7.犬「にゃーん」
「アルスさっきは助かったわ、ありがとう」
帰り道にフィーナがニコニコしながらお礼を言ってくれた。
「キャン!」
でしょー? ナイスアシストだったでしょー?
いやぁ、俺も命を救われている訳で、これぐらいなんてことないっすよ! はははん!
で、水汲みはこれで終わりじゃ無かったっていうね。
どうやら、一日で使う水を補充する為の水汲みらしく、フィーナが入れそうな瓶を満杯にするまで、川と家を往復していた。
他の女の子達も同じ作業をしてるらしく、2往復目からは井戸端会議をせず水汲みしていた。
まあ、一々集まって話してたら日が暮れるよね。
しかし、これ、すげぇ大変そうだな……桶を持つ手がブルブル震えてるし。手伝えるならなんとかしたいのだが、ダメだ、この体ではどうしようもない。
自分の無力さに歯噛みしてると、フィーナが「今日はアルスがいてくれたから楽しかったよ、ありがとう」なんて言ってくれたんだ……
水汲みが終わると昼飯になった。時計とか無いんでおそらくそんな家庭ルールだと思う。
昼飯が終わると、フィーナはサレアさんと倉庫的な居間で籠を作り出した。
ああ、端に積んであるのはこうやって作ってたのかぁ、と暫く眺めたけど、流石に暇なので、家の周りを探検することにした。
居間を出る時に「遠くに行っちゃ駄目だよー?」って言われたので、適当に吠えて返事しておく。
勿論遠くにいくつもりはございません。
自分が住んでる縄張りを見て回りたくてしょうがなくなったのだ。
んー、なんか思考が犬っぽいかなぁ……まあ、引っ越したら近所の店を見て回るとか、それと似たようなことだよな。
フィーナ家を探検してみた結果、入ったことなかったのは炊事場兼風呂場だけだった。
つまり、この家は、倉庫的な居間、寝室、台所、の3部屋しかなかった。
トイレは外にある。
恐るべき狭さだった……助けてもらった家をディスりたくはないが、大変貧乏な気がする。
貧乏なのに食い物分けてくれたことに感謝しなくてはならない。
金持ちがめぐんでくれるのと、貧乏な人が自分のを分けてくれるのでは意味が違う。
なんか俺ができることがあればいいんだが。
あ、貧乏貧乏言ってすいません。
どうにも、現代日本の感覚が残っておりまして……
午後はそれからも探検三昧で過ぎていった。
そして夜。
またも、フィーナと床を共にする俺。
「もうビックリしないよね?」
とか言われちゃう。
勿論、もう美少女のベッドにお持ち帰りされたところで動揺しませんとも。
お供しますので、ささ、お休みください……
しばらくじっとしてると、3人が寝入る気配と共に、家のあちこちでごそごそと動く気配を感じた。
予感的中。
ゆっくりと、フィーナの腕から抜け出す。
探検してる時に気が付いたんだよね。
家屋はなんか低いところに穴やら、傷やらが多いし、食い物とか妙に高いところに吊るすように保存してる。
つまり……ネズミが出るんじゃないか。
ネズミとか生では殆ど見たことが無いんで、半分以上勘だったけど、どうやら間違ってなかったようだ。
家の中に4匹、外には少なくとも5匹はいる。
なんか、妙に感覚が鋭くなってる気がする。俺、夜行性なのかしらん。
とりあえず、ヤれるか様子をみてみよう……
4本の足を柔らかく使い、体を低くして移動する。
意識して自分の足音を聞いてみると、予想以上に静かだ。肉球万歳。
ゆっくりと、寝室から顔を出すと、なんとも無警戒に籠をかじっているネズミが2匹。
全然俺に気が付いてないな。
フィーナが一生懸命作った籠に何してくれてんだ、コラ。
全身に力を溜めながら距離を測る。
今朝、走った時の感覚を思い出す。
いける。
思いっきり伸び上がるようにして、居間に飛び込んだ。
一息でネズミに迫る。
間抜けなことに、ここまできてもネズミは俺に気が付かない。
手心は加えないよ。情けとか理解できないだろうし。
1匹は思いっきり右手で頭を踏んずける。
手ごたえ抜群。
もう2匹目は、流石に気が付いて逃げようとするが、遅い。
掬いあげるように全力で噛みついてやった。
ゴキリと、大きな軟骨のから揚げみたいな歯ごたえの後、すぐに動かなくなった。
1匹目から右手をどける。
2匹目を口から放す。。
2匹とも死んでいる。どっちも俺の身長の半分ちょっとぐらいの大きさだった。
……
簡単だったなぁ……
今の俺の体格からしてみると予想以上にネズミがデカくてビビるところもあったけど、なんか、いける気がしたんだよな。
あ、ネズミを思いっきり噛みしめちゃったけど、病気とか大丈夫かなぁ……なんか思わずやっちゃった。
俺の中にも野生があったのか! なんてね。
さて、残りもやってやるか。
「ひゃっ!?」
フィーナは目を丸くして、固まった。
「どうしたフィーナ……うおっ!?」
おっさんもフィーナと同じものを見て固まる。
サレアさんはおっさんの背後でやっぱり固まっている。
3人が見つめるのは居間の中央に積み上げられた、ネズミの死体。
多分、17匹分。
途中から興が乗って外まで遠征に出てしまいまいてね。
外は不意を撃てないと巣穴とかに逃げ込まれるからちょっと苦戦しましたよ、ははは。
仕留めたままにしとくと拙いかなって纏めたんだけど、明るくなって改めてみると結構グロかった。
「これ、アルスがやったの?」
フィーナがポカンとした顔で聞いてくる。
「キャン!」
勿論だとも!
農村でネズミって害獣でしょ?
ネズミ捕りとかも無かったし、困ってるんじゃないかと思ったんだよ。
結構なもんでしょ?
夜通しやってたんだぜ……
…………
あの?
なにかコメントをください。
黙っていられると怖いんですけど。
「凄いじゃないアルス!」
突然フィーナが駆け寄ってきて俺を抱き上げてくれた。うおー高い高い!
「ロジィのところの猫もこんなにネズミを捕らないわよ!」
そして、ニコニコしながらくるくる回り始めた。
凄いっすか? 猫より上ですか?
いやーいやいや! 喜んで貰えて良かった!
ほんのちょっとだけ、余計なことしやがってって怒られる予感がしてたんだよね!
「本当にこいつが……?」
「村の誰かがやったら、私たちは寝てられないわよ。それにほら、ネズミに噛み傷があるわ」
「確かに」
サレアさん、なんだか探偵みたいですね! ははは! くるくるー!
「ふふっフィーナ、あなたのお供は凄いわね」
「でしょう?」
フィーナの回転が止まる。
ひょいと抱えなおされて、フィーナと向き合う形になった。
めっちゃ笑ってる。
あー、フィーナ可愛いなぁ。可愛い子がニコニコしてると最高だなぁ。
「これからもよろしくね、アルス!」
「キャン!」
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