第3話 筆談?
昼休みが終わり、3人一緒に教室へと戻る。
「さてっと、放課後までひと眠りするか」
「カズちゃん!」
「冗談、冗談だっての。んじゃハル、またな」
「ハルちゃん、いつもお弁当ありがとうね」
一彦たちは俺とはクラスが違う。
奥にある2組の方へと歩いていき、俺は教室の中に入る。
教室の中は、今日最初の休み時間から何も変わっていない。
ほとんどのクラスメイトが北条湊の机に集まり、質問タイムが行われている。
もちろん、彼女の横の席である俺の席はクラスメイトが座っており、俺のことなんて一切気にせずに北条湊に話かけている。
まぁ今日ばっかりは仕方がないか…。
陸上界の注目であるあの北条湊がこのクラスにいるのだから。
俺はドアの近くで空いている席に座り、携帯を取り出す。
そろそろ、スマホに変えたいな…。
一彦がスマホに変えてからあのミニゲームの多さには少し憧れる。
実際、こういう時に暇つぶしができるのは羨ましいが…まぁ別に要らないといえば要らない。
周りの人間は皆スマホだし。このガラケーも嫌いじゃない。
そんなことを思いながら、数少ないミニゲームをしていると昼休みが終えた事を知らせるチャイムが鳴る。
しかし、そんなことなんて気にもせずに北条の周りにいる人たちは休み時間と変わらない事を続ける。
それにしても…あの北条湊がこのクラスにいるとはなぁ…。
それにあの電気が走ったような感覚は世に言う、一目惚れってやつだろうか?
でも、今は北条湊を見たとしても特別な感情は湧かない。ドキドキもしない。
「はぁ…まぁどうでもいっか」
もし、あれが一目惚れなら一目惚れで実に学生らしいし、俺も高校生活でそういうことになりたいと思っていた。
まぁ相手があの北条湊ってことで夢のまた夢だけど。
教室の中に教師が入ってくると、北条湊の周りにいたクラスメイト達もさすがに自分の席へと向かう。
俺もその一人で自分の席に着いて教科書を開く。
5限の授業は社会。社会担当は非常に緩い授業だから、眠る人間がどれだけいるだろう…。
横で寝る奴がいるから1人は確定か…と思いながらノートを開き、教師が黒板に書いていくことを模写しようとすると机の端の方をトントンと叩く指が現れた。
「ねぇねぇ」
「ん?」
指の差し出した方を見ると北条湊がこちらを見る。
真っ白なノートに「教科書見せて」と書かれたものを見せたいらしい。
まだ転校したばかりで教科書が違うのだろう。
特にこの授業に関しては教科書は必要としない。俺は教科書ごと手渡すと、北条湊は?マークが浮かぶ顔をする。
そして、慌てて白いノートにペンを走らせ、「一緒に見よう」と書くと、今まで静かにするために筆談をしていたのに机をガタガタとうるさく動かし、俺の机にピッタリとくっ付ける。
そして、机と机の間にできた窪みに教科書を置く。
「初めからこうすれば良いのに」
コソッと言って笑う。その笑顔がまたなんというか…楽しそうにしてくれるのは良いんだが、こいつはバカじゃないか?と思わせるのだ。
「そこ!!!静かにしなさい!他の人に迷惑だ!」
「ひぃっ!?ご、ごめんなさい!」
「あぁ、君か。教科書はまだだったな」
「はい。その、だから…えっと…」
北条湊はキョロキョロと辺りを見まわし、自分が注目されていることを意識するとワタワタと手を動かす。そして、俺の方をチラチラと見てくる。
こいつ…俺の名前を忘れたのか?
その予想は的中しており、カバンに書かれた俺の「鳰」という字を見つけると目の奥がパッと明るくなった。
「ハトくんに教科書を見せてもらおうと机を動かしました。すみません、うるさくしてしまって」
「ハト…?あぁ、わかった。それよりも座ってくれないか?」
「は、はい!すみません!」
ガタッ!とうるさく椅子に座ると、俺の横で「はぁー、緊張したぁ」と独り言をつぶやく。
しかし、教室の中にいるクラスメイト達はクスクスと俺を見て笑う。
皆の目がこう言うのだ「やっぱりハトだよな」と。