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レボリティー・レポート  作者: アルフ
イギリス革命編
29/55

聖霊の間

 俺には王としての圧倒的な素質があった。

 小さい頃にこの聖霊の間を守護することを伝えられ、俺はもっと王という存在に近づくために高みを目指した。

 俺は――……。

 天界城ギラトン『聖霊の間』

 戦っているのはジャック率いるレジスタンスの四部隊。

 数で言えば圧倒的にレジスタンス軍が有利なのだが、押されているのはレジスタンス軍のほうだった。


「何故だ、攻撃が……全然当たらない!?」

「何をしようが避けられてしまう……どうなってんだよアイツ?」

「無駄だよー。俺にそんな低レベルな攻撃しても当たるわけないじゃん」


 エルリックは羽を使い優雅に宙を舞っている。これでは攻撃することすらままならない。

 晴人は手持ちのデュオライフルに手をかけた。


「とりあえずは普通のほうで撃ち落としてやる」


 晴人が引き金を引き、乾いた音が二発分発生した。

 音がしたとはいえ、万人が犇く背後からの狙撃だ。普通の人間なら躱すことなど到底不可能。

 しかし、エルリックはそれを振り返ることもせずに避けた。


「気付かないとでも思った? ハハハ、そんなわけないじゃーん。それにしても君面白そうなの使うねぇ……見慣れない武器だ。現界ではそーいうのが流行ってんの?」

「お前に教える義理はねーよ」

「あそう……でも君には何か特別な雰囲気があるね。反乱軍とは何か違った感覚」

「それは服装の違いだ。ついでに俺はイギリス生まれでもイギリス育ちでもない」

「なんで異国の人間がわざわざこんな場所まで来てるん? それ、おかしくないのっと」


 エルリックは喋りながらレジスタンスがやっとの思いで繰り出した遠距離攻撃をのうのうと躱す。


「晴人! さっきのはもうできないのか!?」


 ジャックが晴人に声をかけてきた。

 見たことのない未知の武器の性能を瞬時に把握し、有効活用できると判断したのだ。


「まだまだいけるぜ」

「なら話は早い。次の攻撃で一斉に奴に攻撃する。晴人もそれでできるだけ攻撃してくれ」

「わかった。やれるだけやる」

「よし、合図は次に敵が喋った時だ」

「おっけ!(そんなんで大丈夫なのか?)」


 まあリーダーの言った通りにやりゃあいいか。晴人はそんな感じで軽く考えた。

 エルリックが喋るのを聞き逃さないように聖霊の間は一瞬のうちに静寂が支配した。


「?」


 エルリックはその静寂の意味が解らず疑問の意を示した。

 そして、次にエルリックが口を開く。


「す―「一斉攻撃―――ッ!!」


 エルリックの言葉はジャックの大音響に打ち消され、数えきれないほどの得物が我先にとエルリックへ飛び込んでいった。


「当たるか!?」


 晴人も狙いを定めて引き金を引く。一発、二発、三発……。

 それでも、エルリックは空中で嗤っていた。


「はっはっはー!! 効かん、効かんぞ! 当たらなければそれは攻撃していないのと同義……お前たちはただ闇雲に武器を空中に投げまくっていたに過ぎないんだよ」


 エルリックはあの量の攻撃を掠り傷すらつけずに躱しきっていた。

 大小さまざまな堕天武装や晴人のデュオライフルの弾丸を、防ぐのではなく弾き飛ばすのでもなく……必要最低限の移動だけで躱しきった。

