地縛解放陣
体力の消耗など気にしないぐらいに全力疾走する二人がいた。生徒会の会長と副会長だ。
二人が走っていると、緊急避難警報がけたたましく鳴り響いた。
この状況下では、考えられるのは一つしかなかった。
「会長! 生徒会室から火が発生したらしいです!」
「聞いてます! その理由も恐らくコレ関連でしょうね!」
二人は突然生徒会室に現れた男、ダーミラーに告げられ屋上を目指していた。
彼に告げられた内容、それは、ある禁術を使おうとしている馬鹿がいる、ということだった。
禁術……禁忌とはまた別に、歴史の闇に葬られるべき過ちの過去。
一度発動したらその効果は絶大で、制御は非常に困難。どうなるか誰も予想できない。使わせるわけにはいかないのだ。ましてや、鏡利という悪者の手に禁術が渡ってしまったら最後、もし発動してしまったなんてことになったらランドレットが更地になってもおかしくないかもしれない。
発動したらの話だが。
「どうしてこう、私の管轄する生徒は悪い意味で個性的なんでしょう! 一日も平和だったことないんじゃないんですか?」
「いつもなら充実してていいじゃないですか、って返しますけど今回ばっかりはそうはいかないですね」
「そうだな。まさか鏡利さんが『地縛解放陣』を使おうとは誰も思わんよ」
「マジか―。鏡利のやつめ、そんなことして一体どういう……ん?」
祐介は違和感に気付いた。
――なんか今の会話文おかしくね?
――なんか一人増えてね?
「ちょっと待ってください、会長この男誰ですか」
「えっ? わかんない」
「俺って誰だ?」
白を切る男とそいつの登場に動揺する会長。祐介は急ブレーキをかけるように立ち止まった。
「会長! この男は鏡利の刺客ですよ。こんな怪しい男が他にいるはずありません!!」
「「な、なんだ(です)ってー!!」」
祐介の言葉に会長と謎の男は同時に驚きの声を上げた。
何をふざけているんだこの男は……
「お前のことを言ってるんだよ!? お前は無関係か? ただ逃げ遅れただけか!?」
「ああそうだ。うたた寝していたらこんなことになっていた」
「くそっ! それならこんなところで遊んでいる余裕はないだろう!! 早く避難するんだ!!」
祐介は一般生徒に向かっての言葉遣いではなかった、と若干後悔したが、それはすぐに撤回することとなった。
「フッ! それができるなら俺もそうしているさ」
「何? どういう……」
男は、会長と祐介の行く手を阻むように立ち塞がった。
「鈍感かお前たちは。俺は鏡利さんの手下、ロドノス! お前たちに恨みはないが、鏡利さんの頼みだ。ここから先は通さないぜ……!」
「いや、さっきうたた寝って――」
「ロドノスさんですか。聞き覚えがない……あなたはこの寮の生徒ではないですね。いいんですか? このことはそちらの会長にも話しちゃいますよ?」
「あれ、俺の言葉は全面的に無視ですか。ああそうですか」
この件は明日には一大ニュースになっていることだろう。その戦犯リストに名を連ねたりしたら最後、ロドノスの寮の生徒会たちは黙っていないだろう。教育的指導は免れられない。
だが、
「構わんよ。その程度の脅しに屈していたら、それこそ後でどうなるかわかったもんじゃない。鏡利さんを敵に回したくはない」
ロドノスは、笑いながら会長の言葉を突っぱねた。
それは、あくまでも鏡利側につき、目の前の二人を敵に回すということ。
会長は、呆れたようにため息をついた。
「そうですか。なら、私はもう知りません」
交渉は決裂だ。無理やりにでもロドノスを越えて行かないと、鏡利の元にはいけないらしい。
「会長、先に行ってください。禁術の発動は絶対に止めないといけません」
「……一人で大丈夫?」
会長は心配そうに祐介を見た。
祐介の顔に不安は一切ない。余裕の笑みだ。
好きな女の前で、弱気になる男がいるものか。
「大丈夫です。この男は、俺が足止めします」
その言葉に、ロドノスは噴き出した。
「んー? 威勢のいいことを言うじゃないか副会長さん。足止めをするのは俺が、お前たちを、だったはずだが?」
「そうだな。お前の言う通りだ……だけどなッ!」
祐介はロドノスの情報を魔法の眼で探りを入れながら接近した。
そして、
「足止めならもう――十二分に出来ている!!」
次の瞬間、会長の姿はどこにもなかった。消えていたのだ。音も無く、ロドノスに気付かれることもなく。
その業はまさに、瞬間移動にも等しく並ぶ。
「……流石、ランドレット最強と言われているだけはある。この俺の包囲をいともたやすく抜けていくとは」
感心したようにロドノスは言う。
しかしそれだけだ。会長を追おうとはしなかった。
「いいのか? 会長を放っておくとこの件はあっという間に解決されてしまうぞ。すでに主犯格が誰かは割れ、その場所もわかっている。このままじゃ計画は失敗、お前たちは仲良く指導……残念だったな」
突きつけるその現実を、ロドノスは笑って受け流した。
「失敗か、確かにそうだ。このままじゃあこの計画は失敗だ」
含みのあるロドノスの言葉に、祐介は言い知れぬ何かを感じた。
あとは会長が終わらせる……それで本当にこの件が解決する。
のか?
