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69.捕虜を尋問

「ラオルさん、私の兵達はどこに居ますか?」

「3つ隣の馬車置き場を兼ねた倉庫です。ご案内します」

 ラオルがキビキビと答え、歩き出す素振りを見せた。


 あー、移動か。フィーナの膝から動きたくないが、この件は放置しておくと後々まずい事になりそうなんだよなぁ。戦争がワンサイドゲームになりかねん。そうなるとフィーナが危ない。仕方ない……


『ねぇ、あたしは行かなくていいわよね?』

『おいこら』

 一人だけフィーナとくっついてるつもりか。

『いや、だって……その』

 ああ、裏切り者って非難されたのが堪えてるのか。

『お前はついてくるだけで一言もしゃべらなくていい。離れたところで話だけ聞いておいてくれ』

『それなら……わかった、ついてく』

『よし、いくぞ』


「ワン」

「なるべく早く帰ってきてね」

 挨拶するとフィーナが見送ってくれた。

 兄弟達はフィーナがずっと構ってくれるのが嬉しいらしく、俺に見向きもしない。

 いや、仲良くしてくれるのは、いいんだけどね……



 フィーナが泊まる予定の倉庫から3件隣なだけなので、倉庫にはすぐ着いた。

 倉庫の周りには旅の間に見慣れた兵士の面々が馬車を整備したり、馬の世話をしたりしていた。

 日が暮れてからも仕事で大変だな。

「皆さん、ご苦労様です。えぇと、例の箱はどこに置いてありますか?」

「はい、あちらです」

 近くにいた兵士が、倉庫の脇に2段3セットで積んである箱を指差した。うお、結構雑に置いてあるな。捕虜の日本人を閉じ込めてある箱は縄でぐるぐる巻きにする、という大胆な方法で梱包されているので、綺麗に積み上げられずに変な角度がついていた。

「なにか変わったことはありませんか?」

「いえ、大人しいものです。食事の時に暴れることもありません」

「そうですか、ありがとう。仕事に戻ってください」

「はっ!」


『あの、流石に箱に入れたままは可哀想です』

 エスタが決意を感じる声で小声で話しだした。あの雑な扱いは俺でも思うところがあるぐらいだからな。エスタなら尚更だろう。

『まあ、確かに体を丸めて箱に詰め込まれ、何日も過ごすってぞっとしねぇな』

『酷いことをしてるのは承知していますが、ココ村ではどうしようもなかったんですよ……』

 ミリルフィアが申し訳なさそうに眉を寄せた。

『じゃあアッセンではどうにかなるのか?』

『檻を手配してもらおうと思っています。そこまで立派なものは無いかもしれませんが……』

『まあ、開放感があるだけ随分マシになるだろうな』

『そう、ですね。よろしくお願いします』


 さて、尋問だが……

『ジュンジだけ別のところに連れて行って話そうぜ』

『なんでです?』

『捕虜全員にこちらの話を聞かせてやるメリットが無いし、ジュンジも1人だけの方が話しやすいこともあるだろうからさ』

『……なるほど、わかりました。……ジュンジさんの箱は1番上の右のようですね』

 ミリルフィアは箱に刻んである名前を確認すると、それをラオルに運ぶよう命じ、どこか空いている家や倉庫は無いか、と尋ねた。

「今はもう倉庫は空いておりませんが……私の家の納屋ならご案内できます」

 ラオルってアッセンの人だったのか。納屋か……まあ大丈夫だろう。ジュンジは近くに矢みたいな飛ばせるものが無ければ無力のはずだ。ミリルフィアが視線で問いかけてきたので、頷いた。

「では、暫く納屋をお借りますね」

「光栄です。では、ご案内します」


 ラオルの家は結構離れていて、村の中心からやや東門寄りの所に建っていた。周りの家より若干大きい。

 俺たちはすぐに家の裏手にある納屋に案内された。納屋の中は意外にも物があまり無く、クワやピッケルみたいなものが壁にかけられているだけだった。

 大丈夫だとは思うが、これは一旦どけといた方が良いかな。陽炎でひょいと摘んで表に持って行こうとした。

「なっ!?」

 あ、しまった。最近隠す気も無くなって、適当に能力使っちゃってるんだよね。ラオルが宙に浮かんだ農機具を見て超ビックリしている。動揺でジュンジの入った箱を取り落としそうになっていた。

「ああ、気にしないで、これもアルスの力です」

 ミリルフィアが若干口元を引きつらせつつ、フォローしてくれた。

「な、なるほど、取り乱してしまい、申し訳ありませんでした」

「いえ、話しておくべきでしたね。では、箱を置いて、あなたは少し外して頂けますか?」

「承知ました。なにかありましたらお呼びください」


 さて、始めるか。

『ジュンジ、生きてる?』

『……生きてますよ。慣れると快適ですね。箱の中というのも』

 さくっと皮肉を返してきやがった。

『出たくないってことか?』

『出して頂ける、というならお受けしますよ。体を伸ばしたくはあるのでね』

 やれやれ、気取った言い方しやがって……俺は陽炎を使ってジュンジの詰まっている箱の縄をぱぱっと解いた。

 ジュンジはこちらを刺激しない為か、ゆっくりと蓋を押し上げて出てきて伸びをした。その顔には革製の目隠しが嵌められている。首輪と一体になっている目隠しは背中の方に留め金があって犬の手では外せない。この目隠しを輸送隊の兵士が作ったので、ジュンジ達は手足を縛られることが無くなった。万が一の事もあるので、これは外せないなぁ。本人もわかっているのか何も言わない。

