表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レボリティー・レポート  作者: アルフ
魔法学院編
45/55

『諦めの悪いやつら』

 見知らぬ天井。ひんやりとした空気。

 晴人は、身体を起こした。


「あら、目が覚めたみたいよ」

「本当か!」


 ゆったりとした女の子の声と、聞き覚えのある男の声。


「柊、俺だ。わかるか?」

「……橘、だっけ」

「おう! 無事みたいだな!」

「特に問題はなさそうね。よかったわね、記憶障害とかにならないで」


 言葉に少し棘が含まれているように感じた。さっきのゆったりとした声の女の子とはまるで正反対だ。


「ベルちゃん先輩言い過ぎですよぉ、もっとこう、優しく。よかったねぇ~、とかだけでいいのに~」

「うっさいわね! どう言おうが私の勝手じゃない! あとベルちゃんゆーなっ!」

「え~、いいじゃないですかぁ。ベルちゃんってかわいい呼び方だと思いますよ、先輩?」

「ア~シ~リ~ア~、次それ言ったらどうなるか……わからない貴方じゃないわよねぇ?」

「ベルちゃ~ん! いえーい!」

「命を捨てる覚悟をしなアシリアぁぁぁぁ!!」

「きゃ~~! 私ベルちゃん先輩に殺されちゃう~!」

「うるさいぞ!! ベルちゃん先輩! アシリア!」


 祐介が怒鳴りつけ、二人の喧騒はピタリと止んだ。


「ベルちゃんって言うなよ……」


 そうぼやいたのはベルちゃん先輩という人物だ。その愛称から察するに、あまり先輩としての威厳はないご様子。


「ごめんなさいですふくかいちょ~」


 そしてこのゆったりとしている話し方をしているのはベルちゃん先輩にアシリアと呼ばれていた人物だ。見た感じ天然っぽい。


「くっそ、やっぱ部屋に送るべきだったか、ここはうるさすぎる」

「いやいいけどさ。悪いな、ここまで祐介が運んでくれたんだろ?」

「そんなこと気にしなくてもいい。だが俺を下の名前で呼ぶのはやめてくれ。俺を祐介と呼んでいいのは会長だけなんでな」

「おぉ~! 祐くん先輩はずかしぃ~」

「恥ずかしくなんてないぞ?」

「おっ? 照れてない? 祐くん照れてない?」

「つーか祐くんって呼ぶんじゃねえ!!」


 ここぞとばかりに女子二人が祐くんをからかいにかかる。こういうときの女は本当に強い。妙な連帯感があるというか、お前らひょっとして打ち合わせしてんじゃねーだろうなって疑いたくなる。

 そんな展開において行かれそうになっていた晴人は、廊下からする音が耳に入った。


「ん? これは……」


 足音だ……こちらに向かってくるぞ。

 しかし、馬鹿三人はそれに気付いていないようで、


「お前ら、そんなにはしゃいでいいのかよ」


 晴人が呆れたような声を出した。


「あんだよ!? 部外者兼サウナーは休んでろ!! ちなみにサウナーとはサウナではしゃいでぶっ倒れた者に与えられる称号です!」

「まだ動いたらダメですよ~、安静にね」

「そうだそうだー! ゆっくりじっくり休めコノヤロー」

「……」


 晴人は、ばつが悪そうにドアをちら見した。

 つられて三人もドアを見る。


『おかしいですね。廊下にいるにもかかわらず、生徒会室が騒がしいということがわかってしまうのは何故でしょうか』


 女の声だ。先生ではない、扉越しでもわかるその声は、若さにあふれていた。


「かっ、会長……」「あら」「あちゃー」


 三者三様とはまさにこの三人のことを言うのだろうか。

 祐介は嬉しいようなまずいような微妙な声をあげ、アシリアと呼ばれた女の子はほぼ無表情で一言、愛称ベルちゃんの女はやっちまったという具合。


 そして、勢いよくドアが開かれた。


「あなた達とは、生徒会長である私と今一度生徒会の在り方を話しあったほうがよさそうですねっ!」


 決まった、とドヤ顔する生徒会長。静まる生徒会室。


「………………あなたは?」


 会長は、言い終わってから晴人の存在に気付いた。

 質問している彼女の言葉の端には、猜疑の気持ちが薄々と発生しているのを感じていた。

 晴人も感じていた……こりゃあもう駄目だと。


「ちす」


 だったら着飾ることはない。晴人は少し頭を下げながら挨拶した。


「自分、看病させてもらってます。柊と申します」

「うあ……あぁ……っ」


 プルプルとドヤ顔を赤く染める羞恥心が生徒会長のハートを抉った。


「あの、自分何も見てないんで。ホント、ドヤ顔とか全ぜn「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!」


