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第8話 コーヒー講座

 

「それでね、高く飛べた時はね、こう…翼が生えたように」

「その言葉を聴くのは5回目だぞ?」

「あれ?そうだっけ?あ、ハトくんもハイジャンやろうよ!私が見る限り、ハト君にもセンスはあるよ」

「陸上は勘弁してくれ。それよりも次はどっちだ?」

「ん~、こっち」


 北条の指さす方向へ歩きだし、再び北条のハイジャン講座が始まる。

 しかし、こいつの言う言葉はほとんどが同じだ。あと、しゅぱ!!!とかぐぃーーん!とか擬音が非常に多いため、理解に苦しむ。

 天才タイプっていうのはこういうものなんだろうな…。


「あ、そうだ。私、ハトくんに謝らないといけないんだった」

「なんだ?この一日で北条から謝られなければならない事は何個かあったが」

「え!?そんな私、失礼なことしてるの?」

「いや、冗談だ。で?なに?」

「私、ハトくんを違う人と勘違いしてた」

「あぁ、最初のあれか。一彦だろ?」

「そうそう。鳰くんは陸上やってたら絶対聞く名前だしねぇ。私も実は5000mのレースを見に行ってたりしたんだよね、友達がファンなんだ。鳰くんの」

「ちょっと待て。さっきから鳰、鳰って俺とあいつは兄弟だぞ。なんで俺の事はハトなんだ」

「ん?あ、そっか。ハト君も鳰くんかぁ。……あれ、なんだかややこしい…、鳰くんはハトくん?ハト君はハト君?鳰くんは……まぁハト君はハト君だよね。うん!」

「……はぁ、どうでもいいや」

「あははは。でも、不思議だね?」

「なにが」

「だって鳰くんもハト君も同じ学年でしょ?」

「双子だからな」

「…………そ、そうだよね~。当たり前だよね」


 あはははは、と笑いながら話を進めようとしているが、こいつ…気が付いて無かったな。

 俺と一彦は二卵性双生児だから、外見は一卵性ほど似ているわけではない。

 どちらかと言えば、俺は母親寄りだし、一彦は父親寄りだ。

 しかし、大抵の人は双子だと気が付くし、普通はそうだろう。


「でも、似て」

「二卵性双生児だからな」

「ソーセージ?」

「双子ってことだ」

「ふ~ん。あ、私の家、ここなんだ」

「あっそ。んじゃ俺はここで」

「あ、待ってよ。何かお茶でも飲んでいかないの?」

「別に。そんな仲でもないし」

「むぅ~、ハトくんは意外と奥手なのかな」

「オープンすぎるんだろ?お前が」

「アハハハ、よく言われる。でも、ほら家あがってよ。大丈夫!お母さんはまだ帰ってこないし」


 …今、こいつなんていった?

 お母さんはまだ帰ってこない?つまり、この家には誰も居ないということなのか?

 いや、もしかしたら兄弟とかがいるからもしれない。

 俺は何故か変な期待のような不安のようなものが心の中に渦巻いていたが、北条に引っ張られるかのように彼女の後を着いていく。


 北条の家は団地だ。

 それも結構年季の入った感じの団地で、汚れが目立つ。

 まぁ俺としてはこういう使い古された感じが良いと感じるからどうでもいいのだけど。


 北条はドアの前に立つと「ちょっとまってね~」と言いながらカバンの中を漁り、鍵を取り出す。

 そして、鍵を開けると、ギィィィーと少々力がいるようなドアの音と共に開く。


「古っちぃけど結構良い部屋なんだよ?」

「そんなフォローいらないって。家には誰も居ないのか?」

「うん。あ、靴は脱いでね」

「俺は欧米人か」


 靴を脱いで、差し出されたスリッパに足を通し、彼女の後を追う。

 短い廊下を歩き、リビングに通されると部屋の中には洗濯物が散乱していた。


「北条…、こういう物は隠しておいた方がいいぞ?」

「あ…、お母さん一度帰ってきたのかな」

「俺の言ったことが理解できたのか?」

「大丈夫!下着とかはちゃんと直してくれてるから!」

「そうじゃないって…」


 あの服の山の中に見えるピンク色の三角形のは下着じゃないのか?とは口が裂けても言えない…。

 北条は慣れない手つきでコーヒーを作ろうとしているが、見ているこっちが怖くなるような雰囲気を醸し出している。

 いや、ここは彼女に問いたい。たかがコーヒーを作るだけなのになんでこんなに緊張感が溢れているんだ?と。

 俺はその緊張感に負けてしまい、手を出してしまった。


「俺がやる。コーヒーだろ?」

「あ、うん。私、こういうの作ったこと無いから分からないんだよね。変な三角みたいなの必要なんだよね?」

「ペーパーだろ。どこにあるか知ってるのか?」

「ん~っと、ここかな。あった!」

「んじゃ、サーバーは?」

「サーバー?………そーれ!」


 北条は何を思ったのか、テニスのサーブを打つマネをする。

 ウケを狙ったのなら0点だし、マジならドン引きレベルだ。

 ボールを打つところまでして、俺の冷たい視線を感じたのか、苦笑いをしながら棚の中を探し出す。

 ウケ狙いだったのか…。


「やかんみたいな蓋の無いやつだ。見た事あるだろ?」

「あ~、これか。これサーバーっていうんだね」

「まぁな。ドリッパーは…ここか」

「それは?」

「ドリッパー。このペーパーを折って、ドリッパーにピッタリ付けて、サーバーの上に置く」

「おぉぉー、お母さんがやってるのと同じだ!凄いねぇ、ハトくん」

「これぐらいできるようになれよ…。2杯分でいいんだよな?」

「うん!」

「量はこれぐらいか…。あとはゆっくりとお湯を注いで、少し蒸らす」

「蒸らすのはなんで?」

「さぁ?よくは知らんがこっちの方が美味しくなる」

「へぇ~」

「蒸らした後は、中心からゆっくりとらせん状に注いでいけば終わりだ」


 2人分のコーヒーを作り終えたあと、北条が出してきたコップに注いでいく。

 綺麗に2つに分け終えると北条は、コップを持って、テーブルの方へと持っていく。

 そして、テーブルに置くと、彼女の前の椅子を指差した。


「美味しくないかもしれないけど、どーぞ」

「それは淹れた奴の言う事だ」

「どーぞ」

「はぁ、いただきます」


 ダメだ…こいつと一緒にいると北条のペースに飲まれる…。

 一彦と同じ現象が起きてしまう…。


 俺は大きくため息を吐きながら、自分で淹れたコーヒーの良い出来に心を落ち着かせた。



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