鏡利少年はプライドが高い
リナと晴人とエルナは、ランドレット魔法学院中央区・管理エリアに足を進めていた。
管理エリアとはランドレット魔法学院中央区に位置している。ランドレットは大きく分けて四つの区に分断される。
港湾区……海と陸の境界の総称。港町。
居住区……学生以外の一般人が一定以上住んでいる地区。一か所に固まっているわけではなく、ある程度の規模でオーストラリア中に点々としている。
中央区……所謂学生たちの楽園。すべての学校、学生寮はこの中央区に存在している。この区をまとめてランドレット魔法学院と呼ぶ場合もある。広大な面積なので、中央区内でも数多くのエリアで分けられている。
政令区……政治や司法などの機関がある。それ以外に特筆することがない。本編とは無関係です。
今、晴人たちがいるところは中央区。その中の管理エリアという場所。主に職員室のような役割があったりする。
「着いたよ」
リナが完結的に二人に伝える。三人の目の前には立派な扉。
「へぇ……ここが、例の場所か」
「うん。この扉の向こうにいるのは……」
「皆までいうなリナよ。余らとてすでに覚悟はできておる」
「そう? それなら有り難いんだけれど」
「早く行こうぜリナ、時間がねぇ。何より……」
晴人が一瞬間を開けて言う。
その表情には、歓喜があった。
「楽しみで楽しみで、もう待ちきれないんだよ!」
そして、扉が開かれる。
その先に待っていたのは――
「来たな、少年たちよ!」
若い女の声だった。しかし、その姿はでっかいイスによって隠されている。待っていたかのように扉とは逆方向を向いていたのだ。
「時間に遅れてしまって申し訳ありません! このバカが足を引っ張って」
と言ってリナは晴人を指す。
「誰がバカだ誰が」
「時間などどうでもよい、少年たちがここに来てくれたことに意味があるのさ」
ツッコミを入れる晴人を遮るように、椅子に座っている彼女は言葉を発した。
後ろを向いていたイスが前へと向き直る。そこに座っていたのは活発系というのが相応しいような出で立ちの溌剌な女性だった。
「リナ君から聞いているとは思うが、改めて紹介させてもらおう。私はジェシカ=ランドレット。世界最大の育成機関、私立ランドレット魔法学院十三代目理事長にして、七大大国の一角を担う代表の一人だ!!」
フンスと鼻から息を出し、胸を張る。
「今日君たちに来てもらったのは他でもないリナ君の頼みだということは知っているね?」
「ああ、さっき聞いた。確かリナは『学年別大規模模擬戦闘』とかいう行事の優勝者らしいじゃん」
リナがそんなに強いとは思ってなかった。女には意外な一面があるんだなぁと晴人は内心感服する。
「そう! そしてその優勝者には理事長である私に願い事ができる。リナ君が願ったのは少年たち二人を一時的にランドレット学院の生徒にする。というものだ!」
「まったく、なんでこんなことになったのやら」
晴人が呆れるように呟いた。いや違う、呆れたようなしぐさをしているだけだ。その表情は綻び、言葉は若干上ずっている。
「頑張って優勝したんだから学院生活を楽しんでよね!」
「いや、俺としては大歓迎なんだけどな」
「なんだか超展開すぎてついていけないエルナさんなのですぅ~☆」
「やめろぉ!! 新章だからって変なキャラ付けをするのをやめろぉ!!!」
「え~☆ あーし何のことか全然わかんなーい☆☆☆」
晴人がエルナの肩を揺さぶりながら説得しているときに、オホン、とジェシカはあからさまな咳払いをした。
「一つ、質問してもいいかな? 少年、君にだ」
「ん?」
この場で少年と呼ばれる条件が揃っているのは一人だけ。
だから反応するのも彼一人だ。
「質問は受けるが、俺は柊晴人だ。ちゃんと名前で呼んでくれよ」
「ああ済まない。じゃあ柊君、君はこの学院のことをどれだけ知っている?」
「どれだけ知っている、って?」
「簡単な概要みたいなものから、いろいろだよ。とりあえず君の現在の知識を知りたい」
晴人は前にリナに説明されたことを思い出しながら口を開いた。
「七大大国の一つで、全地球連盟の同盟国。空間移動装置とかいうやつで魔界に行けるんだっけ?」