ロドノスの言葉は、祐介の思考を否定しているように聞こえたのだ。
「けどなぁ――」
疑心暗鬼に陥りそうになる祐介に、追い打ちするようにロドノスが告げる。
「俺は自分のやらなければならないことはちゃんと把握しているぞ。相手の情報を取得する眼を持った副会長、橘祐介を足止めする。これが俺に課せられた真の任務なのさ」
「……俺の魔法を知っていたのか」
「ああ、さらに魔法発動時は目の色が青に変化するのも知っているぞ?」
「ッ!」
祐介の右目は青く変化していた。わかりやすい変化とはいえここまで知られていたことに祐介は改めて驚いた。
「でも、知られたところで俺の眼から逃れはできない。現に対策なんて思いつかなかっただろう? どこにいても視れるのなら情報はいくらでも引き出せる」
敵の魔法を知っているだけ戦闘では有利に動きやすい。祐介はこのままロドノスの魔法、ステータスを解析するつもりだ。
間も無く、一つ目の魔法が解析される。
「対策は思いつかなかっただろう、と言ったな。正解だ。俺はお前の眼に対して何も対策は考えてきていない、だが――」
ロドノスの一つ目の魔法は…………高速移動!
「対処をすることはできる。このようになッ!!」
「――ッ!!」
ロドノスは目で追えないスピードで動くことで祐介の眼下に移動する。
そして、祐介は肉体の限界を超えたスピードから放たれる拳に気付かないまま受け、空を舞った。
☆
人々が欲するものを求め合いさ迷い歩く巨大迷宮、通称ショッピングモール。晴人は男から預かった語尾が特徴的な使い魔と一緒に、ほかの客とは違った意味であるものを欲し、探していた。
「例の魔法使用者がどこにいるかわかるか?」
使い魔は少々考えて、首を横にふる。
「わからないヨー。遠すぎて探知もクソもねーヨー」
「やっぱり自分で探してまわらないとダメってわけか」
途方に明け暮れる。このショッピングモールの広さは半端ではない。隅々まで一人で探すのなら軽く一日はかかりそうだ。
思わずどんよりとなってしまう。
「なんか俺っていっつもでっかいものが何かしら関わってくるんだよなぁ……」
規格外なことだらけだ。敵そのものが大きかったり、今回みたいに舞台が巨大だったり。何故自分はそれほどまでに大きい何かしらに縁があるのか。
「そういう星のもとに生まれてきたって諦めるしかないヨー」
「ハァ……でも、外の暑い現象を止めないと死人だって出るかもしれない。なんでこんなことになっちまったんだよまったく。誰だよこんなことしてんのは」
「大規模なことをするってことは、あとで特定されるのは避けられないヨー。犯人はそれを見越したうえでこの事件を起こしてると思うヨー」
「だな。町の一般人まで被害が出てるわけだから、そのうちランドレット側も本気で事件の解決に乗り出す。でも今はその動きはない……なんでだ?」
「ランドレットはもう一つの事件に集中しているから、この件はまだランドレット側は知らないと思うヨー」
晴人は苦虫を噛み潰したような顔をした。
知らないって……こっちもこっちで結構な大事件だと思うんですけどねぇ。
「それじゃあこの事件を知ってる、いや……この事件の犯人を突き止められるのは俺とお前の主だけってわけか。厳しいな、ショッピングモールにいる間は外の熱に当てられることはないが、犯人が外に逃げたら追いかけようがないぞ」
「急ぐヨー。アギトはショッピングモールの出口全部を見張るみたいだから逃がしはしないヨー」
使い魔は主と連動している。主の考えは手に取るようにわかるのだ。
「そうか。じゃ、お前の主、そのーアギトか? にサンキューって伝えておいてくれ」
「合点だヨー」
これで犯人はこのショッピングモールから逃げることはできないことはわかった。晴人は気合を入れた。
「よっしゃ、ここは自称普通の男子高校生、一般人の柊さんが華麗に活躍して輝くときだな!」
「主人公しちゃうんですヨー」
最近他のキャラに出番を奪われかけの晴人は、柊って単語、久しぶりに使ったなと思いつつ、とりあえずショッピングモールを下から一階ずつ調べていくことにした。
☆
場面は移って学生寮。
アシリアの魔法暴走で寮は大きく揺れた。
