寒すぎて、熱すぎて
前半部分に多大なメタ成分アリ。苦手な方は三ツ星までスクロールしてからお読みくださいませ。
「うぁ~疲れた」
晴人は両腕を天にかざし、大きく伸びをした。
「演習終わってからずっとそんな感じだね、晴人君」
晴人の隣ではにかむリナ。晴人はいつにもなくげっそりしている。
「だってあれの後だぜ? 元気もなくなるっての」
「ま、私たちも結構しんどかったけどね~」
と、アリスが言う。
「じゃな。アリスの攻撃には手が痺れさせられたぞ」
エルナは手をブラブラしながら笑った。
現在、晴人たちは演習を終え校舎へと戻ってきていた。
俗にいう、放課後というやつである。
「リナとアリスは部活とかやってんのか?」
晴人が二人にそんな質問を投げかけた。学生というものは部活をする生き物である。晴人はそう思っていた。
「逆に晴人君ってどんな部活してたの?」
アリスが聞き返す。晴人は迷わず答えた。
「いや、何もしてないな。部活は」
「矛盾しておるぞ晴人。地の文と」
「どう思ってよーが俺の勝手だ。で、お前らはどうなんだ?」
「私は女バスだよ」
「私は美術部だよ」
「ちょっと待て、ここにきて重大な問題が発生した!」
重大な問題。それは、小説では割とありがちなもの。
誰が何を言っているかわからないということだァーッ!!
☆
と、いうわけで教室。
「では、緊急会議を始める……議題は『リナとアリスそれぞれの一人称と言葉使い、二人称(柊晴人)の呼び方』である。議長はこの私、柊晴人である!」
バンバンと晴人は机を手でたたいた。
「では解説役のエルナさんに、この事態がどれ程深刻なものかの説明をしてもらう。エルナさん、どうぞ」
「了解仕った、議長よ!」
晴人の隣の席に座っていたエルナが立ち上がった。彼女の顔には、どこから持ってきたのかメガネが掛けられていた。
「ではまず、何故この会議が開かれることとなったかの説明をする。リナとアリスの両者は、一人称も同じ。何か特別な語尾もなければ議長を呼ぶ際も『晴人君』で、文章から二人のどちらが喋っているかを理解するのは困難じゃ。先ほど、両者が非常に似通った回答をしたため、議長は文面からどちらが何を言ったのか理解できなかった。議長でさえわからないというのに読者の皆様に理解されるはずがなかろう……このまま二人がこの問題を解決しなかったら、何が起こると思う?」
エルナは掛けているメガネをくいっと上げた。
「それは、アリスとリナを同じ時間軸での行動が禁じられるということに他ならない! 簡単に言うとこうじゃ。あー、コイツらキャラ被ってんな―。使いにくい―」
二人を行動させるにしても、別々の場所にやっておく必要がある。そういった配慮が必要になるということだ。
「こうなってしまったら二人は作中で会話することが出来なくなってしまうぞ? 設定上は友達じゃが、作品の中でそういった描写が出来なくなってしまうのじゃ」
バンバン! と議長、晴人は机を叩いた。
「これから二人には新たなキャラの獲得をしてもらう。自分を見つめ、個として輝けるように――――頑張るのだ!!」
討論……解☆禁。
「治すのが簡単そうなのは一人称じゃない? どちらかが『私』、どちらかが別の一人称を使えばそれでオッケーだよね」
エー今回は特別に言葉の前後にどっちが喋ったかを必ず付けるようにする。そして気が向いたら地の文を飛ばしながらセリフだけで読んでみるといい。それで二人がそっくりだということがわかるだろう。
ちなみに、さっきのはリナである。
「でもでも、簡単っていってもずっと使ってきた一人称をいきなり変えるのは意外と難題だったり。『私』は急に『私』を使っちゃダメっていわれても多分話しているうちに元に戻っちゃうと思うなー」
アリスは腕を組んで難しそうに唸った。
「変えるって思うから駄目なのよ。自分は最初からそうなんだって思い込むの。そしたら一人称なんてすぐ変えれる筈よ!」
と、リナ。
リナの言葉を聞いてアリスはじゃあ、と繋げた。