 それはもうただ避けるのがうまい程度の話ではない。


「どうした哀れな仔羊たちよ! 君たちの攻撃は終了かい? なら――」


 エルリックの雰囲気がガラリと変化する。


「そろそろ俺も攻撃といこうじゃないか」


 エルリックの羽がその色を朱へと変貌する。


「ロード、羽を王位に……吹き荒れろ旋風よ!!」


 対の羽は一度大きく羽ばたいた。

 それは嵐を彷彿とさせるような、すべてを大地から毟り取る暴風となってレジスタンスに猛威を振るう。

 堕天武装やレジスタンスが舞い上がって吹き飛ばされるなか、その暴風の中心でエルリックは魅せた。


「これが俺。これが王! ロードオブエルリックの力だ!!」


 ロードオブエルリックの力によってレジスタンスの大半が聖霊の間を舞った。

 晴人もその一人だ。


「クソッ! 体勢を立て直さないと……!」

「お前変な武器のやつじゃん。随分楽しそうに飛んでるなー」


 晴人は彼の雰囲気の若干の変化に感づいた。

 攻撃を仕掛けたときと今とでは人格そのものが変わってしまったようだった。


「好きで飛んでねーっつーの!!」


 不安定な状態のままデュオライフルをエルリックに構える晴人。

 頭を狙って引き金を引くまで約一秒。


「あー残念。無駄でし、た!!」


 だがしかし弾丸は当たることなく虚空を彷徨った。

 さらに追い打ちで空中一回転踵落しを顔面に食らい、聖霊の間入り口付近の地面に叩き落とされる。


「晴人君!?」


 ちょうど近くにいたアンジェラに担ぎ起こされる。


「アンジェラか……俺は、大丈夫だ」

「ホントに大丈夫? 鼻から血出てるけど」

「ウソ……」


 確認してみる。


「うわっマジで出てるし、あのヤローやってくれるじゃねえか」


 晴人はエルリックのほうを向く。

 また鼻血が垂れてきたが、そんなことお構いなしだ。


「こいつはアンジェラに任せる。後ろのでっかいのをカチャってやればお望みの弾も出る」

「えっ? 何? どういうこと!?」


 いきなりデュオライフルを渡されて慌てふためくアンジェラ。


「あとはジャックが説明してくれる。頼んだぜ、俺はあいつをぶん殴らねえと気が済みそうにないんだ」


 口元をニヤリと歪ませ晴人は走った。


「降りてこいやコラァ――――!!」

「めんどくさーい♪ 戦いたいならここまでおいでよ」


 エルリックはあくまでも降りてくるそぶりを見せない。


「……仕方ねえかジャック!! 受け取れ!!」

「ん? これは……手紙?」


 その中身を読んでジャックは晴人の考えを理解した。


「賭け、か……了承した!」


 ジャックがアンジェラのところへ行ったのを確認して晴人はよし、と頷いた。


「待ってろチキン天使! お前をそこから叩き落として地面を這い蹲らせてやるからな!!」

「ハッ! やれるもんならやってみろ、現界のモブが」

「やってやるさ……ミラージュ・スクリーン」


 晴人の懐のオーパーツが輝く。


「うわっ」

「ちょっ」

「とうっ!!」


 レジスタンス二人をばね代わりにして飛び、エルリックの前に一瞬とはいえ躍り出ることに成功した。

 エルリックはそこまでされることすら予見していたようで、驚いた表情などは一切見せない。

 そこで晴人が繰り出したのは、


「オラァ!!」


 何の意外性もないただの右ストレート。威力はある。

