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恋をしたら死ぬとか、つらたんです  作者: イサギの人
第一章 この門をくぐるものは、一切の希望を捨てよ
11/103

10限目 頭がおかしくなって死にます

 

 葬式シーンは省略して……

 再び乙女ゲーのスタート地点から、である。

 

 そろそろ1ー1から1ー2に進みたい。

 永遠に優斗に挨拶をされ続けるのは、もう……

 

 ……いや、それも幸せか。

 だめだだめだ。

 

「絶対に優斗くんなんかに負けないんだからねっ」

 

 ヒナは口に出して決意する。

 なんとなくシュルツは「あ、もうだめだわ」とか思ってしまう。

 

 しかしヒナには秘策があったのだ。

 ヒナは一回死ぬごとに反省し、成長しているのだ。


「おいおい、ヒナ、ひとりで勝手にいくなって」

 

 すると、17killを叩き出した、赤髪の撃墜王の登場だ。

 堂々たるその姿には、後光すら指しているように見える。

 

 ヒナは振り返って、ぺろりと小さく舌を出す。


「ごっめーん☆ 待ちきれなくって☆」

「ったく、しょうがねーなー」

「えへっ、ごめんなさいにゃん☆」

 

 丸めた両手を頭の上に乗せて、ヒナは小さく頭を傾げた。

 シュルツは思う。


「死にすぎて頭がおかしくなった……?」

「失礼ですにゃん」

「だ、だ、大丈夫だよ。きっと帰れるよボクたちは。

 ヤヤヤヤケになっちゃだめだよ。い、生きよう!」

「だから違いますって」

 

 ヒナは小声でシュルツに説明する。


「これぐらいノリノリなら、

 たぶん、自分自身の行動が恥ずかしすぎて、

 相手を好きになっている暇ってないと思うんですよね」

「お、おう……?」

 

 なにを言っているかわからない。

 もうだめだ。

 しかし、ヒナは堂々たる態度。


「わたしには勝算があるんです」

 

 優斗はそんなヒナに優しげな笑みを浮かべている。


「ヒナは相変わらずだな、ははは」

「それでいいのか少年……

 キミの幼なじみがにゃんとか言い出してんだぞ……

 全力で頭ひっぱたくか病院に連れていけよ……」

 

 シュルツのツッコミはもちろん優斗には聞こえない。

 

「ていうか、さっきうまくいきかけたのに、

 なんでわざわざ後戻りするようなことを」

「だってもうちょっと先にいったら、

 もったいなくてチャレンジできなくなっちゃうじゃないですか」

「ああまあそうか……」

 

 セーブは何回でもできるけれど、セーブできるポイントは決まっている。

 その日の終わりだけなのだ。

 

「さ、なにしてんだよ、行こうぜ? ヒナ」

 

 優斗に呼ばれてヒナはにっこりと返事する。


「はーいゆうにゃん☆ ヒナちん今いくにゃん☆」

「うう、うう……ボクが、ボクさえ耐えれば……」

 

 偏頭痛を堪えるように顔を歪めるシュルツ。

 黒猫のぬいぐるみが苦悶の表情だ。

 

 ヒナはたったったっと小走りで優斗に追いつき、彼についていく。

 すると椋がこちらにやってくるではないか。


「そこのお前……見ない顔だな、転校生か?」

「よう、椋ちゃん」

 

 サッと優斗が前に出て、彼に手を挙げて挨拶する。

 自然にかばってくれているのだ。

 優しすぎるやばい。

 ってやばいやばい、演技しなければ。


「ヒナちんは、藤井ヒナって言うにゃり~☆

 にゃんにゃん星からやってきたプリンセスなんだにゃん☆」


 椋はいぶかしげだ。


「ふむ……ヒナ、か。優斗の友達か?」

「ああ、幼なじみでな。きょうからうちの学校に転校してきたんだよ。

 だから、とりあえず校内を案内しようと思ってさ」

「よろしくおねがいしますにゃん☆ にゃふ☆」

「なるほど。事情はわかった。そういうことなら僕も付き合おう」

 

 ヒナのキャラクターを完全スルーである。

 なんだろうこれ。寂しい。

 まったく気にせず会話を進めていくふたりだ。

 

 椋なら普通、ヒナのような口調を聞いたら激烈に機嫌が悪くなりそうなものだが、

 そんなところまで徹底してしまうと、乙女ゲーとしての楽しみが削がれてしまうのだろう。

 本当にアレな子が、椋を攻略できなくなってしまうからだ。

 ゲームとしての楽しみを優先させた結果の仕様か。


 なんだか、とっても悪いことをしている気分になってきた。

 

「ヒナちんといったか。こっちだ」

「は、はい」


 大真面目に呼ばれちゃったよ。

 思わず素に戻ってしまう。

 そうなったらもう、二度とにゃんにゃん言う気がなくなってしまった。


「どうした? 早く来い、ヒナちん」

「ううう」

 

 どうやらもう、ヒナの名前を「ヒナちん」で覚えてしまったようだ。

 手遅れだ。


 だめだ、このやり方はよくない。

 失敗してしまった。


「あ、あの、シュルツさん……」

「なにかなヒナちん」

「ごめんなさい。わたしが悪かったので、リセットしてもらえませんか。

 これ以上続ける勇気がちょっと、その……」

「ええー? せっかくここまで進んだのににゃん☆

 シュルツちん、ぷんぷん丸にゃりよ~☆」

「まじでごめんなさい」

 

 この作戦はよくない。

 ていうか、実際、罪悪感でメーターが急上昇している。

 なにもしていないのにドキドキしているから、99万を越えそうになっていた。

 

「恋と悔いは一文字違いなだけあって、

 とてもよく似ていますね……」

 

 別にうまくもなかったしヒナは死んだ。

 優斗の流した涙は、おそらく世界で一番もったいない涙だとシュルツは思った。

 

 ゲームは人に喜びを与えるものであるはずなのに

 どうしてこうなっちゃんだろう。

  

 ゆめもきぼうもないせかいだ……

 

 

 第一章 この門をくぐるものは、一切の希望を捨てよ End

 

 

 

 二十回目。

 死因:罪悪感。

 

 シュルツより一言:乙女ゲーの楽しみ方は人それぞれ。自分にあったやり方で楽しんでくださいにゃり~☆ 合わない子は死んじゃえにゃん☆

 

 

 ついに明日から、新章『永遠よりも長い一日目』編、開始です。

 

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