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恋をしたら死ぬとか、つらたんです  作者: イサギの人
第二章 ドッキドキ☆学園生活は恋の予感♡
15/103

13限目 友達さえいれば死にません

 前回のあらすじ:ヒナ死亡。

 

「うー、教室の外で待っているのは、緊張しますね……」

 

 なんてヒナがつぶやくから、思わず突っ込んでしまうシュルツ。


「キミにも緊張とか、そういう概念があったんだ……」

「なにを言っているんですか、シュルツさん。

 わたしただの平凡な女子高生なんですからね」

「この時代とボクのいた時代では、平凡という言葉の意味が違うのかもしれない」

 

 そんなことを口走るが、ヒナは聞いていない。

 どうやら本当に緊張しているようだ。

 

 えへん、と一生懸命咳払いをしていたりする。

 まるで人間のようだ、とかシュルツは思っていた。

 

 

 それはいいとして。

 中から「どうぞ」と樹の声がした。

 

 手のひらに『人』という字を三回書いて、ヒナは飲み込む。

 これから三人の人間を酷らしく殺してやる、という呪いではないようだ。

 

 ヒナは目を瞑りながらドアを開く。

 まさにシュルツとしても緊張の一瞬である。

 一体なにが起きるのか、まるで予想がつかない。

 直後に血を噴き出しながらのたうちまわっていてもおかしくはないが……


 と、ヒナはうっすらと目を開いていった……

 

「……えっと」

 

 その目を開いても、

 全身から体液をまき散らしながら爆発四散するということはなかった。

 

 とりあえず一命を取り留めたようだ。

 シュルツは胸を撫で下ろす。

 

 教室に入るだけでこれほど緊張する乙女ゲーが、

 これまでの人類史上に存在していたものだろうか……と思う。

 

 シュルツは脱力をしながら、なりゆきを見守ることにした。

 

  

「藤井ヒナです。

 どうぞみなさん、よろしくお願いします」

 

 教壇に立ち、ヒナは頭を下げた。

 再び顔をあげてクラスを見回す。

 クラスメイトは男子が16名、女子が15名。

 自分も含めて、32名だ。


 服装はともかく、髪型はかなり自由で、

 髪の色も全員バラバラである。

 この辺り、かなりゲームらしい。


 やっぱり誰も知り合いがいない、ということはなかった。

 

「おーっすヒナ」

 

 優斗は心から嬉しそうにこちらに手を振ってくれている。

 その視線を手で遮ってなるべく見ないようにする。

 失礼極まりない行為だが、命には変えられない。


「……ふん」


 椋は興味なさそうにしてくれていた。

 ヒナだけを殺す機械(キラーマシンゆうと)に比べると、椋の協力的な態度はほんとうにありがたい。

 むしろ今では椋のほうが癒し系に思えてしまう。

 あんまり傾倒しすぎてしまうと、今度は椋が殺意の波動を撒き散らすようになるので、バランスが大事だ。

 

 しかし、明らかに他のモブキャラと違った外見を持つ生徒もちらほらと見受けられた。

 どうやら、その他にも何人か、攻略キャラがいるようだ。


 やっぱり……

 同じクラスか……


「ま、お約束だからね……」

 

 シュルツが諦め半分に告げてくる。

 

 本当なら嬉しいはずなのに。

 こういうときめくイベントすら、自分を殺害するための巧妙な罠にしか見えなくなってきた。

 この学園、旅行先でちびっ子探偵や某名探偵の三代目と出会うよりも死亡率が高いのではないだろうか。

 

 つらたん、だ。

 

 ヒナですら気が重くなってくる。

 せっかくここまで来たんだから死にたくないなあ……と思う。

 

「じゃあ藤井さん。君の席はそこね」

「あ、はい」

 

 鞄を抱えながらとことこと向かうのは、廊下側の端。前から四番目の席だ。

 少し、ほっとした。

 なぜなら、優斗からずいぶんと離れているからだ。

 

 もしこれで優斗が後ろの席だったら、

 授業中、常に背中から刺される(バックスタブの)可能性に怯えなければならない。

 本当に良かった。

 

 それに身を守るにしても、壁に面しているから死角がひとつ減ってくれるのがありがたい。

 どう考えても乙女ゲーをプレイする乙女の思考ではない

 

 と、席についた途端、

 ちょいちょい、と後ろからつつかれた。

 

「え?」

 

 振り返ると、ニッコリという笑顔。

 ふんわりと髪に軽くパーマを当てた、綺麗な少女がそこにいた。


「よろしくね、藤井さん」


 滑舌が良いはっきりとした声だ。

 同い年のはずだが、やけに大人びて見えるのは彼女の雰囲気だろう。

 

「え、あ、はい。えと……」

「あたしは百地ももち凛子りんこ。リンコって呼んでよ」


 初対面なのに彼女は馴れ馴れしく手を差し出してきた。

 けれども不思議と、悪い気はしなかった。

 そんな雰囲気が、彼女にはある。

 こんな綺麗な子に親しくされたら、誰だって嬉しいだろう。

 

「あ、じゃあわたしも、ヒナ、で」

「あっは、ノリいいね。

 あたしたち、もう友達みたいだね」

 

 目を細めて笑う。

 嫌みのない、さっぱりとした笑顔だった。

 ……すごい、かわいい。

 

 彼女の胸元にも、ウィンドウ。

 

『百地凛子:あなたのクラスメイトであり、ともに学園生活を送る親友です。

 恋愛経験豊富な彼女は、様々な場面でうぶなあなたを助けてくれることでしょう』

 

 凛子さん。

 その名の通り、凛とした女性だ。

 

 なるほど。

 どうやら彼女はヒナの味方のようだ。

 

 胸の中に感動が生まれる。

 ……味方!


 ついに登場したのだ。

 味方が。


「隣の席だし、きょうからよろしくね」

「う、うん、よろしくです!」 

 

 何度も何度もうなずく。

 ああ、かわいい。嬉しい。

 

 ヒナの恋愛を助けてくれる、天使のような存在だ。

 乙女ゲーお馴染みの、親友ポジションの女の子だ。


「やったっ……」

 

 ヒナは誰にも見られないように、机の下で小さく拳を握った。

 ひとりでは叶わないことだって、ふたりならきっとできる。


 もうヒナはひとりじゃない。(今までシュルツがいたけど)

 きっとここから、ヒナの反撃が始まるのだ。

 

 今まではつらたん学園生活だったかもしれないけれど。

 これからは、ドキドキ☆恋の学園生活だ。


 うれしい、たのしい、だいすき!


 自分が恋愛せずに、

 相手を惚れさせるための、本当の戦いがようやく始まるのだ!

  

 

 

 シュルツより一言:いやなよかんしかしない……。

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