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レボリティー・レポート  作者: アルフ
魔法学院編
47/55

拡がるよ戦線は

 ショッピングモール、洋服店前にて。


「もう一人の私がいるーーーっ!!」


 洋服店から(・・・・・)出てきたリナ(・・・・・・)は、晴人の肩を掴んでいる人間を指してそう言った。

 背後のリナ(・・・・・)は晴人の肩を握りつぶそうと力を込めた瞬間、


「ひぃ君!!」


 耳元で聞いたら鼓膜が破けるのではないかというぐらい大きな声でアリスが叫んだ。その結果、一瞬握りつぶす力が弱まり、


「……そ………」


 後から(・・・)現れた方のリナ(・・・・・・・)がプルプルと震えだしていた。

 次に、高周波。


「その呼び方は駄目ぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

「本人認証完了!」

「ごっふ!!」


 アリスの、木をいともたやすく持ち上げる怪力の拳がリナの頬をぶち抜いた。

 対象は、晴人の肩を掴んでいた方――


「グァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 絶叫である。リナ?は野次馬を突き抜け、三十メートルは吹き飛んだ。


「お、おいアリス。もし今のが本物のリナだったらどうするつもりだよ!」

「んにゃ、あれは偽物だよ。だって――」


 アリスは視線を洋服店から出てきた方のリナに移した。

 リナは思い入れのある『ひぃ君』呼びを客観的に聞いて恥ずかしさが爆発していた。


「あの反応はまごうことなくリナちゃんだよ」


 アリスは、その反応を見て本物か偽物か確かめたのである。


「……単純だなー、あいつ」

「ぬ、晴人! さっきのやつ、逃げるぞ!」

「なんだって!?」


 エルナの指差す方を見ると、既に偽物のリナはダッシュを始めていた。


「あいつ……アリスの剛拳を食らったってのに生きてるのかよっ!?」

「ハルくんもわたしの剛拳食らってみる?」

「すいませんホント勘弁してくださいマジで土下座しますんで」


 ゴキゴキと骨の鳴る音を耳元で聞かされる晴人。冷や汗がすごい。


「謝ってる暇があったらすぐ追う!」

「イエッサーアリスさん! 奴をとっ捕まえてきます!」


 晴人は偽物の後を追った。見失ってはいない、が逃げ足がとんでもなく速い。

 だがそれも持久戦になると、晴人のほうが若干優位だったようで、だんだんと追いついてきた。


「なんの目的かは知らねえけど、攻撃するならまず断りを入れろ! 例えば俺みたいに、失礼しますが攻撃させていただきます!! ってなぁ!!」

「グォァ!?」


 逃げる偽物の背中にドロップキックを繰り出す晴人。出口まで近づいていた偽物はキックの勢いでショッピングモールの外まで吹っ飛んだ。


「どうした。これで終わりか?」


 晴人も追うようにショッピングモールの外に出た。


「っ……この暑さは、さっきと同じ……」


 感じたのはギラギラした熱線。

 店の外は再び有り得ない暑さになっていた。学生寮のサウナより熱いぞ。


「状況から推測するに、これをしたのはテメェだな? ちょっとこれはやりすぎじゃあねえか」


 辺りを見渡すと、熱中症のせいか倒れている人が続出していた。救急車で運ばれている人もいる。この状況には焦熱地獄という言葉がピッタリだろう。


「いい加減何とか言ったらどうだよ。なんでこんなことした?」


 晴人は偽物の胸倉を掴んだ。リナの体をしているからモヤモヤがすごかったが、気合でそこは耐える。


「お前がやったのはもうわかってんだよ、早くこの暑いのを止めろ」

「……知らねぇ」

「何?」


 偽物はようやく口を開いた。その声はリナのものではなくなっていた。随分と野太い男の声だ。

 姿が変わる。これで見た目も男になる。

 男は暑さと冷静さを失ったことで大量の汗をかいていた。


「知らねぇんだよ。こんな気候も、ランドレットに来て初めてだ。確かに俺は依頼されてお前を潰そうとした。だけどこの暑さは知らねぇ、この暑さに俺は無関係だ!!」


 男もどんどん倒れていく人を見て事態の異常さに気付いていたのだ。もしこの男が暑さの原因だとしても、晴人に追い詰められた時点でこの暑い状態を元に戻すはずだ。これ以上この暑さを続ける意味がない。


 だとしたら、この異常気象を起こしているのは誰だ?