「じゃあ、そこまで言うんならリナちゃんが変えるといいんじゃない? 私は馬鹿だから難しいことはできないけど、リナちゃんは器用だからできそーだよね」
「何よそれ、『私』だけ変えろっていうの? そんなの理不尽じゃない。そもそも先に登場してたのは『私』よ!」
「くっ! そう攻めるわけね……」
リナは出番の多さを引き合いに出してきた。しかしそれで引き下がるなんて選択肢、アリスにはなかった。
「だったら二人称をどうにかしようじゃない! リナちゃん……あなた自分で気付いてる? 彼のこと……ひ「ストップストップストーーーーップ!!!」
リナが風の魔法で周りの机を吹き飛ばしながらアリスの言葉を遮る。
「なによー、自覚あったの? 例の愛称」
「……わかってるわよ。時々勝手に出ることは否定しないけど……」
「リナちゃん的に『晴人君』ってのは変えられないの?」
リナは、アリスの言葉に肯定することができなかった。
「うん。それ以外はないと思っている」
アリスは、妥協したようなため息を吐いた。
そして、笑った。
「しょうがないなぁ、リナちゃんは……わかったわかった」
アリスは晴人のほうへ顔を向けた。
そして、彼女ははにかみながら、晴人の名を呼んだ。
「これからはハルくんって呼ぶから! そこんとこ、よろしく!」
「うむ。ならば、アリスが晴人を呼ぶときはこれからは『ハルくん』と基本的に呼ぶのじゃな?」
「うん。個性を出すのは大切だからね」
バンバンと晴人が机を叩いた。ちょっと癖になってきているようだ。
「まあ、アリスがいいならいいんだけどね。二人称が決定したところで、早速だけど次の議題といこうか」
もう一つの議題は、一人称についてである。
「これはね。簡単な解決方法を思いついたんですよ『私』」
リナが得意気に切り出した。
「随分自信があるみたいだけど、一人称を変えるなんてわたしはヤだよ? ……えっ?」
アリスは自分の言葉に違和感を覚えた。
今、大切な何かが違ったような気がしなかった? あまりに唐突過ぎて、気付くのに一瞬遅れてしまった。
しかしそれは、あまりにも……大きな…………、
「な、なんで!? |わたしの一人称がわたしになってる《・・・・・・・・・・・・・・・・》!?」
「理解したかな、アリス君? これが創生者の選択だよ」
リナは、創生者を味方につけたというのか!?
「おーけいおーけい、つまりこういうことね。わたし、アリスの一人称はそのナントカってやつの手腕一つで変えられたってわけ」
「創生者も言ってたよ。そこに気付くのに数週間を要したってね」
「創生者とはいったい……うごご」
バンバンバンバン! と血相を変えながら晴人は机を叩いて会話を制止させた。
「ちょっとお前らフリーダム過ぎ!! 冷静になれ、そもそも創生者って誰だよ!!」
「あれ? 晴人君それ聞いちゃうんだぁ……」
「ハルちゃんいいの? これを聞いたってことはもう後には戻れないよ?」
「えっ……えっ? なんなんだよお前ら! 待て、止めとく。おい馬鹿! 近づくな! ソレを俺に教えるんじゃなななななななななnnnnnnnnnn――――」
その後、三人の姿を見たモノはいない。
「さて、本日の学級会議はいかがだったかの? 真面目なパートということもあり、最初から最後までシリアス全開だったのじゃが……なに? 寒すぎ? はっはっはっは、みんなに変わって余が頭を下げるのじゃ。なんかこう、すいませんでしたのじゃ」
そんな感じで、グダグダな放課後だったのさ。
☆
☆
☆
その日の夜、男子寮、晴人の部屋。
一人部屋の彼の部屋に、訪問者と思しきノックが鳴った。
「お……おじゃましまーす」
「おっ! 来たか、フライヤ!」
フライヤは晴人にお呼ばれされて彼の部屋まで来ていた。服装は寮指定のジャージだ。
「つか俺の部屋でよかったのか? 今彼でもお前の部屋まで行ってもいいんだけど」
「ダメだよ! ダメダメ!! ダメだからねっ!!?」
慌てて拒否をするフライヤ。手をブンブンさせて顔をブンブンさせる。
「ご、ごめん……」
全力で拒まれてちょっと晴人は落ち込んだ。
