表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レボリティー・レポート  作者: アルフ
イギリス革命編
31/55

大総統、天界入りす

「はっ、はっ、ふう……ふう、ッ!」

「アンジェラ!」


 立っていることすらままならずジャックに体重を預けるアンジェラ。

 光臨の間を抜けた先にあると思われる通路の一角、レジスタンスはいつの間にか移動していた。

 アンジェラはジャックにもたれかかったまま辛そうに呼吸を繰り返している。

 さっきの見えない力、今の全力で百メートル走りきった直後のような呼吸の乱れ、見当はすぐについた。


「お前が、やったのか」


 ジャックがまだ呼吸の安定しないアンジェラに問いかける。

 アンジェラは辛そうにジャックを見つめるが、彼女に返事をする余裕はない。

 ただ、一つだけ大きな変化があった。


「おい見ろ! これ、羽じゃねえか?」


               ☆


 天界と現界を繋ぐゲートの入り口。第四部隊はそのゲートの周辺を任されていた。

 第四部隊が現在までに確認したものは、まず一つにMSS小隊。

 MSS小隊は突然第四部隊の目の前に姿を現した。非常に後悔していたようだが、苦渋の決断で進むことを決めたようだ。


 そして先程、新たにゲートを通らずにやってきた者が一人。


「やあ、この様子だとあの人たちはもう先に行ったようだね」


 人間にやさしく、天界人には恐ろしく厳しい『戦鬼』……カリータである。

 相変わらず爽やかさがにじみ出ていたが、よく見ると彼の体には無数の傷が見えた。

 話を聞いてみるとカリータは大総統、トロイト=カーツと戦っていたらしい。体の傷はその時に負ったものだという。


「僕はこれからレジスタンスの本隊と合流するけど、君たちはどうするの?」


 第四部隊の隊長、フェイは返答に困った。それは現界からの脅威が近づいていたからだ。

 ここでじっとしていれば第四部隊は間違いなく皆殺しだろう。しかし第四部隊に課せられた命令は唯一の帰り道であるゲートを守ること。

 生か死か、逃亡か全滅か……この大きすぎる選択を迫られたフェイはそう簡単に決断を下すことが出来ずにいた。


「いや、でもたぶん大丈夫だよ。だから君たちは本来の作戦通り天界制圧部隊と合流するんだ。そのほうがいい」


 カリータはそう言い残して天守の城へと向かっていった。

 フェイは彼の背中を眺めながら、ようやく今後のことを決めることができた。


 ――結果、第四部隊はゲートから離れた場所で状況を随時報告する班と天界制圧部隊と合流する班の二つに分割された。

 フェイ曰く、カーツに気付かれないほど遠くからならゲートの様子を観察でき、かつ状況の変化に合わせて迅速な対応ができるとのこと。


「しっかし誰も現れやしねえ……本当にあの大総統サマが自分からここまでくるのか?」


 見慣れないものを覗きながら第四部隊のゲート観察班、エーテルは大きな溜息を吐いた。


「そりゃあ来るだろうさ。お前も見ただろう、あの傷だらけの戦鬼を。あれをあそこまでできるのはそれこそトロイト=カーツぐらいしか俺は知らないねえ」


 エーテルの横で天界の町並みを眺めているのは若干細身の大男、ミノタスだ。

 エーテルはミノタスの発言に何も返さず、ただ黙って見慣れぬ筒状のものを覗いていた。


 つかの間の平穏。

 一向にカーツらしき人影が見えることもなく、しばらくの時間が過ぎた頃、ふとエーテルが口を開いた。


「ミノタスはよぉ、こんなところでジッとしてて平気なのか?」

「どうしたんだよ急に」

「どうしたもこうしたもねーよ、俺たちがこうしてる間にも友達が、仲間が死んでるかもしれないんだぞ! なのに俺たちはここでただ来るかもわからないカーツに怯えているだけで何もできない。そんなのおかしいじゃねーか」