「依頼されたとか言ったな」


 言いながら、掴んでいた胸倉を離す。


「そ、そうだ。誰かは言わないぞ、依頼契約は絶対だからな。失敗したけど」

「誰に依頼された。俺を潰す? ふざけんじゃねぇ」

「言わない。口が裂けても話さない」

「言え……言わねぇと、殺すぞ」


 デュオライフルを男の眉間に突き出す。

 しかし、


「――殺されても、俺は俺のポリシーを貫く」


 男は正体不明の殺意を向けられてもなお、態度を変えることはなかった。


「……そうか」


 この男は、それほどまで以来とやらに魂を懸けられるらしい。

 晴人はにやりと笑った。


 ――いいことを思いついたぜ。


「だったら」


 デュオライフルをしまい、口を開いた。


「だったら俺からお前に依頼だ。この異常気象を起こしている原因を突き止めろ。成功したら今回の件は水に流してやるさ」


 男は、数秒前に殺すだの言っていた奴がまさかそんなことを言うとは思わず、驚愕していた。


「……それは本当か?」

「ああ、本当だとも」


 晴人は座り込んでいる男に手を差し出した。その手を掴むということは、晴人の依頼を受けるということ。


 男はその手を……掴んだ。


「任せてくれ、依頼は依頼だ。絶対に厳守するのが俺のモットーよ」


 男は晴人の提案に乗ることにした。ここからは晴人を追うものではなく、事態を解決させる協力者だ。


 立ち上がった男は魔法を展開した。


「運が良かったな柊晴人。俺の持つ魔法は依頼をこなすための専用のような技なのさ。そのうちの一つがこれ、『無死角』! この魔法は俺を中心とした一キロ圏内の魔法使用者を炙り出すことができる」


 探知のような能力の無死角という魔法で、男は魔法使用者の索敵をした。

 結果はすぐに表れた。


「かかったぜ! この反応は……さっきいたショッピングモールからだ!!」

「なんだと!?」


 晴人はショッピングモールを見た。

 ここら辺のどの施設より巨大な建物。階層だって何階あるかわかったもんじゃない。


「これを探すのは一苦労だろうな……もっと詳しくはわからないのか?」

「がんばったら出来るが、三次元空間上はちょいと時間がかかる。まず間に合わないだろうな」

「クソッ! しらみつぶしか。俺は相手の顔すらわかんねえんだぞ。顔も知らない相手をどうやって探せばいい!」

「そこは大丈夫だ。俺の使い魔を貸そう。魔法や強い力を感知して教えてくれる」

「えっ?」


 使い魔がポンと現れる。手のひらサイズの可愛い魔物だ。


「よろしくだヨー」

「コイツ……喋るぞッ!!」

「いいか、この異常気象魔法を使っている奴は相当のやつだ。これはただの火属性魔法とか異常属性魔法じゃない。下手したら第一種禁忌レベルの代物だ」


 晴人のボケを軽くスル―していく。この男……適応力は中々のものである。


「なるほど、確かに範囲は異常なぐらいの広さだよな。ここら一帯をまるまる蒸し焼きにするぐらい平然とやってのけるぐらいだ。その禁忌って言葉にも信憑性が増すってもんだ」

「早くしないと奴は逃げるかもしれない。急げ柊晴人!」

「悪いな。こいつ借りていくぞ」

「終わったらまたここに来い。礼はその時だ」

「おう!」


 男と晴人はショッピングモールの中で別れ、それぞれ異常気象の犯人を追った。


                ☆


 晴人と別れた後、男はほくそ笑みながら走っていた。


「馬鹿な奴め、俺は頼まれた依頼は必ず達成させるのさ。鏡利から依頼された『柊晴人の病院送り』もこの灼熱地獄の犯人探しも、どっちも成功させてやるさ」


 男に晴人の病院送りを依頼していたのは鏡利だった。

 殺す、のではなく病院送りというところが鏡利のヘタレ具合をよく表していると思う。


「俺の魔法を駆使すれば人ひとり重症にするぐらいわけないのさ。ハハハハハ!」


 この男の魔法は三つ。

 一つめは自分の姿から声まで誰かに成りすます魔法。

 二つめは魔法使用者を炙り出し探知する魔法。


 そして三つめは、


「俺の召喚した使い魔は何も出来やしねえ喋る爆弾(・・・・)だ。今回の起爆するタイミングは目標の目の前まで辿り着いた時だ。油断しているところを灼熱地獄の犯人と一緒にボムッと散るがいい」