「わわっ! 気にしないでよ! 僕が好きでここまで来たんだから」
「そうか? それならいいんだけどさ……ま、座りなよ」
「あっ、どうも」
フライヤは晴人の前に座り、ジャージを脱いだ。下は体操服だ。寮の個室はちゃんと暖房が効いているのでジャージだと熱いのだ。暑いのではなく、熱い。
……状況を整理しよう。
まず初めに、フライヤは女の子である。寮だってちゃんとした女子寮があり、普段はそこで生活している。
次に、晴人はフライヤを男だと思っている。今回フライヤが夜だというのに男子寮にいるのは主に晴人の勘違いが原因である。
最後に、「じゃあフライヤが断ればよかったじゃん」という疑問に対する説明だが、ランドレットには晴人が気兼ねなく話せる友達がいない。そこで晴人がようやく見つけた男友達がフライヤだったのだ。彼女は、ここで晴人の誘いを断れば彼がひどく落ち込むだろうと思った。だからこのような状況に陥ることになった。
「で、さ。柊は僕と何の話がしたかったの…?」
そう問うフライヤの言葉には若干のぎこちなさがある。彼女的には男っぽくふるまっているつもりだ。晴人のことをあえて名字の柊で呼んだり。ちなみに、僕という一人称は元々のフライヤの癖だ。所謂、僕っ娘である。
声で気付くだろ、そう思う者もいると思う。だが安心してほしい。
晴人は、男女の区別を胸で行う傾向がある。それが全てというわけではないが、フライヤの場合はいろいろな事情が相まってこうなってしまったのだ。
「まあ、そのなんだ。あの時、助けてくれてありがとよ。言い忘れてたと思ってさ」
晴人にそう言われて、フライヤは演習での出来事を思い出した。
高水圧の仁との戦い……仁は候補生の一人である。晴人のような魔法を使えない人間が戦える相手ではない。だから運がよかった。偶然通りかかった時、劣勢になっていた晴人たちの様子を見てフライヤは助太刀したのだ。
そもそも、クラスメイトを助けるのはフライヤにとって当たり前のことなのだ。
だからフライヤは当然の返しをする。
「なんだ、そんなこと気にしなくてもいいのに。僕は当たり前もことをしたまでだよ」
「その当たり前のことを当たり前にするってのは簡単なことじゃないと思うぞ。フライヤはすげーよ! おおすげぇ! マジ神!」
「そんなに褒めないでよ照れるじゃん!」
目を逸らして必死に平静を保つ。フライヤは褒められとすぐに顔を紅くしてしまう癖があるのだ。
「うぅぅ~~」
我慢したが、駄目だった。フライヤは徐々に顔を硬直させていき……
「うわぁぁぁぁ! どうしたフライヤ!? 大丈夫かーーッ!!」
プスプスと蒸気が昇り始めていた。オーバーヒートしているといっても間違いではないレベルだ。
「どっどど、どうしよう!? そうだ!!」
慌てた晴人は水道へと急いだ。そして常設されていたフライパンに水を溜め、フライヤにぶっかけた。
どういう暴挙だ、というツッコミは控えていただきたい。晴人も気が動転していたのだ。
「落ち着け! フライヤ!」
「ぅぅ……へ?」
見ると、目の前には宙に浮いた水が……
「キャーーーーっ!!?」
「えっ? キャー?」
ざっぱーんとフライヤは頭から水をかぶった。
「……」
「だ、大丈夫か?」
晴人は水で濡れたフライヤを見た。
ショートの髪から滴る水滴。水によって透ける体操服。未だにほんのり熱気を帯びた頬に、潤んだ瞳。
――何かこうして見ると、女の子みたいだって…………
「イカンイカンイカンイカーン!!! 落ち着け落ちつけ落ち着け!!」
晴人は頭をガンガンと床に打ち付けた。隣の壁をガンガンと殴りつけた。
「うるせぇ!!!」
すぐに殴り返された。
「ごめんフライヤ!! 咄嗟に鎮火しなきゃって思って……」
「ううん、大丈夫だよ。ちょっと服がぬれちゃったけど……くちゅん!」
フライヤ、くしゃみをする。男らしさなんて出す余裕はなかったが、晴人には気付かれなかった。
代わりに、晴人はある提案をする。
「風邪ひいちゃまずいよな。よっしゃ! 今から風呂いくか!」
「うえっ!? お風呂!?」