 ミノタスは街並みを眺めたまま、エーテルに言った。


「だからって俺たちにしかできないことを放棄してまでわざわざ死ににいくのは駄目だろ。ゲートを守るのも立派な戦いだ」


 エーテルはそれを聞いてなお納得しがたい気持ちだったが、しぶしぶ筒状の棒を覗く作業を始めた。


「それにしてもお前、さっきから何を覗いてるんだ? 見たことないやつだけど……」


 ミノタスはエーテルが持っている筒状の棒が気になった。決して隠語ではない。


「ん? これか、これは俺のおばあちゃんの家宝だそうだ。スゲーんだぞこれ、見たい方向に向けてここを覗くと遠い場所でもすぐそこにあるように見えるんだぜ? ミノタスもやってみるか?」


 言われるがままに筒状の棒を受け取ったミノタス。使おうにもやや抵抗があった。


「でもこれお前のおばちゃんの家宝なんだろ? 俺なんかが気安く触っていいのか?」


 エーテルはミノタスのその発言に少し噴いた。


「エルタミナ通りの長人がなに言ってんだよ。気にすんなってそんなこと」

「それはもうあまり言わないでくれ……恥ずかしいって」

「わかったわかった! いいから早く使ってみろって」


 エーテルに急かされミノタスは慣れない手つきでゲートのほうを見た。


「す、すげえ! あんなに遠くなのにハッキリと見える」

「だろ? ばあちゃんはこれのこと単眼鏡とか言ってたっけ」


 単眼鏡はすでに失われし遺産(ロストテクノロジー)化している。

 ミノタスはすごいものを使っていることに気分を高揚させた。

 そんな中、ミノタスはある発見をした。


「ゲートから誰か出てきたぞ!?」


 ゲーと観察班全員に行き届くように声を上げた。


「本当かミノタス!」


 エーテルは確認を取りながらゲートを見たが、ここからは遠すぎてカーツの姿を捉えることは出来ない。


「あの見た目は間違いない、どこからどう見てもカー……なんだ? ――ヒッ!!?」


 ミノタスは喋っている途中にいきなり小さく悲鳴を上げ尻餅をついた。

 その悲鳴から嫌な予感を班の全員が感じ取っていた。

 ガクガク震えるミノタスに恐る恐るエーテルが問う。


「どうしたんだ……一体何を見た……?」


 エーテルはミノタスがここまで恐怖している姿を始めて見た。幼少から悪ガキ二人組としてイギリスのエルタミナ通りを仕切っていた天使に数々の悪戯を仕掛けては遊んでいた怖いものなしの二人だったが、その片割れのミノタスがここまで怯えているということ自体が、エーテルを不安の波に呑もうとしていた。


