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レボリティー・レポート  作者: アルフ
魔法学院編
42/55

ヴァルハラの祭禍


 アリス曰く戦闘区域の建物にて



 晴人たちは、廃ビルの中を駆けていた。


「本当に一階には誰もいないみたいだな」

「人がいないだけで、こんなに不気味な雰囲気になるんだね。いつもの激戦地とは思えない」


 廃ビルのあちらこちらには戦闘をした痕跡がある。散乱したデスク。長い間掃除されていないのがよくわかる大量の埃。焼けた壁、そして……ごく最近のものから古いものまで、いかにここが戦場となってきたかよくわかる。


「それにしても広いビルだな、以前は何に使われてたんだろうな」

「私もよく知らないな。初めての演習のときから廃ビルだったから、少なくとも私が生まれる前からあるんじゃない?」


 階段を見つけ、二人は二階へと進んだ。構造はさっきと同じ、ただのビルなのだから階層ごとに内装が違うことはないのだから、当然といえば当然である。


「爆発から、また何も聞こえなくなったよね」


 アリスが、ふとそんなことを言い出した。


「……ああ」


 晴人だってそんなことはわかっていた。三人の身に何があったのか気になって仕方ない。


「小さいおっさんは三人いるって言っていた。でもチームは基本的に二人一組。だったら、二対一で戦っている可能性が高いんだろうな」


 恐らくさっきの爆発で決着がついたのか、決着がついたとして、意識のある人間はいるのか。

 行ってみないことには、わからないことばかりだ。


「次は三階だよ……」


 二人は三階への階段へと辿り着いた。ここまできても戦っているような音は聞こえない。

 意を決するしかない。


「行く、か?」


 晴人は、短くアリスに言う。


「……行くしかないよ。漁夫の利ってヤツ」


 緊張しつつも、その表情には笑みがあった。

 だったら晴人に後退という選択肢はないだろう。


「鬼が出るか、蛇が出るか」


 二人は階段を駆け上がった。

 その先に拡がっていた光景は……死屍累々の数々だった。


 それと、


「っ!! 何故晴人が……!?」

「ひぃ君!?」


 そこに生存者が三人。晴人とアリスにとってはよく知った顔だった。


「エルナに、リナ!? お前たちだったのかよ」

「よかったぁ~、どんなやつらがいるのかと思ったよ~」


 晴人とアリスは二人に近づこうとした。が、




「来ちゃダメェェェェ!!」




 リナの叫び声が鳴り響く。だが、もう手遅れだった。


「ヴァルハラの祭禍、筋力上昇」


 晴人がこの言葉を聞いたときには、もう自分の体は空中を滑空していた。

 晴人の体は予兆もなく吹き飛び、コンクリートの壁に激突した。


「晴人君!? え? 何が起こったの……?」


 状況が理解できていないアリス。リナ達と晴人が飛んだ先を交互に見返す。

 そして、聞こえたのは、囁き。


「戦場で一番危険なのは、現状を理解できないことだよ」

「――ヒッ!!」


 近づかれていたことに気付かず、ごく耳元でその声を不意に聞かされたアリスは、小さな悲鳴を洩らした。

 そして、無慈悲な攻撃が炸裂する。


「今の僕の筋力は、常人の限界点だよ!」


 轟! とアリスの腹目掛けて男の拳が飛ぶ。

 しかし、拳はアリスの腹に命中することなく、彼女の手に防がれた。


「私の怪力を、嘗めないでねッ!!」


 アリスは強引に男の拳を振りほどいた。

 男はアリスと距離をとる。


「誰なの、アイツ……見覚えはあるんだけど名前が思い出せない」


 アリスはリナ達の傍まで寄り、男に聞こえないように言った。

