表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋をしたら死ぬとか、つらたんです  作者: イサギの人
第一章 この門をくぐるものは、一切の希望を捨てよ
9/103

8限目 散々死んで、反撃です

  

「優斗くんの弱点ってなんなんでしょう……」

 

 ヒナは一生懸命ノートにシャープペンを走らせていた。

 傾向と対策を分析しようとするものの、ほとんど思い浮かばない。

 

 手は尽くしてみた。

 結果、あれから十三度死んだ。

 どれもほとんど即死だ。

 だって仕方ない。かっこいいんだもの。

 

 ここにやってきたのはお昼だったが、そろそろ夜も明けた頃だろうか。

 疲れを感じず眠気が訪れないため、まるで無間地獄のようだ。

 恋愛地獄だ。

 ……楽しい!


 いや、そんなことを言っている場合ではない。

 このままいつまでもここにいなければならないというのは、

 さすがにつらたんだ。

 許容できない。


 シュルツはしばらく前から一生懸命宙に浮かぶキーボードを叩いていた。

 一体なにをしているのだろう。


 そう思っていると、ぬいぐるみが話しかけてきた。

  

「キミって、面食い……ってわけじゃないよね」

「はい、たぶん違うと思います」

 

 シュルツの問いにヒナはきっぱりと答えた。

 でも、と付け加える。


「かっこいい人は、その……かっこいいですよ?」

「いや、わかるけど」

「でも登場人物の男の子たちが、

 みんなひどく外見が醜いオークみたいな感じでも、

 溶けてただれた肌をしたゾンビみたいな感じでも、

 きっと素敵なところをいっぱい見つけられますし、

 わたしこのゲームとっても楽しめると思うんです」

「絶対に売れないから世に出回らないしそもそもプレゼン通らないしだからキミも楽しむことはないし」

 

 早口で否定されてしまった。

 やはりとにかく今は優斗対策だ。

 

「顔を見ない……っていうのはだめなんだよね」

「はい……優しい声を聞いちゃうだけで、もう……」

「耳をふさいでその場にしゃがみ込むのはもうやったし」

「心配されてゆさゆさされました。

 ボディタッチはむりですしんでしまいます」

「死んでしまったけどね」

 

 うーん、とヒナは悩む。

 なんというか、手詰まり状態だ。

 最初のデッドゾーンを越えられないのだ。 


 悩んでも仕方ないと思い、とにかく特攻はしてみたけれど。

 その結果の十四連敗だ。

 十四回連続の校門前での救急車からの霊柩車コースだ。


 ヒナはきっと世界で一番自分の葬式を見た人間になってしまっただろう。

 もうこんなのは乙女ゲーではない。

 葬式ゲーだ。

 すごく斬新だけど、多分売れないし、プレゼンも通らないと思う。


 

 しばらく放置していたため、

 葬式も告別式も、そして通夜まで終わってしまっていた。


 主人のいなくなったヒナの部屋を時々、家族が覗いては、

「……そうか、ヒナはもう……」とか言っている。

 止めなければ一体いつまで続くんだろうこのバッドエンド。


 一体どれほど愛されているんだろうゲームのわたし、と他人事のように思うヒナ。

 実際、他人事なのだが。

 

 こちらも見ずにぺちぺちキーボードを叩いているシュルツにつぶやく。

 

「もういっそのこと、学校に入らない、っていうのはどうでしょう」

「ええー? 大丈夫かなあ。

 たぶんそれはそれで、別のキャラクターと出会うだけだと思うよ」


 色よい返事はもらえなかった。

 うなる。


「うーん……」

「どっちみち三島優斗とは、これから毎日顔を合わせるんだから、今のうちに克服しておくのが良いと思う……」

「毎日……」

 

 ヒナはうつむく。

 どう考えても嬉しいはずなのに、憂鬱だ。

 シュルツの力になれないのが、さみしい。

 ……複雑。


 

「なにか、いやなところがあればいいんですが……」

「ふーむ」

「実は陰で、雨の日に濡れた捨て犬を見つけては、

 流れの急な河川敷に夜な夜な流して捨てていたり……

 あるいは重度の小児性愛者で、完全に児ポ法を犯していたり……」

「ンなキャラを攻略させる乙女ゲーねーよ」

 

 ついつい乱暴な口調になってしまった。

 

 だがこのままでは一生この世界から出られない。

 ヒナと永遠にふたりっきりだ。

 

 身の危険を感じてしまう。

 

