1.犬になりまして
もの凄く寒い!
ふわふわと半分寝ていたが、強烈な寒さを感じ飛び起きた。
いや、起きようとした。
なんだか体がうまく動かない。
長時間同じポーズでいたかのように、関節が固まって動かない。
目もしっかり接着でもされたかのように開かない。
しかもゴウゴウと変な音が耳の中で反響してるし、妙に生臭い匂いが鼻につく。
おまけに全身しっとりと濡れているような……
あまりの訳のなからなさに、
「な、なんだこりゃ……?」と呟いたんだが、
震えた喉からは「くぅぅ……」とか、なんとも情けない細い声しか出ない。
え、これ、なんかやばい病気とかじゃ……!?
どうすんの? 俺、一人暮らしだぞ!? なんとか枕元に置いてある携帯で
救急車……なんて、もぞもぞと体を揺すりながら慌てに慌てていたところに、
顔をデカくて暖かいなにかで撫でられた。
うわ! 気持悪っ!
何? なんかいるの?
俺の部屋に俺以外のなにかが!?
怖っ! 怖っ!! 怖すぎ……!!
幸いにも撫でられた時に目が擦られて、目蓋が軽くなった。
恐々と目を開けてみると、そこにはとんでもなくデカい、黒い獣がいた。
寒いとか、体の調子が悪いとか吹っ飛んだね。
まさに怪物。頭だけで俺の身長と同じぐらいはありそうなサイズ。
真っ黒な毛並みの中で2つの瞳だけが黄色く光り輝いていた。
………
俺がフリーズしていると、その獣の鼻面が近づいてきて、
すんすん、と俺の匂いを嗅いだ。
そしてベロンと舐められる。
顔もデカけりゃ、舌も超デカい。
さらに舐められる。
暫く舐められるがままに時が過ぎる……
この獣は俺に敵意が無いんじゃないか?
今すぐ俺を食い殺そうという訳じゃ……なさそうだ。
また舐められた。
よし、それならなんとか、目を逸らさないように後ずさって、
隙をみて俺の部屋から脱出しよう。
そして、交番にでも行って助けを求めよう。
そうと決まれば、そーっと、そーーーっと……
安全への第一歩を踏み出そうと、固まった関節を庇う為、
ゆっくりと寝そべった状態で肘をつき、上半身を起こそうとしたら、
巨大獣のせいで吹っ飛んでいた体の違和感が戻ってきた。
あれ? 肩がやたらと下の方にあるような……?
遅ればせながら恐々と自分の体を見てみると……
そこには仰向けに寝転んだ、黒い毛並みの、犬っぽい体があった。
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