 しかしエルリックからすると注意する必要も無い攻撃。

 それをエルリックはいままで通りに、知っていた通り、当たらない様に左に避けた、


 筈だった。


「ごっ!?? あぐァア?!」


 しかしエルリックは晴人の膝が鳩尾にクリンヒットして一気に動揺が広がった。


「何故だ……何故だ何故だ何故だナゼダナゼダナゼダ……」


 晴人は重力によって落ちようとする体をエルリックの襟元を掴むことで支えてもらうことにした。


「どうしたよエルリックさん? あんた今自分の予想していた未来と違ってビックリしてるような顔してるぜ?」

「!?!?!? お前ッ、どうしてそれを……!!」


 困惑のエルリックに対して晴人は至極冷静に呟く。


「ふうん。図星か」

「っ~~~~!!!!」


 エルリックの顔はまるで一攫千金が目前まで迫っていたのにあっけなく消えてしまって絶望している人のようだった。


「何か特別な力があるんだろうとは思ったよ。けどそれが何なのか解らなかった。だからこれは賭けみたいなもんだったんだが……大成功みたいだ」


 ぐいっと左手の筋力だけでエルリックと同じ高さまで這い上がる。


「じゃあ次の一撃は、そうだな……真ん中ちょっと右寄りにしようそれがいい」

「(聖霊によれば次の一手は真ん中より少し右寄り……合っている!! 大丈夫だ、左に避けるんだ!!)」


 カァン! と何かが当たった音がした。

 まるで、天使の羽が生えている輪っかにアンジェラが撃った起爆性弾丸がいい具合にあたった時みたいな、そんな音がした。

 エルリックは咄嗟に弾丸の出どころを探った。答えはすぐにわかった。

 アンジェラだ。エルリックはハッとした。


 そういえば、さっき目の前の男とあの女は何かやり取りをしていたじゃないか。


「バイビーエルリッ君」


 エルリックは遅れて襟をつかんでいた晴人がいなくなっていることに気付いた。

 しかし、もう、手遅れだ。


「さあ、空中落下の時間だぜ?」


 輪っかにはじかれて宙を舞った弾丸がちょうどエルリックの真上まで上がり、重力に従って地面へと落ちようとした瞬間に起爆性弾丸はカッと光り、


「はァ?」


 そして爆裂的に炸裂した。

 既に地面に戻ってその光景を見ていた晴人はグッと拳に力を込めた。


 理由はすぐにわかる。


 自分の真上で爆発したせいでエルリックの体は否応なしに真下へ飛ぶ。

 それを、迎えてやるのだ。


「オラァ!!!」


 ドグシャァ! という音が鳴る。ジャストミートだ。


 エルリックの顔面『真ん中ちょっと右寄り』にヒビが入った音が聞こえた。

 晴人氏渾身の右ストレート。まともに食らったら、ただでは済まない。

 水平線上に吹っ飛び、そのまま壁に激突した。


「今だ! 堕天武装で切り刻めい!!」


 エルリックを吹っ飛ばした晴人が、吼えるように叫んだ。

 しかし、


「まさか本当に俺を地に這い蹲らせるなんてなぁ……実にすばらしい男だ」


 壁の中からエルリックが這い出てくる。

 一度目の攻撃のときと同じ感覚に囚われる。いや、彼はもはやそれ以上の風格を漂わせている。


「貴様、名は?」

「柊晴人だ。晴人でいい」

「晴人か……貴様が初めてだよ。聖霊の間において俺に攻撃を与え、あまつさえ羽の輪までぶっ壊すなんてな。お礼といっては何だが、今貴様が使っている怪しげな小道具はこの俺には効かないぞ?」


