた……。徹夜でお説教コースかもしれない。


「サウレ教官には、その、私から柔らかい感じで伝えてみるので胸のうちにしまってくださると」

「――君の報告の正確さについて、僕は些か懐疑的なので、そのご要望は拒否いたしますよ」


 ……信用がないよう……。


「お嬢様!」

「ええと、カミラ」


 カミラは私を見失った事で大層青くなっていた。護衛だもんな、カミラ……。


「――それでは、僕はこれで」


 ヴィンセントの手が離れる。

――汗をかいてしまっていた、と離れてから気付いた。


「――お側を離れてしまい――」

「いいの……ごめん、意図的に離れたのは私だし」


 ユゼフ伯父上と会った時に、カミラを置いてきてしまった。

――護衛へのお節介で自分の身を危うくして、護衛(カミラ)にいたたまれない思いをさせて、本末転倒だ。


「カタジーナ様は」

「伯母上は――いまごろ、ハイデッカーの馬鹿息子と一緒にいるかもしれないわ」

「レミリア様。カタジーナ様やハイデッカーと何か?」

「大丈夫。二人きりになる前に、ユンカー様が機転を利かせて呼び出して下さったから。さ、戻りましょう」


 華やかな夜会が始まり白の元帥服を身にまとっている父上の元へ、使者が伴を連れてやってきた。

 キプティヤとイェンはいないなあ。


 父上は現在外交と軍事……。名誉職で最高責任者は別にいるとはいえ、厭世家には向いていない仕事をやっている。

 私は薄い色のドレスを着ている。大きく空いた袖はふわりとしたベルスリーブだ。いつもは好んで薔薇の髪飾りだけれど、今日は西国で好まれる月の文様の意匠をしていた。


「カルディナは素晴らしいところですね――何より気候が過ごしやすい」


 西国の使者はにこやかに父上と会話を続けている。


「砂漠はとても暑いとか」

「よくそう言われるのですが……実は砂漠の夜はとても冷えるのですよ」


 ――女王陛下との謁見では皮肉な印象が強かったハヤルは父上との会話では、始終にこやかな態度を崩さない。

 万事卒ない人という感じだ。


 私がハヤルが説明する西国の様子に聞き入っていると広間の一角がざわついた。


 見れば、先ほどのキプティヤが鮮やかな向日葵色のドレスをまとって現れた。

 肩から手首までを覆う袖は極薄い紗で、ドレスと同じ色の糸で植物が大きくあしらわれていて、裾は花弁のように広がりスリットから除くスラリとした足を煽情的に彩っている。

 足を見せるなんてはしたない…。

 ……などとは負け惜しみにしかならないような圧倒的に健康的な美しさがそこには有った。

女性たちが一瞬彼女の上からつま先までをチェックしたのを私は見逃さなかったぞ。


 そしてキプティヤの横に並び立つ美丈夫も彼女を引き立てる額縁と呼ぶにはあまりに美しかった。


 イェン。

 

 北山の竜族だ。雪のような白い髪に美しい金の双眸。

西国風の衣装でなく、カルディナの騎士服も違和感なくかっちりと着こなした彼に、若い男たちは嫉妬の、私を含めた令嬢たちは夢見るようなまなざしを向けている。


「……あなたのつれは、皆、煌びやかだ」

「主がかすんで困ります。と言っても、イェンは私の部下ではないのですが」

「あの竜族の御仁は殿下のご友人ですか?」

「友人と言うか……殿下が子供の頃よりよく遊びに来ていらして……なんでしょう、客分ですか……」


 少し離れたところにいるシンがおもいきり嫌そうに顔をしかめた。

 あまり他人の事を悪く言わないシンだけれどイェンの事は危険だ、と警戒しているようだった。しかし、あまりにも二人は目立つ。私は隣に控えていてくれるスタニスにそっと耳打ちをした。


「なんだか、素敵過ぎて溜息しか出ない二人ね」

「…………」


 スタニスは怖い顔で二人を見ている。なんだろ、ぼけっとして。


「?スタニス?」

「お嬢様、あ、申し訳ありません」

「どうかしたの?」

「いえ、いただいた西国の酒が少々回ったようです……少し、冷ましに行って参ります」

 スタニスは護衛の騎士に声をかけ、場所を譲ると席を立った。

 スタニスお酒強いのに、珍しい。


 そう思ってスタニスの盃を見たけれど……、一切、口をつけていない。変なの……。


 私がイェンとキプティヤを観察している間に、使者と父上の歓談は滞りなく終わったようだ。

 父上は彼を伴い女王陛下のところへ行き、私はカミラと先に馬車へ戻る事になった。

 挨拶だけして来たら駄目かなあとイェンを見ていると、令嬢たちに乞われるまま話し相手になっていた彼は何かを見つけたかのように、ふと視線を逸らした。

 その視線の先のいる人物を見て思わず私は首を傾げる。


 一瞬だったから、二人の視線が絡んだのに気付いたのは私だけだったかもしれない。

 話し込む使者ハヤルを刺激しないようにカミラに小声で声をかけた。


「――イェン様の所へ行ってくるわ、すぐに戻って来るから」

「レミリア様、私も参ります」

「ありがとう、……イェン様に聞いてみたいことがあって、カミラ少しだけ離れて待っていてくれる?」

「承知いたしました」


続きは、あした

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