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レボリティー・レポート  作者: アルフ
イギリス革命編
34/55

戦闘凶

 話はほんの少しだけ遡る。

 天界城ギラトンの外、城下町でレジスタンスにやられた守護者、ガーナード=エルリックは役目と目的を失ってブラブラしていた。


「あーあ。折角カーツに許可貰った真の力もこれじゃ意味ないんだよな~」


 近くにあった自販機で、ジュースを買い、その隣の何人も座れそうな正方形のベンチに腰掛け、買ったジュースを啜る。


「うえっマズッ! なんだこれ……えー『天使が作ったミルクメロンソーダ』? 何だよその全部詰め込みましたって感じのテキトーな商品名は」


 混ぜるならグレープてのが理解できてねえようだな、などとエルリックは一人でぐちぐちとぼやいていた。

 そこに一人の人間が現れる。


「お主、瞬間移動は使えるかの?」

「あ? 誰だお前」


 エルリックの前に現れた少女は、白を基調とした派手な格好をしていた。


「その技を知ってるってことは、それがどれぐらいキッツイ技かも知ってんだろうな」

「知っておるとも」


 少女は即答した。そして、


「二度は言わぬぞ。余は――――……、





 暇を持て余した守護者、ガーナード=エルリックは、全身の脱力感を感じながら大きな溜息を吐きだした。


「あ~~~超疲れるなこれ……」


 正方形のベンチに大の字で寝転がり、もう一つ感慨深そうに溜息を吐く。


「こりゃ天界も無事じゃ済みませんなぁ……いっそ現界にでも逃亡しようかねえ……あ、でも今俺疲れて……動けねえ……zzz」


 これが、エルナが晴人の前に突然現れることができた事の顛末なのだが、無論晴人には知る由もない。


                 ☆


「まだ次の間につかねえのか!? だいぶ走った気がするんだが」


 ジャック&アンジェラはたった二人になりながら、長い長い回廊を走っていた。

 正確には、ジャックがアンジェラをおぶって、である。


「アンジェラ体の調子はどうだ。そろそろ喋れそうか?」


 アンジェラは辛そうにかぶりを振る。どうやらまだ喋れるまで回復していないようだ。


「ムリすんな。まだこの道は長そうだ。ゆっくり回復すればいい」


 コクリとアンジェラが頷いた。

 二人は、まるで終わりの見えない無限回廊を進んでいく。

 