 エルリックは暗に晴人が使っているミラージュ・スクリーンを察知し、自分には効かないということを伝えた。

 それを聞いて晴人は手を鳴らしながら、


「ハッ! ミラージュ・スクリーンのせいで羽を失くした奴にそんなこと言われても信じられるかっての」


 エルリックの言ったことが咄嗟に出た嘘なら、この時にもミラージュ・スクリーンはエルリックに対して効果を示している。


「(相手からは俺が止まってるように見えるはず。それで油断したお前にキッツイ一撃をお見舞いしてやる!)」


 晴人が走り出しても、エルリックに変わった変化は見られない。晴人は確信した。

 ミラージュ・スクリーンは確かに聞いている。

 ならばあとは不意を衝いて攻撃するだけ。

 晴人は助走をつけて殴り掛かる。

 その拳が、エルリックに激突する瞬間。


「……ロードオブエルリック」

「っ!?」


 ガァァァン!! という拳を身体へと打ち付ける音。


「ぐぁああああああああッ!!」


 叫んだのは晴人のほうだった。


「晴人!?」


 ジャックが駆け寄る。


「大丈夫か? 急にどうしたんだ。アイツ、ビクともしてないぞ」

「どうしたなんて俺が聞きてえっつーの……」


 晴人のパンチは、確かにエルリックに直撃したはずだった。

 しかし、ダメージを受けたのはエルリックではなく晴人。


「状況をよく理解してないようだな。気になるか? 俺がどうやって貴様の攻撃を食らわず、逆に貴様が痛みを覚えた理由が」


 エルリックは高揚した気分で続ける。


「教えてやるぜ、減るものじゃないしな……俺の能力は聖霊の王(ロードオブエルリック)。この能力が発動している間、貴様等平民共は俺に干渉することは出来ない」


 干渉が出来ないということは、先程の晴人のように攻撃してもダメージを与えることができないということ。


「久しぶりに発動した……折角だ。俺は今から、ここにいる反乱軍全員の首を獲る!! 覚悟しろ柊晴人……記念すべき殺人ショーの一人目は、貴様だァァ!!」


 エルリックが晴人へ駆ける。


「(ッ!! 動けない!?)」


 突然のことに、強張った体が動くことを拒否する。


「死ねぇええええええ!!!」


 エルリックは右拳を硬く握りしめる。やられた分をやり返そうといった魂胆だ。


「(死ぬ……ッ!!)」


 羽を一振りするだけで人間が軽く舞い上がってしまうほどの風を出せる男のパンチだ。

 食らったらまず死ぬ。

 柄にもなくそう思って晴人はグッと目を瞑った。


「一つ聞きたい」


 激しい相殺音と、一つの声が晴人の耳に入った。


「いいのか天界人。ここには晴人なんかよりレジスタンスに大打撃を与えるリーダー様がいるんだが」

「それ除けろよ、チビガキ」


 晴人はジャックが展開した堕天武装の盾により守られた。


「ジャック……お前」

「安心しろ。俺は今この時の為にずっと力を温存してきたんだ、最前線をお前たちに任せてな。だから」


 ジャックが盾の裏にあった剣の柄を手に取る。

 その柄はジャックの手に収まると爆発的にエネルギーを発し、剣状に収束する。


「ここからは、俺がやる!!」


 ジャックの魂に呼応するように堕天武装の剣のエネルギーが増幅する。

 その剣はまさに、SF映画のビームサーベルのようだった。


「ガーナード=エルリック!! お前は俺が完膚なきまで叩き潰す!!」

「やってみろ!! 現界数十億分のたった一人であるちっぽけな存在程度の雑魚が!!」


               ☆


 天界、店立ち並ぶ大通り。

 巨大な質量が短い間隔で射出される音と、それを相殺する刀の空を切る音が支配した空間。

 そこでは、晴人について回る自称天界が故郷の性別不明人間、自称エルなる人物と、その姉有って自分有り、といった壊滅的服装センスで街中を闊歩していた性別不明人間エルの妹、サクリファイス、自称ルイスが喧嘩を繰り広げていた。


「おとなしく、負けてくださいまし!!」

「そんなの嫌に決まってるだろ。俺様がお前に負けたら年上としての威厳がないではないか」


 男っぽい口調なのがエル。お嬢様っぽい口調がサクリファイス。

 英国紳士風なのがエルで、全身真っ黒にところどころ赤が目立つフリフリの服がサクリファイスだ。


「あたくしは、お姉さまがいなくなってしまった間ずっと自分の技を磨いてきましたの。これが、その一つ……」


 サクリファイスが展開していた巨砲は泡のように消滅し、コンパクトなリボルバーがサクリファイスの手に生成される。


「断罪せよ……ジャッジメントですの!!」

「っ!? ……お前はッ!!」

「アハハハハ!! すべて悪いのはお姉さまですわ!!!」


 エルは何か言いたげだったが、左手に短刀を呼び出し弾丸を受け止める。

 弾丸は勢いを衰えることなくターゲットである自分に向かって飛び続ける。


「っ……クソッ!!」


 エルは全身の力でその弾丸を弾き返した。

 しかし、弾かれた弾はスピードを失くし地面に落ちると思ったが、空中で錐揉み回転したらすぐにエルへと射出されたときと同じ速度で飛び出した。


「これは!?」

「気付かれましたの? この技を使ったら最後、放たれた弾丸はわたくしが定めたターゲットを撃ち抜くまで止まりませんわ!! どうお姉さま? あたくし、昔と比べて強くなったでしょう」