「………目……」


 震える唇を動かし、ミノタスが伝えようとしたことは、


「目が、合ったんだよ。俺のほうを……見たんだ、話しかけたんだ……ゆっくり…一文字ずつ」

「ソ・コ・エ・イ・クってな」


 その声を聞くだけで、各々は死を連想した。


 完結的に言うと、ミノタスの首は胴体から綺麗に抜き取られた。


「あ……」


 突然の登場とミノタスの成れの果てにより、エーテルは言葉を失った。


「恐怖か。俺に対するものか、仲間の死を見て自分も死にたくないという感情から来るものか、それともその両方か……まあ何にせよ――」


 ゲートからとんでもない速度で移動してきたその男、トロイト=カーツは、舐めるようにレジスタンスの面々を一瞥した。


「さぁーて、お前たち虫ケラの快進撃もここまでだぞ」


 カーツが手を掲げる。それは、

 破滅の合図。






「ジャッジメントですの!!」


 サクリファイスは著作権的問題を固めた技名を叫び、またもや著作権的問題をはらんだ追尾機能付きの弾丸を十、二十と発射した。

 怒りに燃える少女とは対照的に柔らかな姉の表情をしている白ドレスのエルナは、真っ直ぐに飛んでくる銃弾をひらりひらりと躱し、目にもとまらぬスピードで切り捨てる。


「わからぬか妹よ、お主の技は余には効かんのじゃ。降参せい」

「イヤよ! ここで負けたら、諦めたら駄目なんだから……絶対にッ!!」


 サクリファイスは言い聞かせるように首を振った。


「あたくしが一度決めたことは曲げないってこと、お姉さまならよく御存じでしょう。だからお姉さまはっ、あたくしが諦めるのを諦めてくださいまし!!」


 サクリファイスは言葉を紡ぎ終えると同時にエルナへ駆けた。

 彼女の手には光り輝く剣のようなものが新たに握られていた。


「む、それは!?」


 サクリファイスの持っている剣のようなものを見て驚きに染まるエルナ。そしてサクリファイスの剣戟を後退しながら捌きつつサクリファイスに問う。


「お主、これがどういったものかわかっているのか!?」


 エルナが勢いを乗せて刀を水平に薙ぐと、サクリファイスは後ろへ下がって攻撃の手を休めた。


「わかっていますよ当然でしょう? 『聖十字の棺桶』、これは昔お姉さまを封印へと追いやった悪魔殺しの剣。使いたくはなかったけど……お姉さまを止めるのはもうこれぐらいしかなかったから」

「……」


 エルナは刀を捨て、黙ってサクリファイスへと歩き出した。

「まさか怒っていますの? でも安心して下さいまし。これは本物に限りなく近いレプリカで、本物の半分の効力も持ちませんの、だからお姉さまにこれを使っても数日たてば完全に効果は消えますのよ?」

「……」


 サクリファイスは一気に捲し立てる。


「お姉さまは怒っているようですが、それも元々お姉さまたちのせいなのですよ!? 醜い現界人を引き連れて天界まで赴く。これだけで充分な大罪だというのにお姉さまはあろうことか人間如きと契約を結ぶなど……ありえませんわ!! 私たち武器錬成者(アルケミスト)は高貴であれと言ったのはお姉さま――」

