03 目覚めの頭突き
更新が遅れてしまいました。
まだ、舞台設定などがしっかりとまとまってないので安定した投稿ができるようになるまでもう少しお時間をいただきます。
「う……ううん……」
アルヴィンはゆっくりと閉じていた瞳を開ける。
そして真っ先に目に飛び込んできたのは、まだ未発達の、ゆるやかな曲線を描いた少女の胸だった。
「うおおっ⁉︎」
「ひゃっ⁉︎」
ーー突然起き上がったアルヴィンと、その彼を起こそうとしていたエレアの頭がガンっ!とぶつかり合う。
「がっ……! ご、ごめん……ッ!」
「い、いきなり起き上がらないでください!」
エレアは頭を押さえて、尻餅をつきながらアルヴィンを指指して怒り出す。
アルヴィンも頭を軽く押さえながら、エレアに謝罪をした。
「いたた……ごめんごめん」
「ま、まったく……」
アルヴィンはぶつけた頭を押さえながら上体を起こして壁にもたれかかる。
「あー……頭痛いなぁ……」
「ア、アルヴィンさんがぶつかってくるからじゃないですか!」
エレアの怒りは収まることなく、顔を真っ赤にしてアルヴィンにぶつけ続けた。
「そ、そうじゃなくて……お酒の飲み過ぎで二日酔いしちゃって……」
アルヴィンは頭を抑えて、すこし苦しそうな顔を見せる。
少ししてから、ゆっくりと体をおこして立ち上がり、フラフラになりながらカウンターに手をつく。
「よいしょっと……」
アルヴィンはそばに置いていた自身の武器である大きな弓を背中に背負って、同じように置いていたディメンションバッグも手に取る。
「さて……と、それじゃいこうか」
そういってアルヴィンは尻餅をついていたエレアに手を伸ばした。
「ひ、一人でたてます!」
エレアは、スッと立ち上がってパンパンと自分の服をはたく。
アルヴィンは苦笑いしながらバッグを肩に下げ、机に置かれていたハットを被った。
「はは、怒らせちゃったな、ごめんね」
「もう……」
そういってエレアは、頬を風船のように膨らませる。
アルヴィンはそんなエレアの様子に少し安堵したような表情をみせ、酒場を後にした。
「あ、アルヴィンさん」
「ん?」
酒場を出て、ギルドへと向かっていたアルヴィンの後ろを歩くエレアがアルヴィンに声を掛ける。
手には昨晩アルヴィンから受け取った鍵が握りしめられていた。
「あの、これ……ありがとうございました」
「あぁ、昨日はよく眠れたかい?」
アルヴィンはエレアから鍵を受け取り、懐にしまう。
「はい、私には勿体無いくらいの豪邸でした」
「はは、それはよかった」
そういってアルヴィンはニコニコしながら歩き続ける。
そんな中エレアはすこし気難しそうな顔をしていた。
「あの、私……お風呂に入っちゃったんですけど……」
「あぁそう?気持ちよかった?」
アルヴィンは、特に気にする様子もなくエレアへと問いかける。
エレアはすこし戸惑いながら目を泳がせていた。
「えっ、いや……それはもちろん気持ちよかったんですけど……その、私なんかが入ってもよかったんですか?」
「え、もちろんだよ。入ったらいけないなんて決まりはないでしょ?」
「は、はぁ……」
エレアは少し拍子抜けしたような表情をみせる。
誘惑に負けた自分への戒めのためにアルヴィンに素直に言ったのだが、当の本人であるアルヴィンは全く気にしていない様子だった。
「よしついた」
そうこうしてるうちに二人は冒険者ギルドへとたどり着いた。
アルヴィンが扉を開けて中に入り、エレアもそれに続いて中へと入って行った。
「あらアルくん、おはよう」
「おはようございます、カレンさん」
カレンはニコニコしながらカウンターで小さく手を振りながら挨拶をする。
アルヴィンもそれにならって挨拶をすませた。
「エレアちゃんもおはよ」
「ど、どうも」
そういってエレアは軽く頭を下げた。
「さて、それじゃクエストボードのところにいこうか」
「そうですね」
そういって二人は、クエストボードのあるカウンターの左の方へと歩き始めた。
「さて……どんなクエストを受ける?」
「え、えぇっと……」
アルヴィンがエレアにそう聞くと、エレアはボード向かってにらめっこを始めた。
「……むむむ」
