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レボリティー・レポート  作者: アルフ
新日本都編
7/55

彼女は少年を主と呼んだ

「その願い、叶えてやるぞ。少年」


 その女性は美しく、まるでこの世の人間とは思えないような不思議な雰囲気を晴人に感じさせた。

 いつか見た夢が、晴人の頭をよぎる。


 目の前の女性も、その背後の怪物も、驚くほどにあの時の夢と合致していた。


「えっ? あんた……」


 ――デジャヴ、という言葉がある。

 体験したはずのない出来事を既にどこかで体験していたかのように感じるそれは既視感ともいう。

 しかしこの場合正しくはデジャヴより『正夢』という言葉のほうが正しいのか。

 晴人はあまりにも唐突すぎて気を失いそうになった。


 だが、そんなことをしている暇も余裕も、ない。


 大男はいつの間にか現れた女性の存在を不審に思った。


「おい、何なんだ急に現れやがって、てめぇも死にたいのか?」

「ハッハッハ、寝言は寝てから言わんか。小僧」

「あんだと!?」


 微笑。女性は大男の脅しに欠片も怯んでなどいなかった。

 大男を無視して女性は晴人のほうを向く。


「晴人、こいつを片付けるぞ。腕を前に突き出して手を広げろ!」

「こ、こうか?」


 晴人は間隔が麻痺しているのか少し軽くなった体を奮い立たせ、右手をつきだした。


「それでよい」


 一瞬の出来事。

 光に包まれた直後、謎の女性は姿を変え晴人の手に治まる一振りの刀となった。


「ええっ!? 刀? 何で……」

「余は主の最適な形に変わることができる。この姿は晴人にとって最も都合のいい形のようじゃな」


 刀に口は無いはずなのだが、声は確かに聞こえてくる。世の中にはまだまだ謎(都合)がいっぱいということなのだろう。


「へぇ、なるほど。だから刀か」


 晴人は刀になった謎の女性の説明で理解した。これが、この刀こそがあの大男を倒す力だということ。そして、最適化された意味を。


「中二のとき鍛えた俺の剣術が火を噴くみたいだな」

「おいクソガキ」

「すごい……」


 劇的に変わる状況の中でリナは目の前の出来事に感嘆の声を漏らしていた。


「こんなの、本当にファンタジーの話みたい」


 リナは前に晴人にある程度のファンタジーは科学で再現できると公言した。しかし、いま目の前で繰り広げられている現象はまさにファンタジー。これは科学なんていう縛られた次元では、とても再現などできないだろう。

