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34.人間のチカラ

 熱い衝撃と次に激痛。それに身が竦みそうになるが、じっとしてたら終わる。咄嗟に左1メートルほど転移する。間を置かず、さっきまで俺が立っていた岩が刃を噛み、軋んだ音を立てた。


「ほぉ、面白い芸を持ってるようだなぁ」


 痛みに朦朧としながらも殺気の元を睨み、確認する。

 こいつがゼークストか。確かに見たことあったわ。スキンヘッドにヤキを入れた奴だな。確かデカイ剣を背負ってた。

 そのデカイ剣を今は抜き放って、俺から5メートルほど離れた所に立っていた。5メートルも離れていた。どうやって攻撃された? ちらりと見ると、さっきまで俺が立っていた場所は岩にヒビが入っている。俺の右腕は見当たらない。

 まずは俺の右腕の切断面を治す。ぶっつけだったが、血を止めることはできた。右腕がくっつくかどうかはあそこに転がってる右腕を拾ってからだ。


「ゼークストさん!?」

「例の犬だなぁ、笛を鳴らしとけ。こんな山奥で聞こえるか知らんがなぁ」

 やや広めに開けた岩の広場にゼークストを含めて5人ほどの男がいる。ココ村の人は居ない。なんとか間に合ったか。あとはこいつらを片付けるだけだな。

 ゼークストの近くの男が笛を吹き、耳障りな高音が鳴り響く。うるさくて堪らない。俺の傍に転がっていた握りこぶしほどの石を陽炎で持ち上げて投げつけると、笛を吹いていた男は頭から血を流して静かになった。

「おっかねぇなぁ、おい。こんな芸、見たことねぇぞ」

「どど、どうします?」

「結界があったらどうしようもなかったが、こいつはどうやら違うらしい。なんとかしてみるさぁ」

 結界? ショウゴも結界がどうのって言ってたが……あの風景が灰色になるやつか? どうやら決め手になるらしいな……思い通りに使えればいいんだが、あれって無我夢中の時だけなんだよな。くそっ!


 殺気。


 ゼークストが大剣を袈裟斬りに振り下ろした。5メートルも離れているがヤバい気がする! 左に転がるようにして避けると、さっきまで立っていた岩が抉れた。石片と土煙が舞う。

「飛ばしを避けやがる。この犬、ウチの傭兵団に1匹欲しいなぁ……!」

 一撃、二撃、また攻撃されるがなんとか躱す。何をされてるかわからないが、とりあえず転げまわって避ける。くそ、後ろが崖で下がれないし、危なくて踏み込めない。なら、これだな。


 バァン!!


「なんだぁ!」

 電撃を噛み潰して閃光を放つ。ゼークストは遠いが、一瞬の隙にはなるだろう。

「くっ!」

 俺を近づけるまいと、ゼークストの大剣が振り回されるが、奴の後ろに転移した俺には当たらない。終わりだ。ゼークストの足首に噛みつく。が、嫌な噛みごたえ。こいつのブーツが厚くて牙が貫通しない! くそっ!


 バヂィ!


「いっ! ってえなぁ!!」

 やはり革越しでは電撃の効果が薄い。ゼークストは怯まずに俺に向かって大剣を突き下ろしてきた。なんとか転がって避けるが、左手が一瞬刃に引っ掛けられた。灼熱感に一瞬動きが鈍る。ほんの一瞬のことだが、ゼークストは見逃してくれない。再び大剣が突き下ろされてくるが、これは陽炎で受け止める。

「なにぃ! なんだこりゃあ!?」

 空中に縫い止められた自身の大剣にゼークストが目を剥く。やべぇ、これも結構疲れるぞ……これで終わってくれよ! 大剣に左手で触り、電撃を流す。


 バヂヂッ!


「いぢっ!!」

 ゼークストが大剣の柄から手を離す。よし、剣さえ無けりゃあ……! と一瞬喜んだのが不味かった。ゼークストのブーツの爪先が鋭く地を這って俺の腹にめり込んだ。一瞬の浮遊感の後、岩にぶつかり止まる。いってぇえ……蹴られた腹がジンジンと痛む。だが、治れと念じると若干マシになった。


 こいつ、強い。タナカやキョーコぐらいなら正面から殴りあって倒せるんじゃないのか? 俺も3人組の能力が無かったらやられてるぞ、これ。


 俺が蹲っている間にゼークストは大剣を拾い上げていた。

「本当に芸達者な奴だなぁ。大金払ってでも欲しいって気持ちもわかるぜぇ」

「ゼークストさん、俺たちは……」

「邪魔だからどいてろぉ、盾にされたら遠慮なくぶった斬るからなぁ。暇なら村の奴らを探せ。ここらに隠れてるのは間違いない」

「は、はい!」

 そんな話しを聞いて、逃がす訳ねぇだろ! 俺はゼークストに向かって陽炎で砂と石片を掴み、ぶっかけた。

「ちっ! 目潰しの好きな犬っころだ!」

 ゼークストが目を庇っている内にこの場から離れようとしている3人に迫る。ち、3本足だと走りにくいなっ!

「ひっ! こっちにくっぎゃあああ!!」

 取り巻きはゼークストほど良い靴を履いてなかった。1人は足を噛んであっさりと感電した。次に取り掛かろうとした時にゼークストから殺気。俺はお前の仲間の近くにいるんだぞ!? 慌てて左に跳ぶと、俺が感電させて倒れていた取り巻きが胴体を両断されて吹っ飛んだ。本当に躊躇なく斬りやがった!


「ひぃい!」

 取り巻きの1人は余りのことに腰が抜けたのかへたり込み、もう1人は走り去っていった。くそ、逃しちまった!

