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恋をしたら死ぬとか、つらたんです  作者: イサギの人
第二章 ドッキドキ☆学園生活は恋の予感♡
19/103

17限目 友達を克服するので死にません

 前回のあらすじ:ヒナが死んだ。ヒナがいっぱい死んだ。

 

 ヒナは死に続けた。

 そりゃもう死んだ。

 

 その回数、なんと27回。

 

 シュルツはもはや廃人のように横たわって、

「あー……」とか「うー……」とかうめくだけの人形になってしまった。

 こわい。

 

 ヒナもまた、頭を抱えていた。

 難攻不落だ。陥落することのないコンスタンティノープルのようだ。

 強靭、無敵、最強の凜子だ。


 もちろんヒナとて、ただただ死に続けたわけではない。

 様々な対抗策を講じてはみたのだ。

 

 嫌われようとしてみた。

 逆に愛のある説教を受けた。

 ヒナは死んだ。


 完全に無視した。

 すると「スルーしないでよー」と笑いながら抱きつかれた。

 ヒナは死んだ。


 あからさまに避け続けた。

 すると辛そうな顔をされた。

 ヒナは死んだ。

 

 打開策などない。

 どこにもなかった。

 だが――

 

「でも……わたしは、負けません……」

 

 27回の死因とそれを防ぐための手段を書き綴りながら、ヒナは進む。

 不屈の精神力だ。

 

 一体なぜそんなことができるのか、とシュルツが問うと。

 ヒナはこう答えた。


「恋とは、振り返らないことです!」

 

 53万の恋愛力は、

 彼女自身に諦めることを許さないのだ。

 


 そしてヒナは再び乙女ゲーの世界に戻る。

 生きるために、そして死ぬために。


 長い旅路に挑む彼女は、映画アルマゲドンのブルース・ウィリスのようだった。

 

 

 

 ◆◆

 

 

 

 とはいえ。

 

 具体的な策があるわけではないので、やはり考え込んでしまう。

 ただのゲームならそのままにしておけば、時間は流れないけれど。

 このバーチャル乙女ゲーには制限時間があるようなものだ。

 

「わたし、世話焼きキャラに弱すぎると思います……」

 

 小声でうめく。

 結局、優しい子が最強なのだ。

 

 遠目から見ているなら、はちゃめちゃな子も好きだけど。

 つき合うならやっぱり、思いやりのある子だ。

 

 シュルツの前では元気でいたけれど。

 でも不安はやはり、ある。

 もしかしたら一生この世界に閉じこめられるのではないかと。

 ちょっと怖い気もする。


 校門、職員室をクリアーし、教室までやってきた。

 ここまでの道のりは慣れた。たぶん。

 問題はここからだ。

『乙女は辛いデス』の北緯38度線を踏み越えなければならない。


 いつものように凛子が後ろからやってくる。

 ここまでは平気だ。

 

 問題はこの先。

 凛子との受け答えだ。

 

「転校初日だけど、勉強についてこれそう?」


 そんな彼女の変わらぬ笑顔を見たら、涙がこぼれそうになる。

 可愛いすぎる。こんなの可愛さの暴力(物理)だ。

 もうどうしようもないのか。

 

 死んでもいいから、一度くらい思いっきり甘えたい。

 ヒナはそんなことを思ってしまう。

 でもだめだ。秘めないと。

 

 代わりにぽろりと不安が口から出た。


「えと……あのね、凛子ちゃん」

「うん?」

「わたし、もしかしたら好きかもしれない子がいて……」

「お、本当に? 初日からすごいね!」

 

 凛子はしっかりと食いついてきた。


 そういえばキャラクター説明にもあった。

 恋愛経験豊富な彼女は様々な場面で自分を助けてくれる、と。

 助けてほしい。本当に。

 心から思う。


 スタイルの良い凜子は背筋を正し、胸を張った。


「へへへ、困ったことがあったら、

 なんでもこの凛子さんに聞いてみて。

 恋愛のことだったらちょっとしたものだと思っているからさ」

「そうなんだ……凛子ちゃん、すごい」

「まーね。たっくさん恋をしてきたから。へへっ」

 

 えへんと笑う凜子。


 思いをぶちまけたいけれど、そんなことはできない。

 得意げな凛子の笑顔に、またクラッといきそうだ。

 しかし、今は好奇心が勝った。


 ヒナは友達たちと恋愛の話をすることはもう滅多にない。

 だから平均というのが、よくわからない。

 

 乙女ゲーやマンガではほとんどが一途な人ばかりだが、

 あんなのはきっと、創作上のフィクションだろう。

 実際はどの程度なのか……といっても、凛子もゲームのキャラクターなのは間違いないのだが。

 それはそれ、おいといて。

 

 自分はどうやらシュルツの言い分では少し気が多いほうらしい。

 豊富というと一体何人ぐらいとつき合っていたんだろう。

 

 ほぼ初対面ということも忘れ――ヒナ的にはもう出会ってから相当な時間が経っているからだ――質問してしまう。

 すると凛子は、頬をかきながら。


「あ、あたし?

