最終回!? 最強の小悪党との死闘
ヘルドラゴン・アルタミラージュを倒してからは、モンスターは一体も出現しなかった。大方あのドラゴンを倒すなんて予想してなかったんだろう。流石ホモ、気前のいいザル警備だぜ。
「ここまで何もないと少し不安になるのう……急に奇襲されたりせんじゃろうか」
「あのモブ上がりのホモ野郎にそこまで知恵があると思えないな」
「そのモブ上がりのホモ野郎を仲間だと信じてまんまと騙されたのは晴人、お主じゃぞ?」
「んだよエルナ、お前だって騙されてたじゃねーか。自分だけ棚に上げて俺を馬鹿にするなんてひどいぞ」
「まさか。本当にあのような異国のパッと出の不審者を信用するわけがなかろう。余が信じているのは主だけじゃ」
「……そうかよ」
「しかしこのような事態になるとはさすがに思わんかった。結果的には余も騙されたといっても過言ではないかもな」
「ま、アイツらが姑息だってことはよーくわかったさ」
怒りでどうしようもなくなるくらいには、な。
「おっ! 見ろ晴人、あの先は開けた場所になっているようじゃ」
生体反応のないフロアを進んでいると、広場にでた。その広場の奥には次の階に進めると思われる仰々しい門の姿が。
「ここはさっきみたいな異次元空間じゃなさそうだな」
空を見上げると雲一つない蒼が広がっていた。
青空。
これが現実の光景じゃないなら何だというのだ。
「あの門、勝手に開いたりしてくれんかのう。余はもう疲れたのじゃ」
「もうちょっと頑張れよ。まだ最低二人は残ってるんだぜ?」
あの門の奥がラスボスならここでそろそろ出てくるはず……。
「善玉の奴め、ここにきてあれじゃが、可哀想じゃのう。もう余らから逃げることはできん」
「だな、俺たちを敵に回すなんてついてない野郎だ……ん?」
視線の先に移った何か。なんだあれは。
「エルナ、あれなんだろう。人間か?」
「動きそうには見えんが……」
広場の奥にある門の両端には門番のような石像があった。
近づいて調べてみると案外大きい。二メートルはあるな。
「何だコイツ。石化呪文でもかけられてんの?」
「気をつけろ晴人。こういうのは「何だただの石か……」って安心して背中を向けた途端に襲ってくるタイプじゃ!」
「まっさか~」
石像を調べ終わってエルナのほうを振り向いた時、
「危ない晴人ぉ!!」
「ヘィ?」
振り返る。
見ると、二メートルはある巨体が俺の方に倒れ掛かってきていた。
「っ!!?」
俺は咄嗟に右方向へ回避を試みる。
「だから言ったのじゃ。馬鹿者が」
「ふ~~~。危ねぇぇぇ……」
結果、なんとかギリギリのところで石像に潰されずに済んだ。
「この石造……砕けておるぞ。粉々じゃ」
そりゃあそうだろうよ。だって、石像ですもん。でも、
「この石造が倒れてきたのは偶然なのか……?」
今まで微動だにしていた石像が、俺が近づいた時偶然倒れてくる。
いや、その可能性は低いな。自分で言っておいてあれだが、偶然倒れてくるなんてまずないだろう……ということは。
「誰かいるんだろ!! 出てこいホモの助ッ!!」
「だぁ~~れがホモの助だゴルァァ!!」
倒れてきた石像と対になっていた石像の裏から奴は現れた。
善玉。
白の全身タイツのおっさん。
俺のちょっとした煽りでホイホイ出てくるとは、ホモはやっぱりすごいな。
「善玉……これもテメェの仕業かよ……っ!!」
「フフフ……さーて、なんのことだ?」
この小悪党臭はどうあがいても善玉だ。十割善玉だ。
「小悪党ってのはどいつもこいつもクズだよな。まるで善玉みたいだ」
「同感じゃ。あやつほど小悪党な善玉はおらん」
「おい、俺様が何か一種のカテゴライズ化されているんだが!?」
「ごたくはいい。よくもまあ俺たちの前に姿を現せたもんだ……わかるか。テメェに待ち受けている未来は、死だ」
「その言葉、そっくりそのままお返しするぜ! これでなぁ!!」
「っ!?」
善玉は忍ばせていたものを取り出し、俺たちに見せつけた。
善玉が見せつけた物……それは俺たちのよく知っている本。
「あれは……魔導解読書じゃ!!」
「なんだってーっ!?」
エゥドヴァンス・ジ・スゥヲォウサルウェポンヌ――だと!