 リナは、ボロボロの体をエルナに支えてもらいながら答えた。


「鏡利の弟よ。私もちゃんと見たのはこれが初めて」


 リナの言葉に、アリスは驚きを隠せなかった。


「鏡利の弟……まさかアイツがあの竜真だって言うの!?」

「なんじゃ、あ奴はそんなに知名度がある男なのか。しかもその驚きようじゃと、相当幅を利かせておるのも窺える」


 流暢に喋ってはいるが、エルナも無事とは言い難い。

 あのエルナですら満身創痍である。この二人の姿が相手、竜真の強さのほどを表していると言ってもいいだろう。


「ふぅ、新手が来たと思ったらこれだよ。まったくもって俺っていうのは毎回ボコボコにされないと気が済まないのか?」


 壁に激突していた筈の晴人が、体に付いた埃を払いながら歩いてきた。


「晴人君! 無事だったの!?」


 アリスが駆け寄る。晴人の体には何も異常は見られない。


「何とか、な。衝撃波みたいなのに吹き飛ばされただけみたいだ。大体、あの威力のパンチをモロに食らったらいろいろな意味で終わりだっつーの」


 ――で、と晴人は竜真のほうを向いた。


「エルナとリナ、それとこの周辺のやつらは、お前がやったのか」


 その問いに、竜真は少々考えるそぶりをする。

 そして、


「僕がやった。と言えば、君はどうするんだい?」


 あくまで、肯定はしなかった。

 だがその台詞は、ほとんど認めたようなものだ。知った顔ぶっている敵の常套句らしい台詞だ。


「どうするか、だぁ? そんなこと決まってんだろ」


 だから晴人は一歩前に踏み出した、そして一言言い放つ。


「一発ぶん殴って、思いっきり後悔させてやるよ!!!」


 晴人は竜真に向かって走り出した。

 繰り出されるパンチ。竜真はそれを難なく首を動かして回避する。


「そうか、君が例の男子生徒だったんだね」


 写真の顔と照らし合わせ、目の前の晴人を倒すべき対象だと結論付ける。


「例の生徒だったら、どうするってんだ。本気で俺と戦う覚悟でもしたのか?」


 晴人は膝で竜真の腹を狙う。しかし、晴人の膝は竜真の左手によってがっちりと固定されてしまった。ピクリとも動かない。


「そうだね。僕としてもあんまりしたくない覚悟をしたよ」


 竜真は、余った方の右手を振り上げた。

 その右手が頂点に達したとき、ヴァルハラの祭禍によって右腕の筋力は極限までパワーアップする。



「僕の覚悟は……君、柊晴人を半殺しにして社会復帰できなくさせるという覚悟だよ!!」



 極限まで能力の上昇した右腕から、隕石の如きパンチが落ちる。

 だが、やられるのをただ待つのは、晴人の性に合わなかった。


「ざっけんな――よッ!!」


 晴人は掴まれていた膝を、肉ごと削ぎ落とすような勢いで強引に抜き、寸前のところでそのパンチの直撃を躱した。

 外れた拳は、止まることなく床へと直下して、三階フロアに一人ぐらいなら余裕で入れるほどの大穴を開ける結果となった。


「腕力だけが取り柄か? この野郎!!」


 竜真が空振りした体勢を立て直す前に晴人は勝負にかかった。全体重を乗せた本気の蹴りを、竜真の顔面目掛けて放つ。

 だが、蹴りは空振り、今度は逆に晴人が体勢を崩すことになる。

 狙いを定めた鋭い蹴りだったにもかかわらず、竜真はそれを超える恐ろしいスピードで回避をしたのだ。


「なっ……!?」


 晴人は超スピードで動く竜真が自分の背後に回るのを微かに捉えた。

 振り返ろうとしたが、その時にはもう遅い。晴人の首は、竜真の腕に絞められていた。


「僕の魔法、ヴァルハラの祭禍は人間の極限を発揮する。だから腕力だけが取り柄でもなければ、素早く動くだけが取り柄でもない。肉弾戦だけなら、今の僕に勝てる人類なんていないんだよ」


