『あるべき』へ
「何年も前って……一体どういうことなんだ?」
ジャックはあれっきり取り合ってくれなくなっていた。
晴人が仕方なくレジスタンスのやや後方に下がって思案していたとき、
「やや? お兄さんはエルリック戦で大活躍したあの!?」
晴人はテンション高めの少女に絡まれた。
「あんたは……どこかで会ったような……合わなかったような……」
「がびーん!! あたしだよっ!? リリィ!! 素敵で可憐な超絶美少女!!」
晴人はそこまで言われて、あぁ……そういやこんなウザいやついたなー、と思い出してしまった。
「思い出してしまったって何よーっ!! お兄さんひどい!!」
「ごめん! 悪かった謝るからメタな発言はやめなさい!」
リリィのボケが危険な域に達する前に全力で止めに入る晴人。
「それにしてもお兄さんって強いんですね! あたし尊敬しちゃいますっ!」
「あ、ありがとう?」
「いやあお兄さんの活躍を見る度にあたし、感じたことない気分になっちゃって……はぁはぁ」
「え!? ちょ、なんなのこの子!」
「頬を赤らめ目をとろんとさせ、まるで……k「ストップストップストーーップ!! どうしちゃったんだよ一体!! この話が始まって、ってかこいつが出てきてからメタりまくりなんですけど! ってかキャラ崩壊もいいところだろ!! 俺今回の話でかっこいい主人公役目指すはずだったのにこれじゃ壮絶なツッコミ役じゃねーか! つーか俺今回出番なさすぎなんですけど。主役の座ほかの人たちに取られまくりなんですけど。つーかこれ俺のほうがメタりまくりなんですけどォォォォォ!!」
晴人はこれまでの鬱憤をすべて吐き出すかのごとくマシンガンばりのツッコミを誰かもわからない誰かに入れまくった。
それを聞いていたリリィは、
「え? 何なの急に……ちょっと引きます」
「どぉぉしてそうなるんだァァァァ!!」
頭を抱え絶叫する晴人。そろそろ限界かもしれない。
「リリィさんのペースに引き込まれてはいけませんよ。落ち着いてください」
ふと晴人に助け舟を出す少女が一人、
「お前は……」
「私はリリィさんの親友兼傍付き兼……です」
言葉の端を濁らせて自己紹介をする傍付の少女。リリィとは打って変わって落ち着いている。
リリィはそんな彼女の横に立って補足説明をする。
「彼女はシャーリィ。あたしの親友兼傍付き兼彼女です」
「「ぶっ!!」」
晴人とシャーリィは同時に噴出した。
「リリィさんそれは内緒って言ったじゃないですかぁ!」
赤面でリリィに訴えるシャーリィ。リリィはケラケラと笑っているだけ。
「あぁ~なんだ。お前らあれか、所謂レズってやつね」
晴人は悟ったように穏やかな口調で続ける。
「大丈夫。俺の身内にもそれっぽいのがいるから、理解はちゃんとあるから」
「レズじゃありません、百合と言ってください!!」
「シャーリィ突っ込みどころそこじゃないでしょ」
晴人はこのやり取りを通して若干感覚を取り戻しかけていた。
いままで革命だの戦闘だのの連続で日常的な思考回路が麻痺しかけていたのだ。
本来の晴人はもっと――、
「……ありがとよ、二人とも。お前らのおかげでなんだか俺元気でてきたよ」
「うんうん! お兄さんにはそうやって元気であってほしかったのだよ。あたしの作戦大成功!」
「まあノープランですけどね」
「うっ、そこ言う~?」
晴人は思い出した、そうだ。初めは巻き込まれる形になったけど、俺は日常に戻るために頑張っているのだ、と。
「そうだよな。俺が変わってしまったら意味がないんだ」
「え? お兄さん何か言った?」
「いいや、なんでもないよ。そろそろ次の『間』だ。カイゼルってやつを倒さないとな」
リリィは笑顔でうなずいた。
「そうだね! あたしの第七部隊もフル稼働で頑張っちゃうよー!!」
「へっ?」
予想外の言葉に晴人は変な声を上げた。
「リリィって……隊長さんだったの?」
「当たり前じゃん! あたしを甘く見ないでよねっ!!」
「ええええええええ!! 嘘ぉぉぉぉぉぉ!!」
リリィはふと重要なことを思い出しハッとする。
「お兄さん、名前なんて言うの?」
「お前のテンションはジェット機かよ……晴人、柊晴人だよ」
「はるっちね! 末永くよろしくねっ、キャピッ!!」
「はるっちってなんだよ! キャピってなんだよ!! やっぱりウゼェ!!」
