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レボリティー・レポート  作者: アルフ
イギリス革命編
23/55

レジスタンス

 レジスタンス。



 それは、侵略者や占領軍に対する抵抗運動を指す用語である。

 一般にレジスタンスと聞いて良い印象を抱く人は少ないだろう。


 今回だってその例には漏れない。

 だが、立場によってレジスタンスする側とされる側の正義は違ってくる。

 される側に問題があったかもしれない。する側の一方的な押し付けかもしれない。

 しかし彼らは蜂起してしまったのだ。もう後には退けないのだ。


「ここは……」


 晴人はおよそ二百人程の人が集まった人の群れを見て息を呑んだ。


「ここが僕たちレジスタンスのアジトさ。見てごらん、一番奥で演説しているのは僕たちのリーダー。ジャックだ」

「リーダーねぇ」


 カリータにリーダーと呼ばれた男は、とてもレジスタンスの長とは思えない子供だった。


「小っちゃいだろう? あれでももうすぐ二十歳なんだよ」

「二十!? 俺より年上じゃねーか。合法ショタ……エルナには見せらんねえな」


 晴人は決してそっちの気はないので問題はない。


「あっ、カリータ! 戻ってたの」


 群衆の中からかき分けるように出てきた少女はカリータを見つけるや否やこちらに小走りで近づいてきた。


「やあアンジェラさん。だいぶ人が集まったね」

「そうだね、これ以上はもう時間的に無理かな。でも大丈夫! これだけいたらきっと成功するよ!」


 彼女はカリータの隣にいた晴人に気付いた。


「もしかして君、例の侵入者?」


 その質問には、晴人ではなくカリータが答える。


「そうだよ。彼が宮殿に混乱を招いた件の少年だ」


 アンジェラはそれを聞くと目を輝かせて晴人の手を握った。


「来てくれたんだねーーっ!! 私アンジェラ=クレイス! よろしくねっ!!」


 若干アンジェラのテンションに押され気味だったが、すぐに笑顔に切り替える。


「俺は柊晴人。訳あって世界旅行中だ」

「きゃーうれしーーっ!! あなたがいれば革命大成功間違いなしよ! あのカーツの宮殿から生き延びるなんて普通じゃ有り得ないもの!」

「わかった! わかったから手を振り回すのをやめろー!!」


 アンジェラは仕方ない、といった風に晴人から手を離した。


「仕方ないなぁ」

「いやそれ地の文で説明したから! その台詞いらないからっ!」


                ☆


 晴人はアンジェラとアジト内を回っていた。


「晴人君はどこから来たの?」

「ユーラシア大宗国の新日本都ってとこだ」

「どうやってイギリスに入ってきたの? あの忌々しいバリアーのせいで外から人が入ってくるのは不可能だったはずだけど」

「それが俺にもよくわからないんだ。気が付いたらここにいたって感じだ」

「ふーん。不思議なこともあるんだねぇ」


 ここはさっきまでいた、たくさんの人が集まっていた場所ではなく、休憩所みたいなところだ。トイレもシャワーも完備してあって、空調まで整っている。

 地下にあってもこのレベルのものが揃っているのは凄いと、晴人は感心していた。


「上にいなくて良かったのか?」

「うん。あとちょっと余裕あるし」


 アンジェラは自販機の飲み物を二つ買った。


「はい、私のおごり!」

「ん、サンキュ」


 晴人はアンジェラから貰ったジュースを飲み、自分が空腹だということを思い出した。

 ギュルルルル。と晴人の腹が鳴った。


「うがー、腹減った~!」

「ふふっ、食べてく? 大したものは作れないけど」


 その言葉を聞いて、晴人の目に輝きが戻った。


「ゴチになります!」




 レジスタンスアジト。食事処――


「アジトって地下にあるのに結構広いんだなぁ」


 晴人はアンジェラが即興で作ってくれた食事を食べながら感心したように呟いた。


「まあな、腐っても革命軍なんでな。拠点が狭かったらみんなの士気も上がりにくいだろう」

「……あんふぁ(あんた)は?」


 晴人は食べ物を口に含んだまま突然後ろから声をかけてきた男にその素性を問うた。


「あらジャック。もう演説は終わったの?」

「大方、な。あとは全軍総攻撃の指示を出すだけだ」

「ジャックって……」

「そう、この子はジャック=ウィルソン。レジスタンスのリーダーで、私の弟!」

「子供ってゆーなっ! あと俺はお前の弟じゃねー!!」

「そだっけ? あーそっかぁ! 妹だった!」

「ちがーう!」


 アンジェラが連続でボケるのを必死に訂正するジャック。

 アンジェラはジャックがゼーゼー息をしているのが面白かったのか、ケラケラと笑った。


「まったく……そこのお前!」

