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レボリティー・レポート  作者: アルフ
イギリス革命編
30/55

蹂躙する非正規の軍靴

「まーだっかなー」


 限りなく広い空間に一人存在するアルマはスキップをしながらレジスタンスの到着を待っていた。


「エルリックもまだまだよねぇ、私だったらあれくらい秒殺だって♪」


 聖霊の間の戦闘は一部始終が監視されていて、『間』を守護する者たちに全て筒抜けになっている。

 それを踏まえたうえでアルマはレジスタンスなど秒殺できると言った。

 それは決して慢心などではなく確信から来る言葉だった。


「おや? とうとうお出ましかな」


 この『間』の入り口にあたる扉が音を立てて開く。

 そこから現れたのは天に仇名す者たちだ。


「ここが、次の……」


 部隊の先頭にいたジャックがふと声を洩らした。それによって後方のレジスタンスたちもざわつき始め、物音一つしなかった空間は一気に騒がしくなる。


「いらっしゃーい! ここは『光臨の間』……私はこの光臨の間を守護するアルマよ。よろしくね」


 アルマは手元の杖をシャランと鳴らした。


「お前一人が俺たちの敵か」


 ジャックが前に出る。


「うん、まあそうなるわね。数なんて大した問題じゃないし」

「そうか……」


 ジャックはポケットに手を突っ込んだままアルマへと歩み寄る。


「俺はレジスタンスリーダーのジャックだ。そして――」


 ジャックの目に殺意がこもる。


「覚悟しろ!!」


 先手必勝。

 ポケットには予め仕込んでおいた堕天武装(ビームサーベル)の柄。それを起動させ、アルマの喉元に刃を伸ばす。

 避ける素振りのないアルマから鮮血が、舞い―――


「はいはーいタンマ。先走りはよくないよ?」

「っ!? お前、どうやって!?」


 驚きに染まるジャック。

 アルマは飄々としていた。


「何が……一体……」


 ジャックは自分の持っている武器を確認する。

 付いているはずの血が、無い。


「何をした貴様ッ!!」

「教える訳ないじゃない」

「ごッ!!」


 アルマの杖でジャックは吹き飛ばされ、それをなんとかレジスタンスの男が受け止める。


「大丈夫かジャック!」

「あ、あぁ……」


 アルマはカツッ、カツッと杖を地面に打ち付ける。


「いい? 私と貴方たち、普通に戦ったら勝敗は決まってる。だから今から行う戦いにある条件を定めようと思う。一つ……サシの勝負は認めない、以上!!」


 高らかにアルマは宣言した。

 サシ……つまり一対一で勝負をすることが不可能となる。


「ふざけんなよ!」


 それをジャックは一蹴する。


「その条件は意味なんてないじゃないか。この人数を見ろ!」


 ジャックの後ろには数千の人間たち。アルマの宣言に動揺を見せど、戦意をそがれることはない。


「元々俺たちが一対一で戦うなんてことはありえないんだよ……それを条件まで付けて禁止しても無駄だ! 必要がない!」

「あら、貴方自分が言っていることが無茶苦茶よ? 自分たちは多対一で戦いに来ているのにそれを強制させられたら無駄だの必要ないだのほざく……まるで一対一に持っていかないといけないみたいな言いぐさよねぇ」

「……っ」

「あら図星だった? でももう手遅れ。戦闘条件は成ったわ、『光臨の間での戦闘は多対一のみ』いや違うわ――」


 神々しくこの間の天井が輝きを放つ。


「なんだ……この光はッ!?」


 次に地が揺れ、動物的な鳴き声がレジスタンスの耳を劈く。

 有象無象の現出。

 圧倒的質量の顕現。

 神話に語られる神々の名を持つ存在が放つ異色の輝き。

 光臨……まさしくそう呼ぶにふさわしい現象。


「戦闘のルールはただ一つ!! 私の光臨した神々対貴方たちレジスタンス総部隊!! 現在ここにいる幾千の光臨者たちを滅し切ったら貴方たちの勝ち、それが出来なかったら貴方たちの負けよ。さあ、殺しあいなさい! 己が未来をかけて!!」