 魔法を知る彼女が驚いているということは、それ程に人体の変形が現実離れした技ということだろう。


「聞いてんのか」

「そういえばお前名前はなんていうんだ?」

「余の名か? まあエルナとでも名乗っておこう」

「そうか、よろしくな! エルナ」

「よろしく頼むぞ、晴人よ」

「アレ? つーか何で俺の名前知って―――」



「ふざけんのも大概にしろォォォォォォォォォォ!!!!」



 突然大男が怒号を上げる。まあ今から殺そうとしている奴らに総無視されたら怒るのも無理はないだろう。


「茶番はこれで終わりだ、死ねええええええええええええええええええええええ!!!!」


 痺れを切らした大男が大木を振り落とした。しかし、


「おお! すげー切れる!」


 大男の振り落とした大木は晴人によってスパッと真っ二つに切り裂かれた。有名な刀鍛冶もビックリの切れ味である。


「なっ、にぃ!?」


 驚愕に目を見開く大男。隙だらけだった。

 晴人は素早く大男の懐に入り込み、その鋼の胴体を縦に斬りつけた。


「手ごたえアリ、だなクソ野郎」

「グッ……!!」


 大男から血が噴き出す。あの、鉄材などでは傷すら付かなかった硬い皮膚に攻撃が通ったのだ。


「おもしれえぞ! クソガキが!!」


 大男は晴人から距離をとった。そして、また新しい金箱を掲げる。


「ハハハハ!! いいぜ、やっとこいつが試せそうだ!」

「あいつ! まだあれを持っていたの!?」


 リナが悲痛の叫びを上げる。


「こいつはA級宝物庫に保管してあった最高級のオーパーツだ! さぞかしすごいんだろうなぁ!!」


 心の底から楽しそうに声を荒げる。最高級のオーパーツとやらの発動はもうそこまで迫っていた。


「オーパーツだろうが何だろうが、お前の思惑通りになんてさせるわけねーだろ!!」


 晴人が大男へ駈け出した。しかし、変身時に発生する特有の風圧が強すぎて押し返されてしまう。


「もう手遅れだ、ざまあみろ!!」


 大男を光が包む。

 彼の変身後の、姿は。


「は? なんだよ、こいつ……」

「……巨人……」


 リナの形容は正しく的を射ていた。

 そう、大男は全長七十メートルを超える巨人になっていたのだ。

 あまりの巨大さに、リナは腰を抜かしてしまった。


「大きい、大きすぎる……こんなの反則じゃない!」


 晴人たちのはるか上空から鼓膜が破れんばかりの轟音が聞こえる。


「最っっっ高だァァァァァァァァァ!!!!!! 手前らごとき、踏み潰して秒殺だァ!!」


 大男は絶対的な力を手にして有頂天になっている。


「まったく、言ってくれるぜ。だがな、巨大化は負けフラグだぜ!」

「これがあればあの鬼道院だって目じゃねぇぜ! なぁ、おい!!」


 晴人の声は大男の耳には届いていない。高すぎるのだ。


「柊君……」


 リナは腰が抜けてへたり込んだまま晴人を心配そうに見つめる。しかし、晴人はかつてのように自信に満ち溢れていた。


「安心しろ。負ける要素は無い」

「でもっ!」


 晴人はどう言えばリナを納得させられるか考えようとしたが、何も思いつかず頭をポリポリ掻く。


「しゃーねぇなぁ」

「あっ」


 晴人はリナの頭にポンッと手を置いて優しく撫でた。本当に優しく。割れ物でも扱うかのように。


「大丈夫だ。大丈夫大丈夫」


 そして、


「よっこらせっと」


 晴人はリナをひょいと持ち上げた。


「あわ、あわわわわ!! 何してるの!?」

「何って、見たらわかるだろ」

「そうじゃなくて!!」


 足をばたつかせて恥ずかしがるリナ。かわいい。

 晴人はリナをお姫様抱っこで木の根元まで移動させてあげた。


「ここでじっとしてろ」

「柊君。一つ約束して」

「何だ?」


 神妙な顔のリナ。彼女が伝えるのは、たった一つの願い。


「……死なないで」


 晴人は大男の方を向いて答えた。



「ああ、任せろ」



 晴人が駆けた。狙うのは巨大な足元。

 ただ、大男も立ちっぱなしという訳ではなかった。


「やらせねぇぞォォ」


 晴人の狙っていた足を上にあげる。それだけで軽い地鳴りが発生する。

 そして大男は足を振り落として晴人を潰そうとした。だが、晴人は突風で吹き飛ばされ、大男の足を避けることができた。


「私を忘れてもらったら困るよ! ごめん柊君、手出しちゃった」


 リナは所謂テヘペロなる行為を行った。あざとい。


「風野郎か」

「野郎じゃないもん! 女の子だもん!」


 リナは大男目掛けて強烈な風撃を行った。体が大きいせいか、大男は自分を支えきれず倒れてしまった。

 その衝撃はさながら直下型大地震のようだった。

 この場にいたものはまるで世界が揺れたかのように錯覚しただろう。


「チャンスじゃ、晴人!」

「あ、ああ!」


 晴人はあまりのスケールに呆然としていたが、エルナに急かされて気を取り直す。リナとのやり取りの間は喋ってなかったが、気を利かせてくれたのだろうか、と内心思いながら晴人は雄叫びをあげる。