「あん?」

「さっきアンジェラが言ったが、改めて言おう。俺はジャック=ウィルソン。こいつの弟でもなければ妹でもない。今年で二十歳になる」


 二十歳をやたらと強調して自己紹介をしたジャック。身長は晴人の胸辺りまでしかない。

 見た目は完全に子供だ。小学生だ。ショタだ。


「こういうのって腐女子受け良いのだろうか……」

「少なくとも私的には大受けよ!」

「……?」


 怪訝そうな顔をするジャック。彼はそういった方面は詳しくないらしい。

 晴人の良心は彼を染めてはいけないと訴えていた。


「いや、すまんな……俺は柊晴人。お前たちが言う件の侵入者だ」

「へぇ、お前があの……」


 ジャックはそれを聞くと晴人の体を舐め回すように見た。しかし、如何せん身長が足りないので、晴人の顔を見るだけでも首をグイーっと上に向けなければならない。


「やっぱりジャックは可愛いなぁ」


 アンジェラはうっとりとした表情を浮かべていた。


「どれ、俺様が晴人の顔が見やすいように肩車してやろう」

「え、ちょ! まっ、待て待て!」

「よいしょーっと」

「うわー高いー」


 ジャックを肩車したのは言わずもがな、我らのエルさんだった。


「なんだエルさん起きてたのかよ」

「まあな。甘美なスメルが俺様の鼻についたものでな、眠気など一気に吹き飛んでしまったわ」


 ハッハッハと笑いながら食事にありつく英国紳士エルさん。彼の登場でアンジェラとジャックの頭の上に?マークが浮かび上がる。


「晴人君、このイケメンさん誰?」

「俺の名はエル。誰よりもイギリスが似合う男だ」

「英国風のエセ紳士。見た目は男。脳みそはBBAだ」

「んー?」


 晴人とエルさんが二者二様な説明をする。アンジェラはいまだに状況が不明といった様子だった。


「まあ不思議な妖精とでも思ってくれていい。深く考えるな」

「そうなの?」

「おい! そんなことはいいから俺をここから降ろせーっ!」


 ジャックが駄々をこね始める。エルさんは気にも留めない。


「ふむふむ。やはりイギリスの飯は美味いなぁ、半日ぶりに満たされた気分だ」

「おーろーせー!!」


 ここでエルさんはむっとした。


「少年。あまり指図するなよ。俺様といえど怒るときは怒るぞ?」

「なっ!?」

「おいエルさん」

「だがしかぁし! 俺は今とても気分がいい。貴様の狼藉もすべて許そう!」

「お、おう? そうか、ごめんなさい|(なんで謝ってんだ俺?)」

「フハハ、素直な少年に褒美をやろう、ほーら! 高い高―い」

「子ども扱いするなーっ!!」


                ☆


「チッ、俺はもう行く。そろそろ時間だからな」


 ジャックはエルに遊ばれてすっかりご機嫌ナナメだった。


「そう……もうすぐ始まるのね」

「始まるって、お前……」


 革命。

 少し前にジャックはあとは全軍総攻撃の指示を出すだけ、と言っていた。


 アンジェラが言っていた。

 あとちょっと余裕がある、と。


 その余裕も、もうすぐリミットだということ。


「なあ、ホントにお前たち今から革命なんてするのかよ。危ねえだろそんなの、やめろよ」


 晴人はさっきまでの和やかな雰囲気が気に入ってしまっていた。

 そんな楽しく優しい彼らがこれから暴動を起こそうとしているなんて考えられなかった。


「革命……そうか、こいつらが例の不老不死共を……」


 ジャックは視線を床に落とした。彼の背は低いので、晴人には彼の表情が読み取ることはできなかった。

 しかし、


「晴人君、私たちはこの時の為だけに何年も生き続けてきたの。あと一歩で長年の苦労が報われる。それを今更無かったことにするなんて……無理よ」

「っ、でも! こんなことをしなくても幸せになる方法はあるんじゃないか? 俺は、その可能性をお前たちに捨ててほしくない」


 アンジェラも晴人から目を背ける。

 この場の重たい空気が、ずっしりと晴人の両肩にのしかかる。


「考えるんだ! アイツらの政治方針が気に食わないならそれをただす方法を、最悪この国から脱出して別の国へ亡命したっていい。まだ、できることが――」

「お前に何がわかるんだっ!!」


 晴人の訴えはジャックの怒号によって掻き消された。

 しかし、晴人は諦めない。


「お前たちがしようとしているのは国家反逆罪なんだろ!? 失敗したらどんな目に合うかわかったもんじゃない。アイツらは人を平気で殺すぞ」

「知ったような口を利くな! お前は「知ってるさ」――!?」


 晴人は訴えることを、やめない。


「知ってる。俺だって町で何度も死にかけた。そしてあいつらがお前たちを皆殺しにしようとしているのも知ってる。俺が言うのもなんだけど、暴力ですべてを解決しようとするのは、間違っている」


