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レボリティー・レポート  作者: アルフ
魔法学院編
40/55

六界の魔法円舞

タイトル予告詐欺。

 技名か? なんて考える余裕は与えられなかった。

 声が聞こえたと思った時には既に無数の光線が晴人たちに降り注いでいた。


「ぐあぁ!?」

「キャァァー!!」

「うおわぁぁぁ!!」


 しかし晴人は降り注ぐ光線の中で、自分の周りにいた者だけの悲鳴を聞いていた。

 まるで、光線が意思を持って晴人を避けているようだった。

 光線の雨は数秒もしないうちに止んだ。さっきまでかかっていた霧は、降り注いだ光線が消し去っていた。

 アリスがやったのかと思ったが、どうやら違う。晴れかけた霧の中で晴人は悠然としている少年を見ていたのだ。


「クソッ! なんでお前が出張ってきやがるんだ!!」


 完全に視界が開けると、仁が狼狽えているのが晴人の目に入った。


「予想外……本当に予想外だ、フライヤさんよぉ!!」


 仁は目の前の少年をフライヤと呼んだ。もしかして、こいつがあの光線を……?


「僕がどこで誰を倒そうが、それは僕の勝手だ。違う?」


 フライヤは淡々と対峙していった。対する仁は戦々恐々としているのがよく伝わってくる。

 だが、仁もここまでやられて引くわけにはいかない。


「違わねぇさ……だがな、ひひっ! 面白れぇ……フライヤ、お前が相手なら……俺の魔法の神髄を発揮することが出来そうだぜ!!」

「……何する気だ? アイツ」


 仁は既に晴人など眼中ではなく、新手にご執心だった。晴人はこの隙にアリスを探す。

 晴人がコソコソと動き出した時、仁は自身の最強と自負する魔法を解き放つ。


「行くぞフライヤ……これが俺の、最強の魔法だァァァァ!!」

「うおっ!?」


 仁が魔法を使用すると、大きな地鳴りが三人を襲った。


「……」


 フライヤは自身にも微動だにしていない。


「なんだなんだ!?」


 むしろ戦闘に参加していない晴人のほうがビックリしていた。情けない。


 しかし、異変はそれだけでは終わらない。


 鳴り止まぬ地震の中、晴人は妙な渇きを覚えた。

 彼の喉、唇、皮膚。水分という水分のすべてが吸い取られるような感覚。

 変化は、地面や周りの木々にも及んだ。

 水分を持つ物体のすべてが、水分を奪われて始めていたのだ。


「苦しいだろう? これが俺の最強の魔法、水星のアルゴリズム……!! 大気以外の物質から水分を奪い、俺の糧とする能力だ。このまま五分もすれば人間の水分程度なら奪い尽くす!!」

「なるほど。物質ってのには人間の体も含まれてるのか」


 晴人は仁の勝ち誇った能力説明を聞いて、一つの結末に辿り着いた。


「あれ? これ俺死ぬんじゃね?」

「どうしたフライヤ! あと三分もしたら干からびちまうぜぇ!?」


 これはまずい。なんとしても少年に勝ってもらわなければ!

 応援するしかない!


「やっちまえフライヤー!! そいつも叩きのめせ―!!」

「あの野郎、まだ生きてたのか……」


 仁は晴人のほうを見て舌打ちをした。


「倒してくれ! 頼むぞ!!」


 何とも他力本願な主人公である。

 それを見たフライヤは、薄く笑った。


「言われなくても、そのつもり……っ!」

「来い。水圧カッター……鉄壁九十九の層!!」


 仁は自分とフライヤの間におよそ百もの水圧壁を作った。どんな攻撃も通さない、絶対防御とはまさにこのこと。


「グハハハハ!! 残念だったな! 水星のアルゴリズムが発動してしまった今、俺が取るべき行動はお前を攻撃して倒すことではなくお前の攻撃に耐えしのぐことだ!! この水壁はお前の光攻撃の一切を遮断する! タイムリミットはあと一分!! 終わりだフライヤ! ハハハハハハハハ!!」