「そう、うちの学院は魔界という特色を生かし、魔法学に力を入れている。この点が、うちが全世界から毎年とんでもない数の生徒を集めている要因である。他には?」
「他ぁ? そうだなぁ……他って言われても規模が大きいとかぐらいしか浮かばねーなぁ」
「ふっふっふ、そうだろう。だがしかし柊君、君は一番重要なことを見落としているのだよ」
なにやら含みのあるような抑揚でジェシカは言う。
「重要なことって、何だよ」
晴人の問いにジェシカは応えず、チッチッチ、と指を振った。
「真実は自分の目で確かめるといい。行っておいで! 今から二人は私の生徒だ!!」
とうとう始まるのだ。と晴人は悟った。
ファンタジックな魔法学院生活が――、
「おっと」
始まった瞬間、つまり理事長室から出た直後、偶然理事長室の目の前を通りかかった数名のグループの先頭を歩いていた人物とぶつかりそうになった。
そいつは、どこにでもいるようなモブフェイス。
「ごめんよ。学院の生徒だよな?」
「ああ? なーに当たり前のこと言ってんだコラ」
いかにもモブな男に言われ、晴人は思い返した。この国の八割はランドレットの人間だった。そもそもこんなところを歩いている同い年で学生じゃないわけがない。
晴人は無意識に馬鹿なことを言ったと謝罪しようとしたが、あまりにも相手の態度が悪かったのが気になって、
「じゃあ、俺たちはこれで」
付き合ってられない。
三人は絡まれる前に早々に立ち去ろうとした。しかし、グループのモブの一人があることに気付いた。
「おい、アイツ前回の模擬戦の優勝者のリナ=クレイドルじゃねーか?」
「うわ気付かれた!」
リナが小さく反応する。そして、
「リナ=クレイドル……だと? やあやあそうかい」
グループの真ん中にいた、おそらくリーダーのような存在の男に目をつけられる。
「何をやっているんだいリナ=クレイドル。理事長室から出てきたところを見ると、理事長への願いの申し立てかな?」
喋り方はチンピラには思えなかったが、このリーダーみたいな男からは何かほかのモブとは違う雰囲気を晴人は感じていた。
だから敢えて口をはさむ。
「そうだが、何か」
「お前には聞いていない!!!!!」
轟! という響きさえ感じられるような怒号だった。この反応は普通じゃない。何がこの男をここまで怒らせるのか。
晴人は流石にまずいと思い、形式上は謝罪しておくことにした。
「俺が何か悪いこと言ったんなら謝る。落ち着いてくれ、な?」
「もしかして、リナがこの男たちを?」
リーダーっぽい男はリナに聞いてきた。ったく、メンドクセェなコイツ。
「そうらしいぞ?」
再び晴人が答える。その語気には面倒くささがにじみ出ている。
「だからお前には聞いていないと、言っているだろうがこのクソ野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!」
男は叫ぶと、自身の眼に黒炎を発生させる。
……何馬鹿なことやってんだろ俺。
「――コイツ、やる気よ」
リナが晴人に耳打ちする。
「なんだって? それは本当かリナ」
「魔法を使用したんだもん。この男、鏡利は本気みたい」
「何をゴチャゴチャと……!!」
黒の炎が撒き上がり、晴人の顔を掠める。
これがこいつの魔法か。何だか軽いジョークのつもりだったんだけど、どうやら俺はこいつを怒らせてしまったらしい。
「晴人っ!」
「エルナは下がってろ、コイツは俺がやる。久々にキレちまったよ」
エルナが加勢しようとしたが、それは晴人の言葉によって止められる。
そして、晴人は一歩前に出た。
「おい鏡利とかいう奴、あんまり調子こいてると足元掬われるぜ?」
「お前は、もしかして僕を知らないのか?」
「あん? 見たことも聞いたこともねぇ。誰だお前」
「くく……そうか。お前が例の転校生か。新参者のお前に教えてやろう」
鏡利は意味深げに笑い、高らかに告げた。
「僕は! この学院一の才能の持ち主! イケメン! 生まれも育ちも何もかも!! お前とは何もかも違うのだよ!! このクソ野郎がぁぁぁあぁぁぁ!!」
「来いよ、ナルシスト」
晴人と鏡利がぶつかり合おうとした、瞬間。
「そこで何をしている?」
二人の間に割って入ってきたのはガタイのいい教師のような男。
「学院内での魔法使用は禁止されているはずだが」
「も、」
も?