 話しながら、シュルツはずっとあるプログラムを攻略していた。

 現場の知識はほとんどないけれど、一応はゲーム開発の専門学校に通っていたのだ。


 なんとかして先人たちのブロックを突破して見せないと。

 ヒナには頼れない。自分が頑張らなければ。

 

「っていうかホント、なんで出られない仕様なんだ……」

「なんでなんでしょう」

「短時間により集中的なデータを取得するため、かな……

 今さら言ったところでどうしようもないんだけど、

 一度もゲームを起動していなければ、脱出できたんだけどね……」

 

 シュルツには、実は他にも心当たりがあった。

 

 職場に、いかにもこういう意地悪を仕掛けそうな先輩がいるのだ。

 多分……というか、十中八九、その人のせいだと思う。


 シュルツは別にいじめられているのではない。

 むしろ可愛がられているほうだと思う。

 でもそれも行きすぎると、ひどいことになるという悪い例だ。

 まじでかんべんしてほしい。

 

 怒りを込めてキーボードを叩く。

 ぬいぐるみの手でぺしぺしと。

 それなりにシュールな絵である。

 

「……よし、ここをこれで、こうで……!」

 

 システムやセキュリティを書き換えることは難しいが、

 データ内容を変更するだけならばシュルツにだってできる。


 ぽむっ、とエンターを押す。

 すると管理画面に新たなウィンドウがポップした。

 この画面はヒナには見えない仕様になっている。


 よし、予想以上の成果だ。

 シュルツはガッツポーズをした。


「しゃーおらー! どうだおらー! やってやったぞー!

 くそがー! ふぁっきゅー! うらー!」

「え、なにこわい」

 

 ヒナが小さくつぶやき、シュルツはハッと気づく。


「うん、ごめん、ちょっとテンションあがっちゃった」

「でもそんなところも……ぽっ」

「それはいいとしてそれはいいとして。

 できた、できたよヒナさん」


 久方ぶりに聞くシュルツのうわずった声に、ヒナも興味をそそられる。

 

「おー? どうしたんですか?」

「やっぱり裏コマンドで隠してあったんだ。

 エンジェルハイパーイージーフレンドリーモードだ。

 これでブレスレットの上限が99万9999までいける!」

「お、おおー」

 

 シュルツのテンションに引きずられて、ヒナも拍手した。

 

「通常モードの999から、99万だ。

 十倍返しなんてもんじゃない、千倍さ!

 もはや恋に脳髄を破壊され尽くした廃人でもなければ、到達することはない領域だよ!

 ひとりの人間がそこまで行き着くことはないはずさ! 神でもなければね!」

「え? でも。

 さっき17億の数字が出ていたような」


 興奮するシュルツはヒナが手を挙げたことに気づかない。

 いや、見ないようにしているのだ。


「こ、これでどんな人だって絶対にクリアーできるはずなんだ!

 絶対に、絶対だ!

 これでクリアーできなかったらボクは仕事をやめるぞ! ジョジョーーッ!」

「どちらさまですか?」

 

 ヒナには通じなかったようだ。

 とはいえ、シュルツは勝手にぽちりとゲームを起動する。


「さ、あとはキミの番だ!

 がんばってください、ヒナさん!」

「は、はい」

 

 シュルツの期待に応えるべく。


 背中を押され、

 ヒナは再び彼女の戦場へと舞い戻るのであった。


 

 

  

 六回目。

 死因:優斗の優しい笑顔を見て。


 七回目。

 死因:優斗に心配ぼでぃたっちされ。(Over Kill!)

 

 八回目。

 死因:優斗の優しい笑顔を見て。


 九回目。

 死因:優斗の優しい声を聞いて。

 

 十回目。

 死因:優斗に肩を叩かれて。(Over Kill!)


 十一回目。

 死因:見知らぬ通行人に心配されて。


 十二回目。

 死因:優斗に手を繋がれて。(Over Kill!)


 十三回目。

 死因:優斗の寂しそうな笑顔を見て。(Over Kill!)


 十四回目。

 死因:優斗に殴られて。(Over Kill!)


 十五回目。

 死因:優斗の優しい笑顔を見て。

 

 十六回目。

 死因:優斗の優しい笑顔を見て。

 

 十七回目。

 死因:優斗に抱き寄せられて。(Super Over Kill!!)


 十八回目。

 死因:優斗の優しい笑顔を見て。

 


 シュルツより一言:希望があるから人は生きてゆける。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 十四回目。  死因:優斗に殴られて。(Over Kill!) 何故殴られたのか気になります あと、身体弱いから殴られた衝撃や打ち所が悪くて死んだのか、殴ってくるその男らしい姿もカッ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