 水壁の向こうで勝利を予感した仁は豪快に笑った。


「ハハハハ! ハハハハハハハハ……は?」


 だが、その笑いはいつまでも続かなかった。


「なん……」


 仁は、自分とフライヤの間の障壁の上空に不自然な蒸気を見た。

 次に、焼けるような香り。

 そして、障壁をすべて蒸発させ、仁の目の前に現れるフライヤ。


「君は僕がどんな魔法を使うかちゃんと理解していたの?」


 光という熱を利用したゴリ押しの突破方法。実際に目の当たりにして、仁は驚きで顔を染めた。

 そして、


「思ったより早かったな……ッ!!」


 仁は、答える余裕もなく水圧カッタをフライヤに放った。

 だが、水圧カッタはフライヤに接触する前に焼けるような音を立て一瞬で蒸発する。


「相性が悪かったね。僕の光は君の水なんてまるで脅威に思っていないよ」

「クソォ! まだだ!!」


 仁は水蒸霧を発生させた。一帯はすぐに霧に包まれる。


「仁の野郎、霧に紛れて逃げるつもりだな!? 逃がすなフライヤ! 追え! 追えーっ!!」


 安全圏から命令を飛ばす晴人。主人公が聞いて呆れる。


「逃がしはしない。決着を着けようか」


 フライヤは、自身を光源とし、眩い光を展開した。いかに濃い霧も、圧倒的な光の前には意味を成さず、霧にまみれた人間の影をくっきりと映し出した。


「っ!? この光は……!」

「そこだね」


 フライヤは仁へと光を収束させ、一本の光の線が出来上がった。範囲の小さな懐中電灯で照らされている感じだ。

 そして、フライヤが魔法を放つ。


「――貫け」

「っ!」


 刹那、仁へと放たれていた一本の光は、質量を持った光の槍となり仁の胴体を貫いた。


「グァァァァッ!!」

「追加」

「クッ、ソ…が


 ブォン、と質量を持った光が仁の足の腱へと屈折し、穿つ。

 仁は為す術もなく地に伏した。


「……俺の、負け…だな」


 仁は痛みに耐えかね、意識を失った。


「怪我はない?」


 フライヤは、晴人のほうを向いて、言った。


「魔法の使えない転校生が候補生と戦うなんて、危険すぎる」

「お前……」


「あーっ! フライヤじゃん!」


 俺のことを知っているのか? という問いは、目覚めたアリスの声に遮断される。


「もしかして助けてくれたの? 助けてくれたんだよね!」


 フライヤはそっぽを向いて答えた、


「……クラスメイトを助けるのは、当然のことだよ」


 晴人はフライヤのその発言を聞いて、確信に至った。


「もしかしてとは思ってたけど、やっぱりお前うちのクラスの奴だったのか! どっかで会ったことあると思ってたんだよ~! 良かったぜ!」

「え? あぁ、えっ?」


 晴人はフライヤの手を取り泣きながらうんうんと頷いた。

 頬には一筋の涙。


「うわっ! なんで泣いてるの晴人君!?」

「俺は、嬉しいんだよ! フライヤっていう人間との出会いが!」

「……どういうこと?」


 アリスが怪訝そうに晴人の顔を覗いた。対するフライヤはどうしていいかわからず取り乱している。


「界隈じゃやれハーレムだやれ百合だと持ち上げられるのは女ばっかり……俺はそんなの間違ってると思うんだよ! やっぱり物語には男、いや漢と漢の激熱バトルが必要なんだ! でも俺が転入したクラスにはモブみたいなカス男ばっかだった。そう思っていた!!」

