59.新技
分身使いも同じようにして解凍、蘇生を行った。違った事は、ミリルフィアが回復は疲れたから無理、と音を上げたので、最初も回復も俺が担当したこと。ミリルフィアは2つ魔法を使っていたが、俺の回復能力なら特にその必要もない。
「ずるいなぁ……」
そんな事言われても知らんがな。ずるいのは、えーと、名前なんだっけ……回復能力持ってた奴だよ。
それから解凍済みの2匹を暖めつつ回復能力を使い続けたら、意識を取り戻した。俺は土使い、エスタには分身使いの首に噛み付いておき、その上目隠しして回復させたので、意識が戻っても即座に詰み状態だ。
『な、なん……?』
『混乱してるだろう? 1つ確実なことを宣言してやるぞ。お前は負けたんだ』
『……』
こんな感じで実にスムーズに拘束が完了した。
『じゃあ俺はやることあるんで帰るわ。あんまり呼びつけてくれるなよ』
『まあまあ、そう言わず~』
なんかミリルフィアが妙に気安くなった気がするんだよなぁ。まあ、いいか、特に害は無いレベルだし。
さて、予定が多少狂ったが、矢の練習だ。
とりあえず、ジュンジの助言通りに銃身を意識して、陽炎を伸ばし、ハーネスに装着されている矢を飛ばしてみる。矢というか矢羽の無いダーツみたいな形だけどね。
飛ばした矢は目標に設定した木に当たらず、遥か彼方まで飛んでいった。カラカラと乾いた音が聞こえる。
んー……なにが駄目なんだろう。
『へ~、くっついてる矢がシュッと飛んで行くのカッコいいですねぇ。まるでそう、あの、なんだっけ、フ、ファン?』
見ていたエスタがコメントをくれる。なにからロボットアニメの名前をブツブツ呟いてるので、なにか見た目で連想するものがあったんだろう。
『なかなか思ったところに命中しないんだよなぁ。適当にばら撒いて威嚇ならこれぐらいでもいいんだけど』
『ん~銃身をイメージでしたっけ? ほら、アレですよ、銃って弾を回転させるらしいじゃないですか。それをやってみたらどうでしょう』
『あー、ライフリングか。回転、回転なぁ……』
陽炎を捻る? いや、上手くいく気がしない。銃は銃身の中に螺旋の切れ込みみたいなのが入ってて、それで弾を回転させてるんだったよな……ん? 銃身の中?
注意しながら、特別製の陽炎を再び伸ばす。あ、これ、しんどい。だが、いけるかも……?
矢を発射する。
カツン! と景気の良い音を立てて、狙ったところに命中した。おお。成功だ。陽炎を筒状に形成し、空洞の部分に矢と押し出し用の陽炎を通せば、陽炎同士が干渉せず、飛ばす瞬間にブレないようだ。おお、やった! 空洞の陽炎を作るのに凄い時間がかかるからこれは狙撃用だな。
『おお、やりましたね! 私の助言が活きました? ふふ~ん』
エスタがなにやら面白い感じに調子に乗っているが、まあ、いいか。乗らせておこう。
それから何発か試射してみるが、精度は問題ない。問題は筒の形に維持するのが疲れるってことだな。このまま戦うのは現実的ではないなぁ。
「ワォ~~~~ン!」
おや、森の中で騒がしくしている練習が気になるのかピノンが疑問の意思を込めた鳴き声を送ってきた。
「オォ~~ン!」
適当にダベってるんだよ。と返事をすると、ぞろぞろと兄弟達が集まってきた。暇だったのか。
俺が見慣れぬ格好をしているので、ペペル以外の兄弟がしきりに俺の匂いを嗅いだり、突き回してくる。
よし、新技を披露したるぜ。
俺が陽炎を伸ばすと、ピノン達がちょっと距離をとった。恐れよりも何をするんだ? と興味津々のご様子。見てろよ!
気合入れて矢を3連射し、木に命中させてやった。どうよ!
兄弟達の反応、特に無しっていうね。そういや、ジュンジと戦ってたんだから、この技を何回も見てるよね。ああ、出来るの? ふ~ん、みたいな?
『まあまあアルスさん。そんなにガッカリしないで』
いや、別にガッカリしてないし。マジでマジで。ん?
ピノンが俺と突き刺さった矢の間の空間を妙に気にしてるような……何見てるんだ? 俺もじっと凝視してみると、見えた。
俺の伸ばした陽炎と発射した矢の間を、うす~く、煙のように陽炎が漂っていた。
おお、思いっきり圧力かけて押し出すから残り香みたいにある程度くっついていくのか? 薄くなり過ぎて、もう動かしたりはできないが……電撃ならどうだ?
ヂヂヂヂヂッ!
「キャンッ!?」
『ひゃっ!?』
うおっびっくりした!
矢に薄く繋がってる陽炎でも電撃を伝えることができたようだ。いきなり俺から木に刺さっった矢に向かって宙を走った電撃に流石の兄弟達も驚き、エスタは飛び上がった。
ふむ、これは色々使えそうだなぁ。普通に陽炎を伸ばすよりも遠くに届くようだし、いざという時に……うお、なんだっ!?
『アルスさん、ビックリするじゃないですか!』
『ちょ、俺の右手が凍ってるじゃねぇか! 突っ込みに能力使うな!』
『近づくのがちょっと怖かったもので……』
なんだこら、地味に傷つくだろ!
さて、ある程度道筋は見えたので、後は反復練習や狩りで使って精度を上げないとな。
じゃあ、今日はこのへんで帰るか。矢を回収して……回収?
『アルスさん、考え込んで、どうしたんですか?』
『矢をどうやって持って帰ろうかと思って』
矢はハーネスに装着されていたものを全部撃ったので、10本ほど木に刺さったり、地面に転がったりしている。咥えるのには多すぎるから、ハーネスに戻すのがいいだろう。ハーネスには矢を装着する為にショットガンの弾帯みたいな輪っかがついている。これに矢を通せばいい。問題は、その通す部分が俺から見えないこと。
『やってみるか……』
木に刺さってる矢を陽炎を伸ばして掴み、引き抜く。そしてゆっくりと背中の方に持っていく。矢をゆっくりとハーネスの方に滑らせ……ん?なんか引っかかるな。ちょっと陽炎に力を入れてみる。すると、俺の背中に矢が突き刺さった。
『いだッ!?』
不意打ちの痛みに驚き、仰け反る。あれ、尖ってる方を下にしてた?
『なにやってるんですか……』
『見りゃわかるだろ!』
エスタが冷えきった目で俺を見つめてくるので思わず叫ぶと、冷えきった口調で切換された。
『ハーネスを脱いでから矢を挿せばいいじゃないですか』
『あ』
そうだ、そうだったよね。これ、陽炎使って簡単に脱げるんだった。はは。おいエスタ、その目はやめろ。
『アルスさんが自分に矢を突き刺した時は、なんの修行かと思いましたよ。修行好きだとは思ってましたけど……』
『もうその話は止めよう。さあ、明日からは狩りを頑張るかな! 最近ミリルフィアの配給に頼ってサボってたからなぁ!』
俺とエスタが家路について暫く経った、その時
『緊急通信! 緊急通信! トルムグ丘陵の前線が崩壊! トルムグ丘陵の前線が崩壊!』
南から、金切り声のような、戦乱を告げる声が飛んできた。