「らあああああああああああああ」


 ドシュッ、ドシュッと大男の体を切り刻んでいく。 


「オラオラオラオラオラオラオラオオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!」


 切り刻み続け、晴人は巨大な体の腕まで来た辺りから勝利を確信していた。

 しかし、晴人の快進撃は数秒で終わりを迎える。


「ん? 硬い……」

「フフ」


 突然金属同士がぶつかったときになる甲高い音が響いた。


「フフフ……」


 鋼鉄。晴人が気付いた時には大男の全身は鋼へと変貌を遂げたのである。


「フハハハハハ!! やっと隅から隅まで回せたぜ、鋼がよぉ。なァ、おい。これからはもうそんな陳腐な攻撃は通じないぞォォォ!!」


 巨人が立ち上がる。彼の一つ一つの挙動だけで天災を想起させる。


「何だこれ!? すごく滑りやがる!」


 雨も相まってか、晴人が巨体に居座り続けることは不可能となった。


「ゴハッ!」


 地面に叩き付けられ、口から血が噴き出す。ハッキリ言ってこれだけでかなり深刻なダメージである。


 だんだんと、二人の勝負に影が差していく。


「クソ、アイツいつの間にこんなに硬くなりやがった!?」


 あの巨人の鋼の肉体には今持っている刀では傷一つつけられない。下手したら近づくことすら難しいかもしれない。

 相手がいつまであの状態を保てるのかもわからない以上持久戦に持ち込むのも不可能だろう。


「殺す殺す殺してやるぞ雑魚共!! ハハハハハハ!!」


 その上、あの巨体の攻撃をまともに受けたら即死だ。

 晴人は立ち上がったが軽く自棄になっていた。


「キッツイなぁ……おいエルナ! 何とかできねぇのか!? アイツ硬すぎてせっかくの刀が意味ねーぞ」


 普通だったらこんなことを聞いても無駄だろう、と言った直後晴人は後悔した。しかし、エルナの返答は晴人が後悔して諦める隙もなく帰ってきた。


「あんな鉄屑、融かしてしまえばよいのじゃ」


 あまりにも単純な話だった。鉄だから溶かす。硬いから柔らかくしてしまう。

 まあ一般的な話ならそれでよかったのかもしれないが、


「そんなこと言ってもここには火を出す機械もないんだが」

「それがあるんじゃよ」


 エルナのほれっっという声が聞こえたと思ったら、エルナ(刀)が炎を纏った炎剣になった。主に熱は伝わらない優れものである。


「おお!! これならアイツの鋼の体を溶かして攻撃できる!!」


 だか、その希望? 可能性は一瞬で潰えることとなる。

 鎮火したのだ。炎剣が、雨によって。


「なんということじゃ……」


 エルナの刀身には炎、現在の天候は大雨。相性は最悪だった。

 ほんの少しの間は空気をも焦がすかのように激しく燃えた灼熱の炎剣だったが、数秒後には燃え尽きた炭のような刀になってしまった。


「なんだよ!? あれくらい熱そうな刀ならあの巨人の体を真っ二つにできるだろうに!」

「残火の太刀○じゃの」

「ただの焦げ炭刀だろ! それに○で隠せてねぇから!!」

「すまぬ晴人。さすがの余も天気には敵わんようじゃ」


 シュンって落ち込む音が聞こえた気がした。

 大男の地震のような足音と一緒に、


「って遊んでる間に来やがったぞ!」

「オラオラどうした? ネタ切れならそろそろ殺してもいいよなァ!!」


 轟! という空気を切り裂く音と共に巨大な大男がパンチを繰り出してきた。

 この距離では、躱せない!


「ひぃ君!!」


 晴人の体はリナの魔法による突風に吹き飛ばされ、結果大男の攻撃を避けることになった。

 とっさの判断だ。


「サンキューリナ! ん? もしかして――」


 ある考えが頭をよぎり、晴人はリナの側まで走った。そして、


「リナ。お前に頼みたいことがある」

 