「俺が、指示を出した途端にこいつらを狙ったなぁ?」

 ゼークストは隙の無い構えでこちらに正対しながら、ニヤリと笑った。

「お前、随分賢いじゃないか?」

 だからどうだってんだ。逃げた奴を追わなきゃならん。お前を早く片付けないと……と、歯軋りしていると、ゼークストが仕掛けてきた。横、袈裟斬り、逆袈裟の3連撃。本当にどうやって攻撃してきてるんだ!? 陽炎も見えないのにいきなり斬撃だけが俺の体に降ってくる。今避けられたのは奇跡のようなものだ。受けに回ってたら死ぬ。仕掛ける!

 と、俺が力を溜めた瞬間、ゼークストがチラリと俺の後ろを見て呟いた。

「なんだ、もう見つけたのか?」 

 え? 嘘だろ? そうは思っても一瞬注意が後ろに向いた。その隙にゼークストの飛刃が滑り込んできた。冷やりとした殺気に慌てて躱そうとするが、前のめりになっていたので飛び退くのが間に合いそうもない! 転移する。が、思ったよりも距離が出ない。ゼークストの後ろではなく前に俺は出現した。くそ、ガス欠が近いッ!

 

 すぐに跳びかかりそうになったが、できない。ゼークストの間合いの真ん中に捕まってしまっている。大剣が、足が、拳が、俺にのしかかってくるような錯覚を覚える。駄目だ、何をしてもカウンターを取られる気がする。動けない。


「なぁ、犬っころぉ。俺につかないか?」

 いきなりなに言ってんだ……?

「俺は本気だぜ? 俺につけばやりたいことをやれる。お前、戦いたいクチだろう?」

 そんな訳あるか!

「気分がいいぜぇ。自分がつえぇってことを相手に思い知らせて、屈服させるのはよぉ」

 まったく、理解できないね!

「わかるなら首を縦に振ってみろ?」

 思いっきり首を横に振ってやる。

「くっくっく、やっぱり言葉がわかってるじゃねぇか」

 今更隠す気はねぇよ。……しまった、一応は言うことを聞いたように見せた方が良かったか?

「惜しいが、言うこと聞かないなら仕方ねぇ。死ね」

 強烈な殺気がゼークストから放たれた。くそ、どうするッ! なんとか初撃を躱せるように力を溜める。


「動くな!」


 突然鋭い声が、俺とゼークストの間に割り込んできた。この声!?

 声をした方を見上げる。俺とゼークストが戦っていた広場を見下ろす岩の上で、フィンが弓矢でゼークストを狙っていた。あと3人、狩人の格好をしたおっさんがバラバラと岩陰から姿を現し、弓に矢を番えてこちらに向けた。ココ村の狩人が、この広場を包囲している。敵はゼークストと腰を抜かしている雑魚1人。人数だけ見れば、形勢逆転、だが……


「ほぉ、勇ましいじゃないか?」

 ゼークストは4つの弓矢で狙われているのにも関わらず、緊張した素振りもみせず、ニヤニヤしている。一見絶体絶命だが、そうじゃない。ゼークストが大剣を一振りするだけで、状況がひっくり返る。それをさせないことが、できる、か? 足元に転がっていたさっき投げた石を陽炎で持ち上げようとしてみるが、重たくて持ち上がらない。くそっ!

「お前がここまで連れてきた男共は捕まえてある。もうお前だけだ。投降すれば命は助けてやる!」

「へぇ、怖いねぇ。命だけになるまでボコられる訳だぁ?」

 刹那。ゼークストの大剣が閃いた。同時にフィンの弓から矢が放たれた。俺から注意が離れた! 足首は駄目だったが、太腿はどうだ! 俺が飛びかかろうとした瞬間。ゼークストの足が翻り、踏みつけられた。うそ、だろ? こっちを見る事もせずに俺の首を狙ってきた。

 ゼークストが大剣で矢を切り払う。フィンがいつだったか自慢していた鉄の矢尻が地面に落ちてきた。こいつ、強すぎない……?


「皆、やろう!」

 フィンが一声かけると、他の3人も矢を次々と放ち始めるが、ゼークストに切り払われる。

「こんなもんだよなぁ。つまんねぇ……ぞぉ!」

 ゼークストが大剣を大きく振りかぶった。斬撃を飛ばそうとしている! させるかぁ!


 バヂッ! 


 電撃を纏うが弱い。ゼークストを痺れさせるどころか、煩そうに俺をちらっと見ただけだ。くそぉ、燃料切れ、か。


「ほらよぉ」

 ゼークストの大剣が振るわれた。直後にフィンが立っている岩に斬撃が走る。

「うっ!?」

 フィンのうめき声と共にフィンの姿が消えた。岩の向こう側に落ちただけだと思いたいが……!

「さて、終いだぁ!」

 ゼークストが他の狩人にも斬撃を飛ばす為に大剣を振りかぶった。今度こそ。俺を踏んづけて、制圧している気になっている今こそ!


 俺は陽炎を伸ばして目の前に落ちている鉄の矢尻を掴み、ゼークストの喉に向けて放った。


「っ!?」

 なんで反応できるんだよ! ゼークストは真下からの矢を首を捻って躱そうとした。が、躱しきれずに右頬から右目までを切り裂かれ、矢尻が右眉の辺りに突き刺さった。

「ぐっ! てめぇ、この犬っころぉ!!」

 ゼークストは切り裂かれた顔を庇うことなく、すぐに俺の首を踏み砕こうと力を込めてきた。首の圧迫と激痛に意識が遠のく。ぐっ、なんとか、最後の一撃、を……


 俺は、陽炎で掴んで放った影響か、辛うじて陽炎が繋がっている矢尻に、ゼークストに刺さっている矢尻に、電撃を放った。


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