「たわけ!! このような技は使うなと教えなかったか!?」


 エルは再び向かってきた弾丸を今度は右手の刀で受け止めた。


「……そんなこともありましたわね。ですが今、あたくしが幼かった故禁止されていたことを衝動に任せてやりたいようにしましたわ。それもこれもすべてお姉さまがいなくなってしまったから……」

「……」


 エルは余裕がないのか、何も言うことがないからなのかわからないが、サクリファイスに言葉を返すことはなかった。

 ただ、


「サクリファイス……」


 彼女の名前を、呼んだ。


「だから――」


 コンパクトなリボルバーがサクリファイスの両手に生産される。

 それだけではない。サクリファイスの扇状に十丁、エルの周りに三十七丁のリボルバーが浮かび上がる。


「あたしを、その名で……呼ぶなぁァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」


 断罪のジャッジメントが一斉掃射される。


「死ねッ! 死ねッ!! 死ねぇええええ!! こんなあたしの名前を、あたしにつけてくれた名前を呼んでくれないお姉さまなんてお姉さまじゃない!! うああああああああああああああああ!!!!」


 弾丸が弾け飛ぶほどの超火力のサクリファイス最大の攻撃、怨嗟玉がエルを上空から襲う。

 無論今のエルに怨嗟玉を回避することなどできるわけなく、結果怨嗟玉は地面まで抉り、大爆発を……起こすはずだった。


「え……あたしの、怨嗟玉が……最大出力だったのに!? 何故!?!? 何―――「やれやれ、素のところでは何も変わってない、か」――っ!?」


 怨嗟玉はそのおざましいオーラを収縮させ、消える。

 だがいまだ煙の中のターゲットを貫くために弾丸が三百六十度から襲いかかる。

 それを彼女は、一振りの斬撃ですべてを斬り伏せた。

 剣圧とでも言おうか、それによって視界を遮っていた煙が一気に晴れる。


「余は、お主に感情をコントロールするように、と教えたと思っていたのじゃが、違ったかのう」


 腰まである金髪の髪に碧緑の瞳、そして何よりこの場の雰囲気に似つかない白を基調としたドレスチックな衣装。


「あ…うあ……」


 懐かしきその姿を目にし、サクリファイスは自然と涙をこぼしていた。

 その姉である彼女は、妹とは対照的だった。


「久しぶりじゃのう、我が愛しの妹よ! 余はお主との再会を心より待ち望んでいたぞ」


 奇抜衣装少女エルナは、本当に再会を喜ぶように笑顔をサクリファイスに見せた。


                ☆


 天界、市街地。

 第二部隊は天界市民の制圧に奔走していた。


「おかしい……」


 第二部隊隊長、フォルコスは目の前に立ち並ぶ無人の建物を薄眼で見ながら呟いた。

 うんうん、と唸っていたら部隊の隊員がフォルコスのもとへやってきた。


「どうしたんフォルコス、いつになく真面目に考え事しちゃって」

「ん、ああリックか……お前は逆に何とも思わんのか?」


 リックはケロッとしたすまし顔で答えた。


「いやぁ最初天界に来た時と打って変わってこの市街地に全然人がいないみたいだけど特におかしいとは思わないなー」

「はぁ~リックは変わんねえなぁ」

「ははは、それにしてもみんな和んでるねえ。ほら」


 リックなりの気遣いのつもりなのだろう。考え事で頭いっぱいのフォルコスに緩みきった部隊のみんなを見せる。

 部隊の皆はそれぞれ市街地をブラブラ歩き回ったり数人で集まって談笑したりしている。


「こんなにのんびりやってんだ。ちょっとは気を楽にしろよ」


 しかしフォルコスはそう簡単に頷かない。


「馬鹿言うんじゃない。いくら俺たちが天界人と遭遇しないからってそれがだらけていい理由にはならない。何より、他の部隊は戦闘の真っ最中だというのに俺たちだけ休むのは申し訳ないだろう」