「申し訳ありませんでしたぁーっ!!」
「りっ、リナ!?」
急も急。いきなり謝り始めたリナに晴人は瞠目した。
「ひぃ君も謝る!! この先生は学院一の危険な先生、置土産先生……逆らったら文字通り命が危ういわ」
「マジか。すいません先生、悪いのは全面的に俺なんで」
妙にしおらしくなった晴人が頭を下げたことにより、先生は気勢を削がれ、溜め息。
「……これからは気をつけろよ」
置土産先生は去っていった。
完全に先生が見えなくなってから舌打ちが聞こえた。鏡利だ。
「クソ先生が……」
「おぉ、汚い言葉だなエリート」
「お前も、先生に免じて今回は見逃してやる、だが許したわけじゃあない。お前は近いうちに必ずぶっ潰してやるからな……いくぞお前たち!」
「「「はっ、はい!」」」
鏡利は取り巻きを連れてどこかへ去っていってしまった。
リナはそれを確認してホッと無い胸を撫で下ろした。
「アイツ、模擬戦以降から何かと突っかかってくるんだよねぇ」
「あの者、目から黒い炎を上げておったぞ! 余が知るにあれは……」
「厨二病だな。生粋の」
これが、鏡利と晴人の出会いだった。
晴人はまだ知らなかった。この出会いが、世界をも揺るがず大事件の始まりだったということを……!
「少なくともそんな大げさなことにはならない。安心しろ」
「何言ってるのじゃ晴人」
「いや……ってかその容姿でその口調は慣れないな」
「ぁーしぃ、エルナってゆぅのぉ~☆」
「もうお前喋んな」
「酷いいわれようじゃな。余はただ言語を発しておるだけというに」
「晴人はおもむろに腕時計を見た。なんと、時刻は既に八時を指していた……やべえな、早くいかねーと」
「自分で地の文になりきろうとしない。でもそろそろ向かわないと本当に間に合わなくなるかも」
「たのしみじゃのうたのしみじゃのう、なっ晴人よ!」
「ハッ、まさか二回も高校に入学するなんて思いもしなかったぜ」
「じゃ、二人ともついてきて。こっちが私たち生徒の校舎がある、学院エリアだよ!」
☆
時刻は現在午前九時、ランドレット学院の始業の時間だ。
初等部、中等部、高等部一律でこの時間が一日の始まりである。
「今日は皆に報告がありまーす!」
担任と思われる女性の先生は、教室に入るなりそんなことを言い出した。読者の皆さまもこのフレーズに聞き覚えがあるのではなかろうか。
学園モノ、それも遅刻しそうになってパンを咥えながら急いで学校に向かっている時、曲がり角で見知らぬイケメンとぶつかるマンガのテンプレのような例のアレだ。
なんでイケメンさんは学校とは別の方向に歩いていたのか、とかヒロインの少女はなんで遅刻したとか、いろいろ思うことはあるかもしれないが、そんな細かいところはこれはテンプレだからで済まされる。それほどまでにテンプレというのは強力なのである。テンプレだったのなら、の話だが。
つまり何が言いたいかというと……
「転校生を紹介します。柊君、エルナさん、入ってきて―!」
「新日本都から来た日本人、柊晴人…です。詳細はそこのリナに聞いてくれ」
「余……私はエルナ。隣の男の連れでーす!」
自己紹介でそんなこと言うのって、テンプレから逸脱してると思うんですけど!?