 そうね、中学時代は……

 その、先輩も後輩も合わせて、合計八人とつき合ったからね!」

「え?」

 

 八人……?

 

 耳を疑ってしまう。

 思わず、ヒナは聞き返していた。

 

「……八人?」

「そ、そうよ。別にビッチってわけじゃないの。

 告白したし、されたことだってあるよ。

 そのときは結構本気のつもりだったんだけど、

 ただ、なんとなく相性が合わなかったりして、長続きしなくてね」

「……」

「本当の恋って難しいなって思って、今はちょっと休憩中だけどさ。

 ヒナちゃんにはあたしみたいにはなってほしくないなって。

 よけいなお節介だけどね、あはは」

 

 心配してくれている。

 それは嬉しい、けれども。


「八人って……八百人の間違いじゃないよね?」

「……へ?」

「あ、もしかして、同時に最高八人ってことかな?」

「いや、三年間で八人だし……

 ふ、二股とかしたことないけど……?」

「え?」

「え?」

 

 瞬き。

 お互い、言っていることがすれ違っている。

 

 ヒナは改めて問いかける。

 相手をバカにする意図などまるでない。

 あくまでも本気だ。


「たった八人、なの? 三年間で?」

「え? え?」

「それで豊富……なの? 本当に?」

「ちょ、ちょっと待ってよ、ヒナちゃん。

 誰と比べているのかわからないけどさ、

 別に数を自慢するならそりゃもっとすごい人だっていると思うよ?

 でもあたしは本気だったんだから。

 大体、ヒナちゃんはどうなの」

 

 軽く睨まれて。

 このゲームの主人公はうぶなキャラということになっているにも関わらず、ヒナは答えた。


「中学三年間では、誰ともつき合わなかった、かな」

「ほらー、もー。

 変な雑誌とかで聞きかじった知識はやめてよね。

 あたし、そんなに軽くないし」

「うん、ごめんね。

 でもわたし、小学生二年生までに、400人ぐらいとつき合ったよ」

「え?」


 ぽかん、と。

 凛子は口を開けていた。


「わたしもひとりひとり本気だったよ。

 期間は短かった……かもしれないけど」


 その彼女に気づかず、語るヒナ。


「みんなと真剣に結婚したかったけど、でも子供だったからダメだったんだ。

 法律とか条例もあったし。

 当時は押さえがきかなかったから、二股が悪いことだとわからなくて、

 最高三十股ぐらいして、分単位でデートの約束とかしていたんだよね」

「……8才で?」

「バレンタインデーはすっごく大変だったなあ。

 貯めてたお年玉も全部使って、チョコレート500個ぐらい作っちゃったんだ」

「……業者?」

「ううん、ただの小学生だったけど……」


 小声でつぶやき、眉をひそめる凛子。

 なんだろう。彼女の様子がおかしい。


 ああそうか、とヒナは気づく。

 ついつい自分のことばかり話してしまった。これはいけない。

 そんなことよりも、凜子のほうが大切だ。

 

 ヒナは凜子に微笑みかける。


「凛子ちゃんすっごく綺麗だし可愛いんだから、

 恋をしないなんてもったいないと思うなあ、えへへ」

「あ、はい」

「八人なんかじゃ運命の人は見つからないよ。

 もっともっといっぱい恋しなくっちゃ」

「そうですね」

「凛子ちゃんならきっと素敵な人がいっぱい見つかるよ。

 あ、なんだったらわたしが手伝う?

 一日中ずっと街で名刺配って歩いたら、1000人ぐらいすぐ集められると思うよ。

 凛子ちゃんはその中でいいなって思う人を選んでくれれば」

「いえ結構です」

 

 凛子はなぜか表情を失ったような顔で、こちらに手を挙げた。


「えと、じゃあもう少しで授業が始まるので」

「あ、もうそんな時間なんだ」

「また後でにしましょう、藤井さん」

「うん、じゃあねー……って」

 

 後ろの席に座り直す彼女を見て、ヒナは首を傾げた。

 口の中でつぶやく。


「……藤井、さん……?」

 

 先ほどまであんなに感じていた凛子からの親愛の情が、

 今ではまるでジュラ紀の化石のように硬く、遥か遠かった。

 

  

 ――かくして、

 ついにヒナは一時間目後の休み時間を生き延びた。

  

 

 百地凛子;再起不能(リタイア)

 


 

 To Be Continued...(ドドドドド)

 

 

 シュルツより一言:おまえは……自分が『ビッチ』だと気づいていない……もっともドス黒い『ビッチ』だ……

 

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