                 ☆


 ――界離の間、


 複数の人間のようなモノがカリータを囲んでいた。


「行けっ!! ソルジャーたち、アイツを蹴散らせ!!」


 カイゼルとカリータの戦いは熾烈を極めていた。


「無駄無駄ァ!! そんな雑兵をいくら出しても僕を止めることなんてできない!!」


 カリータの周りを囲んでいたソルジャーは斧による一撃であっけなく粉砕される。


「まだだ、出ておいで! 幻竜オルガ・エネムルス!!」


『ガァァァァァァァァァァァァァア!!』


 赤と黒の竜。相対するだけで尋常ではないプレッシャーを感じさせる。


「へぇ、天使ごときがやるじゃないか。でも」


 瞬間的にカリータは斧を竜の大きさに比例させた。


「これを受けきれたらの話だ!!」


 十文字に斧を振るう。

 幻竜は斧の一撃目を躱し、二撃目を口で受け止めた。


「っ!?」

「オルガ・エネムルス、アイツごとブレスで焼き払え!!」


 幻竜が咆哮を上げ、斧を噛んだままブレスを放つ。

 その炎熱がカリータの目下寸前まで達し、


「ぐっ……ァァァァァァァァァ!!」


 カリータはその最中炎に包まれ、カイゼルが嗤う。


「終わりだ!! 流石にもう生きていないだろう!! アハハハ――」


 カイゼルは勝利を確信した。なかで、戦鬼の声が鳴る。


「――戻れ」


 宣言によって、斧は猛スピードで収縮する。

 カイゼルはまるで幻聴でも聞いたかのような気になっていた。 


「まっ、まさか……この幻竜のブレスの中で、生きているのか……ッ!? バっ――」


 そして、カイゼルは火中の中目撃する。

 カリータが鬼の形相で媚び、死を構えていることに。

 斧の収縮する先は――


「吹き飛べ、天使!!」

「ッッらァ!!」


 カイゼルは咄嗟にカリータにならって拳を作って激突する。

 二人が衝突した風圧により、幻竜と幻竜のブレスは滅した。

 その後、後方へと距離を取る二人。


「天使のくせに反応良いじゃん」

「君こそ、あの炎の中で死なずに済んだなんて……普通の人間じゃなさそうだ」


 カイゼルは激突の反動でぐちゃぐちゃになった胴体を再生させながら笑みを見せた。


「……普通じゃない、ねえ……お前は僕が異常だと思うのか」

「異常だよ君は。ただの人間がここまで強い筈がない」


 カリータはそう言われると、くつくつと笑い始めた。


「どうしたんだい急に。そんなに傷ついた?」

「いいや、そうじゃなくてね。いいことを思いついたんだ……見せてあげるよ」


 言うとカリータは、痛みに耐えるように呻きだした。

 背中から血を噴出し、尋常ではない叫びを伴い始める。

 そしてカイゼルは、背中から生えてくる歪な形の羽を視覚に捉えた。


「君は……その背中に生えてるものは……!?」

(ブラッディ)()四枚翅(アーティファクト)……これが力の源さ。行くぞ天使っ!!」


 カリータの攻撃で、界離の間に更なるクレーターが出来た瞬間だった。


                ☆


「何だよ、これ……」


 ジャックとアンジェラは長く続く回廊の終着点へとたどり着いていた。

 しかしこの場所がグリフォンの言っていた天神の間ではない。

 回廊を下から突き抜けるようにあるそれは、わかりやすくいうと、


「螺旋……階段? 外から見たときはこんな建造物無かったような……」


 この地点は中間らしく、螺旋階段は上にも下にも行けるようだ。


「どっちに進めばいいんだ? 困ったな……」


 悩んで、うーんと唸っていると、ジャックは不意に背中が軽くなったのを感じた。


「お前……もう動けるようになったのか。アンジェラ」

「ん……もう大丈夫」


 アンジェラは手を後ろに組んで直立していた。


「悩んでるんでしょ? 上と下、どっちに行くか」


 アンジェラは言いながらジャックを通り越して螺旋階段へ歩いた。


「あ、ああ……そうだけど」

「だったら」


 ジャックの言葉が終わると同時にアンジェラが振り返る。


「二手に分かれましょう。私が下に行ってあげるからジャックは上に行って」


 その提案に、ジャックは耳を疑った。


「馬鹿言ってんなよ、一緒に行くに決まってんだろうが」

「大丈夫大丈夫―。何もなかったらすぐ戻るから」


 アンジェラはそのまま下へと行ってしまった。


「……無理、すんなよ」


 ジャックはそう言い残し階段を駆け上がっていった。








「はぁ……はぁ……もうダメ。動けない……」


 アンジェラはジャックが階段を上がっていったのを音で確認してすぐに座り込んだ。


「ジャックにこれ以上迷惑かけるわけにはいかないもんね……なんたって私はジャックの姉貴分なんだから」


 二度三度と咳き込む。


