04 アルヴィンの実力
ここまで閲覧していただいて本当にありがとうございます。
4話目です、おもしろいとおもっていただければとても嬉しいです。
ーーメディナスの森林。
大陸西部にあるエルダスの街から東北東に進んだ場所に位置する緑の生い茂る自然豊かな森である。
そこに生息する生物はイノシシやシカ、野うさぎなど主に草食動物の住処となっている。
そんな草食動物の肉を求めてエルダスの街からこれらの生物を狩りにくる者たちも少なくない。
だが近年、メディナスの森林の中央部にある洞窟ーーメディナスの洞窟にグリルゴブリンの群生がすみつき、森林まで食料を調達に現れるようになってしまったため、メディナスの森林には狩人たちは近づかなくなってしまったのだった。
エルダスの街から巡騎船にのり、メディナスの洞窟へと向かっていたアルヴィンは、手すりに肘をついてずっと何かを考えるように景色を眺めていた。
「……ねぇ、エレアって確かメイジだったよね?」
ながらく口を開いていなかったアルヴィンが何かを思い出したようにエレアへと問いかける。
「は、はい、そうですけど……」
ポーチにいれていた水筒をゴクゴク飲んでいたエレアは、アルヴィンの声に反応してボトルのキャップを閉めてポーチにしまいながらそう答えた。
「どんな魔法を使える?」
「ええっと……初級クラスの火炎弾と、治癒の光……ぐらいです」
エレアは苦笑いしながらそう答えた。
この世界の魔法には属性系統というものがあり、炎、氷、雷、風、闇、光といった具合に分かれている。
エレアの火炎弾は名前の通り、炎系統の初級魔法で自らの魔力をそのまま球体にしてぶつけるだけのまさに初級魔法である。
治癒の光は魔力を光のエネルギーに変換し、損傷した部位にエネルギーを送り、治癒する光属性の初級応用魔法だ。
「そっか……ありがと」
そういってアルヴィンは、手すりに肘をついてまたなにか考え事をするように景色を眺め始めた。
(とても接近戦は無理そうだな……となると僕が無理にでも前に出て戦う必要があるけど……まぁグリルゴブリンぐらいなら全然問題ないか)
アルヴィンは小さくため息をつく。
そんなアルヴィンの様子にエレアはすこし複雑な顔をしていた。
「す、すいません……私弱いですよね」
エレアはうつむき気味にそう言って手の親指をもじもじいじっている。
そんなエレアの様子に、肘をつきながらアルヴィンはスッと振り向く。
「まぁ、確かにエレアはちょっと弱いかな?」
そういってアルヴィンは少し、意地悪な笑顔を浮かべる。
そんなアルヴィンの言葉にエレアは今にも泣き出しそうな表情を浮かべた。
「やっぱりそうですよね……私……」
エレアはこぼれ出そうな涙を抑えるように顔を覆い隠そうとする。
「……でも」
ーーエレアが言い切る前にアルヴィンがポンッとエレアの頭に手を置いた。
ビクッと体を跳ね上がらせるエレアを安心させるようにアルヴィンが優しく微笑みかける。
「エレアが強かったら、僕がこうして教える意味なんてないじゃないか」
そういってアルヴィンはエレアの頭をゆっくりと撫でる。
まるで……泣きだしそうな妹を兄がなだめるかのように。
「焦らなくたっていい、ゆっくり強くなればいいんだよ」
「ア、アルヴィンさん……」
エレアも、泣きそうな瞳を無理やり抑えるように目をゴシゴシしてほっぺをパンパンと叩く。
「そ、そうですよね! いきなりアルヴィンさんみたいに強くなれれば誰も苦労しませんよね!」
「うん、その意気だ」
そんなエレアの様子にアルヴィンも安心したように笑顔を浮かべ、手すりに肘をつく。
(まぁ、僕も言うほど強いってわけじゃないんだけどね……)
エレアに見えないところでアルヴィンは苦笑いしながら景色を眺め、聞こえないくらいの小さなため息をつく。
そんな和やかな会話を終えて一息つき、景色を眺めていたアルヴィンは、高原の先をみつめて、何かに気づいたようにキッと目を鋭くさせる。
(あれは……)
ーーアルヴィンの視線の先には盗賊の一団と思わしき連中がなにやら武器を準備している。
どうやらこの船の進行方向の道で待ち伏せをして、襲いかかるつもりらしい。
(……ここから、距離にして約8キロ先ってとこかな……)
アルヴィンはおもむろに席を立ち、船の甲板へと歩き出す。
そんなアルヴィンの様子にエレアは不安気な表情を浮かべ始める。
「ど、どこにいくんですか?」
「……ちょっと、外の空気に当たってくるよ」
ーーそういってアルヴィンはゆっくりと扉を開けて、甲板へと出ていった。
高原の道のりを進み続ける巡騎船の風に、アルヴィンの長髪がヒラリとなびく。
アルヴィンは、背中に装備していた大弓を手に持ち、盗賊の一団がいるであろう方向を睨む。
「お、おい兄ちゃん、一体どうしたんだ? いきなり弓なんか構えて」
舵を取っている髭を生やした、すこし肥満気味の大男がアルヴィンに声をかける。
「……ここから約8キロ先の場所で盗賊の一団がこの船を狙って待ち構えています」
アルヴィンは男の方を振り向くことなく、静かにそう答えた。
「は、8キロ先って……一体そんな情報どこで手に入れたんだよ!?」
男が声を荒げ、アルヴィンに問いかける。
自分の船が盗賊に狙われている可能性があるのだから、感情的になるのは当然といえば当然だろう。
「まぁ、すこし目がいいので見えたということにしておいてください」
そういってアルヴィンは手に魔力を集中させ、周囲の風を手に集めて大きな弓矢を作り出した。
「お、おい兄ちゃん!」
男が舵をほってアルヴィンの元へと向かおうとする。
(軸的に……このあたりか)
ーー大弓を天に構え、アルヴィンは精製した風の魔力で出来た弓矢を引いた。
「ーー捕縛せよ、風縛弾」
ーー船が大きくぐらつくほどの強風と同時に放たれた大きな矢は、雲を貫き、大きな風音を立てて遠くの方で爆発するような音が伝わってきた。
グラグラグラッ!