 晴人はそんなことも知らずショッピングモールを駆けまわる。


「さて、俺は安全なところでのんびりと事が収束するのを待ちながら見物でもするか」


 このショッピングモールの従業員を目で捉えながら男はそう呟いた。


                ☆


 生徒会室前廊下では、互いに炎属性の使い手であるベルちゃん先輩ことベルタフィールと火の候補生ダーミラーが対峙していた。


 片や炎獣の能力をその身に宿す降魔獣魔法。

 片や炎そのものの体と、超速再生の持ち主。


 見ていることしかできないアシリアだったが、彼女の見た感じでは優勢なのはベルタフィールのほうだった。


「今回ばっかりは容赦しない。生徒会としての私に刃向うってことは、それだけの覚悟があるってことだからねぇ!!」


 朱く染まった腕から爆炎が発生し、ダーミラーの体を吹き飛ばす。

 だが、彼の体は吹き飛んだところから瞬く間に再生する。


「何度攻撃しようが無駄無駄ムダァ!! 俺の体に傷を負わすことはお前にはできない。ベルタフィール!!」

「これじゃジリ貧です先輩! あの再生するのをどうにかしないと!」


 アシリアは、せめてベルタフィールの手助けができるようにと言葉を投げる。


「わかってるけどさ、どうしようもないよあれは。私に出来るのはあいつを足止めするぐらいが精一杯だ」

「何をごちゃごちゃと、次は俺が行くぞ!! 千糸万絞!!」


 復讐に燃える男、ダーミラーの魔法によって背後から無数の線が射出される。太いものから目で見ることも出来ないような細いものまで様々である。

 射出された千糸万絞は床や壁、天井などに突き刺さり、ベルタフィールの動ける範囲を狭める。


「勢いよく動くとスッパリいくかもだぜ? 慎重に行動するんだな」


 壁に刺さったいくつかは、戦闘で燃え広がった炎が引火して花火のように一瞬の業火を上げ、焼け落ちる。

 ベルタフィールは眉間にしわを寄せた。この魔法は危ないのだ。自分がではなく、アシリアが。


「アシリア……逃げて」

「えっ」


 アシリアはベルタフィールの言葉に一瞬動揺した。

 だが、猶予はない。


「急いで、早くここから逃げるの!! アイツの見えないところまで!!」


 ドシュ、ドシュと肉を貫通する音。

 アシリアの腕に、ダーミラーの千糸万絞が刺さったのだ。



「逃がすと思うか?」



 ダーミラーの痛快な声が、気持ち悪いぐらい明瞭に聞こえた。


「いっ――あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「アシリア!! ――クソッ!!」


 ベルタフィールはダーミラーを睨んだ。


「アシリアは関係ないでしょう。今すぐ止めなさい」

「クク、誰が止めるかよ」

「この……ッ!!」


 ベルタフィールはファントムを放出しようとしたが、


「待てよ、いいのか?」


 という声を聞いて思い留まる。


「このまま炎を使ったら糸を伝ってお前の可愛い後輩は灰だけに成っちまうぜ?」

「っ!!」


 そうだった……ベルタフィールは思い出した。ダーミラーの三つ目の魔法、千糸万絞は糸を射出するだけでなく、異常なほど熱を通しやすいのだ。先程も、千糸万絞が一瞬で燃え落ちたりするのが見られている。


 今、ファントムで攻撃したら自分のせいでアシリアまで傷つけてしまう。


「……どうする……っ!!」

「ハハハ! どうするもこうするもねえさ。お前は無抵抗のまま俺の攻撃を受け続ければいい」


 そう言ってダーミラーは躊躇いもなく左手を引きちぎり、野球のピッチャーがするようなフォームを取り、ベルタフィールに向かって勢いよく投げた。正気の沙汰でないが、今の彼はそれほどのことを平然とやってのける再生能力を有している。

