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2.いきなり野生は目覚めない

 え、なにこれ!?


 っていうか、なにこれ!?


 これ、俺の体!?


 どうなって、おい、これ、え、え、え? 


 思わず顔に手を当てようとしたら、目の前にひょいと肉球がついた『獣の足』が持ち上がってきた。

 右手を上げてみる。

 左手を上げてみる。

 なんか、親指以外の指を指先を残してぎゅっと一纏まりにくっつけられたような、

妙な感じだけど、一応思い通りに動く……

 夢、か?

 目の前の巨大獣にまた舐められた。

 さっきからベロベロとなんなの、こいつ?

 顔の毛がベトベトになって気持ち悪いんだけど?

 なんだか目が冴えてきた。

 夢からは覚めないけど。 


「クゥン」


 ふと、妙に甘えた鳴き声が聞こえたと思ったら、巨大獣の向こうから子犬がのそのそと現れた。

 細かく震えて、目も開ききってないような生まれたての子犬だ。

 巨大獣はその声に答えるように、その子犬をベロベロ舐めた。

 俺にさっきまでやっていたように、顔を舐めまくっている。

 子犬もそれに答えるように鳴き、巨大獣に頭をこすりつける。

 心温まる母犬と子犬の触れ合いってやつだな……

 子犬といっても俺と同じぐらいのサイズだけど、巨大獣に比べれば子犬に見える。


 ……


 これ、もしかして傍から見たら、俺も同じような子犬か……?



 子犬は俺の他に5匹もいた。 

 そいつらは揃って、母犬に向かってクンクン言ってる。

 みんな真っ黒だから、俺も真っ黒なんだろう。


 わかったが、わからない。


 なんでこんなことになってるんだ?

 生まれ変わった?

 俺、死んだの?

 そんな覚え、無いんだけどなぁ。

 いつもの通りに、起きて朝飯食って……どうしたっけ?

 んん?なんか記憶が曖昧だな……

 わうわう唸りながらそんなことを考えてると腹が減ってきた。

 空腹を意識した途端、腹をぐっと押されたかのように内臓が収縮した。

 やべ、なんか食わないと死ぬ。

 冗談ではなく、本気でそう思ってしまう程の飢餓感。

 クゥゥ…みたいな情けない声が出た。

 子犬の(おそらくは)兄弟達も似たような状態になったらしく、俺と似たような声で鳴き出した。

 巨大獣こと母犬は俺らの様子をじっと見た後、こちらに腹を見せてゴロンと横になった。

 途端にワッと腹に群がる兄弟達。

 なにやら母犬の腹に向かってごそごそやり始め、鳴くのを止めて静かになった。

 こ、これは、じゅ、授乳?

 そうだよね。

 そうだよ、生まれたばっかりだろうしね。

 ましてや獣なわけだから、かつ丼とか出てくるはずもないよね。

 

 えー……


 犬の乳、吸うのぉ……?


 これが美人相手なら喜んで……って、あ、本当にやばい、あまりの空腹に手足が震えてきた。

 やむをえん、と母犬の腹までよたよたと這い寄る。

 おそらく50センチぐらいの距離だろうが、とんでもなく遠く感じる。

 這ってる間に、さらに飢餓感が増してきた。

 内臓が雑巾のように絞り上げられているようだ。

 目も霞む。

 もう辛抱たまらん。

 犬でも猫でもなんの乳でもいい。

 なにか腹に入るものを……!


 登山してるかのような思いで、やっとこさ腹まで辿りついてみたのに、

乳首が余ってなかった時の絶望感たるやね。


 おいふざけんなよ!

 乳首は2列あるんだから絶対余るだろうがよ!

 お前ら、なんで下側にある右の乳首無視して、左の乳首だけ吸ってんだ!!

 お前らの下に隠れて余ってる乳首にアクセス不可能だぞおい!!!

 おお……怒ったらさらに腹減った……最早ためらいはない。

 なんとか兄弟達の下に潜り込み乳首を確保しなければ……!

 いざ! 突撃!!


 猛烈な勢いで端の兄弟に蹴りを入れられた。


 ガフッ!


 お、おま、え、なんで……そ……


 空腹絶頂な上に、蹴りまで入れられ、俺の意識は、途切れた。 


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