               ☆


 一つの音が聞こえる。

 地を歩く、軍靴の音。

 その音の正体は小規模の部隊のもの。しかし、正規の軍というわけではなく、並んで綺麗に歩いているわけではない。

 一人一人が存在を示すように音を立てて歩いている。

 そんな一見統率のとれていないような精鋭たちは元英国陸軍特殊軍事部隊。

 通称『MSS小隊』


「お前たちはいつでも変わらないな。これまで一度もまともな更新をしたことがあるか?」

「まあまあ小隊長、MSS小隊の最後の戦場なんですよ? そんなこと気にしなくてもいいじゃないですか」

「こいつの言うとおりですぜ! 最後ぐらい自分の思う通りにやりたいもんで。それに前のときには面食らって後れを取ったが今回はそうはいかねぇ、異界の凡人共に軍隊ってモンを教えてやらねぇとな」

「お前らは黙って歩けってんだよ! さっきのボロボロの少年曰くもうじき次のフロアだぞ」

「そう気張るなって。斜に構えてのんびり行こうぜ?」

「お前それ意味理解してんの? どっちかというとお前は真逆な気がするんだが」

「まあ気にすんなって!」

「やっぱり理解してないじゃないか! 隊長も何か言ってやってくださいよ!」

「隊長はよせって。俺は今はただの部隊長でその上も、上の上もいるんだ」

「しかし!」

「ほらもう見えてきた。気を引き締めろ! 恐らく次の場所が最前線だ、我々が参戦することでレジスタンスを完全なる勝利に導くぞ!!」

「「「「了解ッッ!!」」」」


                ☆


「クソッ! 堕天武装の攻撃がまるで効きゃしないじゃねーか! どうなってんだこいつら!!」


 晴人は襲いかかる光臨者に悪戦苦闘していた。

 剣で斬りかかれば弾き折られ、デュオライフルの起爆性弾丸を放っても効果はなし。

 ダメージを与える手段がなければ勝利を収めることすら不可能だ。それでいて相手はスタミナの概念もなく無限に超弩級の攻撃を使えるときた。人間である晴人やほかのレジスタンスが敵の攻撃を直撃したらまず助からない。

 しかし無限に繰り出される攻撃を無限に避け続けることなど人間にはできない、このままでは結果は見えている。


「うああ、こっちに来るなぁ! 化物!!」

「おいお前! 逃げろ!!」


 レジスタンスの男が悲鳴を上げながら堕天武装を振り回している。迫りくるのは三体の神。

 たとえ神が一体であろうと勝つことは不可能に近いというのに、冷静さを欠き、引きを振り回すのは誰がどう見てもまともな選択ではない。


『asfgauhcjsd』


 人間が理解できる領域ではない音で神は言う。

 人間が理解できない速さでそれは実行される。

 その行いは神というより、死神に近かった。


「死にたくッ!? ――ぁ」


 首から下の消滅。

 それが意味するのは、文字通りの明確な『死』。

 流血すらない。男の頭部はその場に落ち、間も無く絶命した。


「はは、何だこれ……」


 晴人は腕をだらんと下げて乾いた笑い声を発した。

 体が震える。


「ハナッから戦いになんてなりゃしねえ……」


 晴人はこの震えの正体を知っていた。


「逃げろみんな!! 殺されちまってもいいのかっ!?」


 目を血走らせ、晴人はありったけの力で叫んだ。

 神話の神々に蹂躙されるレジスタンスは、その叫びを聞いてなお引くことはしなかった。


「晴人……」


 死への恐怖に支配された晴人の前にジャックが現れる。


「なあジャック、お前の一言でレジスタンスたちが助かるんだ。言えよ」

「……」

「撤退するって……武器を投げ捨てて生きることだけ考えろって、言えよ――」

「あのなぁ」

「早く言えよ!! みんなを助けたくないのかよ!!」

「そうじゃねーんだよ。俺たちは救われるために現在(いま)を戦ってんだ」

「ジャック、それは違う。犠牲の上に成り立つ救いなんて最初から意味なんてないんだ。お前は、仲間の屍の山を築いてでも安寧を得たいのか?」


 ジャックは晴人の言葉に歯ぎしりをする。

 しかし、


「それも違うぞ少年。我々は、元よりハッピーエンドな結末など想定していない。革命以前の同志たちは元々助けることは不可能だからな。ただ、我々より後の世代は別だ。たとえ屍の上の幸せでも構わない、このような経験を未来の子供たちにさせるわけにはいかんだろう?」