 この後生徒指導の先生が来て散々怒られたのは言うまでもないだろう。


                ☆


「まったく、散々な目に合ったぜ。とばっちりじゃねーかよ」


 晴人は一人プンスカしながら夜の廊下を歩いていた。この寮は、男子寮と女子寮が真ん中の管理棟で分断された構造だ。つまるところ晴人は生徒会室から出て、自分の部屋がある男子寮のほうへと向かっていた。


「それにしてもなんか、初日から大物に出くわした気がするなぁ。生徒会なんて主人公クラスだぜ普通」


 晴人は生徒会メンバーを思い返した。

 会長ラブな副会長におっとり系お調子者、上から目線したいいじられキャラに極めつけはドヤ顔説教系生徒会長だ。


「……うん。大物たちに出くわした気が、しなくともなくなくないな」


 晴人の中で、生徒会という株が大暴落する音が聞こえた。


「そういや気絶したのサウナだっけか。水分補給しときたいな」


 くるっと一転、晴人はあまり行く気は起きなかったがジュースを買いに管理棟へ向かった。仕方ない、管理棟にしか自販機は置いてないのだ。


「馬鹿四人組に遭遇しませんように」


 祈りながら向かうこと数分、誰に合うこともなく自販機に辿り着いた。ここに来るまでは、誰にも。


「お先に失礼するわよ」

「おう」


 晴人よりけっこう背の低い少女。不思議な気配をしている。

 ジュースを買い、取り出して晴人に自販機の番を譲った。


「どーれにしよっかなー」


 適当な水分を買い、取り出し口にジュースが落ちるのと同時に、


「へー、お前が例の」

「ん? 何か言った?」


 まだいたのか、と思ったが晴人は口に出さなかった。


「いいや、何も言ってないわ。じゃあね」

「お、おう」


 急に声が聞こえたとき、晴人は夜だということも相まって心底驚いた。何故なら晴人はもう少女がいなくなっていると思っていたからである。気配が消え、いなくなったんだとジュースを選びながら錯覚していたのだ。


 まあ、環境になれていないんだろう、しゃーなししゃーなし。


「……部屋に戻るか」


 晴人は男子寮へと歩いて行った。


 演習だとかがあった次の日、学院はお休みだった。特に深い意味はない、地の文がお休みだったと言えばそれはもう真実になるのだ。


「ファーっ! いい休日日和だ。こういう日はぐっすり寝るに限るよな」

「と、いうわけで街に出かけましょう柊君」


 晴人の部屋にて、一人の少女と部屋の主。


「どういうわけだよ。俺寝たいって言ったよね。てかなんで敬語なんだよ。それだと誰が言っているのかわかんねーだろうが.