「後は任せたよ、ジャック――」


                ☆


 天罰の間。


 グリフォンと晴人は互いの刃で交戦していた。

 状況は、晴人がやや劣勢である。


「さっきまでの威勢はどこに行った柊晴人! 刀を振るう速度も、威力も何もかもが目に見えて落ちてきているぞ!!」

「うるっせえんだよっ!!」


 ガキィンとグリフォンの剣を弾き後退させる。

 晴人の顔は疲労がたまっているように見える。


「なんつーパワーだよアイツ、前戦った時の比じゃねえぞ」

「そうかの? 余には前と変わりないように感じたが」

「それはお前がヤバすぎるだけだって……」

「何をコソコソ言っている!」


 そうこうしている間にグリフォンが晴人へと向かって走り出していた。

 グリフォンは上へ跳び、上段から仕掛ける。


「馬鹿正直に突っ込んできやがる馬鹿は――」


 晴人は低い体勢をとり、それに備える。


「迎え撃つ!!」


 晴人は刀でグリフォンを斬りつけた。

 が、


「甘いッ!!」


 グリフォンは腰に差してあったもう一つの剣で晴人の刀を弾き返した。

 そして、前々から使っていた剣で晴人の体を縦に切り裂き、血飛沫が舞った。

 晴人は苦痛に顔を歪めつつ、転がってグリフォンを避けた。


「二刀流……」


 幸い晴人の傷は浅く、ちょっと掠った程度である。


「あと一秒でも反応するのに遅れてたら即死だった……」


 グリフォンは剣に付着した晴人の血を一振りで払った。


「怖気づいたか、柊晴人。私の剣の実力は貴様を遥かに超越している……どうあがいても今の私を貴様が倒すことはできん」

「大層自分の力に自信があるらしいな。そこまでナルシストな奴は久しぶりだ」

「ナルシスト? 生憎私は下劣な現界の言葉には疎いのでな。言っている意味が理解できん」

「理解できないか? 俺の言ってることは至極シンプルな話だぜ」


 晴人は刀を構えて形状を変化させる。

 モードは、闇。


「お前のその余裕に満ちた顔面を、真っ赤に染め上げてやるってことだッ!!」

「やってみろ!!」


 グリフォンは再生を終えた羽を使って飛翔し、晴人へ突撃した。そのスピードは目で捉えきれる速度ではなく晴人にはグリフォンがまるで消えたかのように思えた。

 そして一瞬のうちに晴人に肉薄したグリフォンは晴人に斬りかかった。


「っ!!」


 晴人は直感でグリフォンの刀を防ぎ、後方の壁まで吹き飛んだ。


「私は貴様たちレジスタンスが呼称していた三人の賢者の一人であり、司るは武力! 天界の中において私の身体能力は格段に跳ね上がる。つまり筋力、速力、耐久力……ありとあらゆる力は――」


 グリフォンは壁にもたれかかっている晴人の目の前まで一気に接近し、片手で剣を振り上げた。


「貴様が知っている現界での私のときの、十倍だ」


 刀を振り下ろす。地面が粉砕される勢いの破壊力だ。

 地面を破壊した時の粉塵が視界を遮るように舞い、晴人の姿は消えた。

 グリフォンは晴人の生体反応が無くなったことで、やることは終えた、というふうに剣を鞘に納めた。


「所詮現界の弱者はこの程度で死ぬ……哀れなものだな」


 グリフォンは背を向けた。

 今だ舞い上がっている煙の中に、晴人が纏っていた黒いオーラが混じっていることに気付かずに、


「死んだかどうかを確認せずに敵に背後を見せるなんてのは、馬鹿のすることだぜ?」


「ッ!? 貴様、生きてっ!!」


 晴人はジャックから預かっていたビームサーベル状の堕天武装でグリフォンの背中を裂いた。


「グッ……おのれえ!!」


 グリフォンは背中に走る鈍痛を堪え、振り向くと同時に剣で斬りかかる。

 迫りくる超速度の刃を晴人はまたしても刹那的にガードして吹き飛ぶ。

 しかし次はすぐ立ち上がり、両腕の肩を慣らした。


「もう一回行くぞッ!!」


 ビームサーベルを撓らせ、晴人はグリフォンへと走った。

 グリフォンも応戦するために地面を蹴って晴人へと向かった。

 その一秒後に、二人の刃が激突して唾競り合った。

 どちらが押すことも押されることもなく、他者からは拮抗しているように見えただろう。

 しかし、グリフォンには彼への恐怖があった。いや、自分の背中と背中の羽を二度も切り裂いた晴人が持っている堕天武装に、だ。


 かつてグリフォンはエルさんに『痛みを知らない温室育ち』と言われている。

 痛みを知らぬが故に、それを実際に経験したときどうやって対処すればいいのか解らなくなる。

 温室育ちであるが故に、痛みというものに慣れておらず、対応しきれない。


 しかし晴人は違う。普通とは言い難いが、彼は所謂ケンカ慣れしているのである。家の近くに不良のたまり場があったとか、学校でしばしばトラブルがあったとか、日常的なレベルでグリフォンとは環境が違ったのだ。