ロドノスをスルーして先へといった生徒会長は突然の地震に足をすくめていた。
「まずい……今の地震は自然発生じゃない。きっと地縛解放陣発動の余波だわ。火災に続いて地震と来た。急いできょうりたちを止めないと大変なことになってしまうわね」
会長は地震が止まったことを確認し、一直線に走り出した。若干地震について誤認しているようだが、気にしてはいけない。
会長の足取りには迷いがなかった。彼女には鏡利たちがどこにいるかおおよそ予測できていたのだ。馬鹿と煙は―ってやつだ。
「今度はどんな罰を与えてあげましょうか……謹慎処分じゃ甘いし、バッサリ退学処分もたのしくないし……」
鏡利たちの罰則を考えていると屋上の扉の前まで辿り着いた。ドアは少し開いていた。いつもはちゃんとしまっているので、ここに鏡利がいることに確信を抱く。
「さーて、清く正しい生徒会長さんがきましたよー! 潔くお縄ちょう、だ――」
しかし、扉を開けた会長は言葉を失った。
「嘘―――そんな……っ!」
真冬の風が会長の髪を揺らして靡かせる。しかしそれだけ。
屋上には、彼女を除いて誰もいなかったのである。
☆
業炎に燃える生徒会室前。
「有り得ない……お前がフルバースト状態の俺を前にしてまだ立っているなんて、有り得ない!!」
火の候補生、ダーミラーは憤慨していた。炎熱と再生を持つ自分に、目の前の少女が依然として拮抗している現実が許せないのだ。
「演習の私がすべてだと思った? 慢心ね、私は演習では本領の25%しか出してなかったっていうのに」
「黙れ! それは俺も同じこと。演習では常に力を抑え戦ってきた。なのにッ! その力の全力を前に、どうしてッ!?」
「違うんだよ、違う違う。お前はな、根本的なことを間違えてんのよ」
「何が――ッ!!」
ダーミラーの千糸万絞がベルタフィールの首元を狙うように伸びる。
この糸は燃やさせない。敢えて魔法のすべてを消して彼女はその糸を掴み、引っ張ってダーミラーを自分のもとまで引き寄せた。
「私は25%、四分の一、つまり卒業までに覚える四つの魔法の内、一つしか演習では使ったことなかったってこと。さ、歯を食いしばれよ」
「なっ、何を」
「一発目は、アシリアの分!!!!」
ベルタフィールは引き寄せたダーミラーの顔面に強烈なパンチをお見舞いした。
「ごっ!!」
パンチを食らった反動と共にベルタフィールの掴んでいた糸は音も無く崩れ去り、ダーミラーは後方に投げ出された。
「がぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」
受けるわけない筈の攻撃を受けた動揺と痛みで、悲鳴をあげずにはいられない。
「一つは観然再元。ビックリしていたね、そんなに自分の動きを真似されるのがおかしかった?」
「クッソ、がッ……!! なんで、フルバースト状態では物理ダメージなんて効かないはずなのに……」
拳を振り下ろしてゆらゆらと鋭い目でダーミラーを見るベルタフィール。
ダーミラーは気付いた。
「まさか……これがそう、なのか? 今俺にダメージを与えたこれこそがお前の隠していたもう一つの魔法だとでもいうのか!?」
ベルタフィールの口元がニタリと歪むのをダーミラーは見た。
彼女はダーミラーへと接近し始めた。
「くっ、来るなぁ! 近づくんじゃない!!」
ダーミラーはそれを阻止するために火球で応対する。
しかし、ダーミラーの火球はどれも着弾直前で力尽きるように燃え尽きていき、まるで効果を成していない。
「クソォォォッ!! 何故だ!! 何故攻撃が効かないんだ!!」
ベルタフィールとダーミラーの間を封鎖するように瞬時に千糸万絞を壁のように張り巡らせた。
だが、張り巡らせた糸はベルタフィールの手が触れた瞬間一斉に千切れ、またもや音も無く崩れ去る。
万策が尽きた。
「ど、どうなっている!? わけがわからっ」
ダーミラーはベルタフィールに首を掴まれ、その華奢な体を持ち上げた。
「そういやお前、今日私とぶつかっただろ。華奢だったからもしかしてとは思ったけど、まさか本人だったとはなぁ……驚いた」
苦しそうにもがくダーミラー。