「安心しろ、俺風呂はまだ入ってねーからさ!」
「いやいやいや! そういう問題じゃないって!」
「なんだ? フライヤはもう風呂に入ってたのか?」
「入っては……ないけどさぁ」
ここで、もう入ったと言えないのはフライヤの素直なところである。
「だったら問題ないだろ、風邪ひいちまうぞ。早く行こうぜ」
フライヤの小さな手を取る。晴人は風呂に行く気満々である。
この流れに逆らうことは、フライヤにはできなかった。
「(誰もいませんように……!!)」
フライヤは切実に、そうなるように祈った。
☆
そして風呂場、の前の脱衣場のトイレの一室。
「(どうしようどうしようどうしよう!!)」
フライヤはちょっと催したからと言って晴人を先に風呂に入らせた。
「(偶然他の人はいなかったけど、普通男の人って、し…し、下しか隠さないよね!? だったら僕が上も隠してたら不自然。柊君だったら多分……)」
『どうして上まで隠してんだよ。別に男同士なんだから恥ずかしくないだろ』
「(みたいに遠回しに脱げって言ってくるよぉ……)」
フライヤは自分の胸を見た。晴人を視覚的に男だと錯覚させるぐらいには貧相な胸である。
「(うわぁ、案外バレないかも……ってそれはダメだよ! 僕にだって女としてのプライドがある!)」
男だと勘違いされて流れに身を任せてここまで来てしまった、とんでもなく軽いプライドだが、それでも最低限の矜持はあったようだ。
「(……いつまでもこうしてると逆に柊君に不審がられる。そろそろ行かなきゃ……でもどうするの? 僕の女の子な部分を柊君に晒すの? ってそんなわけないでしょーーーっ!!)」
心の中でシャウトしたとき、天啓がひらめいた。
「そうだよ……それしかない」
フライヤは、トイレの扉を開けた。脱衣場を一瞥して、人がいないことを確認する。
風呂場の扉が開かれた。
「おっ! フライヤか。先入ってるぜー」
湯船の中で泳いでいた晴人は風呂場に入ってきたフライヤを見ようとしたが、
「うおっ! まぶしっ!」
「ん? どうかしたのかい柊」
ペカー、とフライヤの全身から眩い光が放出されていた。
「どうしたってお前……なんで魔法使ってんだよ。それじゃ何も見えないんじゃないか?」
「いいんだよ。僕は見えるから(むしろ見られるとまずいんだよ!)」
チャポン、と音をたてフライヤが晴人の入っている湯船に入る。依然として激しい光を伴っている。
「魔法のことは気にしないとして、風呂っていいよなー。昨日までは船の上だったからこうしてゆっくりできるのはホント極楽ぅ~」
「そういえば、柊はイギリスからリナさんに連れられて来たんだったね。なんでもイギリスの革命の立役者だとか」
フライヤは光で裸体を隠しているが、恥ずかしさで昇天しそうになっていた。それでも、なんとか声色を制御して話題を切り出した。それもこれも、今自分が女だと悟られないように、
「立役者って……俺はあれだ、ちょっと居合わせたがけだよ。イギリスの自由はイギリスの国民たちが自分で勝ち取ったもんだ」
「それでもすごいと思うよ、僕たちと同い年なのに。柊は大人びているというか……僕たちは安全な学院の中でぼんやり過ごすだけだっていうのに」
「行く先々で事件が起こる俺としてはランドレットは安息の地だよ。演習は何人か殺気立ってるやつもいたけど、ほかは普通の学校と同じだ。というか学校ってのは元々安全であるべきだろ」
「そう、だよね。危険なことなんてないほうがいいに決まってる」
フライヤの言葉は意味深げだった。晴人は何となくそう感じ取ったが、別に聞き出すことじゃないだろうと結論付ける。
「……そうい「柊ってさ、僕の魔法について何も訊かないんだね」
フライヤは晴人の言葉をあえて言わせないように切り出した。
「……いまこの場で魔法を使っていることについてか? それならさっきもう気にしないことにしたんだけど」
「そうじゃない。僕が持っている魔法について訊かないんだねって」
「聞いてほしかったのか?」
質問みたいなフライヤの言葉に、晴人はまた質問で返した。