 竜真は、首を絞める力をゆっくりと強めていった。

 晴人の抵抗する力もそれに応じて強くなっていくが、その些細な抵抗で解かれるほど竜真の拘束はやわではない。


「あっ……が、は……っ!」


 苦しそうに悶える晴人。竜真は、表情を変えずに少しずつ力を強めていく。確実な後遺症を残す為に竜真が会得した最も簡単な半殺しの仕方だ。

 晴人の表情を見るだけでその苦しさが痛いほど伝わってくる。


「?」


 竜真は自分の肩が掴まれるのを感じた。特に痛みを伴わない、ただの手だ。


「晴人君を放せ」


 掴んでいたのはアリスだった。竜真は彼女が怪力の魔法を使うことがこの時点で予測できていた。この状況で無謀なことをするようなやつはそうそういない。

 だから、


「……放さない、と言ったら?」


 竜真は、その上でアリスを挑発していった。


「潰すよ、今握っている肩……」


 アリスが竜真の肩を粉砕するために魔法を使おうとした寸前、「ただし!」という竜真の声が三階のフロアに響いた。


「ただし、今君が僕の肩を壊したら僕は加減を間違えて(・・・・・・・)一思いにこの男を殺してしまうかもしれない。それでもいいのなら僕の肩なんて片方といわず両肩だって好きにしていい。僕の目的は『柊晴人という男に制裁を加える』ことだけだからね……痛いのは嫌だけど」

「……」


 アリスは竜真の発言を聞いて押し黙ってしまった。依然として肩を握ったままではあるが。

 竜真はさらに言葉を続けた。


「それに、まず僕がこの男を放さないとはまだ言ってないんだよね。そこを間違えないでほしい。君が僕の肩を粉砕するのは、僕が柊晴人を放さないと言った時だけだ。対等には対等を、ということなんだけど……理解できたかな?」

「どういう意味か解らないね。私って頭悪いんだよ」


 竜真はアリスの突然の頭悪い宣言に少し笑った。

 そして口を開く。


「交渉をしようじゃないかってことだよ。僕としてもこの男の命と引き換えに肩を差し上げるは辛いものがある。君だってこの男に死なれるのは嫌だろう? だったら交渉だ。君が僕の肩を掴んでいる手を離してくれたら僕もこの男を解放しよう。解放した後はまたフリダシ、戦闘に戻る……どう? なかなか好条件だと思うんだけど」