 光臨の間。

 その入り口にあたる扉が開かれる。


「お前は……お前たちは……!?」

「ようやく来たか。遅いんじゃないか? レジスタンス最強の傭兵集団さんよ」


 彼らは、戦場を勝利に導くために参上する。


「遅れて申し訳ない! MSS小隊、唯今到着しました!! これより敵勢力の撃滅戦を行います!! いくぞお前ら!!」


 号令を飛ばす小隊長の背後にはMSS小隊のメンバーが勢ぞろいだった。


「アイツらが俺たちの敵か? ハッ! 大したことなさそうだな」

「血が騒ぐぜぇぇぇ……たたっ潰してやんよぉぉぉお!!」

「天界ってのは意外に血の気多いやつばっかだよね。ま、僕たちには及ばないんだけど」


 一人、また一人と神々に突撃していくのを晴人は呆然として見ていることしかできなかった。

 勝てるかもしれない、彼らなら……。

 そんな世迷言を本気にしてしまうほどMSS小隊は強大だった。

 一人目の攻撃で光臨者の三分の一はあっけなく消滅する。

 二人目の攻撃で光臨者の半分は消し炭になった。

 そして三人目の攻撃で光臨者は……。


「全滅……だと?」


 晴人の呟きが光臨の間の最奥まで響き渡った。


「あとはあの女にとどめを刺すだけ……幕引きだ! 天界の者よ!!」


 MSSの小隊長が刃を振り下ろす。

 アルマは、抵抗することもなくそれを受け――、

 

 小隊長には刃物が突き抜けた感覚があった。


「なっ……ッ!?」 


 その感覚は、自分の腹部から来ている。


「だめじゃない……ルールを破るからこうなるの」

「小隊長!!」


 MSS小隊の中でも比較的若い男は、我を忘れて駆けだした。


「止まれ!!」


 突然の怒号にその男も動きを止める。


「ジャック……先に行ってくれ。ここは……この女は我々が引き受けた」

「調子に乗るなよ。人間風情が」


 アルマは突き刺したままの刃物をグチャグチャと掻きまわした。


「グァアアアアアアアアアアアアア!!」

「お前ぇぇぇぇえええええ!! やめろぉぉぉぉぉ!!」


 小隊長の叫びを聞いて男は堪えることが出来なくなった。

 男の動きはまさに神速だった。

 ひとたび瞬きをする間にはアルマとの距離をゼロに詰め、堕天武装をアルマの喉元に突き刺し――、


「だからぁ……ルールは守ってよね」

「あっ、がっふ……」


 男は、次の瞬間には絶命していた。


「何が……一体何が起こっている!?」


 誰かが言ったその言葉は、ここにいるレジスタンス全員の意志を代弁していた。

 あの神々すらものの数秒で片づけたMSS小隊がなにも出来ずに殺された。


 依然としてアルマは不敵な笑みを隠さない。


「最初に言ったじゃない。普通に戦っても勝負にならない、って。だからさぁ――」


 アルマの背後、数十メートル四方にわたり光の輪が燦然と姿を見せる。

 光臨の間……この場を守護する彼女はその名のとおり光臨と呼ぶに相応しいモノを呼び出すことができる。

 その力の集大成の名は――、


「あたしはこの力を『夢幻の群像』って呼んでる。さ、第二幕といきましょう!!」


                ☆


 『夢幻の群像』


 それが産み出したのは絶対的な力を持った伝説。


「MSS小隊だっけぇ? まあ何だっていいけど、あたしの夢幻の群像の前には無力よ!!」


 アルマが夢幻の群像に指示をだし、レジスタンスに本当の意味での死が近づく。


「無力? 笑わせんなよ。さっきのと何も違わないじゃないか」


 大口径から放たれた近代的な粒子砲型堕天武装の一撃が夢幻の群像を薙ぎ払った。


「なっ……にぃ? あたしの夢幻の群像が一撃で……!?」


 攻撃をしたのは、MSS小隊の小柄な男だった。

 男は小隊長のもとへ駆けよった。


「小隊長、大丈夫ですか。まだ生きてますよね」

「あ、ああ……なんとか、な」


 男の呼びかけに痛みを堪えながらギリギリのところで小隊長は返答する。


「ふざけないで!!」


 アルマは彼らのやり取りを怒気のこもった声で遮った。


「いったいあなたのその堕天武装に何故そんな火力があるっていうの!? 有り得ないわ!! たったの一発で、あたしの夢幻の――「まだわかんねえのか」


 男は、アルマの言葉を否定する形で遮った。

 奇しくもアルマが直前にしたことと同じように、


「お前のそのナントカってやつを消し飛ばす力を個人が持っているのが、お前が舐めきっていたMSS小隊なんだよ。つまりお前の能力は俺たちMSS小隊の一人にすら敵わない」