 そういった様々な要素が重なっているのか確かではないが、晴人はこの状況でも笑みを絶やさなかった。


 しかも、それだけでなく、


「グリフォンさんよ。そ~ろそろ本気みせてくれてもいいんじゃねーか? ラヴィナルとか言ったっけ?」


 グリフォンはそれを聞いて少々驚いた様子を見せたが、次の瞬間にはほんの少しだけ笑みを見せていた。


「ほう、私にアレを取り出す隙を与えようというのか。やはり貴様は――面白い!!」


 グリフォンは晴人の刀を強引に弾き、最初にいた鉄塔の頂上へと跳んだ。


「その選択をしたこと、後々後悔することになるだろう」


 晴人は黙って上を見上げている。

 刀になっているエルナは馬鹿馬鹿しい、といった風に溜息を吐いた。


「余裕じゃのう晴人。勝機はあるのか?」

「負けないさ」


 晴人はエルナの問いに考える間も無く答えた。


「即答とは驚いたのじゃ。全く、その自信はどこから来ておるというのじゃ」

「こっちが万全な状態なのに、あっちだけ万全じゃなかったら卑怯だろ。俺は、グリフォンの百パーセントを叩き潰したいんだよ」


 エルナはそれを聞いて晴人の思いをくみ取り、それ以上何も言わなかった。

 いや、その余裕は与えられなかった。


「喋っている暇など、無いぞッ!!」


 グリフォンに、目には見えないが感じ取ることができる気のような威圧が収束する。


「来る……っ!」


 彼の手には晴人には視認できない武器ラヴィナルが握られている。

 それと同時にグリフォンは左腰の剣を投げ捨て、新たに右腰の剣を抜いた。

 これで見えざる武器、ラヴィナルと普通の剣の二刀流の完成である。


「こいつの能力を覚えているか、柊晴人。私がラヴィナルを使うということは……レジスタンスが必死に開発したその堕天武装が無力と化すことだ!!」


 鉄塔が豪快な音を立てて崩れ去り、塵が晴人の視界を遮るように舞い上がった。


「晴人右じゃ!!」


 エルナの声が届き、咄嗟に構えをとる。

 そこに、グリフォンの剣が突き出てくる。

 晴人はその剣を刀で弾き返し、もう片方のビームサーベルで塵に隠れて見えないグリフォンに向かって攻撃した。

 が、次の瞬間にはビームサーベルはガラスが割れるような音と共に砕け散ってしまう。


「使い物にならないとわかっていてもなお堕天武装を使うとは愚か!!」


 轟、と粉塵を掻き分けてグリフォンが姿を現す。


「今ここで貴様の敗北は決定した! 私にラヴィナルを持たせたこと、無駄だというのに堕天武装を使ったこと、貴様が只の貧弱な人間であること!! このすべての事象が相まってこの結末を生んだのだ!!」


 グリフォンは両手の武器を天高く掲げた。


「もうじきカーツ様が現界の征服を始める。貴様たちはその栄光ある計画の第一歩の犠牲となる。安心しろよ柊晴人、貴様の友人も、家族も! 私自らが全員皆殺しにしてやるから――先に地獄に逝って待っていろ!!!!」


