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恋をしたら死ぬとか、つらたんです  作者: イサギの人
第二章 ドッキドキ☆学園生活は恋の予感♡
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15限目 回答を間違えると即死します

 前回のあらすじ:ヒナ死亡。

 

 再び校門前からのスタートである。

 転校初日のはずなのに、デジャヴがすごい。

 

「もしかしてわたし、この世界を何度も繰り返している……?」


 そんなことをつぶやいてみると、

 鞄にくくりつけられた首吊り死体のようなシュルツがうめく。


「そういうのいいから、マジでいらないから……」

「心機一転、新しい気持ちで挑戦しようかと思いまして」

「せっかく慣れてきたのに、後戻りするようなことをしてどうするんだぁぁ!」

 

 シュルツが叫ぶ。

 ヒナは確かにと思ってうなずいた。


「では、行ってきますね」

「いってらっしゃい……」

 

 決して“逝ってらっしゃい”ではない。

 でもすぐに帰ってくるんだろうな、とシュルツは思ってしまった。

 

 

 

 ◆◆

 

 

 

 実際すぐに帰ってきたけれど、まあそれは置いといて。

 何度か死につつも、教室までたどり着いたヒナ。

 

 自己紹介を終えて席に戻ると、

 案の定、後ろの席には凛子が待ち構えていた。

 

 一言二言言葉を交わすと、彼女はニッと笑う。


「よろしくね、ヒナちゃん」

「……う、うん、凛子さん」

 

 怯えながら笑い返す。

 凛子の美女っぷりたるや、同じ人間とは思えない。

 

 おめめぱっちり、お化粧ばっちり、

 唇つやつやぷるぷるの、髪の毛ふわふわぴかぴかさんだ。


 その上で、輝かんばかりの太陽のような笑顔である。

 なんだこの子、なんでそんなイイ顔で笑うんだ。

 

 同性のヒナでも、わたしに惚れているんじゃないのか、と勘違いしてしまいそうになる。

 ファッキンキュート(くそかわいい)、だ。

 

 ヒナ自身、学校生活では目立たない生徒のため、

 あまりスクールカーストなどには関わり合いがなかったが、

 それでも凛子のような少女と言葉を交わしていると、

 ただそれだけで、なんだか誇らしいような気分になってくる。


 これが美女の魔力というものなのだろうか。

 恐ろしい。美女恐ろしい。

 

 と、リストバンドの数値は50万の前後を行き来していたのだけれど。

 まだ耐えられた。


 ……このときまでは、耐えられたのだ。

 

 

 

 授業が始まる。

 どうやら、その内容は実際に再現されたりはしないようだ。

 

 ヒナは高校二年生で、ゲーム中の主人公も二年生だが、

 中にはとっくに学校を卒業した人や、あるいはまだ高校生のカリキュラムを学んでいない子もプレイするのだ。

 その人たちに合わせた配慮なのだろう。

 

 というわけで、授業(と思しきもの)は、まるで早送りのように行なわれた。

 パッ、パッ、と場面が切り替わってゆく。

 それとともに、時計の上の数字も変動していった。

 10分、20分、30分……とあっという間に経過してゆく。


「わー」

 

 なんて便利なスキップ機能だろう。

 勉学の内容はまったく身につかないが、現実世界にもほしい。

 

 そして、あっという間に休み時間だ。

 ふぅ、と息をつく。


 この休み時間もどうやら10分まるまる与えられるわけではなく、

 イベントとしてのワンシーンのようだ。

 

 実際に普通の人がプレイしていれば、

 初日ももしかしたら1時間かからず終わるのかもしれない。

 自分は一体今、どれくらいの時間この世界に閉じ込めれているのだろう。

 体感時間で言えば、すでに一週間(168時間)ぐらいはプレイしている気がする。



 と、一時間目が終わってからの休み時間。

 ひょっこり、と後ろから凛子が顔を出してきた。


「どう? ヒナちゃん」

「はふん」

 

 変な吐息が漏れた。

 おそるおそる振り返る。

 顔が近いし、すごくイイ香りがする。


「転校初日だけど、勉強についてこれそう?

 学校によっては授業の進み方にずいぶんと違いがあるらしいじゃない?」

「え、あ、う」

 

 言葉に詰まる。

 そんなことまで心配してくれるなんて。

 なんだろうこの子、高潔で慈愛に満ちた聖女か。

 (セイント)凛子か。

 

 この質問は、本来のゲームなら選択肢が出てくるものだろう。

 だが、このバーチャル乙女ゲー世界ではそんなものはない。

 自分で答えなければならないのだ。

 恥ずかしいし、難しい。


 どう答えるのが正解なのか……と、考える。


 凛子はお助けキャラのはずだ。

 きっとこれから先、誰かと仲を深めるためにも、彼女は必要になるだろう。

 思わぬ情報をくれたり、間を取り持ってくれたり。

 親友キャラっていうのは、そういうものだ。

 仲良くすればするだけ、見返りがある。

 

 ならばこの場合は……


「う、うん、この学校のほうが、ちょっと進んでいるみたい。

 ちょっと大変だけど、頑張らなきゃ」

「あ、そうなんだ。あたし転校ってしたことないからわからなくて。

 でもわからないことがあったら、なんでも聞いてね」

 

 ニコッ。

 

 お、おう……

 それはまるでアンデッドを浄化する光のようだった。

 網膜に光を浴びたヒナの脳が一瞬で焼きつく。

 その心臓に、恋という名の釘が突き刺さった。

 

 こうかは ばつぐん だ!