「…………」


 アリスは肩を掴んだまま黙って考えていた。


「ダメよアリス! その男は信用できない、どうせアリスが手を離した瞬間に晴人君を殺す気だよ!!」

「煩いですよリナさん。外野は黙っててください」


 竜真は、再び抵抗が激しくなった晴人を観察しながらアリスに催促した。


「そろそろ決めてくれないかな。僕もいい加減こうしておくのがキツいんだよね」


 竜真は晴人をギリギリ大丈夫なラインで固定するのに忙しい。

 これ以上は、本当に晴人が危ない。


「……わかったわ。手を離す」

「アリス!!?」


 アリスはリナの叫びも気にせず、竜真の肩から手を離した。


「おお! やっと放してくれ――ってアリスさん!?」


 むにゅう、という効果音と共に竜真の背中に柔らかいモノが当てられる。

 アリスは竜真の肩から手を離した後すぐに竜真の背中に密着したのだ。これには竜真も動揺を隠せなかった。


「ななな何やってんですか!!? むむ、胸があああ当たって!!」

「私嬉しいなーって思って。竜真くんなら晴人君を解放してくれるって信じてた」


 竜真くんと呼ばれ顔を真っ赤にする様は、どこからどう見ても女慣れしていないDT乙反応であった。


「そ、そうだったね。解放するのは約束だ」

「うごほぁっ!!」


 奇声を上げ、竜真から距離をとる晴人。息を整えようと必死に咳き込む。


「あー死ぬかと思ったぁ! すぅぅぅぅぅぅぅぅ……はぁぁぁぁぁ!」


 天井を仰ぎ、大きく息を吐いた。

 そして竜真をきっと睨む。


「この落し前はゲホッ、キッチリと耳をそろえて返してもらうで? 耳をそろえてなぁ、竜真はん」

「アリスさん/// やば、ヤバいですって///」

「もうちょっとだけぇ~ん」


 極道チックにそう言い、竜真のほうを見た晴人は、世にも不思議な現象を目の当たりにしているようだった。


「え、あ……アリス? 何やってんねん……?」


 ポカーンと呆け、その様子を見た。そして思う。


「ど、ドユコトコレ!?」


 晴人の率直な感想である。

 竜真も、若干気持ちよさそうにしながらも、やらねばならないことをするために振り切った。


「ああ、もう! いい加減離れてくださいって!」

「きゃっ!」


 アリスの小さい悲鳴を聞いてやっぱりもう少し……なんて思いつつも竜真はアリスのほうを振り返った。


「……え?」


 そこで竜真は先程の晴人同じく世にも不思議な現象を目の当たりにしているような表情をした。


 肩を覆う障り心地のよさそうなモサモサ。プニプニな肉球。頭から生えた可愛い耳。

 そして何より、見つけた獲物は絶対に食らい尽くす百獣の王の眼光。

 アリスは、竜真の背後で、気付かれないように変身魔法を使っていたのだ。


 竜真は呆けた……決して油断してはならない状況で、ほんの少し油断してしまった。



 その油断が命取り。


「猫パンチ!」


 アリスの右手が竜真を襲った。両目を閉じ、かわいらしい技を叫びながら攻撃する姿を間近で目撃した竜真は「あ、ちょっと食らってもいいかな」なんて心の中で思ってしまっていた。

 事実、竜真に振りかざされる猫パンチを避ける術は本当になかった。アリスの猫パンチは、竜真が見せた一瞬を的確に、そして獰猛に狙っていたのだから。その、獲物を狙う性質も得ることができるのが変身魔法の本質だ。

 そして、竜真の振り返った時、無造作にぷらーんと放り出された右腕に猫パンチが直撃する。


「ごっ……!」


 次に、グシャァ! と骨が砕け散る音が響く。


「~~~~~~~~~~~~~ッッッ!!!」


 今まで味わったことのないレベルの激痛が竜真の体を支配する。声にならない声を上げ、あまりの激痛で満足に動くことすら敵わなくなる。

 勝負は、決した。


「俺の……いや、俺たちのチームの勝ちだ。早くその右手を治したほうがいいぜ」

「くっ……僕の、負けか」


 竜真は潔く負けを認めた。そして、激痛が走るのにも関わらず、両手、頭を地面につき、謝罪した。


「……変ないちゃもん付けて申し訳ございませんでしたァ!! 本当に、本当に申し訳ございませんでしたァ―――!!!」


 急すぎる態度の変化に場にいる全員が竜真のほうを見た。

 竜真はガバッと顔を起こした。そして、



「イービルアイ」



 竜真は、禁忌とされている魔法を唱えたのだった。


                ☆


「ハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」


 今にももげそうな腕などまるで気になってないような竜真の笑い声が三階フロアに木霊する。

 晴人とアリスは不思議そうな顔、リナとエルナはまずいといった表情を浮かべている。

 さっきから一ミリたりとも表情を変えず、ずっと。


「まんまと引っかかったな! まんまと引っかかったなぁ!!! 僕が謝罪するために土下座をする? 笑わせないでほしいね!! するわけないに決まってんじゃん!! バーカ!!」


 げらげらと笑う竜真。とうとう法相を表した瞬間である。

 四人は変わらず竜真を見ている。反論も、動くことすらしない。


「そこの後ろ二人! さっきも食らったはずなのに二度も食らうなんて……普通のやつなら二度と僕と目を合わせようとしないよ? ホン―――――――ットお人好しだよねッ!!!」


 この技を知っているか知っていないかの違い。それが固まっている人の表情によく表れていた。

 リナとエルナはこの魔法、イービルアイを知っていた。故に直前になって発動に気付きはしたが、逃れることはできなかった。

 晴人とアリスは知る由もなかったので、ただちょっと奇怪なものを見るような目つきだ。


「餞別だ。僕の所持している魔法について説明してあげよう、どうせここで君たちとはお別れなんだしね」


 竜真は四人の目を見つめていた。片時も逸らそうとしない。


「まず一つ、ヴァルハラの祭禍だが。これについては君たちもおおよそ見当がついてたんじゃないかな。身体強化系魔法だろう、とね。だとしたら大当たりだ。僕のヴァルハラは身体能力を人間のたどり着ける限界まで引き延ばすことができる能力。どうだい、恐ろしいだろう?」