「ひ、柊君……?」


 フライヤは若干引いてる様子だった。


「ちょっと晴人君、フライヤが困ってるみたいだしいい加減黙りなよ」

「いいや黙れないねッ!!」


 クワッ! とアリスに般若のような面を見せる晴人。しかしすぐにフライヤに向き直り、さらに手を強く握る。


「フライヤ、お前みたいなやつがクラスにいたってわかって本当に嬉しかった! なんだかこの学院は女ばっかたなーって思ってたんだよ」

「まあ、理事長があれだからねー。君も大概だけれど」


 とアリスが一言。

 フライヤが実は女だったなんて晴人はこれっぽっちも気付いていないようだった。


「まあ何だ、今はあれだし……そうだ! フライヤって寮生活なのか?」

「う、うん。そうだけど……」

「マジか! 俺も寮生活になる予定なんだよ! 折角だし今夜俺の部屋で漢二人、語り合おうぜ!」


 何を言っているんだこの転校生は……。

 アリスは晴人の発言が徐々におかしくなっていっているのを感じた。止めてあげるには今しかない。


「あのねぇ晴人君? この子は「ぼっ、僕は……っ!」


 アリスの言葉を割ってフライヤは口を開いた、もはやフライヤにはアリスが喋っていたことすら気付かないほど動転していたのだ。


 三人に、一瞬の静寂が訪れる。


「もしかして」


 その静寂を打ち破るように、晴人が口を開いた。


「……もしかして俺と話すの、嫌だった……?」


 ちょっと泣きそうな晴人。

 それを見たフライヤはというと。


「いや! うん。勿論行くよ! よろこんでっ!」


 こう答えるほか、選択肢は残されていなかった。

 晴人は咲き誇るひまわりのようにパァ―ッと笑みを浮かべた。


「ありがとう! じゃあとりあえず……」


 晴人はポケットから携帯を取り出す。


「連絡先交換しようぜ! 何かと便利だろ」

「う、うん!」

「あっ! 私も!」


 晴人は、フライヤとアリスと連絡先を交換した。


「いやぁ本当に、こっちで男友達が増えるとは思わなかったよ。俺の周りって何故か女ばっかだからいろいろ困るんだよな」

「まさかその男友達って、私も含まれてたりするわけ?」

「は? 何言ってんだ。アリスは女じゃねえか」

「なははー……そうでしょうね」

「? 何だってんだよ」

「べっつにぃー」


 アリスは晴人に聞こえないように背を向け、小声でフライヤに言った。


「このままにしておくのも、面白いと思うなぁ、私は」


 それはお願いや命令などではなく、ちょっとした提案だった。

 それを呑むも、真実を話すもフライヤの自由である。

 フライヤは、


「僕はさっきはぐれたチームの子を探すよ。じゃ、また夜にね。柊君!」

「おう! またな!」

「じゃあねぇ、華奢男~」

「……ばいばい」


 アリスはニヤニヤと笑っていた。

 華奢、ということを馬鹿にした笑いではなく、自身の正体を保留にしたフライヤの選択に笑ったのだ。

 フライヤはアリスに何か言いたげだったが、これ以上この場に残っていたらぼろが出そうだったのでなるべく早く離れていった。


「じゃ、私たちも行こっか」

「行くって、どこへ」


 アリスが指示したのは、演習エリアのはずれにある建築物だった。

 思えば、最初からその方向に歩いていた気がする。


「あの廃ビルは格好の戦闘区域なの。今も多分多数のチームがあの付近で戦っているはずよ」

「俺たちもそこに巻き込まれに行くってか。言っておくが、俺に戦力を求められても困るぜ?」

「え? どゆこと?」


 晴人はやれやれと首を振った。

 解ってない。まったくもってわかってないなアリスは。


「俺は転校してきたばかりで魔法が使えないんだ。さっきの仁との戦いもかなりシビアだったんだぞ」

「げ、そういや晴人君ってそうだったね。ついつい忘れてたよ」

