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10.

「ちょっと返事は?」


 少し笑いながら加賀野は俺に聞く。


「え?」

「トラウマになってるの。こんな関係!」


 ああ、そうか。そういう話だった。衝撃的な話ばっかりでつい。


「岳!」


 加賀野が近づいてくる。


「わかったって」


 近づいて来た加賀野を抱きしめる。顔を見て言うのが恥ずかしいからしたけど、これはこれで……腕の中で加賀野は大人しい。そして、想像していたよりも柔らかく温かかった。


「お、俺も好きだ。これで……」

「うん」


 いいか、と言おうとしたのに、先に返事して抱きしめ返された。まあ、いいけど。

 ……どうしよう固まってしまった。これ以上したらやっぱりまずいよな、という想いと欲望が渦巻く。


「良かった」


 加賀野が体を離す。



 ***


 目と目が合った。岳は恥ずかしそうにしている。私は岳に顔を近づけ、目を閉じてみる。フッと吐息が聞こえて、次の瞬間岳の唇が私の唇に重なる。岳は唇をそっと離そうとするのに追いすがるように私は唇を岳の方に近づける。

 岳はきっと気にしているんだろう。だけど、私はそれも過去にしてしまいたい。岳色にされたい。どうすればそれが伝わるのか。私はそっと制服を脱いでみる。体には薄くだけれどまだアザが残っている。鎖骨は骨折していたので一番目立つアザだ。だから、岳の手で岳の唇で塗り替えて欲しい。


「岳、お願い……して」


 岳は優しく撫でるように私の体を岳色に変えてくれた。岳の優しさが伝わってくる。


 けれど、途中で岳は私の頭を撫ぜて、おデコにキスをした。


「あ、あの今日はそのないんだよ。だから、今度またな」

「うん」



 ***



 内山は停学処分が終わっても学校にくることはなく、そのまま去って行ったようだ。担任は内山が転校したことだけを告げて他のことは何も言わなかったが、週明けに机も椅子も何もかもなくなっていた。まるで内山がはじめからいなかったように。元々目立つ存在ではなかったからか、クラスメートもそのまま誰も触れることなく内山は存在ごとクラスからいなくなった。



 俺も加賀野もクラスには馴染むことは出来なかったが、二人で卒業までの時を過ごすことにした。加賀野の過去に触れる奴も俺に絡んでくる奴もいなかった。


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