 こういった状況で自分の能力をペラペラと喋る人間は少なくない。そうやって絶対的優勢からどれだけ自分が強いかを相手に教え込むことで絶望感を与え、戦意を喪失させる狙いがあるからだ。例えば、あまりにも強大過ぎる鉄でできた壁を「登れ」といわれてもそんなことは出来るはずがない。不可能だと思うだろう。ようは心理的ダメージを与えたいのだ。

 しかし、自分の力に自惚れを抱いている者の場合は別だ。自分の能力に酔いしれ、見せびらかしたいだけ。


 少なくとも、動けない晴人は彼、竜真が説明する様を後者として捉えていた。


「二つ目の能力は今君たちに使っているイービルアイだ。効果の程は現在進行形で体験しているからわかるよね。そう、僕のイービルアイは、この眼を視た人間の体の自由を奪う能力! つまり君たちは僕がこの魔法を使い続ける限り動くことはできないんだよ」


 動けはしない、だが目は視えるし耳も聞こえる。心臓が止まったり呼吸ができないなんてことはない。これが魔法。これがこの世の理を捻じ曲げる異界の理。常識なんてあったもんじゃない。


「そして最後に、とっておきを見せてあげよう」


 竜真はヴァルハラの祭禍で足を強化して、床を踏みつけた。床は激しく損害し、破片が飛び散った。

 竜真はその破片をかき集め、右手に握った。


「今の行動は魔法を発動させるために必要な行動だ。条件は、自分の手の中に納まる分だけだからね」


 竜真はくつくつと笑った。

 表情こそ変わらないが、リナとエルナにはこの行動の意味が簡単に理解できるのだから。わかってて止めることのできない二人に、そして今から何が起こるか微塵も理解できてないであろう晴人とアリスたちのことを思うと、笑いが込み上げてきたのだ。