「実質俺なんてゴミ同然だから。それでも激戦区に行くのか?」

「行くに決まってんじゃん! なんだか今日の私は調子がいいんだから!」


 あくまで戦うことを良しとしない晴人。しかしアリスはその気満々だった。


「さいですか、だったらもう止めねーよ。頼むぜ魔法使いさんよ」

「まっかせなさい! 私がいかに強いか晴人君に見せつけてあげましょう」


                ☆


「兄さん、隼が到着したみたいだよ」

「ようやく来たか」


 演習エリアのとある一角のここに、隼と呼ばれる選りすぐりの生徒が集まっていた。


「鏡利様、ご用件は何でしょうか」

「なぁに、ある生徒にちょっとした報復をしたいだけさ」


 言ってニヤリと笑った鏡利と呼ばれる男は、午前中に晴人と喧嘩になりそうになったナルシストである。思い出していただけるだろうか、理事長室前でのことだ。


「初めてだよ、僕をここまで舐めた奴はね。なあ竜真、僕に目を着けられた奴がどうなるか言ってみろ」


 竜真と呼ばれた鏡利の弟は、申し訳なさそうに答えた。


「……演習を使って合法的に半殺しにしてきた」

「そうだ! それは今回も変わらない。僕に楯突いたあのクソ野郎はこの演習で社会復帰できない体にしてやる!! 何より!」


 鏡利は怒りを爆発させる。


「リナは僕のものだ……それをあの男は……許せんッ!! 竜真!」

「はいっ!」


 突然名を呼ばれビクッ、と体を硬直させる竜真。


「お前が隼を指揮しろ。僕に無駄な労力をさせるな」

「だ、だけど……」

「いいな!!?」

「……わかったよ、兄さん」


 竜真はトボトボと歩き出した。

 そんな彼に、隼の一人が報告するように告げた。


「竜真様。対象は現在、演習エリアはずれの廃ビルに向かっているようです」

「そう、じゃあ僕たちもそこに向かうとしようか。隼さんたちも、僕の後についてきてね」


 竜真は気持ちを切り替える。これから自分は戦わなくてはならないのだ、と。

 気持ちを切り替えるということは、鏡利グループの駒として、自分ができることを最大限にやろうと結論付けることである。

 よってその大ボスの目の前でチンタラしてなどいられない。移動にだって本気なのだ。


 つまるところ、これから発動される竜真の魔法は本気の魔法だった。


「ヴァルハラの祭禍――脚力、上昇!」


 魔法を使うと、竜真の走るスピードは一気に人間の限界点にまで達した。

 宣言の通り、彼の脚力が爆発的に増加したのだ。


 隼の連中もあまりのスピードに瞠目を隠せない。


「ちょ! 竜真様!?」

「早すぎる! このままじゃ置いて行かれるぞ!!」

「急ぐんだ! 俺たちが遅れをとったら後で鏡利様になんて言われるか……っ!」

「うおおおおお! 追いつけぇぇぇぇぇ!!」





 ここで魔法についてちょっとした補足説明をさせてもらおう。


 ここまで読み進めたあなたなら少し変に思ったことがあるだろう。「技名を堂々と叫んじゃう高校生って……」と。確かに、普通の感性の高校生ならそんな恥ずかしいことはそうそう出来るものではない。

 しかし、技名を叫ぶとこ、宣言することに大きな意味があるとしたら、その限りではないだろう。

 魔法とは、魔界の魔物からのみ教わることのできる技術である。自分で魔法を作ることはできない。重要なのは、教えてもらう、ということ。


 魔法とは本来、魔物しか使えない高等技術。それを人間が意のままに扱うなど無理な話なのだ。


 だが、今から使おうとした技を宣誓することで容易に魔法を使うことならできる。魔法を使うことに慣れていなければ、宣誓することは必要不可欠なのだ。だから生徒も魔法を叫ぶことができるのだ。はずかしくても、叫ばないといけなかったりするのだ。

