65.自己紹介
アッセンの守備兵とお見合いしている訳にもいかないので、場所を移してフィーナ達を待たないとなぁ。待機場所は北の森の入り口がいいかな。
転移して落としてきたハーネスを拾って、とっとと移動を開始する。あー、久々に怒ったからなんか肩凝ったわ。
『あの、アルスさん。すっごく遠巻きにされてますけど……』
『気がついてるけど、ほっとけほっとけ。ミリルフィアが到着しないと話しにならん』
俺がハーネス拾いに行く前から、モジモジと先生に話しかけられない生徒みたいに付かず離れず3人程ついてきてる。今もマッチョのおっさんと若い兵士2人で、ずっとヒソヒソ話してる。
あー感じ悪い。
『気になるんなら声飛ばせる奴が話しかけてくりゃいいのにねぇ』
キョーコが俺の内心を代弁してくれた。そうなんだよ。見張ってますよ、とわざわざ見せつけるようなことして、なんか得するんか? あ?
『まあまあ……アルスさん、殺気が出てます。怖いですよ!』
『おっと、そんなに出てた?』
『アルスさん、怒りっぽいですからねぇ……』
『ちょっと、あたしを無視するんじゃないわよ!』
突っ張ってる癖に構ってちゃんだよな、こいつ。
『ふぅ、お前達が暴れてるのって結構有名になってるんだよな? あの見張りはそれで俺たちに張り付いてると思うんだけど』
『む、知らないわよ。キルグフィッツでどれだけ有名になってるかなんて。ってか、お前達ってなによ。もうオーグラドには帰れないんだから、一緒にしないでよ』
ふむ、表面上はさっきの俺の言葉を聞き入れてて帰る気は無さそうだな。
『ああやって、日本人の力を使って戦争をしてからどれぐらいだ?』
『そうね……あたしが知ってる限りだと、1ヶ月ぐらい前かしら。力押しだけだと祝福者に負けることもあるし、効果的にあたし達の力をデモンストレーションしたいから、ずっと前から色々と戦争での使い方を研究してたんだって』
ん? ちょっと待て聞き慣れない単語が出たぞ。
『シュクフクシャ?』
『こっちじゃどう言ってるかしらないけど、オーグラドではそう表現してたわよ。精霊に祝福を授けられた人って。あんたがさっき戦ってたじゃない。あの人テミリスっていうんだけど、結構強かったはずなのに負かしちゃってさ……流石よね』
『祝福ね……俺達と同じように能力を使える人間をそう呼ぶのか?』
『そうみたい。あ、でも、あたし達と同じように、って訳じゃないみたいよ』
『どういうことだ?』
『ふふん。聞いた話だと、人によって色々と制限があって、私達みたいにバンバン撃てないらしいわ。あと、数が凄く少ないんだって。貴族の一族の中に1人いるかどうか、ぐらいらしいわ!』
俺が話しを繋いでいると、キョーコの機嫌が急上昇し、口の滑りがどんどん良くなっていく。本当に知れば知るほど分かり易い奴だな。
キョーコと喋ってると森の入口に着いた。まだ昼ぐらいだからな。フィーナ達の気配は無い。このまま迎えに行ってもいいんだが……その前に。
『さて、銃の球を摘出するぞ。とりあえずキョーコ、そこに横になれ』
『え、て、摘出!? い、いいわよ、痛そうだったし!』
ペペルの治療を見ていたキョーコが怖気づく。が、何製かわからん弾を体の中に入れておくと絶対に悪影響があるぞ。
『気絶させるから痛くないだろ、多分』
『あのバチバチやられるのも痛そうで嫌なのよ!』
まあ、説得されなくてもやるけどな。
『だから、とりあえず、後で……キャンッ!?』
何度もやってるから犬を気絶させるのはもうお手の物だぜ。そういや前にアッセンに来た時は気絶させる手加減を探ってる最中だったなぁ。俺も成長したもんだぜ。
さて、キョーコが撃たれたのは腹だったかなぁ。どれどれ。
『アスルさん、なんか目が嫌らしくないですか?』
俺が陽炎でキョーコの腹を文字通り探っていると、エスタがジト目で問いかけてきた。
『お前はなにを言っているんだ?』
表現を変えれば裸の女が寝そべってることになるんだろうが……
『犬だぞ? お前、犬を見てムラムラすんの?』
『そ、そうですよね。あれ、なんでこんな事言ったんだろ……』
まあ、確かにキョーコは狼というかコリー犬というか、スラっとした犬種で、色も白銀色で綺麗だけどな。さてと始めるか。
『いだぁッ!?』
摘出したらキョーコが飛び起きて騒ぎ出した。あーうるさい。
流れで被弾した兄弟達も弾の摘出を行い、治療する。兄弟達はキョーコみたいに大騒ぎしなかったが、終わった後に、薄っすらと恐怖の匂いを漂わせた。良かれと思ってやったというのに!