 空気中の分子すら切り裂いてしまう速度でグリフォンは二つの刃を振り下ろした。



「おいおいグリフォンさんよぉ。前にも言ったじゃねえか……忘れたなんて言わせないぜ?」



 グリフォンの刃は晴人に直撃する寸前で天高く宙を舞った。

 晴人が、寸前で弾き飛ばしたのだ。


「地獄に堕ちるのは俺じゃない、お前のほうだァァァァァ!!」


 晴人はグリフォンの体を切り上げるように裂いた。

 その斬撃は心臓をも切り裂き、大量の血が噴出した。

 グリフォンは叫び声をあげることもなくその場に直立した。

 膝を震わせ、口元を緩ませ、だらりと両手から力を抜いてなお、彼は倒れようとしなかった。


 その精神力たるや、守護者という言葉が相応しい。


「俺の勝ちだグリフォン……殺しはしねーから、諦めてこの革命を見守ることにでも徹してくれ」

「よいのか晴人。こやつを生かしたまま放置しておいたら何かやらかすやもしれんぞ」


 エルナは刀の状態から元の姿に戻っていた。


「問題ねえよ。その時はまた俺がぶった切ってやるさ」

「フッ、心強い言葉じゃ」


 二人が去ろうとして、後ろ側にある出口へ歩き出そうとした。

 その時、晴人の左肩に鈍い痛みが走った。


「晴人!」


 エルナが傷口から流れる血を止めようとして触ろうとしたら、エルナの手は傷口ではなく見えざる武器に触れた。

 エルナはハッとして振り返った。


「あ奴……」


 そこには、晴人の斬撃の傷を完全に再生させたグリフォンの姿があった。

 グリフォンは今だ突き刺したままのラヴィナルを抜いた。

 ラヴィナルからはキュルキュルといった機械音のような音が鳴り響いていた。


「ラヴィナルにはステルス機能のほかに伸縮自在という機能もあるのだよ。そもそも、天界人である私に現界の兵器など効かぬということを失念していたのか?」


 すぐ後に、宙を舞っていた剣もグリフォンの手に舞い戻ってきた。


「貴様がいくら私の体を傷つけようが、私は何度でも再生できる。貴様に勝利など永遠に訪れない!!」


 グリフォンが地面を蹴って晴人に向かう。


「晴人ッ!!」

「大丈夫。もうじき発動する頃だ」


 エルナはそれを聞いて一瞬わけがわからなかった。

 グリフォンも、同様にその言葉の意味を理解できていなかった。


「何が起ころうが私が敗北することは有り得ん!! 死ね、ひい、ら……――」


 グリフォンの活動は晴人の名前を呼ぶ途中で完全にストップした。

 模型のように、彫刻のように、まるでビクともしない。

 だが、本当に止まってしまったというわけではない。


「説明パートといきましょうか」


 晴人は痛む傷口を抑えながら、したり顔で続けた。


「耳は聞こえてるだろうからよく聞けグリフォン。お前は今、自分が止まっているように思えてるだろうけど、そうじゃない。お前は今何億分の一レベルで動きが鈍っているんだ」


 鈍っているのは外界への行動のみで体の内部にまでその効果は及ばない、という条件付きで、


「わかるかな。君がさっきペラペラペラペラしゃべってる間にお前の中に闇のオーラの欠片を送り込んでおいた。それが今発動したってわけだ」


 これは、晴人がとんでもない早さのグリフォンの攻撃を躱すことができた理由にもつながる。


「あの俺が纏っていた闇のオーラの効果は『時間の延長』、つまりお前の攻撃を紙一重で躱せていたのは、攻撃が当たる瞬間だけ超時間が遅くなっていたから。今のお前はその逆で体そのものが超ゆっくりになってるってわけだ」


 晴人はグリフォンの口を乱雑に拡げた。

 その拡げた口に押し込んだのは、懐にずっと隠し持っていたデュオライフル。


「チェックメイトだグリフォン……さすがに五発も起爆性のを食らったら再生する前に消し跳ぶだろ」


 一拍おいて、天罰の間に特有の乾いた音が連続で、響いた――、


                ☆


(私は、ここで止まったままなのか……)


 グリフォンは晴人の闇のオーラの発動後、動かない体を悲観していた。

 耳は正常そのものだったのだが、晴人が喋っているのを反論できるわけでもなく聞かされていた。


(私には、カーツ様と共に世界を統べるという望みがあったというのに……それもこの男によって阻まれるのか)


 グリフォンの忠誠心の裏には、知られざる秘密がある。

 その昔、カーツがまだ賢者と呼ばれる地位にいた頃。天界は突然現れた地球と呼ばれる場所からやってきた生命体との遭遇を果たしていた。

 その頃の最大権力者、クレイモワはその者達を歓迎しようとした。

 しかし、カーツはその決定を無視して、地球の一団を皆殺しにした。

 特に階級などなかったグリフォンはカーツの下で動く部下の一人で、その時の皆殺しにも大いに貢献した。

 そしてグリフォンはカーツにこう言われたのだ。


「この連中は天界を滅ぼしに来た悪者だ。だから二度と滅ぼされることが無いように自分たちで統治しようじゃないか」と、


 グリフォンはこれまで天界の為にと鍛錬を積んできた。それはすべて彼が天界を愛していたから……カーツはグリフォンのその愛国心にも似た気持ちを利用したのである。


(私は気付いていました。私はただのカーツ様の駒なのだと。しかしよかったのです……死ぬまで天界の為に働けたこと、それこそが我が喜びとなるのです)


