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恋をしたら死ぬとか、つらたんです  作者: イサギの人
第一章 この門をくぐるものは、一切の希望を捨てよ
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3限目 死んだ後にはお葬式です

 

「あの……」

「……」

「えと、わたし」

「……」

「……死んじゃったんですけど」

「……」


 シュルツはなにも語らなかった。

 今、ヒナの姿は半透明である。

 頭に三角形の白い布(てんかん)を巻いている。

 いわゆる幽霊状態だ。

 

 浮かぶふたりの前では、

 藤井ヒナの葬式が行われている。

 

 ゲームの中のヒナの両親と、さらに弟キャラと思しき人たちが号泣し、

 さらに下手人である三島優斗が先ほどからずっと頭を抱えて、

「俺が、どうして、俺がやったのか、ヒナ……

 どうしてなんだ、ヒナ……頼む、目を開けてくれよ……」と泣いている。

 

 はっきり言って、雰囲気は最悪だ。

 つらたん、である。

 いや、つらたんどころではない。

 つらい。


「あの、これ……」

「うちの開発した体感型乙女ゲーム、

『乙女は辛いデス』のウリでね……」

「ええ」

「……自分の死んだ後にね、葬式が行われるんだ」

「は、はい」

「そこではイベントや物語の進み具合によって、

 悲しんでくれる人たちの言動が変わる、っていう演出なんだけど」

「趣味悪いですね!」

「うんまあ、ボクもちょっと思うよ。

 でも例えば、キスをした瞬間に死んだとするよ。

 すると、相手の男性は最愛の女性を失った後悔と絶望にさいなまれるんだ。 

 どんなに強い人でも、ひとりで生きてきた王子様でも、

 しばらく事実を受け入れることもできず、荒んでしまったりする。

 心の中にひどく深い傷をキミが作ることになるんだ。

 それがグッと来るという女性も」

「趣味悪いですね!」

「そうだね」

 

 今度は認めた。

 認めて、ため息をつく。


「声をかけられただけで死ぬって……」

「いや、だって……どきっとしたんですもん……」

 

 ヒナは小さくなって唇を尖らせた。

 思ってしまったものは仕方ないではないか。


 ヒナの家族や優斗はまだ泣き続けている。

 なんというゲームだ。なんという。

 

 するとヒナは、藤井家の前にひとりの銀髪の男性がいるのを見つけた。

 黒いロングコートを着ている。ぞっとするような美人の男性だ。

 彼は目を伏せて、首を振る。


「ヒナ……お前もやはり、ダメだったか……

 所詮恋など、俗物の盲目な呪いに過ぎぬのだ……」

 

 脊髄の神経を直接撫で上げられるような、魔力のある声だった。

 ヒナは思わず胸を押さえる。

 

「な、なんですか、あの人……

 か、かっこいいんですけど、かっこいいんですけど……」

「あれがキミに呪いをかけた悪い魔法使い、アールヴだよ。

 色々とバックボーンがあるんだけど、

 まあ、幼少の頃のキミと知り合って、それで呪いをかけたんだ。

 本作のラスボス的扱いだね。攻略難度はもちろん最高」

「えっ、お、落とせるんですか?」

「うん……あの、ちょっとブレスレット見せてもらって良い?」

「え? あ、はい、どうぞ」

 

 ぬいぐるみシュルツはヒナの手首の数字を見やる。

 これは999になった途端に死んでしまう数字なのだが……

 

 ヒナの現在の数値は、13億7800万だった。

 

「うおおおおおい! なんだよ、10桁ってなんだよ!

 本来3桁までしか表示されないんだよ! どういうことだよ!

 どんだけ好きになってんだよ! 発情してんじゃねえよ!」

「わ、びっくりしました。急に乱暴な声を出さないでくださいよ。

 ……でもそういうワイルドなところもあるんですね、シュルツさん」

「やめろ! そんな目でボクを見るな!」

 

 シュルツは頭を抱えた。

 うめく。


「なんだよ、13億って……

 100万回死ねるじゃないかよ……」

「ちょっとオーバーですね、この機械」

「ほんとそうだよ……

 999だってメロメロで首っ丈なのに。

 2000もあったら幻聴が聞こえるレベルだよ……

 13億って、もはやどうなってんだよ……

 神の愛アガペーに目覚めているのかよ……」

「たぶん壊れているんですよー、あははー」


 なんだか怖くなってきた。

 ヒナのその小さな体に、13億もの愛が詰め込まれているのだ。

 なんだろうこの娘。ビッチとかそういうレベルじゃない。ゴッデスだ。合わせてビッチデスだ。

  

 しかしヒナは、途端にしょんぼりとした顔をした。


「でも、こんなんじゃわたし、モニターになりませんね……

 さすがに、中止、ですよね……

 これ以上やっても、シュルツさんに迷惑かけちゃいます……」

「……」

「ごめんなさい、お役に立てなくて。

 えへへ、ちょっとだけ楽しかったです。

 滅多にない経験ができました」

「……」

 

 そう、けなげに笑うヒナだけど。

 シュルツは腐っていた。

 

 そう。

 彼女には言っていなかったけれど。


「…………いんだ」

「え?」

「……やめられないんだ」

 

 ぼそぼそと語る彼に、聞き返すヒナ。

 衝撃の事実を告げられる。

 

「このゲーム、起動したら途中でやめられないんだ……

 キミがクリアするまで、ボクたちは、出られないんだよ……

 はは、この世界から……」

「……へ?」

 

 シュルツ(外見・猫のぬいぐるみ)は、死んだ魚のような目をしていた。

 

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