 竜真は破片を握りしめた右手を突き出し、勝ち誇った。


「僕の三つ目の魔法。それは『石を爆弾に変える』能力だ!! その制約条件は手で握れる分だけ、その意味が解るな?」


 つまり、逆に言うと握れる分は大小問わずに爆弾になるということだ。


「ンッンー♪ この手の中には一体どれくらいの石があるかなー? 十? 二十? 君たちに耐えきれるかな? ほうら、いくよッ!!」


 竜真の手の中の爆弾石が晴人たちに向かって投げられた。

 絶体絶命。彼らは、見ていることしかできない。為す術がない。


 爆弾はその役目を果たすため、刹那的な閃光を発した後、連鎖的に起爆した。

 爆発は、晴人たちを呑み込み、黒煙で覆われた。


「アハハハハハハハハハ!! 勝った。これが僕の力さ! 君たちなんて足元にも―――」


 黒煙が晴れ、竜真が見たモノは……四人がいた場所にポッカリと空いた大穴だった。

 足元が及ばないのではなく、足元が無くなっていたのだ。


 ……黒煙が上がり、姿が見えなくなってから何秒たったか。

 竜真は瞬時に察した。


「(やつら、まだ死んでいないな)」


 竜真が次に取った行動は、彼らの居場所を突き止めることだった。


「ヴァルハラの祭禍。聴力強化……」


 極限まで研ぎ澄まされた聴力は、このビル内で動く物音程度は抜群に聞き取ることができる。晴人たちが生きているのなら喋ったり、動いたりしていると竜真は考えたのだ。


「(さあ……どこに逃げた。どこへ行こうが僕から逃げることはできないよ)」


 耳を研ぎ澄まし、感じ取る。ふと、声が聞こえてきた。


『いったたたぁ! あんなの反則じゃない!?』

『今の内に逃げるわよ、今なら気付かれないかも!』

『う、うん』


 ――馬鹿め、逃がすわけがない。

 声は続く。



『大丈夫よアリス。アイツは、きっと晴人君が倒してくれるから……』



 な、


「(何だと!? 奴は一緒じゃないのか? だったらどこへ行った……探せ、僕の今の聴力なら聞き取れない音なんて無い筈――!!)」


 竜真は必死に聴力を研ぎ澄ました。


「…………」ニヤー


 背後に、息を殺した晴人が立っていることにも気付かず……そして、晴人はたっぷり息を吸う。

 その吸引の音で、竜真は初めて気が付いた。


「(なっ、何ィー!? 僕の背後に、隠れていたなんて――!!?)」


 しかし、竜真は驚いたことで晴人から逃げる機を逃した。

 そして……大爆音。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


 肺活量すべてを使った叫び声。聴力を強化している竜真は耐えきれず泡を噴いてその場に倒れ込んだ。

 その様子を見て、ようやく晴人は安堵した。


「ふう、一時はどうなるかと思ったぜ。なぁ? エルナさんよ」

「じゃな。奴が目くらまし爆弾を使わず、物理的に一人一人やっていたら終わりじゃったのう」


 晴人の隣にちょこんと立っているエルナ。見た目はまたjkに戻っていた。


 石ころ爆弾。あれを無傷で乗り切ることができたのはエルナのおかげだった。

 あの時エルナは、爆発した瞬間に刀に変身して晴人の手の中へと移動した。体が動けなくてもそう言った特殊行動はできたのだ。次にエルナは再び人間へと変身した。それで、イービルアイの効果が切れ、自由に動けるようになった。この間わずか0.01秒。

 次にエルナは爆風を切った。実際にはこちらに向かってくる爆風を闇属性モードの状態で断ち、爆風の時を遅くしたのだ。これで、竜真から見れば晴人たちは爆風の中。これで残り三人も自由を取り戻したのだ。

 そして黒煙が晴れてしまう前に晴人は懐に仕舞っていたデュオライフルを取り出し、自分たちの足元を起爆性弾丸で破壊して、リナとアリスを下の階へと移動させた。あとは気付かれないように竜真の背後にまわり、気配を消すだけ(ここ重要)


 どうやって聴力強化中の中ずっと背後に立っていられたかというと、竜真の聴力強化の効果範囲にある。

 闇雲に聴力を強化したとしよう。そしたら、竜真は自分の息をする音や心臓の鼓動。血管を流れる血液の音すら爆発的大音量で聞くことになる。竜真はそれを避けるために、ヴァルハラの効果をただ単に聴力を強化するのではなく、無意識のうちに『人間の喋る音のみを聞き取る』という効果にしていたのだ。だから竜真は晴人とエルナの息をする音や心臓などの音を聞き取ることはできなかったのだ。

 最後に竜真が晴人の存在に気付くことができたのは、晴人がこれ見よがしに息を吸ったからだ。


 竜真が倒れたことで、廃ビルには晴人ら以外は意識のある者はもういなくなった。もうここには、脅威になるような人物はいないだろう。


「それにしてもコイツ。何者だったんだろうな。俺たちに恨みを持った鏡利っていう野郎の弟なのはわかるが、普通こんなになるまでやるか?」

「さあの。こやつにはこやつなりの考えがあるのじゃろう。晴人が考えても無駄なことよ」


 エルナは、二階へと続く階段のほうに歩き出した。


「さっさと行こうぞ、演習もそろそろ終いじゃ。余は早く休息を取りたいのじゃ」

「そうか……っておいてくなよ!」


 晴人は、エルナに追いつくように少し駆け足になった。そして追いつくために小走りになっている最中、あることを考えていた。


「なあ、エルナ」

「んー、なんじゃ?」

「……いや、やっぱいいわ」

「はっきりせんか」

「……」


 これで――本当に終わりなのだろうか。


「最後まで気を抜かずにいこう」

「何か言ったかの?」

「いんや、それにしてもエルナがそんなにやられるなんて珍しいじゃねーか」

「そうじゃろう? あれは……」



 晴人の予感は当たるのか、当たらないのか。それはまだわからないが、一つだけ言っておこう。晴人の『悪い予感がする』はよく当たる、と。


                 ☆


「チッ、竜真のやつしくじったか。情けねえなぁ優等生が(・・・・)


 廃ビルから出てきた晴人たちを少し離れた茂みから観察していたのは、竜真の兄、鏡利だった。


「演習終了まであと六十分。ギリギリやれる、か……」


 せめてあの男、柊晴人だけは叩き潰す。鏡利はそう誓って彼の顔を睨んだ。


「……そうだ。いいこと思いついたぞ……!」


 鏡利は、思いついたことを実行するために行動を開始した。


「晒し首にしてやる……」



次回『黒炎の邪眼』

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