 ヒナはころりと倒れる。 

 その小さな体は、机をなぎ倒しながら、轟音を立てた。

 

 なにが起きたかわからず。

 しかし凛子の笑顔は徐々に凍りついてゆく。

 

「……ヒナ、ちゃん?」

 

 凛子は確かにお助けキャラだが。

 今その彼女は、ヒナの死を手助けしたようだった……

 

 

 

 ◆◆

 

 

 

 ワンモア、である。


 もちろん初日が終わるまでセーブができないので、

 もう一度最初からここまでやり直してきた。

 優斗、椋、樹は強敵だった。


 再び凛子が後ろから話しかけてくる。


「転校初日だけど、勉強についてこれそう?

 学校によっては授業の進み方にずいぶんと違いがあるらしいじゃない?」


 今度はなんて答えるか、あらかじめ決めておいた。

 それに対する答えもばっちりと想像しておいた。

 イメージトレーニング済み、だ。


「べ、別に全然平気だよ。

 わたし、前の学校では結構勉強得意なほうだったんだもの」

 

 そう胸を張ってみると。

 どうせ「すごーい」とか言うんだろう、と。

 ヒナは薄めを開けて凛子の様子を伺う。


 凛子はきらきらとした憧れの眼差しでこちらを見ていた。


 うっ……


「えー、すごーい! ヒナちゃんいいなあ。

 あたしなんて授業についていくので精一杯なのに」

 

 言葉の内容は、そりゃあもう、

 ほとんど一致していたけれど……けれど……


 

 古来から『視線には魔が宿る』というひとつの考え方があった。

『邪視』の民間伝承は、世界各地に伝わっている。


 中東、地中海沿岸、北ヨーロッパ、そしてアメリカ大陸……

 だが今ここにそれを体現している少女がいたのだ。

 

 視線を浴びてヒナはゆっくりと倒れていった。

 たったの一撃だ。


「……え? ヒナ、ちゃん?」

 

 ――百地凛子は目で殺す。

 

 

 

 ◆◆

 

 


 再度。

 

 諦めない限り、戦いは続く。

 残酷だが、救いもあるこの世界の掟だ。

 

「転校初日だけど、勉強についてこれそう?

 学校によっては授業の進み方にずいぶんと違いがあるらしいじゃない?」


 凛子、三度目のアタックだ。

 ヒナはなるべく目を合わせないように、両手を頭の上に当てた。


「そうにゃの☆ とってもとっても大変にゃり☆」

 

 これだけは使いたくなかったが、仕方ない。

 ヒナはビースト(ねこみみ)モードの封印を解く。

 

 ここまでしなければ凛子の壁は突破できないだろう。

 先のことなどまるで考えていない、捨て身の覚悟であった。

 

 だが――

 

「えー、なにそれヒナちゃん、かわいいー」

「えっ」

 

 くすくす笑いながら。

 まるでおふざけをした姪っ子を見るような顔で。

 悪意など一ミリもなく。

 善性の塊のような彼女は微笑んでいた。

 

 なんてこったい。


「もういっかい、もういっかいやってよ、ヒナちゃん」

「えっ、ええっ」

「にゃのー☆ って。ヒナちゃんもしかして結構面白いキャラ?」

「あ、あ、あ、あ、あああ……」

 

 まさかいじられるとは。

 てっきりスルーされると思っていたのに。

  

 親友キャラだからなのか?

 親友キャラだから、ツッコミ力が高いのか?

 

 やばい。

 ヒナの顔がどんどん赤くなってゆく。

 

 だって『かわいい』って。

 あの凛子が『かわいい』って。

 

 かわいいって。

 かわいいなんてことを言ったんだ。

 

 なんでもオッケーなのか。

 味方だからなんでも受け止めてくれるのか……!

 

 耐えられるはずがない。

 ニコニコと微笑む凛子の前で。


「あうあうあうあうああああああ」

 

 ヒナは頭を抱えながら立ち上がった。

 情動が抑えられない。このままでは爆発する。


「えっ、ひ、ヒナちゃん?」

「さわらないで!」


 凛子の手を払いのけるけれど。

 彼女は心配することを決してやめなかった。


「どうしたの!?」

「やーめーてー!」

 

 限界が来て。 

 次の瞬間、ヒナは吐血した。

 

 体液を全てブチ撒けるかのように。

 派手に血をまき散らしながら、ヒナは後ろ向きにひっくり返る。


 その際に後頭部を強く打ち付け、壁に背を擦りつけながらブリッジをするかのような奇妙な態勢で止まった。

 それ以上、ぴくりとも動かない。


 彼女の小鳥のようだった目は瞳孔が開き、虚無を見つめていた。

 確実な――絶命だ。

 

 

 

「……え?」

 

 教室内が騒然とする中。

 その血を間近でぶっかけられた凛子は、

 髪の毛から真っ赤な液体を滴らせながら、しばらく途方に暮れていたのだった……

 

 

 

 二十六回目。

 死因:優斗に頭を撫でられて。(Super Over Kill!)

 

 二十七回目。

 死因:優斗に体調を心配されて。


 二十八回目。

 死因:凛子の優しい笑顔を見て。

 

 二十九回目。

 死因:樹に肩を触られて。


 三十回目。

 死因:凛子の邪視をその身に浴びて。

 

 三十一回目。

 死因:樹に背中をさすられて。(Over Kill!)


 三十二回目。

 死因:凛子に『かわいい』と言われ。(Over Kill!)

 

 シュルツより一言:凛子ちゃんかわいそう。

 

 

 作者より一言。

 14話にて、『次回、主人公が死ぬ』などという、

 物語的にも大変重要なシナリオを安易にネタバレをしてしまい、

 読者の方の新鮮な驚きと喜びを奪ってしまったことについて、

 誠に申し訳ございませんでした。

 

 大変反省しております。

 これからも乙女つらたんをよろしくお願いします。

 あと、次回もヒナは死にます。

 

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