「んー、まあそうなんだけどね」

「わかったらあっち行って見張ってろ」

「へいへい……あんまり気張んなよ」


 去るリックにフォルコスは背中を向いたまま手を振った。


「(それにしても何故ここには誰も天界人がいない……この建物を見るに市街地だということは間違いないのだが)」


 第二部隊を除き、この市街地には誰も存在しない。

 フォルコスはそのように推測していた。


「既に避難済み、ということも有り得るが……それなら逃げ出した形跡ぐらいは残っているよな普通」


 フォルコスの目の前の、だけでなくこの市街地の建物は初めから誰もいなかったかのようにそこに建っている。

 フォルコスは思案する。


「一体何故……」


 彼が声を洩らした時、


「一体何故、天に生きるものが貴様等現界人如きに図りきれると思った」


 翅の羽ばたく音。


「お前は……ッ!?」

「――」


 フォルコスは、なす術もなく切り捨てられ、そして……

 

 第二部隊は、このたった一人の天界人によって全滅を迎えることになる。


「さて、あの現界人はどこだ……見つけて、必ず決着を――」


                ☆


 本来乱戦になると予想されていたガーナード=エルリックとレジスタンスとの戦いは、レジスタンスリーダーのジャックとエルリックの一対一という状況になっていた。

 ジャックが発行するビームサーベルが独特の音響で唸り、エルリックへとその刃を走らせる。


「っ! しつこい!!」


 エルリックはそれを軽い身のこなしで掠らせることなく躱しつつ、隙を突いては落ちていた堕天武装の剣で反撃をする。

 その二人の間に他の誰かが介入する余地などありはしない。


「どうした天界人!! 反撃してきてもいいんだぞ!?」


 一撃、二撃とエルリックに攻撃を仕掛ける。

 しかしその攻撃はエルリックに届かない。


「(何故攻撃が全部避けられる? もう何回避けられた。いかに天界人といえど一撃も攻撃を受けるどころか掠りもしないなんてありえない……絶対に何かタネがあるはずだ)」

「そっちこそ攻撃速度が落ちてきているぞ人間!!」


 エルリックは絶対的な見切りにより、ジャックに鋭い反撃を仕掛けることができる。それによってジャックはだんだんと防戦へと向かっていくことになる。


「(タネ……トリック……考えろ)」


 ジャックは考える。

 最初からエルリックは異常だった。

 レジスタンス総出で攻撃しても奴はそのすべてを空中で回避してみせた。


 二撃、刀を振るう。躱される。


 奴が最初に攻撃らしい攻撃をしたときは、背中の輪から生えた羽での旋風攻撃だ。


「そういえばあの時も……っ!!」

「あの時だ? 何を言っている。もしかして貴様、俺との戦闘中にマジで考え事してんの? この俺、ロードと戦っているというのに!? っざっけんなよ」


 ガァン!! とジャックの剣の柄ごと打ち上げる。


「っざっけんじゃねーーぞ!! 俺は王の中の王、ロードオブエルリック様だァアアアアア―――」


 エルリックの激昂の叫びは一つの銃声に揉み消された。


「……効かねえってのが……理解できねえのか、貴様は――っ!!!!」


 怒りに身を任せて持っていた堕天武装を思いっきり投げつける。

 その投げられた堕天武装に対して銃を撃った本人は、体を横にして避け、掴み、受け止める。


「でもお前今、避けなかったな。避けれなかったのか気付けなかったのか……どうせ効かないのだから避ける必要も無かったのか」

「――何が言いたい……」

「わかってんだよ。お前が本当にこっちの攻撃を受け付けないのならハナッから攻撃を避ける必要もない……だが、お前はさっきからずっと攻撃しているジャックの剣を掠ることもなく完璧に避けている。さてこの違いは何なんでしょうねえ」


