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恋をしたら死ぬとか、つらたんです  作者: イサギの人
第六章 ルッンルン☆初めてのデートは彼岸の彼方♡
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72限目 デート始まりました! 死にます!

 前回のあらすじ。

 家を出られました! デートに行けます!

 藤井ヒナたちの住む須内市の駅前には、変わったオブジェがある。

 それはハートマークと星形の組み合わさった大きな銅の物体であった。


 全長二メートル、横三メートル近くのそれは、須内駅前の待ち合わせ場所としても人気を博していた。

 かつてこの市で大恋愛をした昔話にちなんだものらしい。


 それはさておき、そのオブジェの前に今、ひとりの赤髪の少年が佇んでいた。

 彼は三島優斗。真新しいシャツに色の濃いパンツを履いた、カジュアルなスタイルの長身のイケメンである。


 赤髪の少年はわずかに緊張した面持ちで、チラチラと腕時計を眺めていた。

 先ほどからしきりに時間を気にしているようである。


「んー、もう10時過ぎたか。……どうしたんだろうな、ヒナ」


 独り言をつぶやく彼のそばにも、何人かの待ち合わせの子たちがいた。

 しかし彼らや彼女たちは、次々と相手を見つけて、優斗のそばから去ってゆく。


 女の子たちは優斗を横目に見ては「やだ、すごいかっこいい人がいたんだけど……」などと言っていたものの、彼は気づかない。

 ただひたすらに、黒髪の乙女を待ち続けていた。


「……ん?」


 そのとき、駅前を慌ただしく救急車が通り過ぎていった。

 なんとなく嫌な予感を覚えながら、優斗は携帯電話を開く。


「電話、してみっかな」


 もうすでに待ち合わせを三十分過ぎている。寝坊しているのだろうか。

 だとしたら、まあいい。もしかして彼女の容態になにかあったとしたら、それは心配だ。


 コールするも、繋がらない。

 かつてのヒナは待ち合わせ時間もきっちりと守る少女だったが、今はどうだろう。

 やはり部屋でまだ寝息を立てているのかもしれない。


「……のんきなもんだなあ」


 口元を緩めてつぶやく優斗。

 そんな彼は知らない。


 今、赤髪の少年が待っているはずの少女は、冷たい土畳の上に倒れて、永遠の眠りについているのだということを……。

 優斗がそのことを聞かされるのは、そんな無情の電話が鳴るのは、これから間もなくであった……。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「危ないところでした」

「いや死んでたよね」

「遠くから優斗くんの顔を見ただけで、ドキドキが抑えられませんでした。ギリギリでした。本当にギリギリのところでしたね」

「いや死んでたでしょ」

 

 ヒナはしたり顔でうなずくと、着替えて部屋から出た。

 ポケットの中にすっぽりと収まったシュルツは頭だけ出して、なにやら釈然としない顔である。


「まあ、でも別にね。顔を見ただけで死んでしまうっていうのは、ボクとしても予想していたことだったからね。

 鍋にかけられたお野菜がゆっくりと柔らかくなってゆくのを見て、『ふーん』って思うような気持ちだよ」

「なんかちょっとそこはかとなく例えがアレな気がしますが」


 ヒナもまた首をひねりつつ、階段を降りてゆく。

 とりあえず、家から出るところまでは前回やった通りだ。


 このビッチはほぼ前進しないが、かといってなかなか後退もしない。

 巨大な砂山を茶さじで崩すように、ゆっくりとゆっくりと微速前進してゆくのだ。

 まるで働き蟻のようである。つまり働きビッチだ。

 シュルツはなんとなく大勢のヒナが一心不乱に角砂糖を運んでいる姿を想像して、げんなりしながらも口を開く。


「群れ全体が女王アリも兼ねているから、雄アリは『男の子ー! 男の子ー!』って殺到してきた女王アリたちによって、一瞬にしてカラカラになるまで搾り取られるんだろうな……」

「? よくわかりませんけど、雄アリさんは交尾をするとすぐに死んじゃいますよ?」

「よくわかってんじゃん」

「???」


 疑問符を浮かべるヒナは、家を出た。

 あとはスクリーンに浮かんだ目的地をタッチして、そこにワープするだけである。




 さて、須内駅前である。

 ここはもっぱら、市内エリアへと向かうための中継地点として利用される場所だ。

 というわけで、待ち合わせのメッカでもある。


 本日はついにやってきた、ゴールデンウィーク三連休の最終日。

 すなわち、三島優斗とのデートの日なのだ。


「時間は10時5分前。ちょうどいい頃合いですね」

「五時間前から待機していなくて良かったの?」

「待つのもデートのうちなんですよ? そんなの、ドキドキして死んじゃいますもん」

「まあね。ヒナさんにしてはよくわかっているね」

「えへへ、彼を知り己を知れば百戦殆うからず、です」

「う、うん」


 なにやら良いことを言っているようだが、シュルツは騙されなかった。

 この孫子ビッチは己を知っているのにも関わらず、本能に逆らえないで百戦全敗中なのだ。

 彼女が本当の意味で自分を知る日は、やってくるのだろうか。

 それはこの宇宙銀河が終焉を迎えて滅びるのと、どちらが早いのだろう。

 