                ☆


 晴人たちの戦いは近隣の住民へと、何らかの迷惑をかけていた。

 晴人宅にて、


「一体何なの!? さっきからズシンズシンって地震のほうがまだ間隔あるよ!」


 晴人姉は、巨大化した大男が生み出す地震のような揺れに憤慨していた。

 現在の晴人宅は、まだ明かりも復活しておらず、姉の怒りを鎮めるゲームが一つも無かった。


「雄叫びみたいなのも聞こえるし、大丈夫かしらあの子たち」


 彼女にはこの雄叫びの主と晴人たちが戦っているのは同一人物だと大方見当がついていた。

 だから尚更心配なのである。なぜなら、この地震のような揺れや、雄叫びが止んだ時が、その戦いが終わったときだからである。つまり、ある意味ではこの轟音が鳴り響く間は少なくともまだ二人が生きているということになる。


「……まぁ、大丈夫でしょ。ちゃんとお守りも持たせたんだし」


 その結果、お守りはエルナになったのだが、晴人姉には知る由もない。


「もしもの時って、きっと今でよかったんだよね……」


 彼女は窓から外を見た。依然として雨は降り止まない。


「(絶対に帰ってきて)」


 希望を乗せたその思いは、晴人たちに届くのだろうか。


                ☆

                  

「これが俺の考えた作戦だ。いけるか?」

「うん、やってみる」


 晴人はその場から駆けだした、林の中心へと。


「待てコラァ! 逃げんのか!?」


 晴人は大男の言葉を無視して走り続けた、どうせ何を言っても聞こえない。


「ほ~う、俺を誘導しているのか? フン、いいだろう。そこが手前の墓場だ」


 大男が晴人の歩調に合わせてついてくる。どうやら踏み潰して殺す気は無いらしい。


「晴人よ、本当にこれでいいのか?」


 エルナが晴人へと問う。晴人の作戦に一抹の不安があったのだろう。

 だが、当の晴人は息を切らしながらもどこか余裕を感じさせる顔をしていた。


「問題ねえよ、俺たちがすることは変わらない。あのデカブツを斬ることだけだ」


 晴人は立ち止まり大男の方を向いた。


「お? とうとう死ぬ覚悟ができたようだな」

「一気に片を付ける」


 大男は晴人が立ち止まったのを確認して動きを止める。

 晴人はチャキ、と音を立てて体勢を整える。


「何度も殺すって言ってきたけどよぉ、ようやく有言実行できそうだ」

「行くぞ!」

「死ねやぁ!!」


 大男は足で晴人を踏みつぶそうとした。だが、晴人は何とかそれを躱して瞬時に炎剣による一太刀を浴びせる。しかし、炎剣はすぐに雨のせいで鎮火してしまう。


「何だぁ!? その程度の攻撃じゃあ俺は痛くも痒くも無いぞ!!」



「それはどうかな?」


 風を纏って颯爽と登場するリナ。


「来たかリナ!」

「おまたせ、柊君!」


 リナは纏っていた風を解放し、地面に降り立つ。その衝撃で大男をやっとリナの登場に気付いた。


「風女まで来たか。だがなぁ!! 誰が来ようが関係ねえ!! カスが何体集まったってカスのままなんだからなぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 大男が巨椀を振りかざす。しかし、その刹那には既に晴人たちが行動を開始していた。


 リナはもう一度風を纏う。今度はリミッターを解放した本気の魔法だ。


「風流の魔物、エアの名のもとに命じる。ここ周辺の大気を集約し、一瞬の爆発力を――ッ!!」


 リナはありったけの風力で晴人ごと宙に、飛んだ。


「もっとおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」


 そしてリナはそこからさらに晴人を天高く舞い上げた。

 リナが出した二回目の風圧は凄まじく、晴人だけでなく、空を覆っていた雨雲ごと吹き飛ばした。


 風穴が開いた雨雲の隙間から月明りが差し込む。

 止まなかった雨が、たった少しの間止んだ。この時、この一帯に雨という概念は無くなったのだ。

 それだけのこと。だが、


 晴人にはそれで十分過ぎた。


「エルナ!!」

「応えようぞ!!」


 三度炎剣を作り出す。灼熱に煮え滾る業炎は、もう雨で鎮火されることは無い。


「終わりだ、いっくぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 晴人は大男に向かって急降下を始める。そのスピードは一気に最高速度になり、炎剣もその朧火を増大させる。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」

「ッ!!?」


 大男にはそれを避ける暇も無かった。

 晴人は大男の胴体目掛けて突撃した。そして、鋼鉄の皮膚を焼き切り、一閃するッ!!


「ガアァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」


 切り口は発火し、大きな爆発を生んだ。

 大男の体は焼き払われ、巨人から元に戻り、地に落ち、沈黙した。

 びくともしなくなった大男。戦いの幕は閉じた。

 勝った。晴人たちは大男に勝ったのだ。


 リナの風によるサポートもあり、晴人は何とか地面に着地した。

 そして、


「リナ、無事か」

「うん、なんとか」


 リナはちょっと疲れた、と言った具合に返事をした。


「そうか、よか……った」


 晴人はリナの無事を確認して安心したら、そのまま気絶してしまった。


「おっと」


 その場で崩れ落ちる晴人をエルナがそっと受け止める。彼女の姿はいつの間にか刀から元に戻っていた。


「リナと言ったな、晴人を頼む。余はあまりこのようなことに詳しくないのだ」

「あ、はい。わかりました」


 リナは傷ついた晴人を魔法で癒しながら背中でおぶった。風の力も器用に使っているので、重さはあまり感じなかった。


「そういえばあの大男はっ!」


 それはリナにとって一番重要なこと。あの大男を回収することこそ、リナが新日本都に来た本来の目的だったのだ。

 しかし、


「え……消えてる?」


 不思議なことに、大男の姿は跡形もなく消えていたのだ。


「どうしたんじゃ」

「あの、大男が! 消えて!」


 動揺を隠せず慌てふためく。エルナは冷静そのものだった。


「なんじゃ、そんなことか。気に病むことは無い、放っておけ」

「いや、そういうわけには」

「行くぞ」

「あー、もう」


 リナは諦めきれずに再度、大男の倒れていた場所を確認した。

 確かにあの大男の物と思われる血痕は残っている。しかし、そこにはやはり大男はいなかった。


「おいていくぞー」

「……はい」


 リナは血痕を一瞥した後、エルナに追いつくように小走りした。


「(ホントに放っておいて大丈夫かなぁ)」


 晴人の家に戻る途中、リナはこのことを学院側にどう報告しようか頭をフル回転させて考えたという。

 新日本都のどこかのビル群の裏道にて、全身火傷した血だらけの人間と比較的小柄な若者が隠れていた。


「おい、フレーリオ。一体何なんだこのザマは」


 先に口を開いたのは比較的小柄な若者だった。


「すいません。一瞬の隙をやられてしまい…」

「ふざけるな。お前ほどのやつが隙を突かれる程度でこんな重傷を負う訳がない」


 血だらけと揶揄したのは晴人たちが倒したはずの大男、もといフレーリオだ。


「俺の部隊の幹部のお前が、たかが高校生如きにやられるなんて、こりゃ降格ものか?」


 のし上がることだけを考えていたフレーリオはこの話を聞いて焦りを隠せなかった。


「ちょ、ちょっと待ってください! 俺がやられたのは件の魔法学院の生徒ではなく、妙な剣を持った男です!」


 若者は大男の妙な剣を持った男、という言葉に反応した。


「聞かせてみろ」

「その男の剣は不可思議で、最初は女だったんですよ」

「……何だと」

「いや、だから女だったのが急に剣に変化したんです。仕舞には炎まで繰り出して、俺の鋼のっ、――いや何だったんでしょう。オーパーツでしょうか?」


 若者はフレーリオの話を聞いて何かを思いついたようだ。


「そうか、そういうことだったのか」

「あの、どうかしましたか?」

「こんなとこでのんびりしている場合ではない、戻るぞ!」

「え? あ、ちょっ――」


 フレーリオと若者は、一瞬でその場から消却していた。文字通り、一瞬で。


                ☆


 声が聞こえる。

 騒がしい声。

 だけど俺はこの声を毎日聞いていた気がする。

 やや間延びしたような、でも何だか暖かい。



 ……ああ、わかってる。そろそろ戻らないと。





 あの世界に――――


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