 ……中にはそうやって魔法を使うことを楽しんでいるものもいるようだが、少数派だろう。

 無論、宣誓や詠唱を行わずに魔法を使うことができないというわけではない。洗練された魔法使いなら所謂詠唱破棄で高位の魔法を使うことだって可能なのである。


 もう一つ。魔法には六つの属性がある。火、水、自然、光、闇、異常の六属性だ。使われた魔法の効果によって、その魔法が何属性なのかが決まる。魔法によっては複数の属性を持つこともある。

 火、水などみんなが知るようなメジャーな属性は単純でわかりやすいが、この六属性の中で異彩を放っている属性がある。『異常属性』だ。

 異常属性は、他の目に見えて属性がわかるような魔法ではなく、五属性には分類されないタイプの魔法なのである。瞬間移動やサイコキネシス、召喚魔法など幅広い。むしろ種類的には一番多いかもしれない。カテゴライズし易い。

 ところで話は切り替わるが、今しがた竜真が使った『ヴァルハラの祭禍』という魔法も、異常属性に分類される。残念ながら地の文では、今この魔法の詳細を説明することはできない。彼が自分から話すか、まんまと見破られるまで待っていてもらいたい。





 数十秒後。


「ゼェ……ゼェ……きっつ! やっぱヴァルハラはあんま使っちゃいけないな~」


 竜真は、廃ビルの目の前まで辿り着いていた。季節は冬だというのに、体中汗だくだくである。

 人間の限界点まで脚力を引き上げたのだ。本来なら動くことすらままならない筈なのに、それでもなお余裕があるのはとんでもない持久力である。


「まだ例の男子生徒は来ていない、よね?」


 廃ビルの中で何人もの生徒がドンパチやっているのか……いつにも増して激しい戦闘音が竜真の耳に入ってきた。


「さて……やりたくはないけど、兄さんの命令だから仕方ないよねっ!」


 まずは対象と戦うための邪魔者を排除しよう。そう考えた竜真は大勢の生徒が戦っている廃ビルの中へと臆することなく入っていった。


                ☆


「で、俺は言ったんだよ。地獄に堕ちるのは俺じゃない。お前のほうだ! ってな」

「嘘乙。君にそんな芸当は無理だよ」

「んなっ!? 決めつけはよくないぞ決めつけは」

「だってそれが本当なら晴人君ってすごく強い人ってことになるよね。でも今の晴人君は凄く弱い。ハイ論破」

「俺は紳士だからな。いつもは手を抜いてんだよ」

「手を抜いてる? そぉ~」

「信じてねえなお前!?」

「あはは! 信じるわけないし!」


 晴人とアリスは木が生い茂る道を雑談しながら歩いていた。

 晴人は、これまでに遭った出来事を武勇伝のようにアリスに語ったが、どうも彼女は信じてくれないみたいだ。


「笑ってるけどなアリス。事実イギリスは革命に成功したぞ? 関係者に聞けば俺が大活躍だったってこともわかる」

「活躍ぅ? どうせ隅っこで震えてただけじゃないの~?」

「んなことあるかよ。ばっさばっさと敵を倒したわ。俺は強いんだぞー!」

「そこまで自分が強いって言い張るなら……そうね、今から私がやることぐらいは簡単にやってみなさいよ?」


 アリスはたくさん生えている木の内の一本へと近づいた。


「何をする気だ?」

「なんてことない……」


 アリスは木の側面を掴み、力んだ。


「ちょっとした、力比べよ!」


 木を握る手にぐっと力を込めた瞬間、アリスの握っていた木が地面から乖離した。根っからまるまる一本、自分の身長の何倍もある丈の木を、アリスはいともたやすく引っこ抜いたのだ。


