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レボリティー・レポート  作者: アルフ
新日本都編
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勝機の喪失

 大男による一撃で、周囲およそ三キロに衝撃が走った。空気は強大な力に恐怖した弱者のように震え、大地を縦横無尽に引き裂き、耳を抉るような爆音が鳴り響く。

 耳を抉る? 一体誰がそんなことを思い、表現できる? この場に存在し、感覚を共有しているのは三人だけだ。大男はこんな音ではびくともしないので違う。リナはやや離れたところにいたので彼女も違う。

 なら、そんなことを意識し、感じ取ることができるのはたった一人しかいないのではないか。


 ――――晴人だ。


「ふーう、危なかったぜー」


 自身の無事を安堵した晴人だったが、彼の目の前は安堵を一瞬で吹き飛ばしてしまうほどの要素で満たされていた。


「えっ……」


 晴人が大男の攻撃をもってしても無事だったのは運が良かったわけではなく、大男が偶然外したわけでもなければ、晴人が自力で避けたわけでもない。

 そもそも、晴人はただ大男の攻撃を受けなかっただけだ。その言葉が意味するのは、


 リナによる、身代わり。


「リナ? おい! リナ!! 大丈夫か!? 返事しろ!」


 晴人がいくら呼びかけてもリナは答えない。


「チクショウ!! 何で……こんな………ッ!!」


 崩れ落ちる晴人。自分のせいだと思った。あんな身勝手な行動ばかりしたから、リナがこんな目に合ってしまったのだと。


「なんだよ、魔法なんかで防ぎやがってよ~。変な真似しなかったら楽に逝けたのに、ククク、なあお前もそう思うだろ? 馬鹿な女だって!! ハハハハハ!!!」


 大男は続ける、先程の挑発の仕返しと言わんばかりに。


「なぁおい、もう守ってくれる奴は誰もいないぜぇ? 弱いよわーい。ひ・い・クン? ヒャハハハハハ!!」


 ブチッ

 何かが切れる音がした。


「ハハハハ―――あァ?」

「……す」

「声が小さすぎて聞こえねぇぞ。糞ガキ」

「殺す!!」

「笑わせるな」


 大男がもう一度腕を振るった。今回は前のような余裕を持った攻撃ではなく、ただ目の前の不愉快な目標を殺すことだけを考えた容赦のない本当の攻撃。

 の、はずだったのだが、


「なんだぁ?」


 確かに殴った感触があった。しかし、起こるはずの悲劇は起こっていない。


「……」


 晴人は死ななかったのだ。それどころか、


「てめえ一体、何をした」


 晴人と意識のないリナは元いたところから数メートル離れたところにいたのである。

 移動したのではなく、大男が気付いた時にはそこにいたのである。

 大男は晴人らのもとへ跳躍した。三桁はあろう巨体に似合わず軽く十メートルは跳んで踏み潰そうと試みた。          

 しかし、


「あぁ?」


 また、さっきと全く同じ現象が起こる。また消えたのだ。だが、さっきとはすこし状況が違った。


「あの野郎どこに消えた!?」


 大男は晴人とリナを見失っていた。それによって動揺が大きくなる。


「あークソが。やっぱ最初から本気で殺るんだった。こんなんじゃ上司に怒られ――」


 言葉は途絶え、同時に鈍い音がした。大男が背後から棒状の鉄の塊で殴られた音だ。当然晴人の反撃である。

 しかし大男に明確な変化は訪れない。


「――痛ってえなぁ……」

「っ! 効かねぇだと!?」

「まさか真後ろにいたとはな。一枚取られたぜ」


 大男は体ごと晴人のいる後ろに体ごと向き直り、その動作の中に晴人目掛けて裏拳を仕掛ける。


「くっ!」


 大男の攻撃を避けるために晴人がまた消える。リナも同様である。


「またか。一体どんな技だ。まさかアイツもランドレット魔法学院の生徒か?」


 晴人たちは一向に姿を見せない。


「出てこいカス共ッ!! それとも怖気づいて逃げたか!!?」


 それからしばらくしても二人は大男の前に姿を現すことはなかった。


「チッ逃げたか。まあいい、期限は明日。まだ時間はたっぷりある。それに、まだアレを試していないしなぁ!」


 大男は狂ったように笑いながら夜の闇に消えていった。





 危なかった。


 大男がどこかへ行ったのを確認した晴人は冷や汗をかきながら思った。

 実は二人は先程の位置から一歩たりとも動いていないのである。しかし、大男はあたかも攻撃の瞬間に避けられているように感じていた。

 それにはある秘密があった。それは、


「何とかこれが発動してくれて助かった……」


 晴人が大男を前にしても一瞬も自信を崩さなかった要因の最たるもの、そして逆転の一手になるはずだった二個目の金箱である。晴人は、この金箱さえがあれば大男に勝てると踏んでいたのである。

 その箱の正体は、発動させたら対象の感覚をずらすことができるというものである。ずらすとは麻痺、混乱、誤認など様々なもので、その効果は対象の心の隙が大きければ大きいほど、簡単に言うと動揺しているほど強くなる。


 しかし、その逆転の一手があっても大男には敵わなかった。これは晴人にとって誤算だった。逃げ切れただけでも奇跡と呼べるだろう。


「このままじゃリナが危ない!!」


 これほどの戦いの中でも目を覚ます気配すらない。死んではいないようだが、どうしても責任は感じてしまう。


「畜生! 俺のせいで……」


 晴人は怒りや悲しみで心がぐちゃぐちゃになり、思わず地面を殴りつけた。


「クソッ。こんなことしている場合じゃない……」


 晴人はリナを背中に乗せて自宅へ急いだ。


「待ってろよ、今助けてやるからな!」


次回『ちから

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