「ルイス」

「……っ!? お姉さま!」


 サクリファイスはここにきて初めてその名前で呼んでもらえて、それまで怒っていたことなどすべて忘れ、満面の笑みを浮かべる。

 次の瞬間、エルナの平手打ちがサクリファイスに直撃した。


「――――え?」


 サクリファイスを叩いたエルナの瞳には涙が浮かんでいた。


「もうこんな戦いは終わりじゃ。これまでよく頑張った、本当に……成長した。だから」


 ズン、


「あは」


 聖十字の棺桶は、エルナの腹部に深く入り込んでいる。


「アハハハハハハハハ!! 自分からやられにやってくるなんて、馬鹿じゃないの!? 甘い、甘すぎますわオネエサマ……ハハハハハハハアハッ!!」


 エルナは動くのもやっと、といったふうに一歩、二歩と後ずさる。


「動くなッ!!」

「っ!」


 ルイスのお嬢様口調が変貌し、鋭い刃のようにエルナに突き刺さる。

 その一瞬の変化に惑わされた隙を突くように上段から聖十字の棺桶を振り下ろされなす術もなく地に伏すエルナ。


「残念でしたわね、お姉さま。あたくしの勝ちですわ」

「このような真似は……やめるのじゃ……」


 聖十字の棺桶の効果で徐々に体の自由が奪われていく、その中でエルナは必死に言葉をかける。


「余の妹は……ルイスは、こんなに弱い子では……」

「黙っていロ、アルケミスト」


 サクリファイスの声には、今までにない冷血さと、人間のものとは思えないノイズが混じっていた。


「ルイス……」


 封印の棺桶は、倒れたエルナへと加速して――、


                ☆


 アンジェラは父子家庭である。まだ彼女が幼い頃に母親は天界へ強制連行されている。

 そのことを最近になって父に告白され、アンジェラは自分の母がいない本当の理由を初めて知った。

 そしてもう一つ、こう言われた。


「お前の母さんは、生きている」


 アンジェラは困惑した。天界に連行された人間が生きているわけないと知っていたから。

 それに、


「なんで父さんがそれを知ってるの?」


 父は、アンジェラの母が生きていると断言した。そこまで言い切れる証拠が欲しかったのだ。


「……そうだな、ここまで話したらもうしょうがない。最後まで教えてあげよう」


 父の口から信じられないような事実が告げられる。


                ☆


 ジャックの顔は、戸惑いと動揺に覆い尽くされた。


「嘘だろ……アンジェラの母さんが、天使……?」

「そう……らしいの……」


 アンジェラはある程度回復してきたようで、顔色もだんだんとよくなっていった。


「この瞬間移動もその時教えてもらったわ。天界の人間は誰でも使用できるらしいけど」

「その割には今まで天使が使っているのを見たことないな。そんな便利な技があるならもっと活用しても良い筈なんだが……あぁ、そういうことだな」


 ジャックはアンジェラを見ていると何故敵が瞬間移動を使わないか理解した。


「お前、そうやって動けなくなるって知ってて瞬間移動を使ったのか?」

「……っ」


 アンジェラは、返す言葉もないといった体でジャックから目を逸らした。


「図星なんだな。アンジェラ……どうしてこんなことしたんだ」


 ジャックの声のトーンはいたって変わっていなかったが、誰でもわかるぐらいに彼は怒っていた。


「しょうがないじゃない……あのままだったらもっと死人が出てた!」

「だからってお前が一人で無理していい理由にはならねえだろ! 動けないお前をみすみす置いていくわけにもいかない。もしこんなところを敵に襲われたらどうするつもりだったんだ!」