カギかっこの前に名前つけるぞコラ」

リナ「えーっ! そんなことしたらこれまで頑張ってきた書き分けが無意味になっちゃうよー!」


 ここで仕方なくカギかっこをつけてみる晴人。そして思ったのが、やっぱりこれじゃ締まらない。という何とも優柔不断な感想だった。


「昨日のこと聞いたよ? 晴人君やりたい放題だったみたいじゃない」

「酷いいわれようだな、俺は何一つ悪いことしてないと思うんだけど?」

「自覚がないっていうのが一番危ないんじゃない……」

「?」


 リナは何もわかっていない晴人を見てため息を吐いた。


「(アリスに口止めされてなかったら本当のこと言えるのに……)」


 ちょっとした葛藤。リナは昨日の夜フライヤからとあるメールが届いた。


 内容はこうだ。


『僕、もうお嫁にいけない……』


 詳しく事情を聞いてみると晴人に男だと勘違いされたままお風呂に一緒に入っただとか。


「私だってそんなことしたことないっていうのに……フライヤばっかりずるいよ」

「フライヤ?」


 リナの独り言が晴人に聞かれてしまった。まずいと口から洩れる。


「そういや、アイツ風呂にいたときに急にどっかへすっ飛んで行ったんだけど大丈夫かな……連絡いれても返事ないし」

「全面的に悪いのは晴人君だと思う。私からしてみればあの子も同罪だけどね」

「どーいうことだよ同罪って」

「晴人君は馬鹿だから説明しても無駄だから何も知らなくていいの。さ、行こうよ」

「いやでもフライヤが」



「あやつのことなら心配しなくてもいい」



 妙にけったいな喋り方をする女の声。


「なんだこの妙な言葉使い……もしや」


 晴人は難なく察した。この声の正体、それは晴人の背後。


「晴人の従順なる僕、エルナちゃんだよっ☆」


 ランドレット生徒寮指定のジャージを着たエルナ。髪の長さや身長も学生風に変わっているので、見た目では若干判別しづらい。


「……」


 晴人はとても残念なものを見るような目でエルナを見た。


「そんな目で余を見ないでくださいよ主どの。これも周りに溶け込むために必死こいて産み出した処世術なのよ?」

「処世術でも何でもいいけどさ、根本的には何も変わってないよな。お前のそのビックリ七変化」

「なにさーそのビックリ七変化って。もしかしてもしかして今の姿のことを言ってる? 何気にこれ、完璧に変身してるはずなんだけどなあ」

「変わってねーよ。根本的に残念感が激しいところがな」

「あっ! それわかるかも。エルナさんってどこか天然だよね」

「ちょっとちょっとおぬしたち? 余がいかにかわいく女子高生をやっているからといって嫉妬されては困るぞ?」

「「ほら、こういうところとか」」


 示し合わせていたかのように一語一句同じことを言う晴人とリナ。思わず目が合って笑う。


「つか、お前らなんで俺の部屋にいたんだっけ。女が男子寮にいちゃまずいだろ、いろいろ」

「おっと忘れるところでしたよ、ありがとう晴人君。そしてエルナさん」

「任された」


 ガシッとエルナの両手が晴人のわきを掴んだ。


「で、私は肩部分!」

「おい、お前ら何する気だ? 気は確かか?」

「やるよエルナさん! せーのっ!」

「よいしょー!」


 晴人は豪快に持ち上げられた。そしてそのまま廊下へ。


「止めろ馬鹿ども! 俺をどこへ連れて行く気だ!?」

「行けばわかるよっ、ハルくん!」

「この声はアリスか!? お前もグルかよっ!!」


 突然現れたアリスに足を掴まれてしまい、いよいよ抵抗できなくなってしまう晴人。

 廊下では晴人たちを奇怪な人間みたいに見る大衆の群れ。


「うわぁ~、これけっこう恥ずかしいかも」

「恥ずかしがってんじゃないよ! これはそもそもアリスの提案でしょ!?」

「余は一向に構わん」

「お前ら……顔赤くするぐらいならやめろよな」


 まさに集団公開処刑。四人は寮の生徒から冷めた目で見られながら街を目指したのだった。


                ☆


 居住区の中で最も活気づいている区域、通称……街。七月二十日のオーストラリアの天気は、冬だというのに雲一つない青空だった。


「ここまで快晴だと寒さなんて気にならないね~」


 アリスは、ギンギラギンの太陽を眺めながら目を細めた。


「そうだよね! むしろ暑いくらいだよ。異常気象なんじゃないの? これ」


 制服をパタパタさせながら涼むリナ。額には若干汗も見える。


「お主らこの程度の暑さでまいってるの? 若造やな~。余は四十を超える猛暑でも平然と出来るというのにのー」

「エルナさんは私たちとは体のつくりが違うんですって。きっと」

「そーだよ。わたしたちは華奢な女の子なんだよ? エルナちゃんみたいに変身したり適応なんてできない、華奢な女の子なんだよ?」

「何故二回言ったし! 余だって華奢でかわいい女の子じゃっ! 守ってあげたいエルナランキング堂々の第一位じゃーっ!」

「ツッコミ待ちですか? しませんよ? 『そのランキングエルナさんしかいないやないですかーい!』とかツッコんだりしませんよ?」

「出たー! リナちゃんのボケ殺し! これが発動したら最後、両者に微妙な空気が流れ場を無音が支配する! 怖い、怖いぜぇ! わたしはこんな技食らったら三時間は寝込んじまいそうだァ!!」