 考えると、とてもとても不毛なことになりそうなので、シュルツは考えることをやめる。

 とにかく今は、目先の障害だ。つまり、三島優斗だ。


 ここからは優斗の姿は見えない。

 シュルツは改めてヒナに問う。


「ヒナさん、覚えている?」

「はい」

「え、いやまだなにも言ってないんだけど」


 シュルツの言葉に、駅前の人混みに隠れながら、ヒナは間髪入れずうなずいた。

 本当にわかってんのかこいつ、と一瞬訝しむシュルツにヒナは当然のような顔で。


「優斗くん相手の三か条ですよね?」

「……う、うん、まあそうだけど」


 なんでわかってんだこいつ……、とおののくシュルツ。

 すごい。察しが良すぎる。エスパーか。テレパシストビッチか。超怖い。


「大丈夫です、胸にとどめています。

 初日を突破するために、さんざん学習しましたもの。

 まず第一、笑顔を見ない」

「うん。優斗くんの笑顔は即死級だからね。

 微笑みの死神とはよく言ったものだよ。ボクが名づけたんだけど」

「第二に、決して気を緩めない」

「そうだよ。彼は隙あらばボディタッチしてこようとしてくるからね。

 ここが職場だったらセクハラで訴えられそうなほどの頻度だよ」

「そして最後に、絶対にこちらから話しかけない。

 優斗くんは能動的な話し上手ですので、ひたすら受け流すことに集中しましょう。

 下手に話題を広げてしまったら、いつまで経っても話が終わりません。

 服のセンスでも褒めようものなら、カウンターとして褒め返されるに決まってます。

 そんなの耐え切れません。わたしは貝になります」

「よし、その意気だ」


 乙女ゲーの攻略キャラ相手にだからまだいいものの、実際の男の子に対してこんなことを話し合っている時点で、なんてひどい人たちなんだろうとシュルツはぼんやりと思う。

 だが、この世界で生き残るためには仕方ないのだ。これこそが乙女ゲー世界の鉄の掟なのだ。

 VR乙女ゲーの世界は厳しいのだ。それでも生きてゆきたいと願ったのなら、人は知恵を身につけるしかない。


 敗北して、敗北して、それでもその知識だけは確実に蓄積してゆくものだ。

 人類は文字を発明したことによって、歴史を後世に伝えるすべを手に入れた。それこそが人間の飛躍の始まりだったのだ。


 ヒナには記憶の連続性がある。それは彼女自身が経験した内容である。

 ならばこそ、もう二度と同じような過ちを起こすことはないだろう。

 

 乙女ゲーは一日にしてクリアはできず。

 だが、人は成長するものだ。

 きっと彼女は角砂糖を運ぶアリのように一日一日少しずつ歩み、そしていつかはこのゲームを突破してくれるはずだ。

 

 さあ、歩き出そう、ここから。

 ヒナは胸元で十字を切ってから、顔をあげた。


「それじゃあ、いってきます」

「うん……」

「デートへと……いざ、向かいます!」


 そこは女の戦場だ。

 アパレルファッション(せんとうふく)に身を包んだ彼女は、向かう。

 

 いた。前方には三島優斗が待っていた。


 始まりだ。

 デートの、始まりだ――。


 ここまで来るまで、本当に長かった。

 本当に、本当にだ。


 本人(ゆうと)のあずかり知らぬところで一体何度死んでいたんだ、っていう話だ。 

 殺意なき犯罪者の完全犯罪か。

 まあ今さらそんなことを言っても仕方がない。

 

 緊張がヒナの体にみなぎる。

 優斗もまた、同様に――。



 ヒナを見つけた途端、優斗のその笑顔が、パッと花咲く。

 オブジェを含む彼の周囲が一瞬で華やいだ。そんな気がした。


「おー、ヒナ」

「はうっ!」


 ※その1『笑顔を見ない』 不可


「いやあ、きょうは楽しみにしていたんだよ。

 昨晩もゼンゼン眠れなくてさ、へへっ。

 って、お、おい、胸を抑えてどうかしたか? ヒナ。

 体調でも悪いのか?」

「ウ、ウウン! なんでもないよ! 優斗くん!」


 ※その2『隙を見せない』 不可


「そ、それよりも優斗くん、きょうはおシャレだね!

 なんだか制服の優斗くんと、印象ちょっと違う、かも……!」

「お、そうか? なんだか、嬉しいな、はは。

 この日のために、用意したかいがあったよ。

 それよりもさ、ヒナも……なんだか、その、いいじゃん。

 良いな、私服。ヒナってセンスが良かったんだな。

 か……かわいい、と思うよ」

「ふぁぁぁぁぁぁぁん!」


 ※その3『自分から話しかけない』 不可


「わたしも優斗くんのために揃えたのこのおよーふく!

 どう!? かわいい!? かわいいって言ってくれた!?

 ありがとう! ありがとうなの! すっごいうれしい! うれしいよお!

 はあああああああん! きゅんきゅん!

 ありがとう優斗くん! 優斗くん! 優斗くん!

 優斗くん! 優斗くん! 優斗くん!

 ゆうとくんゆうとくんゆうとくー……ん……」

「ヒナ!?」


 優斗に抱きつこうとして、しかし力なくその場に崩れ落ち、血を吐きながらずるずると地面に倒れこんでゆくヒナ。

 その彼女の動から静への、死の急転直下を前に、優斗は愕然として慌てて救急車をコールするものの、時すでに遅し。

 彼女の病は、決して人の手では治すことができない、それはこのゲームの世界のシステムによって刻み込まれた『恋をすると死ぬ』という呪いなのだから……。


 謎の病の前、ヒナはゆっくりと命を失ってゆく。

 まだまだデートは始まったばかりである……。


 763回目。

 死因:待ち合わせの場所に向かう途中ドキドキして。


 764回目。

 死因:優斗の笑顔を見て、肩を触られて、自分から話しかけて。(Over Kill!!)

 

 シュルツより一言:いやこれは、脳の病気でしょう。


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