「何だそのバカみたいな名前は、これは……おっと。ここからは秘密だった、悪いが勇者御一行は我が兄貴に会うこともなくゲームオーバーだ」
「ゲームオーバーだぁ? 笑わせんなよ。お前みたいな三下に負けるほど俺は弱くねえよ――エルナ」
「任せたぞ、我が主よ」
刀を構え、臨戦態勢に入る。
「善玉。命乞いするなら今の内だぜ?」
「命乞いするのはどっちか教えてやる。かかってこいよ、柊晴人!!」
善玉の魔導書が光る。
それが意味するのは、
「いくぞッ!!」
戦いの、始まり。
「っらぁ!!」
俺は一気に善玉との距離を詰め、斬りかかった。躊躇いはない本気の一撃だった。
「甘いぞ勇者。甘い甘い甘いィィ!!」
「っ!?」
俺が善玉を斬ったはずの瞬間。善玉は血を噴くことも痛みを感じることもなく、ただその場に直立したままだった。
ダメージを受けていない。
俺が驚いた隙に善玉は魔導によって反撃を仕掛けてきた。
その攻撃ををかわすために一旦後方へ下がる。
「まーた斬れない系の敵かよ。全く」
「なんだかかってこないのか? なら俺からいくぜぇ!!」
善玉の周りに魔法陣のようなものが形成される。やがて魔法陣は大量の氷の槍を生成し、その氷は俺目掛けるように配置される。
先端は、鋭利な刃物のように尖っていた。当たれば即死かもしれない。
「死ねぇい!!」
善玉の合図とともに氷槍が一斉掃射された。
このまま何もしなければ無数の槍に貫かれてしまうだろう。
「テメェの魔導はその程度か?」
溶解。爆散の次に、業炎。
門前に響くのは万物を焼き殺す灼熱。
「俺を殺したかったかったら氷山そのものでも用意してくるんだな」
エルナ火属性モード。
善玉の召喚した氷の槍は瞬く間に蒸発した。
「なっ……ならこれはどうだ!! フレア波ッ!」
次に善玉は残留桜城焼却雷空波を使ってきた。初めて見るがかっこいいな。
「フハハハ!! 終わりだ勇者!! この魔導には耐えられまい!!」
俺の真上にオーロラ状に広がるフレアの波紋。こりゃあ強そうだ。
「だが……残念だ」
俺は天に刀を掲げ、呟いた。
「エルナ――水属性モード」
俺がそうつぶやいただけでフレア波のさらに上方に雨雲が発生する。
ポツ……ポツ。
それから雨が降り出すまでそう時間はかからなかった。
「俺の……フレア波が、消滅した……だと………?」
天候による魔導のキャンセル。
これはこのRPGに『得手不得手による魔導相性』という設定があるからだ。
火は自然に強く、自然は水に強い。
水は、火に強い。
「わかっただろ、これが俺とお前の差だ」
「っ……!?」
「この俺を相手にした時点でお前の死は確定してたんだよ」
「くっ、来るなあッ!!」
善玉は光の球を数発飛ばしてきた。俺はそれを容易に回避していく。
「クソッ、クソッ!」
「いいか、これが……本当の……」
「クソォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッ!!!!」
「終わりだ」
俺は、刀を振り落とした。
そして、大量の血飛沫が飛び散った。
異物感。
「な……何だよ…………こ…ッ……?」
視界が揺れた。
浮遊感があった。
「フフ……」
胃の中が逆流しそうだった。
いや、胃などもう……
「ァァ……ッ!!」
「晴人ォォォォォ!!!!」
俺の腹部は、確かに斬り殺したはずの善玉に刃物で一突きされていた。
「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャーーーッ!! そんなんで勇者が務まるかよ!! 死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねェェェェェ!!!!」
「……るさぬ……」
「あん? 何だ刀女か」
「善玉、貴様は絶対に許さぬ……!!」
「許さないから何だっていうんだ!? 俺を殺すか? 無理無理!!」
ヒャヒャヒャヒャヒャ!! 下種みたいな声が響く。
「貴様は……………………た………………す!!」
駄目だ……意識が…………持た……ねえ……
☆
カツカツカツカツ……リズミカルに人差し指の爪を机に打ち付ける音が聞こえる。
「ここは……」
どこだ、その言葉はある声に遮られた。
「晴人! 目が覚めたか!」
喜びの声を出したのは、俺が寝ていたベッドの隣にいたエルナだった。
「エルナ……俺は……」
「晴人は善玉に腹を刺されて気を失っておったのじゃ」
思い出した、俺はあのときあいつに刺されたんだ。
「ここはどこだ?」
見知らぬ天井といえば大体予想がつくだろうが、俺はあえて現在地を訪ねてみた。
「旅の宿屋じゃよ。一泊三千じゃ」
「現実的な値段だな……」
「体はもう大丈夫なのか?」
「ん」
とりあえず腕を回りたり、足をバタバタさせてみた。
「うん。特に異常はないみたいだ」
「よかった~」
エルナは肩の荷が下りたといった様子で安堵の息をこぼした。
ここで一つ状況の確認をしよう。
まず、俺たちは魔王打倒のために城へと突撃した。
そして数々のモンスターを退け、ようやく城の本丸に続く門に辿り着いた。
しかし、そこで一人の男が俺たちの前に立ち塞がった。善玉だ。
善玉は見事な小悪党っぷりで、見る人すべてが善玉負けフラグと思った。
「じゃが、そこで一つの慢心が晴人を一気に窮地に陥れることになった」
「そして今に至るってわけか。なら俺たちがしなきゃいけないことは一つだ」
「選択肢など、それ以外ないじゃろう」
「よっしゃ!」
気合を入れ、ヘタクソに巻き付いていた包帯を剥がす。
「俺たちの戦いはこれからだ!!」
ご愛読ありがとうございました。私の次回作にご期待ください。
完
「まだだ、まだ終わらんよ!」
「メタネタの使い過ぎはいかんぞ晴人」
「わかってますって、それじゃ! VS善玉、再戦!! 始まるよ!」
次回へ続く。