『わざわざどうも。で、なんの御用でしょうか?』


『俺が逃がしてやるって言ったらどうする?』


 隣のエスタとミリルフィアがギョッと身を震わせた。ジュンジは特に反応しない。こいつ、他の日本人と違って、なっ! とか うっ! とか声を漏らしにくい気がする。


『どういう意味かな?』

『聞いたまんまを答えてくれればいいんだが?』

 俺をダメ元で説得して、逃がしてもらおうとしてたが、今でも逃げたいのかね? 一度捕まって、逃げてきたってのは非常に怪しい。捕まってる時間が長ければ、さらに怪しい。檻を破って逃げたとかって言い訳もこいつの能力的に難しい。他の日本人からしてみるとキョーコよりも怪しく見えるんじゃないか? 多分、ジュンジもそこまで考えてると思うんだがなぁ。これでもまだ帰りたいって言うなら、こいつは絶対裏切り者扱いされないVIPってことになる。 


『本当に食えない奴だよ。アルスさん。僕を値踏みしてる訳だ。強力な能力だけじゃなく、頭も多少は回るみたいだ。あの人に会わせてみたいね』

『んで? 逃げたいの?』

 思わせぶりにして、話題を逸らそうとしてるけど、乗ってやらないよ。

『そりゃ逃げたいさ』

 ほう?


『だけど、逃がしてもらったとしても、僕の命運はキミに握られているからね。本当に逃がして貰ったとしても困ってしまうかもしれないね』

 やろうと思えば、ジュンジを解放した後で幻影使いのシズカあたりに色々吹き込んで解放したりとか、嫌がらせはいくらでもできるよね。面倒だからやらんけど。

 まあ、のらりくらりと話してるが逃がしてやるから話せ、という交渉ができないのはわかった。


『実はキルグフィッツに日本に帰る方法を研究してもらおうと思ってるんだが、こっちについて研究の強力しない?』

 キョーコと同じ方向で攻めてみることにした。ミリルフィアが何それ聞いてないんだけど!? と表情で語っているが、とりあえず無視。

『日本には帰りたくないって言ってませんでしたか?』

『ああ、俺用じゃなくて、キョーコとか他の日本人用だ。オーグラドを牽制する為にもやる価値はあると思うんだよね』

 ミリルフィアが頷いている。ジュンジは黙り込んでいるので、続ける。

『立場が怪しい同盟よりも、こっちについたら?』


『なるほど、魅了的な提案ですね……ですが、1つ穴がある』

 む?

『キルグフィッツはオーグラドと戦いながら、オーグラドと同じ水準まで帰還魔法の研究を進めるのは難しいよ』

 ジュンジは、ハッタリにはなりそうですがね、と付け加えた。

『キルグフィッツの魔法使いはショボいってことか?』

『それもありますが、単純に力押しに負けるよ』

 力押しだと?

『帰還魔法の研究を進めようとしているのも、日本人への対応もアルスさんが中心になっているようですが、アルスさんが倒れればそれで終わり』 

『俺が負けるってのか?』

『真正面から戦って勝てる人はなかなか居ないでしょうが、アルスさんには弱点がある……おっと、怖いな。別に僕がフィーナちゃんを襲うって言ってる訳じゃない』

 俺のガチの殺気にジュンジが怯んだ様子を見せた。

『安心して欲しい。フィーナちゃんは暗殺されたりはしない。そんな事をしたら、アルスさんの弱点が無くなると同時に、捨て身の攻撃をされかねない』

 想像するだけで頭の中心が焼けるようだぜ……

『やるなら誘拐だ。この子の命が欲しければ、言うことを聞け。こんなこと言われたら、アルスさんはなんでもするだろう』

 エスタとミリルフィアがブルりと震えた。想像が簡単だったんだろう。

『付きっきりで警備でもするかい? 同盟には姿と同時に気配も匂いも消せる能力を持ってる奴もいる。万全を期すなら牢屋にでも入れておくしか無い。そんな事できるのか?』

 いや、牢屋に入れても不十分かもしれないなぁ、くくくっ、とジュンジが笑った。

『ほら、キルグフィッツは脆い。オーグラドと等価値にはならない』

 気分よく話し始めたな。ノッてきたか?

『今はそうかもしれんが、キルグフィッツにも日本人は生まれるだろう。戦力は増えていくさ』


『そんな事はありえな……くっ!』


 ははっ! 思わず口を滑らせたな。慌てて黙りこんでも遅い。

『ありえないってどういう事だ? やっぱり日本人はオーグラドでしか生まれないってことか……もしくは』

 ジュンジは黙っている。黙秘するってことは、やはり……

『偶然ではない、って言ってたからな、オーグラドが儀式でもやって日本人を召喚してるって可能性もある』

 やはりジュンジは黙っている。

『お前から聞きたかったのは、お前の偶然ではない発言の裏付けだったからな。尋問は無事終了って訳だ。もう喋らなくてもいいぞ。さっきアッセンに攻めてきた日本人を捕まえてあるから、そっちにも聞いてみるからさ』

『降参だ。負けたよ』

 アッセンで日本人を捕まえたってのはハッタリだが、どうやら効いたようだ。

『別に喋らなくていいって言ってんだけど?』

『他に何人捕虜がいるのかわからないが、自分の価値が無くなる前に売り込む事にしたよ。今すぐ殺されても詰まらないしね』

 ジュンジが情報を出し渋る上にこっちの不利な部分を指摘すると思ったら、自分を高く買わせようとしてたってことか。食えないのはどっちだよ。

 

 しかし、用が無くなったら殺すとか、そこまで極悪なことは考えてなかったが、まあ、いいや、誤解させとこう。


『売り込みたいならやってみるといい。ただ同盟の大体の情報はもうキョーコから聞いてるけどな』

 微妙な情報を小出しにされてもつまらん。さて、なにを知ってるのかね……


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