 アルマに突き付けられたのは、惨酷な現実。その宣告は、アルマの心を粉々に叩き割る。


「あとついでだが、お前フルネームを他人に言われるのが心底嫌いらしいな。さっきのフロアにいた翼の折れた天使のあんちゃんが言ってたぜ。確か名前は――アルマ=ベルホイだったかな?」


 ビクン、とアルマの体が本能的に反応する。

 心を砕かれたアルマは、それでもなお名前を呼ばれることを拒むのだ。


「ぷっちーん」


 彼女が短く言ったそれは、本気の怒りを示す合図のようなものだ。

 すべての感情を怒りに任せ、理性など心の奥底にしまい込んだ。


「あたしを……その名前で、呼ぶなァァァァァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

「チャンスだジャック! 俺たちがアイツをひきつけている隙に先に行くんだ!!」


 アルマの猛攻をひょいひょいと避けながらMSS小隊の男が言った。


「お前たちはどうするんだ!? おいていける訳ないだろ!!」

「気にすんな、こんな奴なんかにゃ負けないって!!」

「リーダーさん! 先に行ってイギリスを変えてくれ!!」

「ジャック……行きましょう」


 思いつめるジャックに優しく声をかけたのはアンジェラだった。


「やっとの思いで彼らが作ってくれた時間を、無駄にするわけにはいかないわ」

「でも、アンジェラ!」


 アンジェラに伸ばそうとしたジャックの手は見えない力に押し戻された。


「っ!? これは……」


 見えない力はMSS小隊を含まないレジスタンス全員に降り注いだ。


「この術は……でも一体何故現界人が……ッ!?」


 アルマは、この現象の発生を訝しんだ。

 現界人には使える筈がない、アルマはそのことを理解していた。それが逆にアルマの怒りの指数を底上げする。


「ふふ……そう、そういうことなのね。誰かしらぁ裏切り者の天使は!! 見つけ出してぐちゃぐちゃにしてやるぅ!!」


 アルマが両手を広げて三度の光臨を行おうとした瞬間、彼女の四肢は五分割され――、、、


「ルール違反は、駄目ぇよぉぉ?」


 アルマは『ルール違反』を行った男に罰を与えようとした、その時、


「てめえの相手は俺たちだ、それがわからねえって言うのなら何度だってぶっ殺してやる」


 アルマは男の堕天武装にその身を砕かれ――……、







「アァッ!! ハァ…ハァ……クソッ!!」


 全身から汗を噴出し、瞳の焦点を必死に男へ合わせる。


「これで何度目よッ……ハァ、ハァ……!」


 アルマは、ルール違反者を罰仕様としたときのほんの一瞬を狙われて百を超える死の感覚を味わった。


「さて、そろそろかね……見てごらん」

「何がっ……」


 男が指した方向を見ようとしたときにアルマはやけに周りが静かになっているのを感じた。

 その理由はすぐにわかった。


 レジスタンスの消失。


 この光臨の間には敵である現界人の大半が消え去っていた。


「逃がすわけ……」


 ないでしょ、という言葉を発しレジスタンスを追いかけようとしたアルマの両足は先程の大口径からなるビームで消し飛んだ。


「逃がすわけない……それは、俺たちMSS小隊の台詞だ!!」


 MSS小隊がここに残った意味、それは。


「お前に大事な役割を与えてやるぜ。それは足止め……レジスタンス最大戦力を止められるのはおそらくお前だけだぞ? まあ自軍を勝利に導きたけりゃあ全力で頑張れよ、アルマ=ベルホイ!!」


 その言葉を皮切りにアルマはまた光臨を行う。

 額からはいくらかの汗と怒りの象徴である皺がビッシリと刻まれていた。


「ッ~~~~もう許さないわぁ……あたしの『夢幻の群像』でその罪に絶対的な死を与えてやるぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!!!!!!」


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