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最初の夢 明け方

 私は、10歳くらいの少女の頃に戻っていた。踵まで届く長さの白い木綿の夜着を着て髪を下ろしているが、どうやら夜ではない。午後を少し過ぎた時間のようだった。だが私が裸足で立っている深い森の中には木漏れ日しか入って来ず、辺りには明け方のように、仄かな程度の光しかなかった。仄白い永遠の昼下がり。深い木々の葉の黒々とした緑色と仄かな光の白以外、何も色彩のない世界であった。

 ふと気がつくと、私の隣に少年が立っていた。彼は私が子供の頃、私を好きでいてくれた少年だった。だが勿論子供であった当時、現実においてそのようなことを彼自身の口から告げられたことは一度もない。ただ夢の中で、私は現実において長らく忘れていた彼の姿を目にし、当時の彼の謎めいた態度のことを思っていた。

 私が実際に10歳だった頃、彼は私のクラスメートだった。彼はひどく小柄で、体格の小さい私よりも更に頭一つ分ほど背が低く、ほっそりと痩せていた。だが彼はそんなことを気にするそぶりはなく、陽気でよく話す性質だった。私はよく彼と話をした。彼は二人でいるときはとても優しかったが、私が他の少年と話したり笑ったりしていると、不機嫌な当てこすりをすることがあった。例えば彼が給食を配膳している間、隣の席の男の子とあれこれ楽しげに話をしていると、「配膳中に話すな。うるさいんだよ」などと、棘を含んだ声で言ったりするなど。

 そういうときの彼は無表情で、眉間に皺を寄せることすらしなかった。ただ声が冷たく棘を含んでいるだけなのだが、当時の私には、それが少し怖かった。二人でいるときは優しいのに、どうして彼が急に、私からすれば何の脈絡もなくそのような態度を取るのか、私には不思議だったし、彼のことをおかしいとも思った。だが森の中で彼と隣り合わせに立っていると、突然どういうわけか、彼が私に対して一種独特の接し方をしたのは、彼が子供ながらに私を愛していたからなのだと理解できた。

 彼はゆっくりと私に向き直った。私は自分が美しくないのが悲しかった。彼に対して申し訳ない気持ちになったし、彼に私の姿を見ないでいてほしかった。そう、今現在、現実における私が美しくないのと同様、少女の頃の私もまた、美しさとは程遠いところにいたのだった。

 彼は両掌一杯に宝石を持っていた。透き通った色のものもあったし、明るい色のものもあった。だが殆どは、森の木の葉同様、緑色をした宝石だった。だがそのなかに、艶やかに円く磨かれた真っ赤な珊瑚と、これもまた同じように磨かれた空色のターコイズがあった。それぞれ一粒ずつしかなかったが、見慣れぬ色彩の鮮やかさが私の目を射た。私は長い髪で顔を覆ったが、彼は宝石の色が私の目を瞬かせたことにも、美しくない自分を恥じる私の心の内にも構わず、穏やかな声で言った。

 「こんなに沢山あるけど、全部君にあげる。でも本当に大切なのは、この二つだけなんだ」

 彼は視線で、赤と青の宝玉を指し示しながら言った。私はその意味を問うたが、彼はただ私の目を見つめ返すだけだった。

 突如私は、赤い宝石と青い宝石は、彼の動脈と静脈であることを了解した。彼はその身を、私に差し出したのだった。私の髪が逆立ち、肌が粟立った。そこで目が覚めた。

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