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目覚め

作者: jin

身体が動かなくなってからどれほど経ったか。医師から何度となく聞かされた病が身体を喰い散らかしている様がよく分かる。痛みはもはや感じることもなく、今や指一本動かすのがやっとだ。

近頃儂はしばしば夢を見る。何もできない状態では眠ることが唯一の救いとなってきたため、夢を見ることだけが楽しみのようになってきたのだ。しかし、その夢がまた奇妙なものだった。まるで夢の中でもう一つの人生を歩むように、夢を見る度にそれが連続したものとなっているのだ。

夢の中での儂は大学生をやっていた。日々勉学と友人関係に力を注ぐ若き学生だ。その努力や苦悩はまるでそちらが本当の儂のように思えてならないほどに。だがそれは願望であるにすぎない。高等科を卒業してすぐ働きに出た儂は、心のどこかで勉強を続けたいという思いがあったのかもしれない。だからこそ、儂は今になって夢に見るのだ。きっと、そうに違いない。


大学生の俺は中国文学を学んでいた。専攻は教育学なのだが、中国文学の講義を受けてみると性に合っていたのかどっぷりハマってしまい、独学という形で関わっている。しかし、あくまで講義が面白かったのであって、独学で関わるには少々苦しいものがあった。同じ漢字でも日本と中国では意味の違いがあるため、なまじ普段使う言葉によっては戸惑うこともあるのだ。ここのところ毎日辞典ばかり見ている気がする。すっぱり諦めて本来の学業に戻ってもいいのだが、転向も視野に入れつつ学んでいる部分もあり、教育学については手を抜き始めてしまっているのでそれもできない。

そういった苦労のせいか、最近はよく夢を見る。現実逃避をしたいためか、夢の中の俺は何故かサラリーマンになっているのだ。就職活動も未だしていないのに、俺は三流の文房具メーカーで飛び込み営業を行っている。

現実では辞典を見すぎて目が疲れ、夢では営業で歩き回り足が疲れている。目が覚めても奇妙な疲労感の残ることも多かった。これではまるで胡蝶の夢ではないか。

俺はそう思いながらも、サラリーマンになる夢を期待することがあった。古典を訳し、ただひたすら考える生活よりも、動き回り成果がはっきりと分かる営業というものが嫌いではなかったのだ。こういった生活も悪くはない。


サラリーマンになって良かったことなど片手で数える程度だ。仕事のほとんどが頭を下げることで、場合によれば営業先から帰ってからも頭を下げる。そこには当然、向いていないのではないかという思いがあった。元来よく喋るほうだったので営業に向いていると考えていたのだが、ただ喋ることと口が上手いことは全く別なのだと気付くにはさして時間はかからなかった。私としては転職も視野に入れたいが、四十を過ぎては今さらという思いが強くある。私は一生このままだと思うと、ふいに涙がこぼれることもあった。

そういった生活が続くためか、夢をよく見るようになった。小学生の夏休みの夢だ。あまりに単純な夢で、自分でも笑える話だが、しかしそれがやけにリアルなのだ。


ラジオ体操から帰るとご飯を食べてすぐにプールへ行った。友だちはみんな僕より早く来ていて、だいたい僕が最後の一人だ。宿題が終わったかなんて言い合って、ビート版を投げ合い、女子から文句を言われて、プールが終わると石を蹴りながら家に帰った。

時計を見ると十二時を過ぎていて、お母さんはとっくにお昼ご飯の支度を済ませていた。この日もまたソーメンだ。もう三日くらいずっとソーメンで、身体の半分はソーメンになったんじゃないかと思う。でもおいしいから文句は言わない。

それから僕は昼寝する。宿題は後ですると言いながら、風が一番吹く廊下に寝転ぶのだ。

そこで僕は夢を見る。おじいちゃんになる夢だ。でも僕はこの夢が好きじゃない。よぼよぼしてて、全然身体が動かないからだ。だから僕はその夢を見ると、すぐに目を覚まそうとする。何度もそうして目を覚ますから、だんだんコツがつかめてきた。


そして僕は目を覚まし、私は起き、俺は目を開け、儂は眠りから覚め、わたしは覚醒した。

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