「い、息が……できない、っ! は、なせ……っ!」
彼がようやく発した言葉は、ベルタフィールの逆鱗に触れるには十分過ぎた。
『それが人にものを頼むときの態度か?』
「私あの時ぶつかったやつを見て思ったんだよ。今度会ったらただじゃ済まさない、ってね」
「な、何をしようが無駄だ。俺には再燃がある! お前のパンチを食らった程度じゃやられなぁい!!」
「そうね。そんな程度じゃ終わらないから覚悟しな」
ベルタフィールはにっこり笑った。
そして、首を掴んだまま移動を始めた。
ダーミラーは自分を窓から落とそうとしているのだろうと勘繰る。
「どうする気だ。ここは二階だが、この程度で死ぬほど俺は脆くないぞ? ククク――」
「うっせーな黙ってろカス」
ベルタフィールは躊躇なくダーミラーの目を抉った。
「は?」
あまりにしょうげきてきすぎて、つうかくがしんごうをおくるのすらおくれてしまった?
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
「っせーっつってんだろ。喉も潰すか?」
「ッ…………!!!!」
ダーミラーは気合で叫びを止めた。
そして、ベルタフィールは生徒会室のドアを開けた。中はダーミラーの放った煙で充満している。
「一酸化炭素中毒で死ぬのはかなり辛いらしいぞ。よかったな、こんな経験できるのこれで最後だぜ?」
ベルタフィールはこんなことを言い出した。バカな。ここに入ったらこの女も死ぬぞ。
「私か?」
そんなダーミラーの考えを見越していたかのようにベルタフィールは告げた。
「私は大丈夫だよ。だってお前が持ってたガスマスクがあるんだもん」
「――!!!!」
視界は血で滲んで機能を失っていたが、ダーミラーにはガスマスクを着けてドヤ顔をしているベルタフィールが容易に想像できた。
そして、次の瞬間には息が出来なくなった。
「(死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!)」
ダーミラーが意識を失いそうになった瞬間、パッとベルタフィールは首から手を離した。
「ッハァハァハァハァハァハァ……」
ベルタフィールが手を離したことでようやくザ・バーストが展開できるようになって、再燃の効果も再び発動した。ダーミラーは今、絶命と再生を繰り返している状態にある。
死の淵に立たされて初めて理解した。この女の……
「ベルタフィール……お前の、もう一つの魔法は……ッ」
「教えてあげよう!」
死にもの狂いなダーミラーに対し、ベルタフィールは至極明るい口調で告げた。
「私の三つ目の魔法、それは『破戒の光』。簡単な話、私が触れてる間は魔法みたいなことはできなくなるのさ」
こういうふうに、と言いながら彼女は再びダーミラーに触れた。するとダーミラーは急に息が出来なくなり咳き込みだした。一酸化炭素中毒だ。
手を離す。再生する。
「わかったかな? つまりはこーゆーことさ。ザ・バーストがあれば助かるこの煙も、私が少しの間タッチしてたら即アウトってわけ」
「……」
ダーミラーは嬉々として解説するベルタフィールに気付かれないように目線をあるところに走らせていた。
二つある……その片方に。
「……出口出口出口出口出口出口出口でぐちでぐちでぐちィィィ――――!!!!!」
ダーミラーはここから脱出するために駆けだした。無論、彼女もこれは想定済みである。
「させるかよ。出でよ! バッド・ファントム!!」
「ムン!!」
ダーミラーの前に立ち塞がるように魔法獣が召喚される。
そして、残されたもう片方の出口にも。
「お前にファントムは倒せない。そして、お前は必然的にもう片方の出口に向かう。が、そこにはもう私がいる。私に触れられたら終わりな現状で、私に近づけるわけないお前は、そこでジッとして死と再生を繰り返すがいい」
「~~~~ッ!!!」
ダーミラーは再生するのが手いっぱいでまともに動くことすら出来ない。
王手ならぬ詰み、チェックならぬチェックメイト。彼は、死に地獄に囚われてしまった囚人となる。
「言ったろ? ただじゃ済まさないって」
☆
その時、寮全体に渡って放送が流れた。