 晴人は受け止めた堕天武装をプラプラさせながらゆっくりとエルリックに接近していく。


「お前は自分がロードであり平民のレジスタンスの攻撃など受けない、と言った。俺はどうもその言葉が引っかかってね、アンジェラにそれを言ったらこう返ってきたんだ。ところでエルリック――爵位って言葉を知ってるか?」

「…………」


 エルリックはだんまりを決め込んだ。


「爵位ってのはそれぞれに権力的なのが違くて、男爵、伯爵……まあいろいろあるみたいなんだがよ、その爵位ってやつには『王』なる位をあるらしいなぁ、ね? ロードオブなんとかさん」

「……チッ」

「お前の言う平民っつーのは権力・能力を持たない一般人でお前が王。ということは王であるお前はそれより下の爵位による攻撃を無効化する……それがお前の言うところのロードオブエルリックって感じか」


 晴人はエルリックと対峙する。


「おい晴人。俺が――」


 ジャックが晴人を後ろへと下げようとしたが、


「ハハハハハハハハハ!! 俺の言葉一つからそこまで読み切ったか! やるじゃねーか一人間風情が!!」


 エルリックは晴人の胸倉をつかむ。


「そうだとも! 俺の、俺だけの特殊能力ロードオブエルリック。その効果は爵位によっての事象解釈!! 攻撃の無効化は事象解釈による能力の一つであり本質ではないがそれもロードの力だ!! それに――」

「しゃべりながら唾飛ばすな、よっ!!」


 エルリックの顎目掛けての堕天武装による突き上げ。

 躱される。


「これも俺の能力。というより『聖霊の間』の守護者としての力だ」


 晴人はエルリックの額にヘッドバッドをしようと頭を下げる。

 その瞬間エルリックは晴人を突き飛ばす。


「三手先読みする力。これの能力のお陰で貴様らの攻撃全てを回避できる、そして――」


 エルリックが尻餅をついた晴人に乗っかってマウントポジションをとる。


「平民のお前はすべての攻撃を俺に躱され、この一撃で粉砕するんだよォッ!!」

「――ォ――――」


 ジャックの叫びは、エルリックの拳が炸裂した爆音と破壊された地面の粉塵に掻き消された。


                ☆


「晴人ォォォォォォォォォォォォ!!」

「ハハハハハハハハハハハハハハ!!!! 俺にかかればこんなもんさ!! 王が平民に負けるなど万に一つ有り得ない、有ってはならないんだよ!!」

「貴様ッ……晴人をよくも!!」

「貴様じゃねえ!! 俺はロード、ロードオブエルリックだ!!」


 エルリックは背中の折れた輪から少し生えている羽を時速三百キロでジャックに投げつけた。


「っ!? マズ……ッ!!」


 そこで、ジャックは不思議な体験をした。

 ジャック目掛けて飛んできたと思われた羽は顔面すれすれの両端を通り抜けていったのだ。


「……!! 危なかっ――「ハハッ!! 顔面血液噴水シャワーの出来上がりだァ!!」


 エルリックの言葉でジャックに疑問が浮かび上がる。


 まず一つ、顔面血液噴水シャワーって誰のことだ。

 もう一つ、エルリックは何故俺が無事なことに気付かない。


「さァァァァて反乱軍の皆さん! 君たちのトップは死にました、俺がぶっ殺しましたぁぁぁ!! ……次は君たちの番だ」


 レジスタンスの戦意はリーダーとこの革命中ほとんど大活躍の晴人が死んだと認知していることにより既に空前の灯だった。

 誰も、戦闘しよう。エルリックと戦おうと言わない。


「あれれ~皆さん死ぬのが怖いの? なっさけねぇ、なっさけねえよ愚民共!! テメーらは立派に戦った男たちの死を完膚なきまで無駄にしようってのか!? 生への執着など実に愚直、実に愚か!! ……ふっ、敵であるこの王にここまで言わせるとは、とことん性根の腐ったやつらだ。もういいわ、消し去ってやるよお前ら……一人残らずこの世あの世に塵一つ残らないようキレイサッパリ終わらせてやる……っ!!」