「どうだろうね。今まで僕が出会った人は例外なく聞いてきたから」
「そんなこと、聞いてどうするんだろうな。魔法を全く知らないってんなら気になるのもわかるけどさ、実際俺も初めて魔法を見たときはそうだったし……だけど聞いてくるのは同じ学院の連中だろ?」
「うん……そうだよ。僕の魔法と、名前を知った生徒たち」
フライヤは、体操座りをするように膝を抱えた。
「最初はいろいろ聞かれて僕もうれしかったんだ。みんなから注目されたり求められたりするってことがそれまでなかったから。僕にこんなに興味を持ってくれるんだ、って思った……でも違ったんだ」
「……」
晴人は黙ってフライヤが続けるのを待った。
「あの人たちの興味は僕に向いてはいなかった。あの人たちの興味は一から十まで僕の魔法だった。高等部に入ることで手に入れた、三つ目の魔法……ライトニング」
「ライトニングって、あの時俺たちを助けてくれたやつか」
水属性の候補生、水圧の仁との戦い。フライヤはライトニングを使うことで仁に圧勝した。
そういえばフライヤが出てきたときの仁の反応は中々のものだったな。まるで予想だにしていなかったようだった。
「魔法を使うやつらにとっては、それぐらい凄いのか。ライトニング」
「すごい、とは思う。けどそうじゃないんだ。ライトニングを手に入れたことで僕は光属性の候補生筆頭になったんだ。だから、ただそれだけでみんなが手のひらを返すみたいに……」
「ようするに、今までまるで相手にされなかったのに、候補生になったとたん群衆が群がってきたってわけか」
「いやでもっ! リナさんとかアリスさんは昔から仲良くしてくれてたよ!」
「アイツらはお人好しそうだからなー。どんなやつとでも仲良くするだろうよ」
「……僕から候補生を取ったら何が残るんだろうね。誰も相手してくれない、悲しい人間になっちゃうのかな?」
自虐するようにフライヤは言う。晴人はスイーと光るフライヤの前まで泳いで、言った。
「俺は普通に好きだけどな~フライヤ」
「っ!? すす、好きって!!?」
急にそんなことを言われて慌てたフライヤ。バシャバシャとなる。
「そんなに驚くことか? 魔法なんて関係ねーよ、俺たちズッ友だぜっ?」
「……ホント?」
晴人は、もちろんさ。と答え、
「さぁーて、俺はサウナのほうに行ってみるけど、フライヤも一緒にどうだ?」
晴人はそう言いながら立ち上がった。当然全裸だ。湯船にタオルは持ちこんじゃ駄目であるから。
「あ、あぁ……」
フライヤは発光してはいるが、何かが見えなくなるということはない。魔法は本人には効果がないのがデフォルトだからである。
つまりフライヤにはすべてが見えていた。
「ん? どうしたフライヤ」
「そっ、その……」
ズバリ、フライヤは晴人のナニを目の当たりにしたのである。
「………………ボク、ノボセチャッタカラサキニデテルネ」
「お、おう(なんでカタコト?)」
光で挙動は見えないが、フライヤはカタカタと歩いて脱衣所へ向かったが、フライヤが扉に手をかけようとしたとき、その扉は勢いよく開かれた。
「む、眩しいな。誰だ魔法を使ってるやつは」
「」ペカー
言葉はない。放心だ。放心するしかないだろうこの展開は。
「まあいい、俺の『眼』で見れば済むことだっ「させるかぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
「ゴフ―――ッ!」
フライヤは入ってきた男をビンタで吹っ飛ばして脱衣所へ侵入、自分の着替えを取って去っていった。
「……」
「……」
大の字になって倒れている男と、湯船で唖然としている男。
気まずい時間が流れたところで、晴人が大の字の男に近寄ってみた。
「……大丈夫か?」
「……問題ない」
ムクリと立ち上がる大の字だった男。
「さっきのやつは、誰だ」
まあわかんないだろうな、と晴人は思った。
フライヤは光の魔法で全身を隠していた。その上ちゃんと会話する前にビンタされたこの目の前の男に正体を悟られることはないだろう。
この場で晴人がばらしてしまわなければ。
