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恋をしたら死ぬとか、つらたんです  作者: イサギの人
第二章 ドッキドキ☆学園生活は恋の予感♡
20/103

18限目 ここまで来たらもう死ねません

 前回のあらすじ:ヒナ生きる。

   

 二時間目の休み時間だ。

 

 今度も凛子から話しかけてきてくれた。

 嬉しい、けれどなにか違う。

 具体的には凜子の態度が露骨によそよそしい。

 本当は話したくないのだけど、でも義務だから仕方なく……というムードが体中からあふれている。

 

「あ、あの、藤井さんって一人っ子ですか?」

「えーっと」

 

 ヒナは顎先に指を当てる。

 なぜ先ほどから凛子が敬語を使っているのか、

 だいぶ気になっていたが、それはいいとして。


 どうなんだろう。

 実際ヒナは一人っ子だが、ゲーム中のヒナは弟がいるようだ。

 どう答えればいいのだろう。

 

 でもまあいいや。

 ありのままを言おう。


「うん、わたし一人っ子だよ。

 お父さんとお母さんと三人暮らしなんだ」

「あ、そうなんですか」

 

 凛子はつかず離れずの微妙な位置を保ってくれている。

 大変ありがたいのだけど、一体なぜなんだろう。

 彼女との間に大きな壁(ウォールマリア)を感じながら、答える。


「お父さんはサラリーマンで、お母さんはパートだし。

 ごくごく平凡な家庭で育った、ごくごく平凡な子だよ、わたしなんて」

「平凡……」

 

 凛子は苦虫を噛み潰したような表情をした。

 

 それから、おずおずと問いかけてくる。

 まるで犯人から言質を取る刑事のような顔で。


「じゃ、じゃあ、趣味とかって……ありますか?

 特技でもいいですけど。男漁り以外で」

 

 よくよく考えてみればかなりひどい質問だが、ヒナは気にしない。

 むしろこんなに凛子に興味をもってもらえてハッピーな気分だ。

 

 通常状態なら即死級な会話だったが、

 今の凛子の表情とか所作がやけに他人行儀だったため、結構余裕で耐えられた。

 

「趣味はたくさんあるよ。

 お裁縫とか、お菓子作りとか、お料理したり。

 幼稚園の頃から結構本気で勉強したから、それなりのものだと思うよ。

 家事をしていると落ち着いてくるし。

 やっぱり、誰かに喜んでもらえることが好きなんだ。えへへ」

「女の子らしい……」

 

 誉められているというより、

 どちらかというと「チンパンジーがキーボードを叩いて迷惑メールをばらまいている……?」みたいな驚き方をされているような気がする。

 彼女はさらに疑わしげに聞いてくる。 


「それってやっぱりあれですか。

 将来のオトコのために、みたいな?」

「もちろんそれはそうだけど」

「もちろんなんだ……」

「だって例えば、ほら、好きになった人がたまたま60億ぐらい借金があったとするじゃない?」

「うん……うん?」

「その人と一生をともにするんだったら、

 たくさんお金も稼げるようになっておかなきゃならないでしょ?」

「……うん?」

 

 凜子はまるで『言ってる事が分からない……イカれてるのか? この状況で……』とでも言いたげな目だ。

 気づかず続けるヒナ。


「ギャング・スターと付き合うんだったら、

 人を殺す覚悟だったり、塀の中で過ごすことも想定しておかないとだし。

 だからほら、いろんなことをやっておいて損はないよね?

 足がつかない死体処分の方法とか、

 心肺停止時の適切な処置とかできるようになっていたら、

 それがいつの日か、役立つときが来るかもしれないんだもの」

「……」

「勉強だって運動だって必要になるかもしれないし。

 もしかして将来、異世界に召還されちゃったときだって、

 そこで現代の知識が活かせるかもしれないから、

 ガーデニングとか食品の醸造方法とかもしっかり覚えなきゃいけないし」

「えーっとー」

 

 凛子はわざとらしく声をあげて、時計を見上げた。

「どうしたの?」と首を傾げるヒナに、早口で告げてくる。

 

「あーやっばーい、次の授業はじまっちゃうー。

 あたし当てられるかもしれないからー、べんきょーしなきゃー。

 というわけでじゃあね、藤井さん」

「あ、うん。じゃあね、凜子ちゃん」

 

 小さく手を振るヒナ。

 凛子は自分の席について、教科書とノートを取り出す。

 

 その姿をぼんやり眺めて。

 しまったかな、とヒナは思った。

 たぶん、引かれてしまったのだろう。

 しゃべりすぎた。


 前に向き直り、小さくため息をつく。

 どうやら会話を打ち切られたようだ。

 ヒナはしっかりと空気も読める。それだって必要なことだからだ。

 相手がなにを嫌がって、どんなことが苦手なのかも、手に取るようにわかるのだ。

 