「それは……」


 二人が際限のない喧嘩を始めたことにより、それだけでレジスタンス全体の動きが停止する。

 それだけでなく、


「おい、いつまで喧嘩続けるつもりだ」

「そんなことしてる暇はねーだろ」

「今が一大事なのはお前らはよくわかってんじゃなかったのか!」


 レジスタンスからは二人に対するブーイングの嵐が起こる。皆、長期にわたる戦闘で疲労がたまっているのだ。


「ちょっとあんた等いい加減にしなよ! いい年して黙ることも出来ないの!?」

「リリィさんの言う通りです。まあ第七部隊の皆さんはいい人たちだから暴言なんて吐かないでしょうけど」


 レジスタンスの各所では飛び交う暴言を止めようとしている人もいた。


「くそっ、このままじゃまずいな。全体の指揮を執ることすら危うい……」


 ジャックがレジスタンスに静かにするように言おうとしたとき、


「女一人放っておけばいいだろ!!」


 他のブーイングより一際大きく発せられたその言葉は、それ以外の暴言をピタッと止める。

 しかし、


「なんだと?」


 その言葉はジャックの逆鱗に触れるものだった。


「今までだってそうやってたくさんの仲間を捨ててきたじゃないか! そのせいで、俺の親友は……っ!! お前のせいで死んだ……お前がヴァルを殺したんだ!!」


 それは暴言ではなく、行き場のない感情から作り出された嘆き。彼もまた、戦争で友を失っているのだ。

 だが、


「馬鹿が、そいつは――」


 ジャックが悲痛な叫びを続ける男にあることを伝えようとしたとき、晴人がジャックの肩を掴んだ。


「ジャック、どうやらこんなことしてる余裕はもうないみたいだ」


 晴人が指差す先では、不可思議な形状をした機械のような物体が、通路ギリギリの巨体を軋ませながらこっちへ接近していた。


「新手か! こんな状況で!!」

「アンジェラを通路の奥へ! アレの相手は俺がやってやらぁ!!」


 言ってデュオライフルを構え、すぐさま起爆性弾丸を放つ。

 乾いた音と共に弾丸は発射され、真っ直ぐに物体へ向かう。

 遠目に見て避けるそぶりが無かった気がしたが、結果弾丸は命中し、当たった反動で弾丸は錐揉み回転で宙を舞った。


 ここまでは予定調和。


 そのまま弾丸は速度を失っていき、次の瞬間。

 目に見えてわかる威力で弾丸は起爆した。爆風が爆発音よりやや遅れやってきて晴人はようやく成功を感じた。


「どうだ?」


 ジャックが晴人に聞く。


「生半可な鉄やコンクリートぐらいは構わず吹き飛ばすぶっ壊れた威力だ。恐らくは……」


 もう動けないさ、という台詞を吐こうとした晴人の目には、無傷で近づいてくる物体の姿が映った。


「おいおい、あの威力を食らってビクともしねえのかよ……って感心してる場合じゃねええええ!!」


 晴人に残された手は通常の弾丸を連射するぐらいだ。しかし、起爆性弾丸が効かなかったというのに通常の弾丸が通用するわけも無かった。

 しかし、この連射で晴人はあることに気付く。


「あの物体、弾丸を食らっている?」


 物体は距離を詰めてきて、そろそろ細かいところまでわかるぐらい近づいてきている。

 それでこの物体は弾丸による攻撃でところどころ破損しているのが見えたのだ。


「いや、それだけじゃないぞ……アイツ、破損した箇所から自動的に再生している……!!」

「なんだって!?」


 ただの弾丸じゃロクに傷つかない装甲に超速再生を持っている謎の機動物体。


「堕天武装は!?」

「あんな何でできてるかも解らない物体に近づけっていうのか!? 無理言ってんじゃねえよ!!」

「じゃあお前のビームサーベル貸せ、俺が行く!!」


 言い終わる前にはジャックから強引にビームサーベルの柄を奪取する晴人。


「おい晴人!」

「任せろって! 天界の兵器はこれがよく効くんだろ? 止まれええぇえええええ!!」


 床を削り取りながら機動物体を切り上げる。


「もういっちょォォ!!」


 ビームサーベルを水平に振う。十文字に傷をつけられた機動物体はすかさず超速再生を始める。

 晴人がそれを見逃すはずがない。

 再生が終わりきる前に、切断部分を強引に開き、物体内部へ侵入したのだ。


「へへっ、こーゆうのは中から破壊するのが定番だよなァ!!」


 ビームサーベルの柄を強く握りしめる。

 そして、上下左右全方位を怒涛の勢いで斬り始めた。これは峰といった要素のある真剣ででは真似できない芸当だ。


「これで、止めだッ!!」


 リ○クの大回転切りの要領で機動物体を上下に分割し、その上のほうを吹き飛ばして晴人が中から出てきた。

 機動物体はその動きも超速再生も完全に停止させた。


「やった……のか?」

「やめろよ、フラグだってそれ」


 晴人はそう言って機動物体を触った。


「いきなり動き出したりしないよな……」


『ウギギ』


「「!?」」


 機動物体は機械音ではない確かな声を発した。

 喋っただけでなく機動物体の下半分にあたる部分は自律機動すらする始末。

 半分より上の部分に至っては地球の重力を無視して浮遊している。あまりにも異常事態である。

 まわりのレジスタンスたちもこの異様な光景を見て常識的な考えは出来なくなっていた。それこそ完全に機能を停止したはずの物体が再び動き出したことに対する疑問や、そもそもさっき聞こえた声はどこから流れてきたのかすら不思議に思う余裕など、機動物体の次の行動で全部どうでもよくなってしまった。


『やあ現界人のみんな。僕の名前はカイ……カイゼル=フライアントだ。ここから先に少し進んだところにある界離の間の守護者をしているんだ』


 界離の間。そこで待ち構えている天界人、カイゼル=フライアントは淡々と台本通りといった具合に話を進める。


『このf-306もあんまり君たちの到着が遅いから待ちきれずにそっちに寄越したんだけど、まさかあの再生力をいとも簡単に超えてくるなんてびっくりだよ。フフフ、楽しみだなぁ』