☆
天界城ギラトンの中枢に近い場所……界離の間。レジスタンスは三人目の守護者、カイゼル=フライアントのもとまで辿り着いていた。
「……」
レジスタンスはこの場に来て、革命開始から何度か目撃した不思議な現象の中で、群を抜いた現象を目の当たりにしていた。
カイゼル=フライアントは宙に浮いていたのである。それも逆さ向きに、である。
『ようこそ、僕の庭へ』
また一つ不思議なことが起こった。
レジスタンスの面々にどよめきが起こる。カイゼルは常識の外側なのか。
彼は、一ミリたりとも口を開いていなかったのだ。
『どうしちゃったんだい? まるで異常な光景でも見ている人のようだよ?』
「どうしたってのはこっちのセリフだろ……何もかもおかしすぎだ」
レジスタンス全員がざわついている中で晴人も疑問を洩らさずにはいられなかった。
その中でジャックは、
「お前は、賢者か」
アンジェラをおんぶしたまま、ジャックは問う。
『賢者、ケンジャねえ……面白い表現だね。僕は君たちが思っている賢者ではない……けど、誰がその賢者って呼ばれているかは知ってるよ』
「……なんだと」
『フフ……あくまで予想だけどね。聞きたい?』
「どうでもいい。どっちにしろ、お前ら天界人はぶっ倒すんだからな」
『せっかく君たちに情報をあげようとしたのに、残念』
ふてくされたように言うカイゼルだが、浮いている彼は表情一つ変えない。
「一つ聞きたいんだが、いいか」
晴人が浮遊している少年に向かって聞く。
『聞こうか、でも質問はこれ一回しか受け付けないよ。君たちと僕は敵同士だからね』
敵のくせにペラペラ喋るやつだ、と晴人は内心思った。
「浮遊している人間がお前、カイゼル=フライアントなら、お前はなんでわざわざこんな回りくどい喋り方してんだ?」
『……僕がどんなコミュニケーションスタイルでも君たちには関係ないよ』
「これもお前の能力ってわけか」
『ノーコメント。質問は一つしか受け付けないって言ったよね』
「ハッ、でもそれはほとんど肯定したようなもんだぜ。私が宙に浮いているのも外部出力で喋っていることも、天井に張り巡らせている無数の魔法陣も全部自分の能力ですってな」
晴人の言う通り、界離の間の天上には、幾何学模様の魔法陣のようなものが張り巡らされていた。
天界の技術といってしまえばそれまでだが、カイゼルは敢えてそうとは言わなかった。
『アハハハハ! 面白いね君。いいよ、どうせ知ったところでどうしようもないんだから教えてあげるよ。僕の能力はこの世の不可思議の掌握。誰も知らない未知はすべて僕の能力なのさ!!』
世界には、科学で証明できない事象が星の数ほど存在している。中には誰も知らないことだってある。むしろそういった類のほうが多いかもしれない。
カイゼルは、そういった類を操ることができるのだ。
『これから君たちが相手取るのはこれまでの二人とは格が違う……周りを見るがいい!』
カイゼルの合図とともに界離の間の全容が、見た目が、空間そのものが変質化していく。
『面倒な問答は此処までにしよう。……こは僕の能力によって作り上げた超空間エッテンシモ!! さあ楽しもう、僕と君たちの、戦いの時間を!!』
☆
界離の間は無に包まれた。いや、その表現すら実際には正しくないだろう。
人間には、少なくとも晴人にはこの状態の『今』を的確に言い表すことは出来なかった。
自分がちゃんとした地面に立っているのか、それともカイゼルの能力で宙に浮いているのかすら判らなくなる。
そんな中でも晴人には確認できることがあった。
一つは視界である。
晴人は現在、周りを見ることはおろか、自分の姿すら視認出来ずにいる。これはただ暗闇にいるというわけではなく、視覚ごと奪われていることの証明になると晴人は考えた。
もう一つは音である。
わけのわからない世界に投げ出されてしまったこの状況でもレジスタンスの慌てふためく喚声は絶えず続いている。
『驚いているようだね……こんなの僕の能力のほんの一部なんだけど、君たちには十分すぎるらしい』
加えてカイゼルの余裕ぶった音声も聞こえてきた。
晴人は嫌な予感を感じ取っていた。
まずい……この状況は非常にまずい、と。
晴人の予感が当たれば、そろそろ聞こえてくる頃だ。
「ッ!? ウワァァァァアアアア!!」