クラスの目線(主に男子)から貫かれるような熱い眼差しを向けられながら晴人は心の内で叫んだ。
しかし、晴人は冷静に平静を保つ。まだだ、切り抜ける手はある。
「おい馬鹿、何てこと言ってんだよお前は」
エルナはそれにあえてみんなが聞こえるように返答する。
「なんてことはない。最初にこう言っておいた方が後から変な誤解は生まれんだろうと思ったのじ……よ」
ああ誤解は生まれないだろうさ後からは。だって最初にとんでもないブラフ仕込んじゃってますもん。最初からもう誤解の塊ですもん!!
「あ……あははー。この人はなにをいってるんだろうなー。おれにはさっぱりだー。りなもだまってないでなんとかいってやれよー、なぁ!?」
「あ、あのぉ柊君? 自己紹介……」
横で先生が何を言おうが関係ない! 取り敢えずはこの窮地をどうやって乗り切るかが大切だ。
晴人はリナの返事を待った。
リナは、まるで衝撃の真実を知ったような表情を浮かべ、
「嘘……エルナさんとひぃ君ってそんな関係だったなんて……っ!」
「お前まで騙されてんじゃねーよ!! 馬鹿なの? 死ぬの!?」
「はるひとぉ……あーし、もう我慢できないッ!!」
隣のエルナが唐突に晴人に抱きつき、教室がざわる。(主に男子)
「離れろボケェ!! 誤解が拡がって止まらねーだろ!! つかもう動くな、喋んな、死ね!!」
「すりすり、すりすり」
ぐにゅうぅぅ。
「すりすりしてんじゃねーよ!! あ、あとお前……当たって!」
「当ててるってのがわかんないの? もうっ!」
ボイン!
「オイ」
ガタッ、ガタガタガタッ!! と椅子が引かれる音が四つ。このクラスの男子の五分の四だ。
「もう我慢ならん!! 初っ端から飛ばしすぎなんだよこの野郎!! そこ代われェ!!」
「黙って見ていればイチャイチャイチャイチャ……風紀委員として見逃すわけにはうらやましいっ!!」
「男なんざお呼びじゃねーんだよ!! あっエルナさんは僕の隣の席にどうぞ、となり空席なんで」
「ざっけんなテメー!! 此処は空席じゃなくて俺の席だろが!! あとお前ら転校生はリナさんの後ろの二つ空いてる席だわかったか!!」
「お、おう」
晴人とエルナはざわつく教室と騒ぎ喚く男子共の中をさっさと進み、席に座る。
「それじゃあ、今日のホームルームを始めまーす」
先生は手を叩いて切りだした。
「おい、なんであんな真似をしたんだよ。お前は」
晴人はエルナにしか聞こえないように小声で話しかけた。
「もっと普通に出来たんじゃないか? お前なら自然にすることぐらいわけないだろ」
「……………じゃ…」
ボソッと、いつもの語尾だけが晴人の耳に入った。
「何だって?」
「余にもわからんのじゃ……あの時、教室に入る直前までは晴人に迷惑がかからないようにちゃんとやろうって思っておったのじゃ。しかし、いざ教室に入った余らをまじまじと見物す者どもを見た瞬間、余は……」
「エルナは……?」
エルナは目を逸らしポッと頬を赤らめた。
「……なんでもないのじゃ」
「はぁ? 何なんだよいったい」
「なんでこんな気持ちになるのか、わかんないのじゃ……」
「何だっ――」
キーンコーンカーンコーン。
鐘の音が晴人の言葉を遮り、会話は途切れた。
「はい! じゃあ一時限目、もうすぐ始まりますよー」
ホームルームが終わり教室は喧騒に包まれた。
「リナ、一時限目ってなんだ?」
「確か……数学だったような」
「げえ、折角魔法学院に来てるってのに勉強かよ。つまんねー」
晴人はため息を吐きながら机に垂れる。
と、そこに声をかける人物が一人。女の子だ。
「やっほー転入生の諸君! リナちゃんの知り合いなんでしょ?」
