12.オギャー
暖かく、大きな存在に寄り添ってゆらゆらと揺られる。柔らかく包まれ、守られているのを感じる。
なんだかとても懐かしい。くすぐったくなるような、感情。
ああ、いいなぁ。ずっとこうしていたいなぁ。
ふにゃふにゃとした暖かさに溶け込んでいってしまいそうな中、ふとそんな風に思った。
ふわりと、大きな手で頭を撫でられた。
その手は優しく優しく、俺を愛おしむように、俺の頭を撫でた後、耳をなぞった。
俺の耳……頭の上について、いる……あれ、こんな位置に耳?
そうだ、俺、犬になって、それで……蛇……
フィーナは助かったのか!?
ふわっとした意識が突然覚醒した。
寝てる場合じゃねぇ!
フィーナは? フィーナは噛まれてないだろうな!?
バチッと目を開けると、そのフィーナと目が合った。
その緑色の瞳は驚きに揺れた後、ゆっくりと微笑みの形に細められた。
「おはよう、お寝坊さん」
(非常に出ていきたくなかったが)赤ん坊を抱く為の布?から取り出された後、フィーナが説明してくれたところによると、どうやら俺は2日ほど寝ていたらしい。
蛇はピカッと光ったら死んじゃったらしい。なんじゃそりゃ?
そしてその後すぐにリィザのババ様?に毒除けをしてもらったから助かったのだとかなんとか。
そんな魔法みたいなのがあるの!? 眉唾な話だが、実際に毒を食らって死を覚悟していた身としては信じざるをえない。世界は不思議に満ちているな……
「それで、毒除けの後、アルスの毛がそんなになっちゃったんだよ」
俺の毛? 思わず我が体を見下ろすと……なんじゃこりゃ!?
右手と腹が白くなってるぅ!?
驚き身をすくませた俺のリアクションが面白かったのか、クスクスとフィーナが笑う。
あぁこれ、蛇に噛まれたところが白くなってるのか? でも、どんな理屈で……?
わからん、わからんが、なってしまったものは仕方ないか。
犬になってしまった事よりは全然小さな問題だしな。
「助けてもらったんだから、リィザにお礼を言いに行かないとね」
えぇ~~? 別に非難するつもりは無いけど、元はといえばあいつが余計なグアッ!!
無言でフィーナに脳天をチョップされた。
ひ、酷い! なんにも言ってないのに! こんな小さな子犬になんてことを!
「そんなの嫌だ、って思ってたでしょ?」
あれ、わかっちゃいました?
「リィザって、アルスが怪我しちゃったのを凄く気にしてるみたいなの。酷く落ち込んじゃって可哀想なんだよ?」
あー、あいつ余計なことした自覚はあるのね。
フィーナの話では俺とリィザが協力して蛇を倒したって話になってたから、リィザが落ち込んでるのを純粋に俺を心配しているんだと思ってるんだな。
フィーナ、良い子だなぁ。ずっとそのまま、ちょっと抜けた感じで育っていって欲しい。
「なによ、その顔~」
つんと鼻面をつつかれた。
しかし、妙にフィーナに話しかけられるようになったな。
蛇の時に俺、なにかしたっけ?
「フィーナ、アルス、ご飯よ~」
「は~い」
俺とフィーナはベッドから居間へ向かった。
久しぶりの飯は美味かった。
ちょっと足りなかったけど。
それからフィーナと水汲みに出かけた。
フィーナは無理しない方が……と心配そうだったが、大丈夫だ問題ない。
実際体は軽く、実に調子が良かった。
スキップしたいぐらいだね。
フィーナエネルギーを十分に吸収できたせいかもしれん。
本人が言うには、俺が寝てる間ずーっと抱っこしてたらしいからな。
それはもう調子もよくなろうというもの。
「あっ! アルス元気になったんだ!」
川辺に着くと水汲み女子から歓声が上がった。
いやあ、みなさんどうも、アルスです。
おや、いつも真っ先に声をかけてくるリィザの声がしないな。目で探してみると、ちょっと離れたところでこちらの様子を窺っていた。
これは確かに気にしてそうだな。
じっと見てるとリィザと目が合った。
ニヤリとニヒルに笑い、ちょっと頷いて気にしてないことをアピールする。
伝わったかどうかはわからんが、リィザが笑い出したので、まあ、この件は大丈夫だろ。