力を使いすぎて疲れたのでひと休憩した後、じゃあ、フィーナを迎えに行こう、と森に入ろうとしたら、なんとココ村と補給隊の気配が感じられた。ガラガラ車輪の音が聞こえる。
『早かったな』
『急いで来たんですよ!』
俺が森に声を飛ばすと、ミリルフィアが怒鳴り返してきた。
そういう訳で無事フィーナ達と合流できた、んだけど……
「アルス」
「きゅうん……」
「なんで危ないことするの?」
「わうぅん。ふぅん」
いや、フィーナさん、今回も不可抗力だったんだ。マジで。あそこに居るキョーコって奴が俺を呼び止めやがったから……
「言い訳しない」
はい、すいません……
「ミリルフィア様から、アルスが戦ってるって聞いて、心配したんだから……もう」
フィーナにぐっと抱きしめられた。ハーネス脱いどいて正解だったぜ。ああ、癒される……
『あれが噂のフィーナちゃんねぇ……』
『キョーコさん、フィーナちゃんへの対応は気をつけた方がいいですよ。アルスさん、フィーナちゃんの事になるとすぐキレますから。この前なんかフィーナちゃんへの対応が横柄だったからって理由でキルグフィッツの兵隊さんに殴りかかろうとしましたから』
『うわ、ヤバイわね。とんだ狂犬野郎だわ』
『殴りかかってはいねぇよ! 話を盛るんじゃないッ!』
俺たちの横でエスタとキョーコが不穏な話をするから思わず口を挟む。あの無礼な兵士はぶっ殺してやろうかと思っただけだよ。
『アッセンが戦場になってるかと思って急いで来たんですが、特に急ぐ必要も無かったですか?』
『いや、急いで来てくれて助かったよ。監視もついててウザいし、ちと疲れてたからな』
『監視って……ああ、あの人達ですね。ところで、なんかアルス軍団の人数増えてませんか?』
アルス軍団てスゲェネーミングセンスだな。突っ込みは置いといてキョーコを紹介せんとなぁ。
『おい、キョーコ、キルグフィッツの偉い魔法使い様を紹介するぞ』
『ちょっと! 偉い魔法使い様ってなんですか、もう……』
さっきからミリルフィアをちらちら見ていたキョーコに声を掛けるとトコトコ寄ってきて座った。
ミリルフィアは不満気だが気にしない。実際偉い人だろ。
『ミリルフィア、こいつは同盟にいた日本人でキョーコという。以前アッセンに偵察で侵入した時に助けてくれた縁で、こっちに付いてくれる事になった』
俺が非常に当たり障りの無い感じに省略して紹介すると、キョーコがペコリと頭を下げた。
『キョーコ、この魔法使いはミリルフィア。ここから西に行ったところにあるケッセルフを統治している一族らしいぞ』
『よろしくお願いしますね、キョーコさん。とっても綺麗な毛並みなのね。あ、日本人の方に対して失礼だったかしら?』
『いえ、そんなこと、ございません。うれし、え、あ、勿体無いお言葉です』
えぇー
『お前、なにガチガチに緊張してんの?』
『うるさいわね! 今後の事もあるから緊張するに決まってるでしょ! あと、アルス! いつまでフィーナちゃんと抱き合ってんのよ!』
ええい、声が大きい! うるさい奴め。俺の癒やしの時を邪魔するんじゃない。
『キョーコ……? この声はキョーコなの?』
おや、この声は……幻影使いか? そうか、捕虜は馬車に載せてあるんだものな。飛ばした声も聞こえてたか。キョーコがデカい声飛ばしたから気がついたんかな?
『え、シズカ!? 生きていたのね!』
キョーコが声を弾ませるが、幻影使いことシズカの声は冷たい。
『キョーコ、あんなに信じてって言ってたのに、やっぱり裏切ってたのね』
ビクリ、とキョーコの体が強張った。
『裏切りなんて、ちがう……』
『どこが違うのよ。アルスと一緒で拘束もされてないみたいじゃない!』
『……う』
はぁ、ここでキョーコを攻めてなんになるんだってんだよ、この女。
『おい、シズカ。いきなり毒矢を撃ってきたお前らと、俺が捕まりそうだった時に助けてくれたキョーコと、扱いが同じだと思ってんのか?』
『な……! あ、あんたは黙ってなさいよ!』
熱くなってんなこの幻影使い。うるさいことこの上ない。
『キョーコは要領悪くてバカだから、さっき味方から見捨てられたんだよ。だから俺が拾ったの。それだけで裏切ったとかじゃねぇ。わかったら黙ってろ』
『う、く……!』
殺気を込めた声を飛ばしてやったら黙った。これで静かになる、と思ったら。
『要領悪くて、バカですって……!』
『ふふっ、紹介より随分と色々とわかっちゃいました~』
もうちょっとだけ騒がしいあれこれが続いた。