頭の上の大きなリボンが特徴的な溌剌とした金髪の少女(胸がちょっと大きい)。晴人はだらっとした態度から一転、きりっとした態度に転換する。
「これはどうも、僕は柊晴人……ってさっき紹介させていただいたんでしたねハハハッ!」
決まった。これで第一印象はしっかりとしたかっこいいイケメン男子だ! と内心でガッツポーズする晴人。しかし、帰ってきたのは冷笑だった。
「君面白いね」
「グ八――ッ!!」
バッサリと一言。晴人のハートにぐさりと矢が刺さる。
しかし、晴人はまだ折れていない。ここで何とか好印象を与えなければ。
「ごっめーん! この子ったら舞い上がっちゃってついボケちゃったみたい! 普段ツッコミしかできないボンクラなのに」
「ツッコミしかできないってなんだよツッコミしかできないって! 俺はボケもツッコミも兼ねる稀代の天才児だぞ?」
「などという嘘八百が十八番の小僧じ……だけど仲良くしてあげてね」
「おい勘弁してくれよエルナ。見ず知らずのいたいけな少女に間違った知識を植え付けさせるなんて非道極まりないんじゃないか? それに」
「ちょっと待ちなって。私はいたいけな少女なんかじゃないよ。リナちゃん、私がどれだけ凄いか教えてあげてっ!」
少女にバトンパスされたリナはちょっと言いにくそうに口を開いた。
「んー、彼女はアリス。見たらわかると思うけど頭の上のおっきなリボンが特徴の金髪天然娘……かな?」
「天然じゃなくてどこにでもいる平凡な普通の女の子、アリスだよ~! よろしくねっ!」
リナとアリスが言っていることが噛み合わない気がしたが、軽く流すことにした。
「ああ、よろしく」
至極簡単に短く済ませる。やっぱり自分は素のままでいたほうがいいな。と晴人は改めて思った。
「そっちの人、エルナちゃん。だよね?」
アリスはエルナのほうを向いた。
「エルナちゃんは確か晴人君のツレ、彼女なんでしょ?」
「「ぶっ!!」」
晴人とエルナが同時に噴き出した。
慌てて平静を取り戻して晴人は訂正をする。
「あれはエルナが勝手に言った冗談だ。真に受けんなって」
「晴人君はそう言ってるけど、どうなの? エルナちゃん」
「それ、私も気になったかも」
「リナまで!? お前は知ってんだろうがエルナと俺のこと!」
「余は……私は!!」
ガタッと椅子を動かす音を出して立ち上がる。
「よっしゃ! 授業を始めるぞー」
「あっ……」
「やべ、先生きた。じゃあまた後で」
アリスはささっと席に戻り、エルナもばつが悪そうに席に着いた。
(慣れない環境で戸惑ってんのかねぇ)
晴人はエルナのほうへ目をやった。
いつもの勝気な雰囲気は今のエルナにはない。まるで多感な時期の少女のようだ。
(そういや前に姿を変えたときも性格から変わってたなぁ)
前回、エルナはイギリスで男性の姿に変身していた。当時の一人称は「俺様」だ。まるで別人になっていたと言っても過言ではない。
「めんどくさくなりそうだ」
晴人は誰にも聞こえないように静かにひっそりとそう漏らしたのだった。
☆
休息
午前の授業が終わり、昼休み。
そのさらに終わり間近、人の少ない自販機の前でのことだ。
午前中はすべて座学だったのだが、転校してきたばかりの二人は大活躍だった。
晴人は当てられた問題を悉く間違い笑いの的に。悪い意味で注目を浴びるようになり、クラスの数少ない男たちとはボケと馬鹿の応酬をしていた。
エルナは逆に教えられたことはすべて覚え切り、完璧な回答をしていった。一時限目が終わり、休み時間にはいったらクラスの大多数を占める女子に囲まれてワイワイしていた。
「まあなんだ。馴染めてよかったな、俺たち」
「そうじゃな。自己紹介の時はもう終わった、など思っておったわ」
素の喋り方に戻っているエルナ。その意図は不明だが、晴人と二人だけになると戻しているようだ。