エレアが腕を組んでボードをにらみ続ける。
アルヴィンはそんな彼女の様子に苦笑というような表情を浮かべた。
「前のクエストはどんなのを受注したんだい?」
「ええっと……確か、メディナスの洞窟の魔物退治…だったと思います」
メディナスの洞窟とは、エルダスの街から東にいった森にある小さな洞窟である。
大陸中央部からエルダスへとやってくるにはこの洞窟を抜けるのが一番の近道だが、内部にはゴブリンなどの魔物が住み着いているため安全に通るために商人などが洞窟内の魔物の掃討を依頼したのだろう。
住み着いている魔物も比較的弱い部類に入るグリルゴブリンのため、駆け出しの冒険者が依頼するのも無理はない。
「確か……グリルゴブリンが住み着いてたよね」
「一匹ずつなら倒せるんですけど、集団で攻撃されて……」
エレアのような駆け出しの冒険者は、近接職でないかぎり掃討クエストをこなすのは少し厳しいものがある。
ちなみにエレアの職はメイジ。いわゆる魔法使いである。
熟練の魔導師ともなると一気に敵を掃討する大魔法も扱えるようになるのだが、駆け出しの内だとどうしても一匹に攻撃が集中してしまう。
防御力も薄いメイジは、駆け出しのうちは誰かの援護なしにはかなり動きづらいだろう。
「エレアちゃん、メイジでしょ? 駆け出しのメイジが集団掃討クエストをこなすのは難しいと思うけど……」
「それは分かってたんですけど……」
エレアはそう言って顔を曇らせる。
アルヴィンはそんなエレアの表情に何かしらの意味があることに感づいたようだった。
「何か……事情があるみたいだね」
「……実は、このクエストの依頼者は、このエルダスに住む商人で、私がここに立ち寄って、何もわからなかった私に優しくしてくれた人なんです」
そういってエレアはうつむいていた顔を上げる。
そんな強い眼差しにアルヴィンは少し目を丸くして驚いたような表情を見せた。
「エルダスの街をでて、大陸中央部に向かうときにメディナスの洞窟は必ず抜けないといけないことを知って……」
「クエストを受けたということだね」
エレアの話の続きをアルヴィンが代弁する。
アルヴィンの返答とともに、エレアはまたうつむいてしまう。
「でも、実力もついてないのに一人でいったりしたらどうなるかぐらい、考えることができたよね?」
「それでも……私は……」
アルヴィンの言うとおり、そんなことは当然エレアにもわかっているはずだ。
それでも成し遂げたい。自分の手で救いたい。
そんな思いがエレアにはあったのだろう。
恩人の依頼なら尚更だ。
だが実力が見合っていなければ当然、そんなことは失敗に終わる。
それに依頼者に迷惑がかかってしまう。
それでもエレアは成功させたかったのだろう。
そんな思いがアルヴィンの心にヒシヒシと伝わってくるようだった。
そんなエレアの様子を見て、アルヴィンはボードから一枚の依頼書をビリッと剥がしとった。
「え……?」
「ーー助けたいんでしょ? だったら最後までやりきらなきゃ」
そういってアルヴィンの手にあったのは、エレアが前回失敗したクエストの依頼書だった。
アルヴィンは依頼書をヒラヒラさせながらニコッとエレアへ笑いかける。
「今回は僕もついてる。大丈夫だよ」
「アルヴィンさん……」
アルヴィンは依頼書を手に持ったまま、ギルドカウンターのある方向へと歩き出した。
「あら、アルくん、クエストの受注?」
「ええ」
カウンターで書類の整理をしていたカレンが、アルヴィンの姿をみて声をかけた。
アルヴィンは手に持っていた依頼書をカウンターの上におく。
「このクエストお願いします」
「はいはい……ん? あぁエレアちゃんの面倒、ちゃんとみてくれてるんだ。ありがとね」
依頼書をみたカレンが内容をみて察したのか、アルヴィンにそう告げた。
本来、アルヴィンがこんな低難易度のクエストを受けることはないだからだろう。
「まぁ、約束ですからね」
アルヴィンがそう告げると、カレンは依頼書にハンコやサインなどをして、アルヴィンへと渡す。
「はい、それじゃ一番下のところにサインしてね」
アルヴィンはカレンから、羽ペンと依頼書を受け取りカウンターの上でスラスラと書く。