 リナの冷たい言葉とアリスの無駄に熱い実況解説が飽和し、胸焼けしそうな雰囲気が充満する。


「ぐぬぬ……ふ、ふんっ! お主らにはツッコミなどできんよ。余のボケに対応できるのは晴人しかおらんのじゃよ! なっ? 晴人っ!」

「う~~~あづい……」

「はるひとっ!! 返事をしろぉ!!」

「んー、あぁ。うん」


 気のこもってない返事をする晴人。エルナのことなど気にせず憎たらしそうに天上の光球を見つめた。


「なんでこんなに暑いんだよ……夏じゃあるめーしよー」

「街に出てから急に暑くなってきたんだよね。ほんとどうなってるんだか、私もオーストラリアに住んで長いけど、こんな異常気象初めてだよ」

「リナぁ~、冬ってなんだ? こんなに暑いのが冬なのか?」

「晴人! 冬だとか暑いとかはどうでもよい! お主は余のボケにただひたすらツッコミを入れておけばよいじゃ!」

「あー……お前、また口調が迷子になってるぞー。自覚がなかったら病院行け~」


 晴人は心底けだるそうにツッコミを入れた。


「ちょっと、どうしちゃったのさハルくん! 元気なさすぎじゃない? そんなにお外出るの嫌だった?」

「その言い方はやめてあげなよアリス。それだとまるで晴人君が外出してるから元気がないみたいだよ」

「うーむ、余の知る限りでは晴人は極力外には出ずに事を済ませようとするダメダメな男よ?」

「てめーら、人を好き勝手罵倒しまくりだろ。俺は誰もが一目置くような紳士で、やるときはやる男の中のお、と……」


 ぐらりと晴人の視界が揺らいだ。

 熱中症……その言葉が脳裏をよぎる。今のオーストラリアって冬じゃなかったのかよ……。


「やべー、マジでどうにかなりそうだ……」

「え、これヤバいやつじゃん。大丈夫? ハルくん」

「熱中症かも……どっか休める場所にいこっ!」

「あそことかどうじゃ?」


 エルナが指示したのは、どこにでもありそうな喫茶店だった。


                ☆


「いらっしゃいませー」


 店員の気の抜けた声が聞こえた。四人は、変に気遣われないように晴人を連れて席まで移動した。


「はい、水持ってきたよ」


 アリスが四人分の水を注いできてくれた。


「サンキューな、アリス……」

「気にしないでいいって。早く飲みなよ、少しは落ち着くと思うから」

「ああ」


 晴人はコップに注がれた水を一気に飲み干した。


「大丈夫? 晴人君。すごい顔色悪いよ?」

「多分大丈夫だ。熱に当てられただけだ」

「待ってて、今ヒールの魔法で回復するか試してみるから」


 リナが晴人の横で魔法を使った。淡い光が発生し、晴人を包んだ。


「やっぱ回復魔法ってすげえな、みるみる気分がよくなっていく」

「よかった。魔法は効いたみたいだね」

「お主にしては随分とへばっていたではないか。どうしたというの」

「どうしたんだろうな。もしかしたら、昨日風呂で上せたのが原因かもしれない。熱中症なんて子供の時以来だぜまったく」

「ま、折角喫茶店に来たんだしドリンクでも飲んでいこうよ」


 アリスの提案で四人はそれぞれドリンクを注文した。

 晴人はコーヒー、エルナは紅茶、リナはココア、アリスはカフェオレ。みんな違ったものを注文したようだ。


「そういや、今日はなんで街に出かけてみたりしたんだ?」


 晴人がふと疑問を口にした。


「どっか行きたい場所があったんならお前らで行けばよかっただろ」

「そんな悲しいこと言うなよなーハルくん。わたしたちはハルくんとエルナちゃん、二人と一緒に遊びたかったからこうして連れ出してるんだよ。ねっ、リナちゃん?」

「そーだよ! 晴人君のことだからメールとかしても「めんどい」とか言って断りそうだったから近寄りたくもない男子寮に踏み込んで迎えに行ってあげたんだよ? 晴人君にはこうして美少女三人に囲まれてる状況をもっと感謝してほしいねっ!」