「寮内での魔法使用は基本的には禁止だと君も知っているだろう。俺としてはさっきのやつを叱りつける義務がある……もう一度問う。さっきのやつは、誰だ」
「……誰だろうな。アイツは最初からピッカピカ状態だったよ。話もしてねーよ」
晴人はフライヤを庇った。折角ランドレットでできた友人だ。晴人はそんな友人を易々と売る人間ではないのだ。
「ふむ、そうか……」
男は、晴人の顔をじっと見つけた。
じーっと、
「おいおいなんだぁ? 俺は男にじろじろ見られるのはゴメンなんだけど」
「……」ジー
晴人はちょっと仰け反りながらため息を吐いた。
そして、アホらしいといった口調で告げた。
「いつまで見てんだよ。寮内での魔法は禁止なんだろ?」
「……っ! 俺はいいんだよ。公務ってやつだ」
男はまさか目の前の晴人に言い当てられるとは思っていなかったのか、過剰に動揺した。
「なんだよそれ。ひきょーだぞー!」
「まあ気にしないでいい。ゆっくりと風呂を堪能していくといい」
「そうさせてもらうよ」
晴人は身体を洗った。
「……」ジー
晴人は湯船につかった。
「ふーっ! 生き返るわぁー」
「……」ジー
晴人はサウナに入った。
「ジー」
「ってなんやねんお前は!! さっきからジロジロジロジロ、うっとおしいわっ!! あーもう! イライラしすぎてツッコミが関西っぽくなったじゃねーか!!」
男は、ようやく晴人を見るのを止めた。
そして、次に放った言葉は、
「お前……どうして魔法を持っていないんだ?」
「……へぇ。ただ闇雲にジロジロしてたわけじゃないってことか」
男は、晴人が魔法を持っていないということを当ててみせた。ちなみに、正真正銘晴人と男は初対面である。
「そんなずっと無意味に男の顔なんて見る訳ないだろう。俺は同性愛者か」
「いや、そうなのかとばかり」
「違う! 俺は生徒会長一筋だ!!」
「うおっ! そ、そうですか……」
男の圧倒的剣幕に押され、仰け反る晴人。サウナの中なので、熱い。汗をかいている。
「というかそんなことは周知の事実と思っていたが、まさか知らない人がいたなんてな」
「あーもしかして彼女なの? その生徒会長」
「いや?」
「えっ」
「えっ?」
男は汗だくだが涼しい顔で否定した。
「まああれだ。どうせお前は俺のことも知らないのだろうきっと。そうに違いない! だから自己紹介でもしておこうか」
「あ、あぁ。よろしく」
「俺の名前は橘、橘祐介だ。この寮の生徒会副会長をしている」
晴人はその名前を聞いて飛び上がりそうになった。
で、晴人が何か言おうとしたのを祐介は手で制止した。
「言いたいことはわかる。同じ国の出身ってわかって驚いたんだろう? 柊晴人」
「おまっ! なんで俺の名前がわかったんだ!?」
祐介は自分の目を指差した。
「俺の眼は、顔を見た人物の情報を視ることができる。異常系魔法の一種だ」
「すげぇな。そんなことも出来るのかよ、魔法って」
「この眼を使えば簡単さ。例えば柊が魔法を持っていないということも丸わかりだ。高等部の生徒なら普通は三つ持っているはずなんだけどな」
「だから気になったのか。俺が魔法を持っていないってのが」
「ああ。何故かブロックがかかっていて深くまで情報を覗くことができなかったんだ。わかったのは名前と魔法の有無と好きな食べ物ぐらいだ」
「疑ってるわけじゃないが、一応、俺の好きな食べ物はなーんだ」
「それを言わせる気か!? 数千はあったぞ確か」
「おぉ! 本当にわかるんだな! すげえ!」
手を叩いて小躍りする晴人。頭大丈夫かこいつと祐介は思った。
「おい、ここはサウナだぞ。そんなに暴れて気を失ったらどうするつもりだ」
「ダイジョブダイジョブー!」
フラッ、と晴人が音もなく崩れ去った。
「おい! 柊! しっかりしろ! おい!!」
そこから先は、何も覚えていない――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。
更新遅れたぁぁぁぁ!
というわけで次回『諦めの悪いやつら』