そんなことにふと気づいて、晴人は思っていたことをそのまま口にした。
「エルナってスゲー頭いいんだな」
「なんじゃ藪から棒に」
実際、晴人が元々過ごしていた学校はそこまで偏差値が高いわけではない。誰でも入って普通にしていれば卒業できる何も変わりないただの学校だ。そんな平凡すぎる学校でダラダラと毎日を送っていた晴人にとってはランドレット魔法学院の授業は少々難しかったようだ。
無論、ジャンルが普通とはちょっと違うというのはあるが。
「俺、この学院だったら余裕で留年できる自信あるわ」
「そうでもないじゃろう。この学院の最たるものは魔法じゃ。いかに勉学が不利だろうと魔法の実力次第ではどうにでもなる」
「ああ、クラスのモブ男子1から聞いた。『候補生』とかいうやつだろ?」
魔法には火、自然、水、光、闇、異常の六属性があり、生徒は皆六属性ごとにランキング化されている。例えば、自然属性の魔法を使うリナは自然属性を使うことのできない生徒より自然属性でのランキングは上位となる。しかしリナは火属性、水属性といった他の属性のランキングではほとんど最下位に近い。つまりどの属性のランキングでも順位はあるということだ。なので一人で二つも三つもランキング上位に組み込むことができる可能性があるのだ。
そして、その属性別ランキングのトップ十名は候補生と呼ばれ、扱われるようになる。
候補生にはほかの生徒よりちょっとした優遇がされる。例え話ばかりになるが、学食を優先的に買えたり、寮の共有温泉を好きな時間に入れたり、やや生活が快適になる。しかし、元々の水準が高いのでこういった優遇はオマケ程度だと生徒からは思われている。
「モブ男1は必死になって候補生になろうとしてたみたいだが、あれはどうしてだろうな。ほんの少しの優遇に目がくらんでいるようには見えなかったが」
「それは多分あれじゃ、特別魔導師とかいうやつじゃろう」
「何だそれ」
「候補生のまま学院を卒業した者にのみ許された職、といった特殊階級のようじゃな。子供ばかりのここにおいて、重要な警察の役割を果たすのだそうじゃ」
魔法なんてもんはやりようによったら犯罪に悪用だってできる。それを阻止できるのもやはり魔法というわけだ。
「そういや俺たちのクラスにもいたなぁ、その候補生がよ」
うちのクラスの男子は、俺を含めて六人。うち四人はモブでこれから後は出番はないだろう。多分。
しかしあともう一人、自己紹介のとき晴人たちにまるで興味を抱いていなかったあの少年こそが候補生なのだろう。
「エルナ、確か午後の授業は魔法演習だったよな?」
「そうじゃのう。詳しくは知らんが、試合のようなものだったはずじゃ」
試すには、ちょうどいい場所だろう。
「折角の留学だ。魔法ってモンの本当の力を見せてもらうとしようじゃねーか」
予鈴が鳴り、次の授業が始まろうとしていた。二人はお金を教室に忘れていたことに気付いて結局何も買わずに戻っていった。
二人が去った後に自販機で缶ジュースを買う男が一人。
男は去っていった二人を鋭い眼光で睨みつけている。
「僕に楯突いたこと、そして僕のリナに手を出したこと。絶対に後悔させてやるよ……!!」
一気に飲み干し、空になった缶をやや踏ん張って握りしめ、彼はゆらゆらと通路の向こう側へ消えていった。
前回の話、なんだかタイトル詐欺っぽくなったなぁなんて思いました。
なので今回のほうこそ真に『魔法科学院の転校生』と言えるのではないでしょうか。なんて、結局有名どころから全力オマージュしてるんですけどね。
さて次回からなんちゃって魔法バトル、六色の色彩を放つ彼ら彼女らの戦いが始まるようです。
次回『高水圧の仁、来襲!』




