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33.喰い血肉になる

 フィーナ……!

 まずはどこを探すのがいい? 村には居ない、ということは山か? そうか、山、兵隊が来るから山に逃げるってババ様が言っていた! 最低3日準備にかかるってことだったが、動けるものから小分けに山に入ったってこともあるのかも。くそ、狩人小屋ってのがどこにあるか聞いておけば……!

 

「おい! さっきからバタバタどうした……あ?」

 村長さんの家の中にまだクズが残ってたか。そんなに時間も掛からんし、試し撃ちしてやる。さっきは無我夢中だったが。多分電撃と同じように扱えるだろう。


 あいつの後ろへ


 風景がブレた。僅かな衝撃と共に目の前に後ろを向いた男が現れた。転移成功、か。


「へ? 消えた……?」


 クズの首を……へし折ってやるぞ。


 俺の体からにじみ出た陽炎が男の首に絡みつく。力を込めるとあっさりと男の首が半回転した。


 ふむ、物が掴めるのは面白いけど、戦闘で使うにはまだるっこしいな。慣れたら違うのかね。

 家の中を見回す。村長の家といっても、普通の家より一回り広い程度だ。

 ココ村の人が縛られもせず、男女10人程居間に押し込められていた。全員怯えきっているが、想像していたよりは乱暴な扱いを受けていないように見える。閉じ込められているのは奴隷にする為か? 若い人達が多いが、やはりフィーナは居ない。

 

「アルス……?」

 捕まっていた人の中にタルサがいた。

「アルスだよ、ね?」

 なんでそんなに確認する? まあ、いいや。試し撃ちは出来たし、ここは大丈夫みたいだから、行くか。


 俺は東の山に向かって走った。

 北の山は散々走り回ってるが、小屋なんて見かけたことは無い。だから東だ。

 判断材料としては弱いが、少しでも可能性のある方に掛けるしかない。

 胸がムカムカする。焦りが喉を締めあげて息苦しい。

 少しでも速く、とワープを繰り返して、高速移動をしようとしたが、無理だった。

 これ、結構疲れる。試してみないとわからないが、すぐに力尽きてしまいそうだ。

 それに精度が怪しい時がある。ワープしたら石の中とかたまったもんじゃない。だから走ることにした。


 ひたすら走る。世界が加速する。


 薄々感じていたが、俺はどうやら日本人の中でも特別製らしいなぁ。

 名前忘れてるだけかと思ってたが、日本人の能力を奪えたし……どうやって奪ったんだか曖昧だが。

 どうせならフィーナを探すのに役に立つ能力だったら……ちっ!


 村の中を走ると燃えてしまった家が痛々しく目につく。無事な家はほぼ無い。だが、こういってはなんだが、予想外に死体が少ない。血の匂いもそこまで臭わない。捕まってもいない、死体も無いってことはやはり逃げれた人が多いんだな! そういや、フィーナの家にはサレアさん、おっさんの死体も無かった。

 不快な高音が耳を叩いた。

 まただ。村を襲ったクズ共は俺を見ると煩い笛を鳴らす。聞きつけた味方の犬が駆けつける手筈にでもなってるんだろうが、もう来るわけ無い。俺に位置を知られるだけの自殺行為だ。

「ひっ! ぎゃあ!!」

「う、うがぁあああ!」

 木の影に居た2人のクズに走り寄ると手早く感電死させる。何人いやがるんだ、ちっ。


 山の入口に到着した。気に入らない男の匂いがプンプンする。村にもいたクズ共の匂いだ。

 フィーナ達の居場所が分かって山に入ったのかはわからんが、全力で追うとしよう。

 犬なんでね。追いかけるのは得意だ。


 馬鹿みたいに追跡しやすかった。

 ウサギと比べる気にもならない。くっきりと残った足跡。鼻につく臭い。主張する気配。思ったよりも近い。いたな、3人。

「なあ、そもそも10人やそろらじゃ山狩りは無理なんじゃねぇか? 歩いたこともない山でよぉ」

 跳びかかって殺すところだったが、愚痴だけは聞いておくことにしようか。 

「そうだなぁ。まったく、なんで村の奴ら山に入ってやがったんだ? 面倒クセェ」

「アッセンからなにか知らせでもあったんじゃねぇか? ゼークストさんもそれは読めなかったみたいだな」

 ゼークスト……? どこかで聞いたな……こいつらと接点があるといやぁ……商隊、商隊の護衛か! あれは下見だった訳だ、へぇ。ご丁寧にねぇ……。

「……ゼークストさんは上の方に行ったきりか? 大丈夫なのか?」

「あぁ、なんか山は歩き慣れてるんだってよ」

「いや、そうじゃなくて、黒い犬が山に居たらよぉ……」

「……なんかゼークストさんなら、って気がしねぇか?」

「まあ、良いように負けるゼークストさんなんて想像できねぇけど」

 もういいかな。はいはい、ゼークストさんとやらには気をつけますよ。


 3人を片付けると、山登りを再開する。人間が登れないようなルートを使って距離と高度を稼ぐことを優先した。ちゃんと追跡しなくても、この痕跡の残し具合なら追える。

 山に入ってどれ位経っただろうか。日が暮れ始めた。日が暮れることは良いことか? 悪いことか? 俺には有利だが、フィーナも危険だ。

 ちらっと上方の木の向こうに何かが見えた。岩……? 岩場か。見晴らしが良さそうだ、行ってみるか。


 最初に見えた岩に跳び上がってみると、結構大規模な岩場になっていた。黒っぽい灰色の見上げるような岩がゴロゴロと転がり、山の岩肌に添って積み上がっている。

 結構な絶景だな。安全かどうかはともかく、隠れるにはうってつけの地形に見えるが……ここの辺を探ってみるか。


 暫く岩の間をすり抜けながら臭いを嗅いでまわると、わずかな人間の臭いがした。当たりか? 焦る胸に急かされて足を早めた。大きめの岩を回り込み、匂いを嗅ぎ、方向を修正して走る。ん? 今、岩の陰に人影が見えなかったか?

 

 ココ村の人か?


 フィーナ! フィーナはいるのか!?

 

 全力で走り、人影が見えた岩の陰に飛び込んだ。


 次の瞬間、俺の右腕が吹っ飛んだ。

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