『生徒会及びグラウンドで災禍に震える生徒たちに告ぐ。我々はこれより禁術、地縛解放陣を発動する』
生徒会、グラウンドの生徒たちはこれを聞いて震撼した。
皆、地縛解放陣の言い伝えを知っているのだ。
「馬鹿どもが……なんの理由でこんな真似を」
当然先生たちは彼らの行動に黙っているわけにはいかない。グラウンドにいる先生たちは放送を聞いて寮へと向かっていこうとした。が、
『既に抵抗することに意味はない。感じているだろう? 禁術の予兆を』
先生たちの行動を覗き見ているかのように的確な追い打ちで、先生たちの足が止まった。
『生徒会室付近での火災も、先程起こった大地震もすべて地縛解放陣の弊害だよ。長年の封印が解かれ、禁術は発動の時を待っている。逆に、今むやみに寮へ入るとその弊害に巻き込まれるかもしれない。ハッキリ言おう。無駄死にはしないほうがいい……クククク』
放送の奥からほくそ笑む鏡利の手下たち。勿論、彼が今言った内容は真っ赤なウソである。地震はアシリアによるもので、別に弊害でもなんでもないし、火災も、ダーミラーに起こさせたものである。しかし、グラウンドにいる部外者に本当だと思わせるには十分すぎる内容だった。
この時の為に彼らは生徒会をおびき出し、戦闘させることによって「予兆が起こっているように」見せかけたのだ。
『では、最後に鏡利さんから一言だ』
お願いします。と聞こえた後、放送用のマイクを握った音が聞こえた。
『魔法使いの諸君、こんにちは。本日はお騒がせして申し訳ない。しかし、慌てなくていい、直に地縛解放陣が発動し、ランドレットと魔界の境界は無くなる。数年に一度しか魔物たちと交流できないのは悲しいよな? 俺も悲しい。だが、これからはいつでも魔物たちと会えるようになる世界へと変わるんだ。素晴らしいじゃないか』
聞こえてきたのは、何とも憎たらしい声色で歌うように喋る鏡利の声だった。
鏡利はつらつらと言葉を述べる。生徒や先生たちは嫌でも内容が耳に入ってくる。
『これからは魔物と人間が共生する国家、ランドレット魔法王国を建国していこうではないか! 国王はモチロン、俺! ハーッハッハッハッハッハ!!』
ついに明かされた鏡利の目的。それはランドレットの掌握だった。
放送の向こう側で高笑いをする鏡利。
彼の横暴を見過ごすわけにはいかない。
「ふざけてやがる。これ以上鏡利の好きにはさせてはいけない! 止めるぞ!!」
先生たちはいっせいに寮の中へと突撃しようとした。しかし、それはある一人の生徒が空から降ってくることで阻まれた。
『さてさて、ここから先は露骨に時間を稼がせてもらうよ? 先公共を一歩たりとも寮へ侵入させるなよ』
「僕の仕事はわかってるよ……兄さん」
突然空中から降り立った彼は、鏡利を兄さんと呼んだ。彼をそう呼ぶものはおそらく学院ではただ一人。
「イービルアイ」
彼がそう唱えただけで、彼にくぎ付けになっていた人は時間が停止したように動かなくなってしまった。
これが禁忌の効力だ。
「まったく、兄さんも人使いが荒いんだよねぇ。もっと休んでいたかったのにこんなことに駆り出して……」
先頭に立っていた先生たちはイービルアイの能力で動けなくなってはいるが、後ろの生徒たちはイービルアイの効果とは関係なしに固まっている。一体何故か?
答えは簡単だ。恐ろしいからである。彼のことが単純に怖いのだ。
刃向ったら本当に殺されかねない。それほど彼は生徒間では畏怖の象徴なのだ。
だから生徒たちは顔を下げて絶対に視界に彼が映らないようにする。目を向けたら次に動けなくなるのは自分なのだと、誰もが理解しているのだ。
彼は満足げに頷いた。
「そうそう。君たちモブは、邪魔をしないように、ただ見守っていればいいんだよ。それに、僕は優しいから、その場を動かないと誓うなら、携帯だって使って構わないよ? こんな異常事態は二度とないだろうから、みんなで盛り上がろうよ」
にっこりと笑う竜真。これほどの惨事を前に彼は、竜真は何かの行事と同レベルとしか見ていなかった。
そう、竜真はこの作戦自体がただのお遊びだと知っていたから……。
次回『ある意味天才』