 グリフォンの口が無理やり拡げられる。その口内に見たこともない武器のようなモノを押し込められそろそろ最期が近いのだろうとグリフォンは悟った。

 グリフォンはここまで来てレジスタンスの行動があの時の自分たちとそっくりだったことを感じた。


(そうか、彼らも自分の大切な場所を守るために必死だったということか……あのジャックという男も……)


 そこでグリフォンはある疑問を張り巡らせた。


(しかしこの男、柊晴人はどうだ? 昔イギリスで文献を読み漁って、見たことがあるが柊晴人という名はイギリスには無いタイプだ。だが、目の前のコイツはイギリスとは無縁のはずなのにどうしてここにいる……さらに言えばイギリスには脱走をさせないための防御壁が張ってあるから外から侵入することなどできないはず――いや、そんなことはどうでもいいか)


 グリフォンが思い至ったことは、愛国心に似た感情なしに戦場を駆ける晴人への、自分でも理解できないような憤りだった。


(コイツは……この男は…………)


 晴人は引き金を引き、何発もの銃弾がグリフォンの体内へと落ちていった。


 そのときグリフォンは、この鈍足への呪縛が解放されたのを感じ取って叫んだ。

 ありったけの力で、叫んだ。


「貴様は、貴様には戦う理由など初めから無かった!! それなのに貴様が最前線を渡ってきた理由が解ったぞ!! 貴様は只の戦闘凶だ。特に理由もなく大勢の同胞たちを傷つけ血祭りにあげギリギリのところで殺さず、挙句の果てに私すら生かそうとした!! そういったやつの思考回路を私は知っている、それは『生かしておけばまた戦うことができるから』だ!! 貴様はこれまでも望む望まないに拘らず何度も戦場に足を踏み入れている私にはわかる……それはこれからも変わらないぞ、貴様はこの先もずっ―――!!」


 破裂音がして、グリフォンの体は一瞬のうちに掻き消えてしまい、

 天罰の間は、五つの起爆性弾丸の同時爆発によって文字通り『粉砕』した。


                ☆


「はっ、はっ、はっ………」


 長い長い螺旋階段を止まることなく駆け上がる男が一人。

 階段には彼の靴の音と口から洩れる吐息しか聞こえない。


「はぁ……はぁ……やっと着いた……」


 彼はおそらく最後と言える扉を、思い切り開いた。

 彼が中を覗くと、あまりの光に若干視界が遮られる。


「わっ、眩しい……」


 やがて視界が光に慣れ、扉の向こう側が鮮明になっていく。


「これは…………」


 そこは、完全な完璧が揃っている空間だった。

 どこまでも優雅で、壮大で、均一にして究極。

 神々的で無機的で神秘的で排他的。


 しかし、その完全な完璧の中に一つだけ相応しくないものがあった。


「血……」


 彼は、確証はないが確信した。

 これは自分の育ての親、タバサ=ウィルソンのものだ、と。

 どこにも証拠などないのに、見た瞬間に感じ取ったのだ。


 彼は地面についていた地面から目を離し、近くの壁を見た。


「プレートだ……でかすぎてよく読めないが、て、て――」



「ようこそ、天神の間へ」



 視線をプレートに向けていたのを素早く声のしたほうへと向ける。

 立っていたのはどこか風格を漂わせる老人。


「お前が、グリフォンの言っていたクレイモワか」

「いかにも、お初にお目にかかる……我が名は創造神クレイモワ。君はレジスタンスのリーダーで合っているね?」

「そうだ。俺はレジスタンスリーダーのジャック……ジャック=ウィルソンだ。単刀直入に聞くが、クレイモワ……何故俺をここに呼び寄せた。本来俺とお前は一番会い見えない対極に位置する者同士のはずだ。それなのにお前はグリフォンに俺を殺させない様に仕向けた……一体何が目的だ」