「いやいやいやいや! これ引っこ抜いたなんてかわいい表現じゃないだろ! もっと……そう!」


 ――アリスは、まるで草むしりをする子供のように身長の何倍もある木を地面から毟り取った。


「とかのほうが絶対ナイス表現だよ!」

「……何言ってんの?」


 アリスは木を掴んだまま晴人に一歩近づいた。ちょっとキレ気味である。持ち上げている木が凄い威圧感である。


「すんませんっしたー!! 命だけは勘弁!」


 晴人氏、地面に頭をついて全力土下座。


「ふん! 晴人君にはこんなことできないでしょ」

「出来るわけねーだろ!! それ魔法じゃねえか! 俺は普通の人間だから無理なんですぅ!!」

「私が人間じゃないと?」


 静かな圧力。


「圧倒的人間でございます」


 謝罪するしか晴人の生きる道はなかった。


「ひぃ……ひぃ……」

「も、もう限界……」

「……………吐きそう」


 二人が茶番をやっていると、数人の男子生徒が死にかけながらフラフラとやってきた。


「誰だ、アイツら。息絶え絶えじゃねえか」

「まあ、私たちに気付いていないみたいだし、スルーしていいんじゃなうわぁっ――」


 アリスは石ころに足を引っ掛けて、晴人に向かって前のめりに倒れた。木ごと。


「うおぉ! あぶねッ!?」


 木が倒れたことで、ズゥゥゥンと振動が響く。

 全身を回避に専念させ、なんとか当たらずに済んだ。


「あいたたー、転んじゃった☆」


 頭をコン♪と叩きながらテヘペロするアリス。


「転んじゃったじゃねーよ! おまっ、もう少しずれてたら俺潰されてたんですよ!?」

「ごめんねー、まさか石につまずくなんて私も思わなかったよ」

「俺じゃなかったら死んでたな」


 二人は倒れた木を見た。なんというか、魔法って怖いなと再認識させられた晴人であった。

 そして、


「あれ? あそこに誰か倒れてる」


 アリスは倒れた木の先端を指して言った。


「……もしかしなくても、さっきのやつらじゃね?」

「ま、まっさかぁ」


 傍に行ってみる。やはり倒れていたのはさっきの三人組だった。

 泡を吹いている者、白目をむいている者、ヤム○ャポーズをしている者と、三者三様の有様だった。


「おいおい、ピクリとも動かねーぞ」

「大変! この人息してないっ!」

「救急車! 救急車を呼べ!!」

「ちょっと待ってて!」


 アリスは救護班に連絡を入れた。程なくして現れる救護班の人は、倒れている木を見て呆れた。


「これ、貴方たちが?」

「……すいません」

「こんなことしたら下手したら死ぬ。それぐらい高校生ならわかるよね?」

「……はい」

「ホントごめんなさい! コイツが馬鹿やらかして」

「貴方も貴方です! どうして彼女を止めなかったんですか。行動を起こせばこんな事態にならずに済んだかもしれないのに」

「……反省しております」


 や、でもこれ実践を意識した魔法演習ですよね? なんで俺達こんなに怒られてるんだ?

 そんな言葉が頭の中で反芻していたが、流石に救護班の人の前でそんなことを言うわけもいかないので、素直に謝っておく。


「これからはちゃんと安全第一でやりますんで、どうかご勘弁いただきたい。本当に申し訳ないです」


 救護班の人は、深いため息をついた。


「もういいです。この子たちは私が回復させておくから、貴方たちも演習に戻りなさい。時間はまだ残されています。次は私たちが必要にならない範囲でお願いね」


 救護班の人は、三人を連れて行ってしまった。

 二人は呆然とそれを眺めていた。


「あの人たち、大丈夫かな」

「……どうだろうな。死ぬってことはないと思うが」

「ま、まあ!? こんなこと演習じゃ日常茶飯事だし? ずっと落ち込んでても時間の無駄だし!?」


 空元気でも構わない。アリスは立ち上がった。


「行こう晴人君。あの人たちの分も頑張るんだから!」

「お前が頑張ってるのに俺が頑張らないわけにはいかねーな。いっちょ、パーッと暴れますかねえ! ……アリスが」

「君も頑張るのーっ!」


 二人は再び、廃ビルへと歩き出した。



 演習の残り時間は、あと九十分。


次回『召喚魔法』

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