人間のものと思われる悲鳴がけたたましく耳を劈いた。
晴人の予想は的中した。
「始まりやがったか! そうだよな。こんな一方的な状況を作り出せるんならアイツには相応の攻撃手段があるってわけだ。予感は的中ってか、クソッ!!」
とは言ったものの、視界が遮られた今、闇雲にデュオライフルを使うわけにもいかない。流れ弾が味方に当たるかもしれない。
堕天武装も持ち合わせていない。
こちらの攻撃手段は、既に断たれていた。
「(ジャックを頼るか……? いや駄目だ! ジャックは多分アンジェラを抱えているはずだ。目立った行動をとれば集中攻撃を受けるかもしれない。第一敵が一人だけって可能性はかなり低いじゃないか? あの時通路で出てきた機動物体はカイゼルの回し者だ。あんなのがすぐに作れるのならこの状況下でそいつらが動き回ってても何もおかしいことはない……!!)」
どうすればいい……どうすれば……、
断続的に悲鳴と流血の音が聞こえてくる。だんだんと焦りが出てくる。
武器を構えることすら出来ず、どうしようもなくなってしまう。
「つーか実はもう俺の後ろにはあの機動物体がいておれは殺される寸前だったりしてな」
その時、晴人は背後に無機質と爆風を感じた。
「ほらな……言わんこっちゃな――」
その背後に感じた無機質は、そのまま『界離の間』ごと真っ二つにカイゼルの超空間エッテンシモを引き裂いた。
「へ? ナンダコレ」
エッテンシモは強大過ぎる質量の暴力によってその維持が不可能となる。
「なっ……なんだ今の攻撃は!!?」
カイゼルが初めて肉声で発した言葉は驚きの声だった。
「僕の作った空間を外部から、しかもたった一撃で!?」
界離の間にはカイゼル以外に声を出すものなど皆無だった。
依然として空中に浮いているカイゼルには気付かれない程度の些細な地響き、レジスタンスたちはこの地響きが意味することを大体わかっていた。
だんだんとその地響きは激しさを増し、
「なんだ、なんなんだこの揺れは!? 何が起こるっていうんだ――――ッ!?」
その時、カイゼルは目撃した。二撃目が来たことを、
その二撃目は下から来たことを、
その武器は、大きな大きな斧のような形状をしていたことを……、
「っ!!」
カイゼルは咄嗟に魔法陣を寄せ集め、何重もの厚い層を作り上げた。
が、そんなものでは迫る攻撃にとって何の意味も持たない、まったくもって無駄である。
カイゼルの体は押し上げられる形で界離の間の天井を突き破り天界城ギラトンの屋根を破壊して上空を舞った。
十秒ほど重力に反して上空へ飛ぶのを感じ、やがて自由落下を始める。
「ックソォ!! 何が……どうなって……っ!?」
カイゼルは見た。
天界城ギラトンの半分はある規格外な大きさの斧を……そして、
「―――――………………ァァァァァァアアアアアアア!!!!!!」
その斧をいとも簡単に振り回す戦鬼の姿を。
「ヒッ!」
間一髪だった。
戦鬼カリータの斧による超が付くぐらいのスピードの一撃を、羽を使った空中飛行で避ける。
「戻らないと……!!」
そこからのカイゼルは界離の間に戻ることを一番に考えた。羽を折りたたみ、飛行能力を最大限に上げ、目にも留まらぬ速さで戻ろうとした。
が、それはあくまで常人の目には留まらない程度の速さでしかない。
「ガシ。つーかまーえた♪」
カリータは自分で効果音を言いながらカイゼルの肩を掴んだ。どちらかというとその効果音はミシィ、である。
「お、前……どうやって……」
背から握りつぶされそうな勢いで肩を掴まれている中、カイゼルはカリータの異常なまでの速さについて問いた。
あわよくば弱点を聞き出そうとした魂胆である。
しかし、
「簡単さ」
そういえば、とカイゼルは疑問を頭にめぐらせた。こいつは、どうやって背後に立っているんだ、と。
答えはカリータが指で示した方向にあった。
そう、気付けなかっただけで、足場は既に作られていた。
カリータの大斧。それは所有者の思いのままに大きさを変える斧。
「僕はね。斧の拡大する力を使って瞬間的な速度を生んだんだ。だから、逆の手順を踏めば――」
そこから先は語るよりも早く実際の行動で教えられた。
斧の先端に立っていたカリータと彼に掴まれたままのカイゼルは、斧の柄が刺さっている場所、界離の間までコンマ一秒で移動した。斧の収縮による超速移動だ。