「自分で美少女っていうもんがあるかよ……」

「なんじゃ晴人、余らが可愛くないと?」

「そこは否定しないけどね」


 自分で言うなよと。


「あっ! じゃあ私のこと可愛いって思ってくれてるんだ! やだ、嬉しい!!」

「お前……もしかしてさっきの暑さにやられてるんじゃないか?」


 晴人はリナのおでこに手を当てた。


「へっ!? 晴人君!?」

「若干熱いな……よく見ると顔も赤くなってやがる。大丈夫か? リナ」

「はわ、はわわわわーっ!」


 リナはボンッ! と爆発し、ゆでだこのようになった。


「リナちゃんが沸騰したーッ!!」

「晴人、それは少しやりすぎ」

「え? これ俺のせい? まじで?」

「リナちゃん! 戻ってこい、リナちゃーん!!」


 この後、店員さんにあまり騒がしくしないようにと注意を受けたのは別の話である。


                ☆


 舞台は変わって晴人たちの学生寮。


 休日の学生寮は、普段と違って賑やかである。というのも、学生寮は学生たちの家みたいなものであるから、一つ屋根の下に友人や思い人がいるだけで毎日がエブリバディーなのである。

 たとえ友人がいなくとも学生寮にはスポーツセンターからカラオケ、ゲームセンターなど様々な娯楽施設が整っている。やろうと思えば何だってできる。それがランドレットの学生寮だ。


 ところで、晴人たちが町へと出かけて行った時を同じくして朝の食事処に集うグループがいた。

 パッと見どこにでもいるような小物だが、それはただのパッと身である。

 そのグループがおかしいのは、グループ中心の男とその取り巻きといった構成なのだが、どう見ても取り巻きのほうが強そうなことである。

 人徳なのかと問われれば、グループ中心の男はそれを否定するだろう。代わりに彼はこう答えるだろう。


 すべて弟の抑止力のおかげだろう、と。


「よし、お前たち。今日はよく集まってくれた。ひとまずお前たちに礼を言いたい」


 彼の名は鏡利、ランドレット随一の問題児だ。

 そんな彼は本日、グループのメンバーの数名を集めていた。


「メールを見たときビックリしましたよ鏡利さん。まさか本気で実行するつもりですか?」


 ガタイのいい男が窺うように訊いたそのメールの内容は、以下である。



『明日、死にたい奴だけ食事処に集まれ。理事長室侵入計画を発動する』



「正直言って無謀もいいところですよ! あの理事長を出し抜くなんてできっこない」


 華奢な男が今になって怖気づいた。しかし、彼だけではなくこれはみんなそう思っていた。相手はただの理事長ではない、あの理事長なのだ。説明できないレベルの恐怖が彼女にはある。

 というか理事長室なんて普通の学生生活を送っていたら行くことすらないような場所だ。そんなところに行く必要性がない、なのにわざわざ危険な橋を渡るのか、とみんな心の中では思っている。


