あの日アクマがやってきた。
あの日、私の家に…アクマがやってきた。
お父さんは騙されているんだ。
ニタニタ気味悪く笑うアクマ。
姿は絵本に出てくるのとは大分違うけれど、
それでも私の目にはそう映ったのだ。
「楓ちゃん、ケーキを買ってきたんだけど、どれが好きかな??」
アクマが馴れ馴れしく話しかけてきた。
「…知らない人からの食べ物は、受け取りません…」
「こらっ!楓!」
お父さんにコツンとおでこを叩かれる。
ヒリヒリするおでこを押さえながらアクマをジロリと見た。
「良いんですよ、雄哉さん!…偉いねえ、楓ちゃん。ちゃんと約束守ってるんだね」
さっきお父さんに叩かれたおでこを撫でてくる。
この人がお母さんになってしまうのかな…?
…嫌だ、そんなの。
私のお母さんは一人だけだ。
こんなアクマじゃない。
3年前、私が5歳の時にお父さんから聞いたこと。「お母さんは天国へ行ったんだよ」
私はその意味がよくわからなかった。
「いつ帰ってくるの?」
お父さんはとても悲しそうな顔をして静かに「もう帰ってこれないんだよ」と言った。
なんで?なんで?と泣きながら何度も問いかけた。お父さんも泣いていた。
そして8歳の私の前にはお母さんを名乗ろとするアクマがいた。
アクマのことはなんとなく知っていた。
お父さんと同じ場所て働いている人。
一度、お父さんの仕事場に行ったときになぜか一緒についてきていた。
でも家に来たのは今日が初めてだ。
来た瞬間、何が起こるかは分かっていた。