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110.丘陵にて

『そういや、なんでお前1人なんだ? 護衛とかいないの?』

『迷ったんですが、止めました。日本人が相手なら護衛が何人いても同じでしょうし、アルス君が守ってくれれば滅多な事は起きないかと思いまして』

 なんかケッセルフの人たちは日本人の戦闘能力を高く見積もり過ぎな気がせんでもない。

 別に何人いても同じって事は無いんじゃないかなぁ。

『ま~、確かに守るつもりだが、注意して動いてくれよ。いきなり首をふっ飛ばされたりしたら助けられないぞ』

『わ、わかってますよ。脅かさないでください』


 俺とミリルフィアはケッセルフを出発し、まずは消し飛んだと報告されたトルムグ中央砦を目指した。

 1番大掛かりな攻撃跡なので、なにかしらの痕跡が残っているのではないか、とミリルフィアが提案してきたのだ。

 もっともだ、と俺も同意した。


 砦跡までは街道を馬で4日ほど掛かるらしい。

 転移でちゃっちゃと往復してしまいたいのだが、ミリルフィアの存在がネックだ。

 適当な所でじっとしてて貰って、通信だけしてもらおうとも思ったんだが、俺が転移して飛び回ってる時が無防備過ぎる、とミリルフィアに泣きつかれた。

 かといって、ミリルフィアをケッセルフに置いておいて、なにか連絡は来てないか、と転移であちこち1日中往復しまくるのは、燃費が良くなったとはいえ、流石に疲れそうでやりたくない。

 結局、ミリルフィアに合わせて普通に移動する事になったという訳だ。

 暗躍している敵部隊は倒さなければならんが、早さよりも確実さを重視する、って感じか。


 今は初日の野宿中。


『結構あちこちから声が飛んできてるけど、緊急な連絡は無いのか?』

 オーグラドのゲリラ作戦に対応するべく、各拠点間のやり取りを密にしたとかで、やたらと暗号的な声が飛び交っている。

『普通の提示連絡と増援要請ですね。特に変わった事は無いです……アルス君、ご飯どうします?』

『ベーコン持ってきて無いんでしょ? それなら自分で獲るよ……お、丁度いい』

 ひょいと街道沿いの草むらから小さめの鹿が顔を出したので、小石で撃ちぬいた。




 俺が鹿を食べ終わって戻ると、ミリルフィアがドン引きしていた。


『アルス君、心は人間なんじゃなかったんですか……』

『人間だよ?』

『ど、動物をあんな風に食べたりして、その、大丈夫なんですか?』

 あれ、ミリルフィアの前で動物食べた事無かったっけ? ココ村から移動する時は森の中で食べたんだっけ。

『前はちょっと抵抗があったけど、今はなんとも思わんな』

『でも人間の食事と違うでしょう? 味とか』

『動物直食いは、生命力を補充している! って感じで、味を楽しむのとはまた違った感じで充実感があるんだぜ。やってみる?』

 ペロリと口の周りについた血を舐めとる。

『いえ、遠慮しておきます……』



 そんな感じの会話をしたりしながら、4日目の昼俺たちはトルムグ中央砦に到着した。


『おー、確かに綺麗に吹っ飛んでるな』

『なんてこと……1000人の兵士が常駐できる規模の砦だったんです。それが跡形もなく……』

 かなり大きな砦だったのだろうと感じさせる敷地だけが残っていた。

 不自然に瓦礫が少ない。人間の背丈程度の高さであちこちに折り重なってはいるが、砦が崩れたらこんなもんじゃないだろう。


 とりあえず、ミリルフィアを巻き込まないようにして、辺り一帯に軽く電撃を流してみる。

 手応えなし。透明化してる奴は居ない……と、思う。


 上空に転移して見下ろしてみる。

 周囲の平原や畑に砦を中心とした放射状の溝が大量にあった。それに、大きな塊の瓦礫もポツポツと周囲に落ちている。

 なんだかミリルフィアが慌てているように見えたので、また転移して戻る。

『まさに吹っ飛んだって感じだったぞ。瓦礫は周りに飛び散ってる……火薬の匂いはしないが、時間が経ちすぎたか?』

『ちょっと、アルス君! 急にいなくならないで下さいよ! なにかあったかと思うじゃないですか!』

『そんなビビらなくても……怖いなら瓦礫の影にでも隠れてろよ。周りから視線が通らなければ多少は安全だぞ』

『そ、そうですよね。日本人の能力って基本的に見えるところにしか効果がありませんし……』

『まあ、この砦をふっ飛ばした時と同じ攻撃をされたら、多少隠れたところで同じだろうけどな』

『う、うぅ……敵の気配は無いんですか?』

『上から見た限りでは近くには無いと思う。瓦礫の影にいたりしたらわからんから見てくるわ』

 俺の範囲電撃はある程度見えない場所にも撃てるけど、多少精度が怪しい気がするんだよね。


 ミリルフィアが実に不安そうにしてたので、適当に瓦礫を並べてロの字型の瓦礫の山を作った。

 あ、瓦礫をガチャガチャ動かすのって楽しい。


『この中入ってて。いきなり爆破されてもこれなら助かるかもしれない。ちょっと行ってくる』

『わ、わかりました。気をつけて』


 転移して脱げたハーネスを魔力で持ち上げて着こみながら砦跡を探索する。


 ブービートラップ的なものを警戒して匂いを嗅ぎながら移動するが、やはり火薬の匂いはしない。

 無さ過ぎる気がするなぁ……


 キルグフィッツの兵士だったものは、あちこちに大量に散らばっている。

 死後、かなり時間が経っているので腐ったり、動物に啄まれたりで直後の状況とは変わっているだろうが、検分してみた。


 死に方は様々。バラバラになっていたり、いなかったり、焦げていたり、いなかったり……

 爆弾でふっ飛ばしたということにしては、おかしい気がする。

 こんな超威力の爆弾使ったならどこもかしこも真っ黒になりそうなもんだ。

 これは爆弾と日本人の組み合わせ、じゃなくて日本人だけの能力か?


 砦吹っ飛ばせる程の能力は大したもんだが、なんでケッセルフを攻める時に姿を見せなかったんだろう?

 他所に行ってて間に合わなかったとか?

 向こうのタイミングで始めた戦争でそれはない気がするが……ケッセルフの時にこんな能力使う日本人がいたら、俺が駆けつけても間に合わなかったかもしれん。


 俺が考えこみながら中庭があったであろう辺りを歩いていると、不意に、カラーン、カラーン、と遠くからベルの音が聞こえた。


 明らかに人が鳴らしている調子だ。

 ぐっと防御結界の密度を上げて辺りを見渡す。

 音は瓦礫に反響してどこから聞こえてくるか、わからない。人影も犬の姿も見えない。


 ちっ!


『ミリルフィア、敵がいたぞ! 伏せてろ、絶対に動くな! 返事もするな!』


 俺はミリルフィアに警告の声を飛ばすと、草むらの中に飛び込んだ。向こうからは俺が見えているらしいから、まずは視線を切らないと即死もあり得る。

 このまま暫く待って、姿を見せないようなら、もう一度上空から索敵をしよう。少なくともベルの音が聞こえる範囲にはいるはずだ……


 そんな風に作戦を考えていると、視界が真っ白に染まった。

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