「無理強いはしない。元々この作戦が困難を極めるのはわかっている。自ら死地に赴く馬鹿はそういないからな」

「じ、じゃあやっぱり「だがっ!!」


 鏡利はあきらめの声を制するように言い放った。


「だが、お前たちは集まってくれた。お前たちはこんな作戦に志願するような馬鹿だが、だからこそ勝機はある」

「「「「!!!」」」」


 集まった馬鹿どもは一斉に目を見開いた。鏡利から出た勝機という言葉に耳を疑った。


「いいか? よく聞け? ――――」


 食事処に集まった野郎六人は、鏡利の言葉に耳を傾けた。

 そして…………。


                ☆


「以上が、来月の学院行事です。問題はないですか?」

「異議なしです」

「異議なしです~」

「異議なし」


 生徒会長に反対する意見は上がらなかった。


「では、今日の会議はこれで終わりです。みんなご苦労様でした」


 その言葉で、全員の緊張の糸が解けた。


「ふぃー、疲れたぁ……」

「書くこと多すぎて疲れましたよぉ」


 書記と会計の二人は机にぐてーっと倒れ込んだ。


「お疲れ様です会長」

「お疲れたちばな。あなたは私が見落としていた細部まで目を配ってもらっていた。お陰でミス一つなく来月の行事を決めることができました。ありがとうね」

「いえっ! すべては会長の為、この体朽ち果てるまで使える所存です!」

「そ、そう」


 祐介の献身的すぎる姿勢に若干引く会長。ぎこちない笑みを祐介に向けたが、祐介はそれで満足してフィーバーしてしまった。


「そういや会長さん。あの件はどうなったんだい?」


 ふと思い出したようにベルちゃん先輩が会長に問いかけた。


「あの件なら無事承認されたみたいよ。心配しなくて大丈夫」

「そ、ならいいわ」

「自分から聞いておいてその素っ気ない返事は何ですか、ベルちゃん先輩。会長に失礼です」


 フィーバー中だった祐介はベルちゃん先輩の言葉にムッときて我に返った。

 ベルちゃん先輩はあくまで反省する気はない。


「アンタの気にすることじゃないから何でもいいじゃない」

「気にします! 内容じゃないですよ? 会長への態度を気にするんです」

「ハァー、祐くんってば本当に会長大好きね。ドン引きされてるのわかってないの?」

「グッ……!! ドン引き……だと……」


 ベルちゃん先輩の言葉が槍となって祐介のハートを貫く。ドン引きされている。これ以上心に来る言葉を祐介は知らない。

 しかし、祐介は精神が壊れるギリギリのところで持ちこたえる。壊れてしまったらもう会長を感じることができないから。


「……たとえ嫌われようとも、俺は死ぬまで会長と共にいる。そう決めているんだ……ベルちゃん先輩にはわからないでしょうねぇ、俺のこの気持ちがッ!」

「あぁわかんねーよ。わかるわけないだろ理解不能だよお前の思考回路は」

「わかるのは祐くん先輩が気持ち悪いってことだけですね~」


 さらにアシリアも祐くん貶し隊に参加する。

 それによってまた悲しみの連鎖が続くと思われたが、


「ちょっと二人とも、さすがに言い過ぎじゃない? たちばなが可哀想よ」


 会長は二人を宥めるように言ったが、この発言が逆手に取られることになった。


「ホレみたか橘祐介! 会長がお前を呼ぶときは必ず名字だ! これが意味するのはアンタは会長の中でただの生徒会仲間としか思われていないということだ! ふははははは! 残念だったなぁ!!」


 生徒会長と祐介の好意は反比例のようなもの。祐介が思えば思うほど会長は引いていくのだ。だが、祐介が会長を嫌ったところで会長からの好意がもらえるわけではない。だから反比例の『ようなもの』なのだ。