「させるかっ――っ!?」


 状況がよくわからないままジャックはいてもたってもいられずにエルリックへ飛び出そうとしたところを、ある人物に抑え込まれた。


「安心しろ。もう終わってる」

「この声は……いや、お前はさっきやられたはずなのに!?」


 彼は……、

「ちっ……結局テメーがそうやってとどめを刺すってわけかよ。柊……晴人」


 晴人は、エルリックの胴体にジャックが使っていたビームサーベルを、普通だったら絶対に気が付くはずの真正面から突き刺していた。

 晴人の所有するオーパーツの力でエルリックには晴人の姿が見えなかったのだ。


「騙すつもりはなかったんだ。だけどお前さ、ずれてたんじゃないか、感覚(こころ)ってやつがさ」

「こころ、か……ハッ。確かに、ずれてたのかもな……」

「エルリック、お前……」


 エルリックは、さっきまで殺し合いをしていた同一人物とは思えないほど優しい顔をしていた。


「ってぇ……人間のくせにここまで俺に傷を負わせるなんて、本来なら死刑どころの話じゃないんだけどな……」


 エルリックは震える指で晴人が掴んでいた柄を触り、そっとその柄を握った。

 晴人は柄を握っていた手を離し、その様子を見守ることにした。

 エルリックがビームサーベルの柄を握ると、自然とその刃は消失し、貫通したエルリックの腹から大量の血が流れ噴出す。


「お前らの勝ちだ……あとは好きにしろ」


 エルリックは自力でジャックのもとまで歩き、柄を手渡した。


「好きにしろ、というのは」

「そうだ、逃げるのも進むのも……俺をここで殺すのもお前らの自由……ってことよ……」

「そうか」


 ジャックはエルリックから柄を受け取ると、レジスタンスに向けて言い放った。


「怖気付いた者は帰ってもいい。お前たちの命は決して軽くなどないんだ」


 レジスタンスはその言葉に戸惑いを見せる。

 これまでの死闘、これから来る新たな敵……そして大統領、トロイト=カーツ。恐怖し、逃げ出す材料は十二分に揃っている。


「別に無理してついてくる必要もないんじゃねーの? レジスタンスって元々バリッバリの軍人とかじゃなくてイギリスに住んでいた一般市民なんだろ。じゃあ――」

「私、前へ進みます!」


 晴人の言葉を差し置いて名乗り出たのは、アンジェラだった。


「ジャックをおいて帰るなんてできないよ。だって私は……ジャックのお姉さんなんだもの」

「アンジェラ……!」


 予想外の発言者に驚いた声を上げたのはジャックだ。


「そ、そうだよ! 俺は最後まで戦うぞ!!」

「最後までお供させてくれ!!」

「俺たちが、イギリスを救うんだ!!」


 アンジェラに感化され、レジスタンスの闘志は再び臨界を超えた。

 エルリックは感心したような顔をしていた。


「それが、お前たちの意志、か……」

「そうだ。俺たちはお前ら天界人を撃滅する。撤退など有り得ない!! 往くぞレジスタンス、次なる敵へ!!」


「「「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」」」


 出口の扉を壊さんばかりの勢いでレジスタンスが進軍していく。



 やがて聖霊の間に静寂が訪れる。


「……レジスタンス、か」


 エルリックは不敵に微笑んだ。


「せいぜい頑張れよ……これから先のやつらは、俺みたいに優しかねーぞ」

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