後ろで待っていたエレアをみてカレンは肘をつきながらニコッと微笑んだ。
「……っと、どうぞ」
カレンに羽ペンと依頼書を渡す。
依頼書はギルド側で厳重に保管され、依頼が達成されると、依頼者の元へと渡る。
アルヴィンが懐のポケットから小銭袋を取り出して、契約金をカレンに渡した。
「はい、確かに」
そういって、カレンはたくさんの引き出しがある棚の一つに依頼書と契約金を入れた。
「エレアちゃんのこと、よろしく頼むわね」
「わかってますよ」
そういって、軽く手をふってカウンターを立ち去るアルヴィン。
それに続いてエレアもカレンに軽く頭を下げ、アルヴィンの後ろをついて行った。
「さてと……」
ギルドの扉を開けて、アルヴィンは外に出る。
後からエレアもとぼとぼついてきた。
軽く後ろを振り向いて、エレアがちゃんとついてきていることを確認する。
「とりあえず正門までいこう。メディナスの洞窟は正門を出た先にあるからね」
「あ、はい」
アルヴィンはエレアにそう告げて、正門のある方向へと歩き始めた。
「あ、あの……アルヴィンさん」
アルヴィンの横を歩いていたエレアが声をかけると、それに反応してアルヴィンは振り向く。
「ん、なに?」
「その……私のことちゃん付けで呼ぶのはもうやめて欲しいんですけど……」
エレアは少し目を鋭くさせてそう告げる。
エレアが自分からアルヴィンに意見したのはこれが初めてだったので、アルヴィンは目を丸くして驚いていた。
「ご、ごめん、なにか気に障っちゃったかな」
「あ、いえ……そういうわけじゃないんですけど……ただ、なんか子供扱いされてるみたいで嫌なんです」
そういってエレアはアルヴィンの方を振り向いてみつめる。
アルヴィンはそんなエレアの視線に後頭部をポリポリかきながら苦笑をする。
「……わかったよ、これからはちゃん付けしない」
「……や、約束ですよ?」
エレアが、そういって上目遣いをしてくる。
そんなエレアの視線にすこしドキッとしたのは内緒だ。
「うん、絶対しないよ。エレア」
そういってアルヴィンはニコッと微笑みかけて、あらためて正門へと向かい出した。
「あっ、見えてきたね」
ギルドから約10数分歩いたところで、エルダスの街の正門が見えてくる。
この時間帯は正門は空いているが、日が落ちてしばらくすると、正門は閉じられ衛兵がチェックしたものしか通れなくなる。
「日が落ちる前には帰って来たいですね」
「うーん……距離的にどうだろう」
メディナスの洞窟へいくにはまず、正門を抜けて2時間ほど歩いたところにある森に入らなくてはならない。
森で道に迷えば日が落ちるまでに帰ってくるのは難しいだろう。
「巡騎船に乗れば大丈夫そうだね、メディナスの森の近くを通るし」
巡騎船とは陸路を進むことが出来る船を使って馬車のような役割をしている船である。
エルダスの正門から毎日出ている巡騎船に乗ればメディナスの森の近くを通るので森で多少道に迷っても、日がくれるまでには帰ってこれるだろう。
「でも巡騎船って高いんじゃ……」
巡騎船は、距離によるが乗せれる人数が限られているため、乗船料は少し高い。
メディナスの森までなら、一人銀貨8枚あたりが相場だろう。
「それくらい僕が出すよ、とにかく乗船場までいこう」
そういって、アルヴィンは正門をくぐり、そばにある乗船場に向かう。
それに続いてエレアもついていった。
「すいません、二人乗ります」
アルヴィンがそういって船に乗り込む。
それに続いてエレアも乗り込んだ。
「おお、あんたらラッキーだね。ちょうど満員になったところだよ」
運転手の男がニッコリ笑いながら舵を握る。
「それじゃ出発だ!」
運転手の男の大きな掛け声とともにフワッと船はすこし浮かび上がった。
「お金……いくらぐらいするんですかね……」
「お金のことなら気にしなくても大丈夫だって」
エレアの不安そうな表情に、アルヴィンはすこし苦笑いをしながら頭をポリポリとかく。
そんなことを話してるうちに船は動きだし、陸路をグイグイと進んでいくのだったーー
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