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恋をしたら死ぬとか、つらたんです  作者: イサギの人
幕間2 ヒナ&シュルツ
38/103

幕間(シュルツパート) ほのぼのしない話

 

 

 ボクが死ぬ前に、この日記を残しておこうと思う、と。

 シュルツは書き出す。

 

 休憩時間だ。

 観測ルームに戻り、シュルツはキーボードの前に座る。

 ふー……と深くため息をつく。

 

 初日をともに行動して、

 ヒナという少女について色々とわかったことがある。

 

 彼女の底知れなさ。彼女のスペック。

 彼女の海よりも深い愛。彼女の目的達成能力。

 

 どれもが一個人が持てるようなシロモノではない。

 もっと本格的にヒナについて調べてくれば良かった。

 はっきりいって、油断をしていたのだ。


 

 このモニターに挑むにあたって、

 シュルツもそれなりに同僚たちと話をしていた。

 

 誰もが様々な時代の少女に会うために、研修を受けていた。

 その時代のマナーや情勢、そういったものを勉強してから臨んでいる。

 

 モニターから帰ってきたものたちもいたが、

 その誰もが「楽な仕事だった」「チョロい」「遊んでお給料もらえるみたい」「楽しいよ」などと口走っていた。

 

 どこがだよ、と思う。

 てめーら全員地獄に落ちろ、とも思う。

 こんなに割りが合わない仕事などない。

 

 もしシュルツが会社に戻ったら、彼らにこの記録を見せよう。

 始めのうちは笑っていた同僚たちも、

 最終的には全員声を揃えて「……ヒ、ナ、さ、ま……」としか言わなくなるはずだ。

 

 

 その、藤井ヒナという少女。

 会社に差し出された事前のレポートが、こちらだ。

 

 

『高校2年生:17才

 健康状態:問題なし

 ストレス:低


 学力:良

 芸術:並

 流行:良

 運動:並

 気配り:良

 魅力:並

 恋愛力:53万』

 

  

 嘘だらけじゃねーか、と思う。

 てめーらの血は何色だ、とも思う。


 シュルツはタイピングし、内容を書き換える。

 真実はこうだ。



『高校2年生:17才

 健康状態:頂点は常にひとり

 ストレス:必要なし

 

 学力:超スゴい

 破壊力:超スゴい

 スピード:超スゴい

 メンタル:超スゴい

 社交性:超スゴい

 犯罪性:超スゴい

 恋愛力:究極』

 


 そんなことをしたところで、溜飲が下がるわけではない。

 実態が知れたところで、今更どうしようもない。


 ただ、会社からこんなレポートが回ってきたところで、自分は一笑に付すだろう。

 そして一生後悔するのだ。

 

 それにしても、だ。

 シュルツは自らの手を見やる。

 

 ヒナに請われて、彼女の頭を撫でてしまったけれど。

 あれでヒナがなにか勘違いしなければいいが。

 

 自分は決してヒナに気を許してなどはいない。

 ヒナはこの世界を一緒に脱出するための、ただのパートナーだ。

 

 隙あらば、寝首をかくぐらいの勢いでいかなければ、

 ヒナに取り込まれて、自身もヒナの一部にされるだろう。

 

 そんな恐ろしいことはだめだ。

 シュルツは自我を保つために十分に己を律さねばならない。

 


 ちらりとモニターに目を向ける。

 するとそこでは、ヒナが妙に嬉しそうに父親とお喋りをしている。

 翔太をツブした後の、一日目のセーブデータを使っているのだろう。


『どうしたヒナ? なにか探しものか?』

『あ、ううん、お父さん。なんでもないの。えへへ』


 シュルツの目を意識しているのか、時折天井などを見上げて、

 まるで監視カメラを探しているような挙動をすることもあるが。

 

 それでも、基本的にはリラックスしているようだ。

 口元がいつもより少し緩んでいる。


 あんなことをしておいて、よく呑気にしていられるものだ。

 現実とゲームの区別がはっきりとついているのだろうか。

 いや、違う。もっとドス黒いものが潜んでいるはずだ。


「……」

 

 しかし、だ。

 画面の中に映るヒナは、全力でゲームを楽しんでいるように見える。

 そこに邪悪さはまるで見当たらない。

 

『えへへー、お父さんー』


 ただの純粋な、恋をする少女だ。

 そう見える。見えてしまう。

 

 さっきのナデナデだって、そうだ。

 ヒナは心から恥ずかしがっているようだった。

 

 決して常在戦場の覚悟で恋愛をしている少女ではない。

 隙だってあるのだ。

 

 それならば恐らく、弱点も。

 そこを突けばれる――いやいや、殺さない殺さない。


 頭を撫でてもらうと首筋を晒していたときに、

 あるいは頸動脈を断ち切れば……いやいや、しないしない。 


 だが、敵を知り己を知れば百戦危うからずと言うではないか。

 古事記にも書いてあるし。

 そのために、シュルツはヒナに取り込まれないために、彼女を知る必要があるのだ。


『あ、あのね、お父さん……その、わたし……』

『ん、どうした、ヒナ?』

『その、あのね……ひ、久しぶりに、その、

 ぱ……パパって、呼んでみても、い、いいかな?』

『……ふふふ、まるで昔みたいだな、ヒナ』

『ぱ、パーパ……?』

『こんなに大きな娘が甘えん坊か、ははは』

『えへへ、ぱ、パパぁ――モルスァ!』

『ヒナ!?』


「……」


 曇りなき眼で正体を見極めしようとしても、

 未だ、その本性は掴めていない。

 

 果たして彼女は悪なのか、そうではないのか。

 善なのか、悪魔なのか、女神なのか、死神なのか、天使なのか。

 

 救世主なのか、あるいはこの世界を滅ぼす破壊者なのか。

 

 藤井ヒナ。

 一体藤井ヒナとは一体。

 

  

 シュルツはため息をついて、キーボードを叩く。

 記録を締める言葉は、以下のように。


 これは17才の少女に翻弄され続ける、

 哀れな一匹の黒猫の物語である――と。

 

 

 584回目。

 585回目。

 586回目。

 587回目。

 588回目。


 死因:息抜き。(呼吸機能を停止、という意味で)


 シュルツより一言:ヒナさんなんかに絶対に負けないんだからね。きり。

  

 

 明日明後日は更新をおやすみします。

 更新しなければシュルツくんが悲しい目に合うこともありません。

 わたしはそういうことに喜びを感じるのです。

 

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