勿論、その時にかかるGはとてつもなく、カイゼルは界離の間に戻ったころには既に動かぬ肉片となっていた。
「ふう。これだけでぐちゃぐちゃだなんて案外天使って脆いんだね」
言わずもがなカイゼルは死んだわけではない。また数秒後には再生を開始するだろう。
「カリータ!」
背中にアンジェラをおぶったジャックがカリータの名前を呼んで近づいた。
「やあやあリーダーさんじゃないですか。どうしたんです? そんな小っちゃい体で女の子を背負っちゃって」
「どうしたって、それはこっちのセリフだ! お前、作戦ではあっちに残って……」
ジャックは近くに来て初めてカリータが満身創痍なことに気付いた。
その理由も、すぐに察して、
「わかってくれましたか。そう、カーツは既に天界へと足を進めています。急いで事の解決に臨まねばなりませんね」
「そうか……よしわかった。カーツに追いつかれる前に決着をつけよう」
界離の間の出口の扉へと行こうと、歩みを進めた瞬間、
ザザッ……、という電子音が唐突に鳴り響く、
「ジャック……これって」
アンジェラがその音の正体に気付いて声をかける。
異常が正常を呑み込むこの場で、何故か天界に来てずっと使用できなかったジャックの無線が誰かと繋がった。
『第四部隊ゲート守護班より、壊滅の報告を受けた。私たちはこれから本部と合流します!!』
走りながら喋っているのがよくわかる。
「こちらはジャック、お前たちは無事なのか!?」
『繰り返します!! 第四部隊ゲート守護班より壊滅の――』
「クソッ、駄目だ!! こっちの声は相手に届いていない!!」
「私たちは、彼らの無事を祈ることしかできないの……?」
折角繋がった無線も、一方的に受信することしかできないと知って期待を裏切られる。
そんな中、同じ伝令を繰り返すのみだった無線に、大きなノイズが走った。
『う、うわあああああ!! ――だ!? 何故――に――』
何かに驚き叫ぶ声は確かに聞こえた。だが、それから先の音はほとんど聞き取れなくなってしまった。恐らく、気が動転して無線を地面に落としてしまったのだ。
「おい! 大丈夫か!? おい!!」
『―だ!! ――たくない。まだ死にたくない!!! ああああああああああああああああああああああ!! ザァァァァ――――――――』
「ッ……!!」
ジャックの言葉は相手に届かず、無線の向こうからは生気が感じられなくなっていた。
しかし、ジャックの無線が、突如ある男の声を拾った。
『よお反逆者の屑共。こうやってまともに話すのは初めてかな?』
その声にジャックは過剰なまでの反応を見せる。
「トロイト=カーツ……!!」
『ふむ、返事はなしか、それともこれが壊れているのか……まあいい。天界城ギラトンにいるということはエルリックかアルマかカイゼルかと戦っている最中だろう。どうだ? ああ見えて守護者は俺の戦力の四分の一を占める豪傑だ。なかなか手こずっているのではないか? しかし……』
自信満々な口調でカーツが語る。その様子に、ジャックは拍子抜けしていた。
ガーナード=エルリックとアルマ=ベルホイ、そしてカイゼル=フライアントであのカーツの戦力の総戦力の四分の一なのか、と。
――意外とあっけないじゃないか。
だが、その考えは次のカーツの言葉で粉々に砕け散る。
『茶番はもう終わりだ。間を守護する四人に告ぐ――力を解放しろ』
☆
ドクン、と肉片のカイゼルの四肢が痙攣した。
☆
依然としてMSS小隊と奮戦していたアルマは、体が熱くなるのを感じた。
「本気……いいわ、さあ出でよ! 天界を作りし創生神、ミナエル!!」
☆
「あーあ。今更解放しろったってもうおせーんだよバカーツのやろう」
戦意が完全消失したエルリックも高まる力を感じた。
☆
そして、
「カーツ様……お戻りになられたのですね。私も早く『間』に戻らねば……」
☆
無線は既にノイズ音すら拾わなくなっていた。
「力の……解放だと……?」
カリータが悲鳴を上げた。
「リーダー!! 急いで次の間へ!!」
カリータはいち早く次に何が起こるか把握していた。
「先へは……行かせない。先行する時代の渦!!」
界離の間が、別の次元世界へと移行する。カイゼルの真の力。
「これこそが僕の創造した新世界……これでもう君たちはここから脱出することは出来ない」