 ジャックはそれを聞いて、完全に激昂していた。


「だったら! 暴力が間違っているのなら、政府の暴力を誰が正すんだよ! いねえんだよ、誰も!! …………なら、俺たちがやるしかねえだろ」


 ジャックは、広間のある場所、演説台へと歩き出した。


「待てよ! おい、ジャック!!」


 ジャックはもう、晴人の言葉に耳を貸すことはなかった。


「クソッ! 止めれなかった!! クソッ、クソッ!!」


 晴人は膝をつき、何度も地面を殴りつけた。


「晴人君……」


 アンジェラは悲しそうな目でその光景を見ていた。

 ジャックが演説をしに向かったということは、それは、全軍総攻撃の始まりへのカウントダウンが近づいていることを表していた。


「……彼、実は両親を政府に殺されているの。だから、ジャックにとってこれはただの革命ではないの」


 その言葉が意味するのは、


「復讐、ってわけか……」


 くだらねえことしやがって、と心の中で吐き捨てる晴人。当然そんなことを口に出して言えるはずもない。


「ごめんね晴人君。私、行かなきゃ……」

「…………」

「ごめんね……」


 アンジェラも、ジャックの後を追って廊下を駆けて行った。

 残ったのは晴人とエル。

 沈黙が、辛かった。


「追わなくてよいのか」


 エルの言葉に、晴人は何も返さなかった。

 代わりに出た言葉は、


「悪い、少し一人にさせてくれ……」

「……仕方あるまい」


 エルは、どこかへ歩いて行った。

 晴人は一人、ここに取り残される。


「どうしたらいいんだ……」


 意気消沈した晴人だったが、まだ完全に諦めたわけではない。

 まだ、何かあるはずだ。


                 ☆


「いいか! ここにいる人間すべては、革命のために立ち上がった!!」


 その声にこのレジスタンスのアジトにいる全員が反応し、各々気合を入れ叫ぶ。


「今まで俺たちはずっと耐えてきた! だがしかし、それももう今日で終わりだ! 武器を取れ!! その武器の一つ一つが敵を百討つことで革命は達成される!! 自分の手を血に染める覚悟をしろ!」


「「「「「オオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!!!」」」」」


「俺たちがやらないで誰がやる!! 俺たちがやらなければこの国はおしまいだ! 奴らは、俺たちから大切なものをすべて奪ってきた。土地、金、自由、そして家族! 数え出したらキリが無いかもしれない。屈辱だった。奴らがイギリスを侵略して早十年……辛かったと思う、悲しかったと思う! ならば、教えてやろうじゃないか。あの腐った天使共に、俺たちの痛みと怒りを!!」


「「「「「オオオオオオオオオオオオォォォォオォォォォォオォォォォォォォ!!!!!!」」」」」


 レジスタンスはジャックの演説によって士気を昂ぶらせている。

 その光景を、エルは遠目に眺めていた。


「どんな時代でも、民衆を動かすことができるのはほんの一握りだ。ジャックはその一握りの逸材だった、ということか……」


 誰もがここに集まるほどの理由を持っている。

 誰もが意思を示すことを是と思った。

 カリータも、アンジェラも、そしてジャックも、それぞれ違った目的があれど、根本は同じ。


「俺たちの目的はただ一つ!! トロイト=カーツを殺し、キャッスルオブグレートヴリテンを超えた先にある奴らの総本山を壊滅させることだ!!」


 ジャックが腰の剣を天へと掲げる。


「始めるぞ、俺たちの俺たちによるイギリスのための革命戦争だ――!!!!」


 掲げた剣は、天を切り裂くように振り落とされ、間も無くそれは始まった。




 誰もいなくなった食事処に、晴人はいた。

 気分は重い。

 さっきまで騒いでいたという痕跡が、余計この空間に一人残る晴人を追い詰める。


「……」


 後悔のみが晴人に押し寄せてくる。


 ォォォォォォォォ――――………。


 レジスタンスの雄叫びがここまで届いてくることで、ジャックを止めることができなかったのだと改めて実感させられる。

 しかし、晴人が思うのはそれだけだったか?


