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3.女神

 俺が目を覚ました時には、授乳タイムは終わり、母犬は姿を消していた。

 幸いにも、蹴られたダメージのせいで食欲は若干失せているが、

 ふつふつと怒りが湧いてくる。

 どいつだ、俺を蹴りやがったのは!?

 まわりをクンクンキャンキャン言いながらじゃれ合っている兄弟達を睨みつけてみるが、まったく区別がつかない。

 まあ、もしわかったからってどうしようもないけどね、へへへ……ふ、ふふふ……


 しかし、兄弟達は元気だね。

 さっきまでのそのそと這うようにしてたのに、転げまわって遊んでるぞ。

 母犬の乳になにかヤバい成分でも含まれていたんだろうか……ん!?

 母犬が帰ってきた!

 空腹アピールだ!

 俺にも乳を!

 ぎぶみー乳首!!


 そして目の前に迫る子犬の足の裏。


 俺以上に興奮した兄弟達にもみくちゃに踏まれて、また意識が途切れた。





 絶対絶命である。

 兄弟達は俺が気を失っている間にまた食事を済ませたのか、ますます元気になっている。

 が、俺は餓死しそうなんだか、怪我して死にそうなんだかの瀕死の状態。

 声すらまともに出せず、母犬の近くに這っていこうにも、頻繁にじゃれあう兄弟達にこずかれて、まともに前進することができない。

 おい、母犬よ……ぐったりしている息子がいるぞ。

 さっきまではペロペロ舐めたり気にしてたじゃないか……俺は救助が必要だよ?

 目で訴えかけてみるが、母犬は動きが激しくなった兄弟達を見張るのに夢中だ。

 く、くそ……腹、減った……




 目が覚めた。

 どうやらまた気を失っていたようだ……

 相変わらず兄弟達のキャンキャン鳴く声が聞こえるが、なんだか遠い。

 あれ、近くに誰も居ない……?

 と、思った瞬間、いきなり持ち上げられた。

 なんだ? どうしたんだ?

 少し体が移動する感覚の後、世界が明るくなった。

 

 どうやら今まで洞穴の中に居たようだ。

 洞穴の前は少し広くなっていて、その広場の回りのは木々に囲まれている。

 兄弟達は元気に広場で跳ね回り、ぐったりした俺は母犬に兄弟達の近くに降ろされた。

 うん、仲間外れはよくないからね。

 そういうの大事。

 もうちょっと早く、具体的には食事の時に気が付いて欲しかったけど。


 腹が減った。


 なんとかわかってもらおうと、声を出そうとするが、できない。

 

 ベロりと母犬に舐められた。

 おい、どうした?ってことだろうか、ぐったりと動かない息子を何度か舐める。

 腹が減ってるんだよ、わかってくれよ。


 結局思いは伝わらなかった。


 元気な兄弟達の中、一人ぐったりしていると、じわじわと孤独感、虚無感みたいなものに心が染まっていくのがわかった。


 ふっと母犬が離れる気配。

 うっすらを目を開けてみると、木々の間にある獣道を歩いていく母犬と兄弟達が見えた。


 置いていかれる!?


 その光景はとんでもなく恐ろしい衝撃として、朦朧とした俺の意識を揺らした。

 死を告げられたのと同じだ。


 待てよ!

 

 病気持ちで生まれて、助からないとでも思ったのか!?


 違うって! なにか食わせて貰えれば大丈夫だって!!


 置いていかないでくれ!


 独りにしないでくれ!!


 なんとか起き上がる。

 ブルブルと震える手足で、3歩ほど歩いたけど、そこで倒れこんでしまう。

 

 もう、母犬も兄弟達も見えない。


 また起き上がって歩いてみる。

 怒りのような、悲しみのような、激しい感情で頭が一杯だ。

 獣道までたどり着く。


 母犬達の注意を引こうと、声を上げようとしてみるが、やはりできない。

 酷く喉が乾いて、舌が口の中で干からびているような感覚がある。

 追いかけないと、追いかけないと。

 うまく体が動かないが、なんとか手を前に差し出すようにして前進する。

 焦燥と悲観が渦巻く意識の中で、少しづつでも進んでいる、ということだけが慰めだった。


 ふいに、手が宙を掻いた。


 僅かな浮遊感の後、肩、頭、腰への衝撃。

 世界がめちゃくちゃに回転し、自分がどうなっているのかわからなくなる。

 意識が白濁し、薄れていった。




「ねぇ、あれ、なにか倒れてる」

「んん? 野犬かなんかの死体でしょ?」

「死んでるのかな……?」

「生きてても近寄っちゃダメよ。汚い」

「でも……赤ちゃんみたい、可愛そうだよ」

「あー、もう! よしなって!」


 ふわりと、暖かい手が俺の額に触れた。

 その暖かさが嬉しくて、悲しくて、俺は泣いた。


今夜はここまでにしておきます……

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