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8.予想以上に

 どうやら俺が想像していたよりも、凄いことだったらしい。

 その日の水汲みの時、フィーナは昨日と打って変わって自分から話しかけに行き、俺がネズミを捕ったことを興奮気味に語り、それを聞いた女子達の俺を見る目が変わった。

「ねぇ、アルス君、ウチに可愛い1歳の子がいるんだけど、来ない~?」

「ちょっとタルサ!」

「やだ、冗談よ~、目が怖いわよ、フィーナ」

 フィーナとタルサとかいう黒髪の女の子がじゃれていると、リィザがすっと俺の傍にしゃがみ他の人間からは見えないようにビーフジャーキーみたいな肉を差し出してきた。

 んん? この女、妙に生々しく俺の気を引こうとしやがって。

 隠れてやるところがガチっぽいぞ? 女こえー。

 だが、そんなもんで……


 ふっと、濃密な肉の匂いが鼻を通り抜けて俺の脳を揺さぶった。


 そうだ、肉、食ってないなぁ……

 まあ、ここで食ってもなんかの約束をする訳でもないしな……

 ちょいと食って知らんぷりすれば……


 そう、ちょっとだけ、ちょっと……


「ふっふっふ」

 リィザが悪そうな顔で笑ってるが、お前の思い通りにはならないからな! 肉を只食いしてやるぜ!

 いただきまー

「何してるの?リィザ」

 あら、フィーナ様ではございませんか。ご機嫌麗しく、なさそうですね。

 そんな怖い顔をされては、可愛い顔が台無しですよ?

「え、えぇっと……ちょっと干し肉余ってたからさっ! その、頑張ったこの子にあげようかなって」

 わかりやすく慌ててるなぁ、こんなところは年相応だな、リィザ。

「肉が余るなんて凄いのね。だけど、犬にあげるならあなたの家のキッシュにあげたらどうかしら?」

「……そうね、そうするわ」

 リィザはあっさりと干し肉を小さな鞄にしまい込んでしまった。

 あぁー! 肉がぁー!

「アルス、行こう!」

 あ、はい……

「キュウン……」


 かなり喜ばれるので、ネズミ捕りはそれからもずっと続けた。

 この家の周りをちょろちょろしてるネズミ、土手とか木の根の間とかに巣を作ってるんだけど、それを匂いで探り当て、掘り起こして潰すこともやってみた。

 これが結構効果的で、フィーナ家にはネズミがほとんど出なくなった。

 ここんところ夜寝てられないほど気配がすることが無いしね。

 だけど、すぐに新参のネズミが近くからやってくるので、暫く放置すると元通りになりそう。

 なんかやったことが無に帰すのってヤだから、その新参がやってくるのを遅らせる為に、俺の狩り場はどんどん広くなっていった。

 初日は夜通しやってたけど、あれは流石に次の日が辛かったので、日が暮れてすぐは家の周りで狩り、夜明け前を遠征に使った。

 その遠征のお蔭で、近所の地形は大体把握した。

 この縄張りが広がっていく感じ、とても気分がいい。

 

「お、アルスか。今日もネズミ狩りかい?」

「キャン!」

 おっと、道の合流地点で畑仕事に向かう途中らしきラゴ爺さんに声をかけられた。

 この爺さんは、呼ぶと俺が返事するのが面白いらしく、結構話しかけてくるんだよね。

 まあ返事はしたけど、今はネズミ狩りじゃなくてただの散歩だけどね。ちょっと村をぐるっと回ってみようかと思って。

 歩いて行く方向が一緒だったので、暫く爺さんと一緒に歩く。

 爺さんは妙にニコニコしていた。

「お前がネズミを捕ってくれるから、ワシの畑も助かってるよ!」

 お、なんか褒められた。

 どういたしまして!

「キャンキャン!」

「はっはっは! 元気だなぁ!」

 はい、結構調子いいっす。

 三食ちゃんと食べ、寝てるせいか、体が気持ち大きくなったような気すらするぜ!

 おっと、昼過ぎなのに珍しいな、ネズミ発見。

 爺さんの畑の傍の草むらに大き目のネズミがちらりと見えた。

 散歩だけど、目の前に出てこられては仕方ない。

 だが、ここでいきなり飛びかかるのは素人だぜ。

 すっと、姿勢を低くして体を丸め、じっと草むらを見つめる。なるべく殺すとか考えないようにする。

 少しづつ力を溜めていきますが、溜め過ぎないようにします。

 あとは、獲物が余所見をするのを待つだけです。

 ……あ、畑の方を見ましたね。

 溜めていた力を地面に叩きつけるようなイメージで蹴りつける。

 一瞬でネズミとの間合いが0になった。

 ネズミの方が若干低いところにいたので、上顎を被せるように噛みついた。

 ネズミは俺の牙が食い込んだ瞬間ビクリと体をよじって逃げようとする気配を見せたが、ゴキリと噛みしめて止めを刺す。

 まあ、ざっとこんなもんすよ、爺さん。

「はぁ~~あ……」

 ってオイッ! さっき褒めてくれてたじゃんよ! なんで溜息ついてくれてんの!

 ちょっとカチンときて、声のした方を見ると、爺さんこっちに背を向けて畑に座り込んでた。

 んん? どうした爺さん?

 ネズミを咥えたまま、爺さんの近くに寄ってみると、爺さんの足元の畑が俺がすっぽりと入れるぐらい掘り起こされていた。

 よく見たら、他にも2、3箇所ほど同じように掘り起こされている。

 どうやらこの畑はジャガイモみたいな作物が植えてあるみたいだけど、それが盗まれたってことか?

「ああ、アルス……ネズミを捕ってくれたんだなぁ、ありがとうな」

 爺さんは笑ってるが、声に力が無い。

 ここ最近この辺りをウロウロしてるから、わかるんだけど、本当にみんなずーーーと畑の世話してるんだよね。

 思い入れも、そりゃあるだろう。

 それ、掘り起こされたら溜まらんだろうな……

 穴を覗き込んでみると、芋っぽい野菜が食い散らかされていた。

 人間の仕業じゃないか。でも、こんなでっかい穴、ネズミじゃないよなぁ。

 嗅いだことのない嫌な獣臭さが残っていた。嗅いでいると体に悪寒が走った。

 なんだろう、鹿とか?

 まあ、なんだ、今度狩りの時間にでもなんか見かけたら、脅かしとくからさ、元気だせよ爺さん。

「キャンキャン! キャン!」

 俺の思考が届くはずもないが、爺さんはふっと笑って俺の頭を優しく撫でてくれた。

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