 違う。


 晴人は後悔こそすれど諦める気など毛頭ない。


「止めてやる」


 彼はここにいる間ずっと考えていた。レジスタンスをあと一歩のところで踏みとどまらせる方法を。

 そして、晴人はその方法を思いついたのだ。


「コイツで……コイツがあれば、あるいは」


 晴人が所有しているオーパーツ、ミラージュ・スクリーン。これにはある特殊な能力がある。

 それは、『対象の感覚をずらす』というものである。

 感覚をずらすというのは大雑把だが、その範囲は触覚から違和感までありとあらゆる人間が感知できるすべての現象に効果がある。


 しかし、デメリットもある。


 ミラージュ・スクリーンの効力は、対象の状態で大きく変わってくるのだ。

 例えば、対象がとても冷静で何事にも動じていない場合、その効力は皆無となる。

 逆に、対象の心中がよろしくない場合、焦りや動揺を隠せないほど取り乱している場合、ミラージュ・スクリーンは真価を発揮する。

 理論上の話だが、対象の状況次第では相手の感性のすべてを奪うことも不可能ではない。


「まだだ。絶対に成功させるにはチャンスは一回だけしかねえ……後悔してても始まらない。俺が出来ることは、まだ残されてるんだから」


 その時、複数の爆音が晴人の耳に入った。


「なっ!? もう始まったのか! 急がねえと!!」


 慌ててジャックが演説していた広間へ急ぐ晴人。

 晴人の計画は、レジスタンス全員の戦意を喪失させること。政府側との話し合いなど自分がどうにかしてやろうと思っていた。

 ミラージュ・スクリーンを発動させるタイミングは演説が終わった直後と決めていた。

 革命を開始した直後、それが一番レジスタンスの気持ちが昂る瞬間であるはずだからだ。


「落ち着け、一旦広場に出るんだ。ちょっと遅れたぐらいだったら問題ない!」


 断続的に聞こえていた爆音はもう聞こえなくなっていた。

 それでも晴人は走ることを止めなかった。

 なんとしてでも止めるのだ。その意志のもと、疾走を続けたのだ。

 そして、晴人はやたらと長く思える通路を抜けた。


「………なんだよ、これ」


 息を整える暇すらなかった。

 それは、晴人の予想の遥か上を往くものだったのだ。




「この大惨事はいったいなんなんだよ!?」




 広場には、戦闘の痕が至る所にあった。

 それも数か所ではない。アジトへの出入り口、演説台、壁など隅々まで爆撃されたかのように吹き飛んでいたのだ。


 絶望の広場。そのいたるところでうめき声が聞こえる。


「クソッ! カーツの野郎武装蜂起のことを知ってやがったのか」

「後ろから爆発音が聞こえたと思ったらアイツら、一気にジャックを……」

「ちくしょう! 俺たちがもっとしっかりしていればっ……!!」


 政府軍による奇襲攻撃、それがこの大惨事の原因だ。

 油断しきっていたレジスタンスは抵抗することも一切できず、大打撃を受けてしまっていた。

 負傷者は全体の半数以上。ピクリとも動かない人だっていた。


「晴人、くんっ……ジャックが…………」


 立ち尽くしたままの晴人に、傷だらけのアンジェラが歩くもの億劫な様子で告げた。


「ジャックが、連れていかれれちゃったよ!!」


 直後、輝かしい閃光が広場を巡った。

 ある者はその光に恐怖し、またある者は勇敢にも剣を取った。

 晴人は、目まぐるしく変わる状況に追いつけずどうにかなってしまいそうだった。


 そして閃光の中から一人の男が現界する。



「――残党狩りだ」



 その声が意味するのは、ここにいるすべての人間を抹殺するという単純な意思表示だった。

 間章2



「この時代はお前たちにはちょいと厳しすぎたかもしれねえな……」


 と、親父はいつもぼやいていた。

 俺はそんなこと思っていないって言うんだ。親父がそれを言ってるときの顔を見たくなかったから。

 でも、親父はそんな俺に決まってこう言った。


「ジャックは強いなぁ。……お前なら、きっといつか来る辛い未来を乗り越えることができる。なんたってお前には、仲間がいるんだからな」


 親父は、独りだったんだ。

 まわりにはいつも俺たちがいたけど親父はずっと孤独だったんだと思う。

 そんな親父を、俺は励ますことすらできなかったんだ。



 話は変わるが、俺は親父に命を救われたことがある。

 あれは確か……何歳だったかな、忘れちまったよ。ダメだな……俺って。


「俺がジャックの代わりになる。それでいいだろ」


 親父の提案はこうだ。

 俺はとある日、政府に見せしめに処刑されそうになったんだ。ひどい話だろ? 見せしめの処刑なんてあの頃は稀じゃなかったんだ。

 親父は政府に訴えかけ、なんとか俺の身代わりになったんだ。


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