 クレイモワはだんだんと声を荒げていくジャックを見て「ふぉっふぉっふぉ」と間の抜けた笑いを返した。


「まともに話すらできないのかよ。てめえは……!!」


 ジャックは笑い続ける彼の下へ歩こうとしたが、それはクレイモワが片手を出すことで制止させられる。


「安心しなさい。まだ少しぐらい時間は残されておる」

「少しぐらい……だと? どういうことだ」



「それは俺が説明してやろうか?」



「「っ!?」」


 ジャックとクレイモワはここにいるはずのない、いてはならないはずの男の声に、耳を疑った。


「トロイト=カーツ……!!」

「よう反乱者。こうやって面と向かって話すのは初めてだな」


 カーツは天神の間入り口で佇んでいた。


「貴様っ……何故よりにもよって今現れた……!!」


 しかし驚くことにカーツの登場に一番驚いているのはジャックではなくクレイモワのほうだった。彼は額に汗を垂れ流し、全身を震わせながらカーツを睨んでいる。


「ん? なんだジジィその、まるで予定では俺がここにくることは有り得なかった、とでも言いたげな振る舞いは」

「っ……!!」


 ジャックは二人の間の違和感に気付いた。


「は? 何だよクレイモワ!? もしかして――」

「……」


 クレイモワは、堪らず視線を逸らした。

 それを見てカーツは笑みを零した。


「図星だよなァ!! 解っていたさ初めから、ジジィの目論見は!! だからジジィに気付かれない様にゲートからここまでの抜け道を作る対策を講じておいた。これでもう前回のような徹は踏まない、よって俺はタイムアップまでに最高のタイミングでここに来ることに成功した!!」


 高揚を隠せなくなったカーツは両手をいっぱいに広げ、喜びを体現する。

 それとは対照的にクレイモワの顔はどんどん青ざめていく。


「もしかして、あの……」

「貴様が思っていることが正解だ反乱者ジャック、あの螺旋階段は……俺が作った抜け道だ」


「「螺旋階段……だと(じゃと)……」」


 ジャックとクレイモワが同時にその名称を口にする。

 二人の言った言葉こそ同一だが、それが意味することまで同一というわけではない。


「そんなもの、用意出来る訳がない!! 貴様は今より数十分遅れてくる予定だったはず!?」


 クレイモワは大声を上げてカーツの発言を否定した。


「そんなに気になるなら見てくるがいい。まさか本当に気付かれないとは思わなかったが……」


 カーツは冷静を保ったまま、クレイモワに螺旋階段の存在を確認するように促した。

 そしてクレイモワは気が遠くなるほどの年月ぶりに、扉の外を見た。


「これは……まさかこのようなことが本当に……」


 クレイモワはその場に崩れ落ちる。

 クレイモワの中の何かが切れた。希望や思いといったポジティブな感情は、彼の目の前に広がる螺旋階段に打ち壊されてしまったのだ。


 そして、ジャックには懸念があった。

 カーツの口から出た螺旋階段という単語を聞いた瞬間から、これまでの人生の中でダントツに不安を煽られる恐ろしいほどの懸念。


 それは、


「カーツ……お前」


 一言一言、ゆっくりと……図らずして慎重になってしまう。


「お前……螺旋階段の途中で、誰かに会ったか…………?」


 カーツは間髪入れずに答えた。


「殺したよ、あの女は」


                ☆


 同時刻、螺旋階段にて――


「何でだよ……」


 上下の分かれ道を下に進んだ晴人とエルナは、ソレの目の前で立ち止まっていた。

 ソレは晴人とエルナがよく知る人物で、晴人に至ってはついさっきまで一緒にいた人物。


「アンジェラ……なあ、返事してくれよ」


 晴人は何度も彼女、アンジェラに呼びかける。完全に脱力し、体を壁にもたれかけながら……何度も、何度も……、


「……っ!!」


 エルナはその様子を見ていられず、気持ちを抑えながら目を逸らした。


「アンジェラ……アンジェラぁ!!」

「もうよせ晴人!! アンジェラは、もう……」


 死んでいた。


 アンジェラは死んでいた。


 体の中央部分の殆どを失い、残っているのは胴から上と、両足のみ……、

 彼女の周りには、夥しいほどの血が、まるで芸術家が描いたアートのように塗りたくられるように飛び散っていた。


 晴人は、ついに堪えきれなくなって涙を流した。

 ほぼ頭だけとなったアンジェラを胸に抱きしめる。


「アンジェラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


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