 摂氏五百度の左手が飛んでくる。ベルタフィールはそれを顔面に受けた。魔法獣、バッドファントムを降ろしているから火傷のダメージはない。


「クク、ハハハハハ!! 痛快!! 素晴らしいぞベルタフィール!! そうだ、お前はそうやって俺に嬲られるのがお似合いだ!!」


 ダーミラーの失った左手は、再燃能力によって瞬時に復活する。

 彼は次に両手の指をすべてベルタフィールに向ける。


「こんなのはどうだァ!? 指を一本づつ射出することで再生と発射を同時に繰り返す!! さしずめ、火球連弾だなあッ!!!」


 激しい火花を上げ、指は連続斉射された。それはまるで、失われし遺産(ロストテクノロジー)となったマシンガンのようだった。

 しかし、ベルタフィールは怯むことはなかった。むしろ好機だと、喜びに打ち震えてさえいた。


 唱えるのは、二つ目の魔法。


「……観然再元」


 ベルタフィールは小さく呟き、ダーミラーと同じポーズをとった。


「ファントム、連続斉射ァァァァァッ!!」

「な――なにィ!?」


 ベルタフィールはダーミラーの攻撃の動きを一ミリの誤差なくコピーして、撃ち漏らすことも撃ち過ぎることもなくダーミラーの射出した指をすべて撃ち落としたのだ。


「観然再元? ……お前、そんな技を隠し持っていたのか……!? なんで、なんで……なんでッッ!!!」


 ダーミラーの驚きようは凄まじかった。何せ今まで何度も戦い続けてきた相手が今の今まで一度も使うことなく技を一つ隠し持っていたと知ったのだから。今までの戦いのすべてが手を抜かれていたと感じたから。


 ――これまでの演習は、本気で戦ったことなど無かったということか……!


「……ッざけんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!!!」


 怒りの融点は、とっくに振り切れていた。


「アシリアッ!?」


 そんな中、アシリアは自分の名が呼ばれるのを聞いた。

 ダーミラーは怒りに身を任せ、アシリアを灰にしようと千糸万絞に火を放ったのだ。


 ――決心するしかない。


「ベルちゃん先輩」

「アシリア!! 待って! 今助けるか――」




「私がいたら足手まといです。先輩はどうか、先輩の戦いに集中してください」


「アシリ……ア……?」


 アシリアは、二回目の(・・・・)瞬間移動でこの場から姿を消した。

 千糸万絞は焼けただれ、パラパラと音を立て地面に崩れ落ちた。


「ち、逃げられちまったなァ。ま、いいや。殺りたいのはベルタフィールだけだしィ~」

「……ッ」


 ベルタフィールは怒っていた。

 アシリアが時間をおかない二回目の瞬間移動を行うということは、並ではない苦痛を伴うとこ。


 それなのに、この男は……使わせてしまったのだ。二度目の瞬間移動を、アシリアに。


「どしたよ~ベルちゃーん。友達がいなくなったからって急に黙り込むなよ。コミュ障か?」

「あの子はね、一日に二回瞬間移動を使ったら副作用で死ぬほどの激痛が頭、体、全身を襲うのよ。それなのに……お前はアシリアに二回目の瞬間移動を使わせた。あの子がどれ程苦しい思いをするかわかってるの!!?」