「くそ~~、会長! 一度でいいんです、俺に愛してると言ってください!! 俺はそれだけで極楽浄土へ逝けるのです!! どうか!」

「ごめんなさい!」

「ガーン!!!」


 会長が祐介の愛に応えることはなかった。


「んじゃ、私はちょっとジュースでも買ってこようかね」

「あ! 私もついていきます~」


 流れをぶった切るかのようにベルちゃん先輩とアシリアは部屋を後にした。


                ☆


 ベルちゃん先輩とアシリアは生徒会室を出て、自動販売機へと向かう。


「ベルちゃん先輩ってことあるごとに祐くん先輩に突っかかっていきますよね~。他の人にはそんなことしないのに」

「だから何だっていうのよ。アシリアにとやかく言われる筋合いはない。あとベルちゃんって呼ぶな」

「いやぁ~そうですねぇ、私は関係ないです~」


 アシリアは含みのある笑みを見せながら言った。


「ニヤニヤしてんじゃねーよ。大体、アシリアは先輩に対する態度が――」


 ベルちゃん先輩の言葉は、前から全速力で走ってきた男子生徒とぶつかって途切れた。


「いったぁ……何すんだよテメェ! 私を誰だと思って――「すんませーん!! 急いでますんで!!」

「あらら、行っちゃいましたね」

「なんて逃げ足の速いヤツ、今度会ったらただじゃ済まさないわ」

「なんだかさっきの人すごく華奢でしたね」

「はぁ? アホ臭い。華奢な男なんて私は一人ぐらいしか心当たりが……いや、そんなのいなかったわ」


 既に廊下の奥に消えていった男子生徒を不審に思いつつも、二人は追いかけずジュースを買うことにした。


                ☆


 二人が出てからの生徒会室。


「……」ジー

「……なんでずーっと私を見てるのかなー? たちばな」


 会長と祐介は向かい合わせで席についていた。そこに会話はなく、ただ祐介が会長の顔を無言で眺め続けているだけである。


 …………。


 先刻会長が言葉を発してから数分の時が経った。しかし一向に祐介が会長から目を離すことはない。


 ……気まずい。


 会長は若干恥ずかしがり屋なところがある。こうしてずーっと男の人に凝視され続けられるのは少々辛いものがあった。


「ねえ? いつになったらやめてくれるのかな?」


 遠回しでもなんでもない、ストレートにやめてくれと頼む会長。その言葉に反応してか、祐介の額にちらほらと汗が浮かんできた。そして、


「ぐあーっ! だめだぁー! なんでだー?」


 吹っ切れたように仰け反り息を吐く祐介。会長はやっと終わった、と安堵の息を吐いた。


「一体何をしていたんですかたちばな。何かしゃべるわけでもなくじーっと見るなんて。私がセクハラだーって言えば捕まっちゃいますよ?」

「そんなセクハラだなんて違いますよ会長セクハラだなんて」

「なんで二回言ったのかな……」

「大事なことだったのでつい」


 祐介は改めて「オホン」と咳払いをして続けた。


「俺が視ていたのは会長のふつくしいお顔ではなく会長の情報です」


 祐介は自分の目を指差し会長に見せた。祐介の目は魔法を使うと黒から青色へと変化する。魔法を使っていたことは明らかだった。


「もう、寮内での魔法はいけませんよ? よりにもよって生徒会長である私の前で堂々と使うなんて」

「魔法なんてのは気付かれなかったらいいんですよ。しかしおかしいんですよね、前々から不思議だと思っていたけど今回で確信へと変わったことがあるんです」


 ここで祐介は言葉を区切る。何を躊躇しているのか、と会長は呆れた。


「言っていいですよ。私も暇だし」


 ここでやめられたら視られていた時間が勿体ないというモノだと思い、会長は言葉の先を促した。

 祐介は一度言うべきか迷ったが、覚悟して言うことにした。


「会長は……」

「私は?」

「会長は……なんでこんなにも可愛いんだt」


 瞬間、祐介は会長にビンタされていた。対面に座っていたはずの会長から余波もなく一瞬のうちに。


「いい加減にしてくださいね? 次言ったらビンタだけじゃ終わりませんよ?」

「ふ、ふぁい……」


 謝りつつも、会長にビンタされるのも悪くないと思った。橘祐介……とんだ救いようのない男である。


「もういいです。私は自分の部屋に戻ります」


 会長が生徒会室のドアを開けようとしたその時、ドアは外側から勢いよく開けられた。

 ドアを開けたのは、全力で走ってきたのか息も絶え絶えになった男子生徒だった。


 その必死な雰囲気を感じ取った二人は、先程までのおちゃらけモードから一転して、真面目に生徒会モードに切り替える。


「どうしたんですか。生徒会に何か御用ですか?」

「は、はい……実は」


 男子生徒は語った。

 それを聞いて二人は唖然とした。


「何てことでしょう……たちばな!」

「前々から馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが……まさかこんなことになるなんて!」


 二人は慌てて生徒会室を後にした。

 生徒会室。

 とある事件の報告に来た男子生徒は一人取り残されてしまった。


「……」


 男子生徒は携帯を取り出してある男へと連絡を入れる。


『生徒会の誘導に成功。会長と橘が行動を始めた』


 メールを送信し、男子生徒は生徒会室に入り、開きっぱなしのドアを閉めた。


「さて、俺のできることは――っと」


 パシッと手を叩き、唱えた。


「ザ・バースト……ブレンドスモーク!!」


 合わせた手から煙の発生。生徒会室の天井に備えられた火災報知機が鳴るまで、それほど時間は要さなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