カイゼルは体が再生し切るのを待たず動き出した。
再生機能を脳と言語機能に集中させたのだ。
「手加減はしない……もう殺しちゃうよ!!」
カイゼルの手が発光して、白いエネルギー体へと変わる。
「僕の本当の力、見せてあげる!!」
まるでカリータの斧の再現のようにエネルギー体を肥大化させる。
「こんなふうに……君の真似だって簡単にできるのさ!! いくよ!!」
縦に振り下ろされた光のエネルギー体は、レジスタンスを呑み込んだ
……かのように思えた。
エネルギー体は、それと同等の巨大な斧に相殺された。
「僕の本気を、受け止めた?」
カイゼルの前に立っていたのは、いとも容易く巨大な斧を振るう戦鬼が一人。
「……リーダー、晴人……後のことは任せたよ……」
世界を違うものと、世界をも壊す力を発揮できる対天使決戦兵。
この革命の中で、紛うこと無き最大の戦いは、ようやく始まりへと針を進めた。
☆
「ちくしょう!! あのバカ、囮のつもりか……クソッ!!」
晴人は拳を地面に打ち付けながら叫んだ。
「あれってもしかして、さっきアンジェラが使った瞬間移動じゃないのか……どうしてアイツが……」
ジャックは思案した。しかし、答えは背中のアンジェラが語った。
「カリータには、私が教えたの……」
「なっ!?」
晴人が驚きの声を上げた。
「なんであいつに瞬間移動を使わせた! あの技って使った後死ぬほどきついんだろ!? このままだといくらカリータでも何も出来ずに死んじまうぞ!!」
「私だって使わせたくなかった!! でも、気付いた時にはもう……!!」
「冗談じゃねえ、これじゃあカリータが無駄死にじゃねえか……」
晴人が次の間への通路を逆走しようとした。
「晴人、どこへ行く気だ」
聞いたのはジャックだ。しかし、どんな返事が返ってくるかは聞いたジャックも想像に容易かった。
「決まってんだろ、カリータを見捨てきれない。助けに行く!」
晴人は振り返らず、立ち止まりもせずに言い切った。
ジャックはそれを聞いて、
「アンジェラ、ちょっと座ってろ」
アンジェラを壁際に座らせた。
そして、彼の後を追い、名前を呼ぶ。
「晴人」
晴人は振り返らない。
「晴人……」
彼はもっと早歩きになった。
「晴人ォォ!!!!」
ジャックは走って彼の前へ飛び出し、晴人の顔面に拳を叩きこんだ。
晴人は殴られた反動で吹き飛び、レジスタンスの中に埋もれた。
それをジャックは胸倉を掴みながら引き上げる。
「ふざけてんじゃねえぞお前!! カリータが傷だらけの身を挺して助けてくれたんだ。それをお前は助けに行くだぁ!? そんなことしたらカリータの頑張りが全部無駄になっちまうじゃねえか!!」
晴人は、内に秘めていた激情を露にする。
「だったらジャックはカリータを見捨てるっていうのかよ……助かるはずの命を、見殺しにするっていうのかよ!!」
「カリータは死なないッ!!!」
「……っ!!」
ジャックはありったけの力で叫び、晴人は黙り込んだ。
「カリータなら何とかしてくれる。カリータならきっと生きて帰ってくる……そうやって信じるのは仲間として当然のことだ」
だから、進もう。あとちょっとで全部終わりだ。
「……? これは、ドウイウ……」
ところどころに異常な音声が混じるサクリファイスは、その腹部に一振りの刀が突き刺さっていた。
エルナは、体が動かせなくなったように見せかけて隙を突いたのだ。
「お主の負けじゃ……さぁ、サクリファイスを返せ」
「ググッ……やはりこの程度ではアルケミストは始末し切れナイようダ……」
「消えろ」
「フハハ……まだ手はいくらデモあル。お前の主共々じっくりとシへと追いヤッテやる……」
「消えろと言っているのが聞こえんのか!!」
エルナの一喝で、今度こそサクリファイスから邪気が完全に消滅し、サクリファイスは気を失った。
「何者かが暗躍しておるのか……?」
エルナはサクリファイスを建物の壁にもたれるようにそっと座らせた。
☆
エルナ対サクリファイスの戦いを一部始終監視していた男がいた。
「完全特殊タイプっつってもこんなもんかね。こりゃハズレだな」
彼の手に握られていた金箱、オーパーツを野球ボールよろしく軽く上に投げながらニヘラと笑った。
「さてと、そろそろ戻るとしようかねえ……まったく、下っ端は辛いよ」