 小さく小さく、つぶやいた。


「……急に、異世界に呼ばれたらー、なんて言い出したから、

 アブない子だと思われちゃったかなー……うう……」

「400%そこじゃあねえよ」

 

 鞄についていたシュルツが、銛で突き刺すようなツッコミを放った。

 

 

 

 ◆◆

 

 

 

 三時間目の休み時間。

 今度は凛子ではなく、優斗が席にやってきた。


「おーっす、ヒナ」

「うっ……」

 

 キラキラまぶしい笑顔を前に、思わず顔を歪めてしまう。

 やってきてしまったか。


 最強の門番であった凛子が――なぜか――弱体した今、優斗は恐るべき相手だ。

 環境に左右されず、コンスタントに撃墜数を稼いでいる。

 発展途上国に今なお埋められている地雷のようだ。

 いつでもそこにあり、気づいたときには爆発している――。

 

 こわばった笑顔で迎え撃つ。

 

「ど、どうかした? 優斗くん」

「おう。ほら、次の授業って移動教室だからさ、おまえ場所わからねーだろ?

 案内すっからさ、へへ、一緒にいこうぜ」

「あ、そ、そうなんだー。

 わかったー、今じゅんびするねー」

 

 なんてことだ。わざわざ親切にしてくれるなんて。

 うれしい。やっぱり優斗くんは優しい。


 いやいやだめだだめだだめだ。

 ヒナはへらへら笑いながら、自らの頬をぎゅ~~っとつねる。

 いたい、涙が出ちゃう。女の子だもの。 

 そんなのはいいとして。

 

 鞄から教科書とノート、筆記用具を取り出す。

 時間割によると美術らしい。

 

「いくぞ、優斗」

「ああ、待っててな、椋ちゃん」

 

 やばい、九条椋までやってきた。

 両手にイケメンだ。

 転校初日にして、学園の人気者を独占するアタクシってば、まぢ罪作りぃ~☆だ。

 

 なんとか妄想をしてごまかそうとしたけれど、だめだ。

 近くにイケメン力をビンビンと感じてしまうのだ。

 ヒナセンサーが制御できない。

 うちゅうのほうそくがみだれる。

 

 せっかくここまで来たのに。

 もう、だめなのか。

 また最初からなのか。

 そんなのは、そんなのはイヤだ。

 この機会を逃したら、もう二度と初日を越えられない気がする。


「ヒナさん……!」

 

 固唾を飲んでシュルツが見守る中。

 ヒナの視界が弾けた。

 

 見えた。

 暗闇の荒野に進むべき道が。


 その目は、そそくさと教室から出ようとしている彼女を捉えていた。

 ヒナは慌てて両手を重ねてイケメンズに頭を下げる。


「ごめんっ、優斗くん。

 わたし友達と一緒にいくねっ!」

「お、おー?」

 

 返事を待たず。

 ヒナは鞄からシュルツ(キーホルダー)を掴み、ポケットに押し込む。

 それから身を翻した。

 後ろから「なんだあいつ」と椋の怪訝そうなつぶやきが聞こえてくるけれど。

 

 そんなことよりも。


「りんこちゃーん」

「ひっ」

 

 背を丸めてこそこそと廊下を歩いていた彼女に、ヒナは微笑みかける。

 凜子はなぜか山道でクマに見つかったような顔をしていたが。


「い、一緒にいこうよ、美術室。

 案内してもらって、いい?」

「……う、うん、大丈夫です、けど」

「やったぁ、ありがとー、えへへ」

「……い、いきましょうか」

 

 こちらに微妙な距離を取っている凛子と並んで歩く。

 やはり友達はいい。

 彼女と一緒にいると、ホッとしてしまう。

 これが気の置けない友人、ということだろうか。


「わたし凛子ちゃんと友達になれて、よかったな」

「え゛っ……

 ……は、はい、そうですねー。

 は、はははー」

 

 彼女の笑顔を見て、ヒナも笑った。

 それはつかの間の勝利に酔いしれる戦士の笑みである。

  

 

 一歩間違えば死にかねない窮地を機転により切り抜けたヒナは、

 まさしく乙女ゲーの主人公たる資格に溢れているのだ――

 

 

 

 百地凛子;再再起不能(リタイア)

 


 To Be Continued...(ドドドドドドドドドドド)

 

  

 シュルツより一言(?)。

 

 生きろ……もう少しだ……

 あと半分で一日目が終わってセーブできるから……!

 ここまで来たんだ、生きてくれ……!

 頼む……ッ!

 

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