「うおおおッッ!?」
突然の強風に男は顔を腕で覆い隠す。
強風により左右に大きく揺れる船に足場を崩してドスンと尻餅をつき、風に吹き飛ばされぬよう必死に壁にしがみついていた。
(……エレアを守るにはこれくらいしても問題ないよね、一応犯罪者達なんだし)
吹き止まない風にアルヴィンの長髪がヒラヒラと揺らぎ続ける。
風がやむと構えていた弓を背中にしまい、尻餅を着いたまま某然としている男の元へと向かう。
「大丈夫ですか?」
男に手を差し伸べる。
男は一体何が起こったんだといわんばかりの表情でアルヴィンを見つめ続ける。
「あ、あんた一体……」
「……ただの冒険者ですよ」
そういって、アルヴィンは男の手を掴みグイッと引っ張って男を立ち上がらせる。
「あぁ、すまねぇ……こんな経験は初めてなもんで……」
男は動揺を隠せないようだ。
額からは冷や汗がしたたり、足はガクガクブルついている。
アルヴィンはそんな男を安心させるようにバンッと男の背中を叩いた。
「……ほらっ! 船が止まってますよ! 早く動かさないと!」
「あ……あぁ、そうだな!」
男はアルヴィンの声に正気をとりもどし、改めて舵を取り、船を動かし始めた。
男の様子に安心したアルヴィンは扉を開け、客室へと戻ろうとする。
が、アルヴィンが開けるより前にバンッと扉が開き、アルヴィンは扉で顔をぶつけてしまった。
「がっ……!」
「アルヴィンさん! 何かあったんですか!?」
扉から飛び出てきたのはエレアだった。
鼻を抑えるアルヴィンに気づいてエレアが声をかける。
「あれ? 鼻なんか抑えてどうかしたんですか? 」
「いっ、いや、なんでもないよ……」
アルヴィンは鼻を赤くして頭をかく。
そしてしばらくしてエレアはハッとしたようにアルヴィンに問いかけた。
「そうだ! さっき船が急に揺れたと思ったら大きな音がして、アルヴィンさんなにかあったんですか!?」
アルヴィンのコートの裾を掴んで心配するように必死に問いかける。
「あぁ、大丈夫、心配しなくてもいいよ」
そういってアルヴィンは、コートの裾を掴む手をゆっくりとほどいて、客室へと戻っていった。
「アルヴィンさん……」
心配そうにアルヴィンの背中をみつめていたエレアに、舵をとっていた男が声をかける。
「嬢ちゃん、あいつが何者かは知らんが、多分あんたの事を守ってくれたんだよ」
「え……? どういうことですか?」
エレアが男の方に振り向き、心配そうな表情のまま男へと問いかける。
男は小さくため息をつき、エレアの元へと歩いていく。
「ほら、お客さんはとっとと客室に戻んな」
「あ……! ちょ、ちょっと……!」
男に背中を押され、エレアは客室へと押しこまれた。
「おい、さっきのなんだったんだ?」
「俺がしるかよ……」
客室は先ほどの揺れと轟音の原因がわからずざわついていた。
アルヴィンはそんな客の様子など気にもとめず、自分の席へとスタスタ歩き、席にドスンと座り込んだ。
「ふぁぁ〜……」
席に座ったアルヴィンが、情けない声を漏らしながらあくびをする。
しばらくして、心配そうな顔をしたエレアが、アルヴィンの元へと戻ってきた。
「ア、アルヴィンさん、あの……」
席に座るアルヴィンにエレアは何かを聞こうとする。
が…
「………」
(ね……寝てる……)
エレアは拍子抜けしたように、ヘナヘナとアルヴィンの横に腰掛けた。
「はぁ……私も寝よ」
そういってエレアはアルヴィンの横で目を閉じ、少しの間、眠りにつくことにしたーー
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