「おいお前、これは何のつもりだ」


 ジャックが機動物体f-306越しにカイゼルへと問う。

 カイゼルは笑いがこみあげてくるのを我慢できず、笑いを混ぜながら返答する。


『余興だよ。君たちはあの鬼ババァを曲がりなりにも乗り越えてきたじゃないか。それがどれ程の実力なのかを試させてもらったのさ』

「試す? 馬鹿言ってんじゃねー」


 今度は晴人が反論した。


「この程度で試した気になってんならお前、気を付けた方がいいぜ? 俺の本気はまだまだこんなもんじゃねえからな!」

『へえ、君が例の……』

「んだよ、言いたことがあるなら最後まで言えって」


 カイゼルは妙に納得したような声を上げた。


『そうか、ならもう十分すぎるくらいかな。続きは界離の間でするとしようじゃないか、楽しみに待ってるよ』

「おいこら! 話はまだ終わってねえ!」


 晴人の呼び止めにカイゼルは何も返さず通信はここで途絶えてしまい、謎の機動物体、f-306は完全に停止した。


               ☆


「で、結局こうやって俺がアンジェラをおんぶしてるわけだが」

「えへへ……」


 ジャックは背中にアンジェラを抱えていた。

 晴人はその横でほくそえんでいる。


「いちゃいちゃするのはいいんだけどさー、状況ってやつを少しは考えたらどうだいお二人さん?」

「仕方ないだろ。こうでもしないと先に進めなかったんだし」

「ここまで来たらもう進むしか道はないしな。ぼちぼち気合を入れなおさないとな」


 晴人は頬を軽く叩いた。

 気合を入れなおす、ここまでだって本気でやってきた彼だったがこの行為にはもっと大きな意味があった。


 グリフォン。


 レジスタンスが天界三賢者と呼称していた男。彼はまだレジスタンスの前に姿を現していない。が、遅かれ早かれ自分たちの目の前に現れるのは明白だ。

 晴人は以前にグリフォンと対峙して、引き分けのような形で逃げられている。


「あの野郎次は絶対に逃がさねえからな……」

「あの野郎って誰のこと?」


 ジャックの背中に乗っているアンジェラがそんなことを聞いてきた。


「ん? ああ、ちょっとした因縁ってやつよ。ま――」

「グリフォンだろ」


 晴人の言葉はジャックによって遮られた。


「……? そうだけど、よくわかったな」

「ジャック……」


 ジャックの顔はいつもより険しさを増していた。


「もしあいつを見つけたら、その時は晴人……お前がレジスタンスの指揮を執ってくれ」

「はぁ?」

「頼んだぞ、晴人」


 ジャックは前を見据えたまま晴人に懇願した。

 勿論晴人はそんなことに納得できるはずもないのだが。


「冗談いうなって! 俺は天界に来た時からアイツをぶっ倒すことをずっと考えてたんだぞ!? それにあいつは――」

「俺だってそうだ!!」


 再び晴人の言葉に割り込んでジャックが声を張り上げる。




「おれは……もう何年も前からグリフォンを殺すことだけを考えて生きてきたんだ……!!」

間章4


 

 俺がまだ小さい頃、親父……タバサ=ウィルソンは殺された。


「俺がジャックの代わりになればいいんだろ。連れて行くのならジャックではなく俺を連れていけ」


 全部俺が悪かったのに、だ。


 あろうことか幼かった俺はイギリス駐屯兵の天使に喧嘩を売ってしまったのだ。

 何故かは、忘れてしまった。とても些細なことだったっていうくらいしか覚えていないな。

 親父は間も無く建設されたばっかりのキャッスルオブグレートヴリテンで処刑されることになった。何度も言うが、俺の代わりに、だ。


 親父は笑っていた。

「ここまで無傷で来れたら十分だ」って。


 親父はレジスタンスだった。それも仲間なんていない、たった一人の反乱者だ。

 たった一人でこの国を救おうとしたんだ。


 親父の進撃は処刑される寸前から始まった。奇しくも俺と同じか。

 処刑される状況を生中継していたイギリス統一情報社のやつらは親父が反乱を起こしてから最後までずっとその姿をテレビに映し続けた、彼らもまた親父に期待していたのかもしれないな、彼ならイギリスから天界人たちを追い出せるかもしれないって。

 俺もその時テレビを見ていたよ、親父は怒涛の勢いで、迫りくる天使たちをかき分け天界の奥の奥まで突き進んだ。俺たちの武器、堕天武装もこの親父から参考にさせてもらったんだ。

 親父は天界の最奥まで到達することができた。俺たちが苦戦したガーナード=エルリックも、アルマ=ベルホイも親父は一人で倒したんだ。常識外れもいいところだな。


 でも、親父は死んだ。後ろからの奇襲で即死だった。

 グリフォンだよ、親父はあいつに殺されたんだ。


 ……いや、実質は俺が殺したようなもんさ。

 おれはその瞬間をテレビを通して目の当たりにして、泣いた。

 人生全部分は泣いた。


 そして決めた。


「俺は、親父の意志を継ぐ……まずはレジスタンスを作ろう。親父は一人だったから失敗した。だったら人数を増やせばいいじゃん。百人、千人いやもっとだ! 集めよう……決めた、これから俺はタバサ=ウィルソンの遺志を継ぐ者ジャック=ウィルソンだ!!」


 そう。

 この革命は親父の意志を継いだ聖戦だ。復讐なんて下劣なものじゃない……そうだろ?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