 激情を昂らせるベルタフィール。その気持ちに呼応するように彼女の周りは爛爛と陽炎が発生している。


「許さない、絶対に、絶対に許さない!! ダーミラー!!!」

「ようやく俺の名を呼んでくれたな、ベルタフィール! さぁ、邪魔者もいなくなったところで本戦の開幕といこうじゃないか!!」

「違うわ……ここからは、私がお前を虐殺する。一方的な殺しよ」


 バムッ、という音を立て、ダーミラーの視界は赤に包まれた。


「ハッ、上等ォ!!」


 轟!! とベルタフィールの攻撃を跳んで回避し、千糸万絞を張り巡らせた。


「演習では感じられなかったこの感覚こそが俺の求めた本当の戦いだ!! フルバースト!!」


 体の焔温度を千度まで上げる。これでダーミラーは歩くだけで寮の廊下を燃やし融かす。


俺はお前と(・・・・・)戦いたかったぞ(・・・・・・・)!! ベルタフィール!!」

「私はお前を許さない!!」


 両者の意地と闘争本能がぶつかり合う。


「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」」


                ☆


 一際大きい爆発音の後、生徒会室方面から炎が上がるのがグラウンドから見えた。


「燃えてるなぁ、まっかっか……まっかっかーだよ」


 フライヤは少し様子がおかしかった。主に晴人のせいである。


 有り得ないのは断続的に爆発が続いていることだ。

 ここからでは寮がどうなっているかわかりにくい。本格的に火も上がってきて火災という事実が本当なのだと思い知らされる。

 だが、この避難先にいる生徒、先生は一人としてこの事件の真実を知らない。魔法と魔法がぶつかり合っているなんて思う人はごく少数である。

 そのごく少数にフライヤも含まれているのだが、彼女にその自覚はない。自覚はなくとも彼女の心身が理解しているのだ。魔法に人生を変えられたフライヤだからこそ、本能的に魔法に敏感になっている。


 気付いてしまったらもう止めることはできない。


「ねえフライヤ」


 前に座っていたイザリーが振り返りながらフライヤに話しかけた、が。


「あれ? いなくなってる……どこ行ったんだろ」


 イザリーは、フライヤはトイレに行ったのだろうと結論付けて前を向き直った。


 ――造作もない。


 フライヤが光属性のエキスパートなのは知っているだろう。

 光を極めた彼女にとっては、光の屈折を利用して姿を消すぐらいのことは朝飯前なのだ。


「うっさうさうさ憂さ晴らしー♪ 悪い人はぴょんぴょんさせちゃうぞー」


 ランドレット中でもトップレベルの候補生が、戦場に降り立った。


「はぁ……はぁ……、ッ!! ああああああああああああ!!」


 生徒会書記、アシリアは自分の魔法の反動から起こる、全身の激痛に悶えていた。


 異常系魔法『瞬間移動』


 魔法とかゲームとかではすごく便利なこの能力だが、現実の瞬間移動には一日に一回、正確には地球時間の二十四時間に一回という限度がある。これの限度を超えて瞬間移動を使用すると使用者に形容しきれないレベルの激痛が反動として帰ってくる。アシリアは、今まさにその状況で、いつ気を失ってもおかしくない。


 しかし、この反動現象は激痛だけではない。もう一つ、甚大な反動がある。

 それは、使用者の魔法を暴発させるといったものだ。アシリア的にはむしろこっちの反動現象のほうが危険なのである。

 例えば、普段力をセーブすることで演習なんかに使っている魔法だが、それが暴発するということは魔法本来以上の効果が誘発してしまう可能性があるということ。火属性魔法だったら自身の体すら焦がしてしまったり、最悪体内の水分に異常をきたし爆発四散したりすることだってある。どの暴発も起こってしまったら最後、何が起こるか未知数なのだ。

 つまり、アシリアにはどうしても暴発させたくない魔法があるということだ。


 魔界の奥底に身を潜めている、フェイタルハンドという魔物の魔法。禁忌、グランドクラッシャーだ。


「ダメ……この魔法だけは暴走させちゃいけない……!!」


 この魔法は第二種禁忌指定の魔法で、強力すぎることが原因でアシリアも滅多に使うことがなかった。使った際も、特殊な方法で情報を視られたりする以外はかなりセーブして使うので自然属性魔法のように誤魔化すことができる。

 しかし裏を返すとこの魔法は限りなくセーブして使うことも出来るし、天災のような大地震を起こすことだって出来るのだ。

 アシリアは、その天災を暴発で発動してしまわないように体に力を入れた。

 だが、それだけではもう抑えきれなくなっていた。





 次の瞬間、我慢の限界が訪れる――。





 この寮を中心に、震度五ほどの地震が拡散した。

 地震の発動者であるアシリアは、事切れたように気絶した。

 最後に、良かった。と一言残して……。






次回『地縛解放陣』



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