第7話 かわいい北条さん?
「ふぉ、ふぉぃいいい!!」
「あ?」
走高跳の用具の片付けを手伝わされた俺は、なぜか北条と一緒にグラウンドにあるベンチに座っていた。
北条は俺の横で先ほど餌として渡したサンドウィッチを口いっぱいに頬張っている。
どうして、ベンチに座っているかというと…今から10分前のことだ。
走り高跳びの用具を片付け終わった俺たちは陸上部の部員たちが集まっていた場所に帰ってきた。
しかし、下校時間はとうの昔に過ぎており、部員の影すらない。
そんな状態でも俺は特に気にせずに北条を置いて帰ろうとしたのだが、「私を置いて行くの?悪者になっちゃうよ?」と脅してきたのだ。
そして、極め付けには「帰り道に変質者に襲われたらどうするの?」と現実味の薄そうな事まで言う始末。
まぁ変質者に襲われるとかは確率的に低いが…そんなことを言われてしまっては置いていけない。
俺は北条が部室で着替えるのを外で待って、下校時間がすぎてるのに学校に残っていることで一緒に教師に怒られ…そして、お腹が空いたから動けないと言って、今に至る。
「黙って食え。もしくは、飲み込んでから話せ」
北条は仮にも女の子だ。
だから、もっと可愛く食べればいいのに…今のこいつはハムスターか。
俺の発言を聴いて、口いっぱいに入れていたサンドウィッチを飲み込む。
「う、うっ!?」
「はぁぁ…喉つまらすなよ…飲み物は持ってないのか?」
頭を激しく上下に振る。
こいつ、やっぱりバカだろ…。
俺はカバンの中からペットボトルを取り出し、蓋を開けて、北条に差し出すと奪い取り、勢いよく飲んで行く。
「ふぃぃ〜、死ぬかと思ったぁぁ…」
「お前、落ち着いて食べなさいってよく言われるだろ」
「え?なんでわかったの?ハトくんエスパー?」
「そうだけど?」
「えぇ?!ホントなの!私、初めて超能力者と出会ったかも」
「お前、バカにされてる事わかれよ…」
「ん?」
「いや、なんでもない。落ち着いてさっさと食え」
「むっ、ちょっと難しい事を言うね」
「はぁぁぁ~…お前、家は?」
「あむ、んごごむごう」
「あぁ~わかった。無理に話そうとするな。口の中の物を処理しろ」
「むぐ」
ダメだ…こいつは…北条は確実に一彦以上の逸材だ。
おそらく高く飛ぶために頭のねじが数本足りないのだろう。
俺の横でモゴモゴとサンドウィッチを食べる北条を見ながらため息を吐く。
そして、やっとサンドウィッチを食べ終わった北条はスカートの上に零れたパンの欠片を払い、立ち上がる。
「うん!元気一杯。ありがとうね、ハトくん」
「あいよ。で?お前の家どっち?」
「ん~?別にいいよ?1人で帰られるし」
「あっそ。んじゃ俺はここで」
「いやいやいや、そこは引いちゃだめな場所だよ」
「なんで?」
「なんでって…こんな夜道を一人で帰ってたら…私ってこんな可愛い女の…かわ…可愛いって…」
北条は急に頬を赤らめて、頬に手を当てる。
ダメだ、こいつは一彦と比べては一彦に失礼になるレベルの頭の残念な子だ。
というか、面倒くさい…。とてつもなく面倒くさい。
「可愛いお前はどこに家があるんだよ」
「かわ…かわ…」
「可愛くない北条さんの家はどこですか?」
「可愛くないは酷いと思う。うん」
「お前、鬱陶しいな…。さっさと行くぞ」
「鬱陶しいって酷いよ!あ~待ってよ、ハトくん」
いつまで経っても埒があかないため、俺は北条を置いて、校門の方へと歩き出す。
すると、北条は慌てて俺の横まで走ってくると、そこから意味も分からない話を淡々と話し続けた。